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五精霊と守護龍~溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』~

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五精霊と守護龍~溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』~

リアクション



『出現した『炎龍』、レンファス』

 フィリップがリンネ一行に追い付き、しばらく進んだ所で分かれ道に差し掛かる。
「分かれ道ですね。どちらに行きましょう?」
「ちょっと待ってね。……どちらの道も未探索ね。奥で繋がっている様子もないし、これは……リンネちゃんのカンに期待、かな」
「うぅ、責任重大だなぁ」
 HCに記録されている地図を確認し、幽綺子がリンネに微笑んで言う。リンネが苦笑を浮かべていると、右の道から人の足音が聞こえてくる。
「ごきげんよう。目的の品は見つかったのかしら?」
「……残念ながら、まだだ。貴様は何か知っているのか?」
 現れた少女、漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を纏い、何故か目隠しをした中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)に対し、一行の前に立ったコードが険しい表情を浮かべて対応する。彼女も同じ契約者であるはずだが、醸し出す雰囲気は如何とも表現しがたく、何を考えているのか図りかねる。
「知っているも何も、私は既に手に入れましたの。『炎龍』に繋がるであろう『鍵』を」
 そう言って綾瀬が、提げていたバッグに手を差し入れ、中の物を取り出す。一行の前に、燃え盛る炎を閉じ込めた球体が現れた。
「……この地に流れる魔力と似た魔力を、球体から感じます。彼女の言う通り、これが炎龍に繋がる鍵かもしれません」
 球体を受け取ったフィリップが、触れた感じからこの球体が目的の品であることを悟る。
「それは、あなた方が持って行きなさいな。私には、興味はありませんの」
「えっ、いいの? でもそれじゃあ、あなたは何でこれを探していたの?」
 首を傾げるリンネに対し、綾瀬は不敵な笑みを浮かべるだけで、答えを口にしない。
「それよりも、急いだ方がよいのではありません?」
「えっ?」
 綾瀬の言葉にリンネがどういう意味かと尋ねようとした矢先、一行を大きな震動が襲う。
「姿勢を低くしろ! 上からの落石は俺様が対処する」
 皆にその場に留まるように命じ、コードが打刀をいつでも抜ける姿勢で待機する。やがて震動は収まり、一行はふぅ、と息をつく。
「……大変! 今情報が入ったわ、『炎龍』が下層部に姿を見せたそうよ」
 幽綺子の報告に、一行が騒然となる。『鍵』の発見報告が既に中層部で4件、下層部で2件上げられていたのを確認して、どうやらその分で炎龍に会う条件を満たしたのだと推測する。
「それじゃあ、この球体はどうなるんでしょう。これに、他の使い道があるんでしょうか」
「魔力を閉じ込めた物みたいだから、有事の際には役立つかもね。
 さあ、リンネちゃん、私達も急いで下層部へ向かうわよ」
「うん! みんな、行こう!」

 リンネ一行が駆け出すのを見送り、綾瀬が微笑を浮かべつつ思案する。
(……この度の異変において一番の不可解な点は……もちろん、『何故、このタイミングで炎龍が出現したのか』ですわ。
 『雷龍』、『氷龍』の時は『闇龍』の影響だと伺っていますわ……とすれば、同じ様に考えるならば、ニルヴァーナ……つまり、『イレイザーやインテグラルといった存在が現れた事によるもの』と考えるのが一番理に適っているとは思われますが、はてさて……?)
 今何が起きているのか、そしてこれから何が起きようとしているのか。その背景では何が起きているのか。これらを想像し、結果を見届けることは、綾瀬にとってこの上ない楽しみであった。
(フフ……非常に、興味深いですわね。
 さて……私も炎龍の姿を拝見しに参りましょうか)
 落ち着き払った様子で、綾瀬が歩き出す。これから起きることをただ傍観するために――。


 縦穴全体を揺るがす振動は、滞空している近遠達にも揺れているという錯覚を引き起こさせるほどであった。
「! まずい、入り口が!」
 いち早く異変に気付いたイグナが、崩落し塞がれようとしている入り口へ急行する。完全に埋まりきってしまう前に岩を吹き飛ばそうとするも、イグナ一人の力では速度を少し緩める程度に過ぎない。
「イグナさん、離れてくださいませ! そちらに近遠さんとユーリカさんが向かいま――あっ!」
 アルティアがイグナに呼びかけた瞬間、高温の蒸気が一行に吹き付ける。イコンは無事だったが、アルティアは衝撃で箒の制御を失い、不規則に回転しながら徐々に高度を下げていく。
「アルティア!」
 イグナが後を追う、だが後一歩及ばず、伸ばした手は空しく宙を掴む。イグナに落胆の表情が浮かんだ直後、近遠とユーリカの乗るイコンが落ちるアルティアに追い付き、無事に回収を果たす。
「……よかった、気を失っているだけで、傷は負っていない」
 アルティアの元に駆け寄ったイグナが、アルティアの無事を確認して息をつく。おそらく近遠とユーリカも、安堵に胸をなで下ろしているだろうと思えた。
「……くっ……完全に、塞がれてしまったか」
 上を見上げ、イグナが悔しげに言葉を吐く。崩落した入り口は縦穴の壁の一部となり、もはやどこが入り口だったのか見当もつかない。
(我々は、閉じ込められたのか?)
 イグナが周囲を見渡すと、今までの入り口とは反対側の壁の一部が崩れていた。そのことを伝える前に近遠とユーリカも気付いたようで、一縷の望みをかけるように壁への攻撃が行われる。
『壁の損傷を確認……ですがこのままでは、壁を全部破壊する前にこちらのエネルギーが尽きてしまいますわ』
「うーん、協力が必要だね。中……は厳しそうだ、外に向けて通信をしてみよう」
 一機だけでは壁を全破壊出来ないと分かった近遠が、救援の要請を外に向けて発信する。
(炎龍……我らの運命は、彼の動向に委ねられたか)
 イグナが顔を下ろし、契約者の前に姿を見せた『炎龍』を見つめる――。


(炎龍が目覚めたのには理由があるはず。だけど、なぜ今なの?
 ヴァズデルとメイルーンの時は、闇龍の復活が切っ掛けだった。だけど今回は……何?
 何かが、あるいは誰かが、龍を蘇らせたの……?)

 そんな思いに駆られながら、鷹野 栗(たかの・まろん)ループ・ポイニクス(るーぷ・ぽいにくす)は『煉獄の牢』へは直接入らず、周囲の調査に向かう。ベースキャンプから『煉獄の牢』入り口を迂回し、ちょうど煉獄の牢内部の真上を、何か異変がないか進んでいく。
「あっついよ〜。今にも溶岩が吹き出しそうだし、慎重に行かないとだね」
 ループの言葉に、栗が真剣な表情で頷く。元々丘陵地帯で、むき出しの地面が広がっていた土地は、今では赤々とした岩や溶岩の河が隆起していた。吹き出す蒸気は確実に周囲の温度を上げ、栗が連れて来た動物たちも暑そうであった。
「……ここで、休憩にしましょうか」
 しばらく時間が経った頃、栗がループと動物たちに休憩を提案する。内部を調査する者たちの情報から、自分の居る位置は煉獄の牢入り口から反対側の壁の真上辺りと予想出来た。
「地面の異変以外は、おかしな点は見当たらなかったね。……そういえばここって、元々何か住んでたのかな?」
 ループの疑問に、栗が動物たちに尋ねれば、イルミンスールの森ほどではないにしろ根城を張っていた獣はいるという回答が導き出される。
(……もしかして、中で確認されている獣って、元々はここに住んでいた獣のこと? でもそうしたら、何故逃げずにわざわざ中へ入っていったのかしら?)
 本能が狂わされでもしない限り、獣は危険な場所を避けるはず。その獣が『煉獄の牢』に居るということは、獣はその場所を危険に思っていない(安全に思っている)ことになる。
(炎龍は、獣たちにとって危険な存在ではない?)
 そこまで栗が推測した所で、動物たちが警戒の姿勢を取り始める。次いで一行を、大きな揺れが襲った。
「鷹野、揺れてる!」
「ループ、しっかり掴まって、離れないで!」
 身を寄せ合い、揺れが収まるのを待つ。やがて揺れは少しずつ収まり、完全に収まった所で栗はふぅ、と一息つき、立ち上がる。
「今の揺れは――」
 呟いた所で、栗は視線の向こうに、地面に穴が開いているのを確認する。
「穴が開いてるよ! もしかしたら中に繋がってるのかも!」
 ループが確認しに行くが、その穴は途中で塞がっており、中まで行く事は出来ない。だが地面は柔らかく、情報を頼りに掘り進めるなりすれば中まで行けそうであった。
「……私達だけではどうしようもないわ。一旦ベースキャンプに戻って説明しましょう」
 言い知れぬ不安を抱えながら、栗はループと動物たちとベースキャンプへ戻る――。


 大きな揺れは、精霊長たちを否が応でも緊張状態に強いさせた。彼女たちは気付いている、この揺れが『炎龍』の目覚めであると。
「何が原因なのよ、これって!」
「……どうやら下層部で、中層部で見つかった『サークル炎塊』と同じ力を持つものが2つ見つかった直後、その2つがひとりでに動き出したと報告がありました」
 カヤノの叫びに、情報の履歴を追ったセリシアが答える。中層部で見つかった『サークル炎塊』はそのようなことはなく、一旦精霊長が確認をした上で各人の元に保管されている。
「嫌な予感がする……皆、下層部に移動するぞ」
 サラが険しい顔を浮かべ、先頭を行く。
(炎龍……私には分かる、今のお前は……“強いられている”)


「オオオオオォォォォォ!!」


 そして、下層部に辿り着いた一行を出迎えたのは、ドロドロとした溶岩が胴、長い首と尾、短い四肢、そして頭を形成して寄り集まった存在だった。
 他の何にも例え難い存在、まさしく『炎龍』と呼ぶ他ない存在は、獰猛な叫び声を発し、目の前の契約者を“敵”として認識しているようだった――。

「そうそう、こうじゃないとね。
 話し合いで全てが解決するんだったら、僕たちの世界はあんな風にはならない。やっぱり戦いは必要だよ。
 だから……レンファスには申し訳ないけど、君たちの力を、見せてもらうね」

 少年の声が聞こえ、しかしその姿は忽然と消える――。


『五精霊と守護龍――溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』』完

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

猫宮です。
『五精霊と守護龍〜溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』〜』リアクションをお届けします。

・『煉獄の牢』地上部分にベースキャンプが設置されています。
 なお、入り口は『炎龍レンファス』出現時に塞がってしまい、イコンの攻撃をもってしても開くことは出来ません。
 別の場所に(場所は『鷹野 栗』が発見しました)中へ続く穴がありますが、そちらもある程度の戦力が集まらなければ開きません。

・中層部の調査は、『サークル炎塊』を5つ回収しました(1つは未回収のまま、炎龍出現時に彼の力として取り込まれました)。
 これを持っている契約者は、次回重要な働きを求められることなるでしょう。

・下層部の調査は、『サークル炎塊(大)』を2つ回収しました。これは『炎龍レンファス』出現に使われたため、もう使用できません。
 なお、下層部に生身で向かった契約者のうち4組が、今回のキーキャラと遭遇したようですが、閉じ込められました。
 場所は判明していますが、ある程度の戦力が集まらなければ救出できず、その時間は限られています。

・一部のPCは、【軽傷】を負った、と判定されています。次のシナリオでは力に制限がかかります。
 【軽傷】の状態でさらに負傷すると、【重傷】になります。【軽傷】:次のシナリオのみに影響する怪我、【重傷】:次以降のシナリオに影響する怪我、と考えてください。
 (この判定は自分のシナリオのみとします。他のマスターのシナリオには関係しません(関係させたい場合はどうぞ))
 その他、一部のPCには負傷した、疲労したなどの理由で力の制限をかけています。

・調査に参加していたPCは閉じ込められる結果になっていますが、上記制限をかけたPC以外は事前に休息や補給を済ませた等の理由で、次のシナリオに参加される場合は力の制限なく参加出来ます。

今回のシナリオの結果を簡単にまとめてみました。
次回は『炎龍レンファス』との激闘、そしてこの事件を引き起こした人物の正体が明らかになる……かもしれません。

それでは、次の機会もまた、どうぞよろしくお願いいたします。