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五精霊と守護龍~溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』~

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五精霊と守護龍~溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』~

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 それからしばらく時が経ち、夕飯時という頃合いになった。『煉獄の牢』からはまだ朗報も悲報も届いてこない。
「これは、一晩は掛かりそうですかねぇ」
 エリザベートが呟く、かなりの人数が向かった事でこれでも大分速く調査は進んでいるのだが、それでも一昼夜は掛かりそうであった。
「調査に向かった皆さんが心配ですけど……そろそろ、お夕飯の時間ですね。
 お母さんも少しでも食べて、元気を出してください」
「そうですねぇ……おや、誰か来たみたいですよぅ」
 叩かれる扉にエリザベートが応答すると、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が扉を開けて入ってくる。
「ミーミル、今日は何の日か覚えているか?」
「今日、ですか? ……あっ」
 アルツールに問われて、今日が自分の誕生日であったことを思い出す。『煉獄の牢』の件で忙しく、すっかり忘れてしまっていたようだ。
「ささやかではあるが、祝いの場を用意した。準備が済んだら『宿り樹に果実』まで来てくれ。
 校長も、『母』の立場として出席して頂ければと思います」
 用件を伝えたアルツールが、先に会場である『宿り樹に果実』へ向かうため校長室を後にする。
「それじゃあ、着替えて行きましょうかぁ」
「はい!」

 ……そして、アルツールとエヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)、それにエリザベートとアーデルハイト、そして主賓であるミーミル、ヴィオラネラが揃い、『宿り樹に果実』の一角で『聖少女』の誕生日パーティーが執り行われる。
「三人とも……Alles Gute zum Geburtstag.(誕生日おめでとう)」
 アルツールが出身地の言葉で三人に祝いの言葉を送り、この日のために用意したプレゼントを渡す。
「煉獄の牢から何か一報があればお父さんも行かねばならないから、あまり派手なパーティの用意はできなくてすまんな」
 済まなそうに三人に言うアルツール、とは言うもののしっかりと三人分のプレゼントを用意し、ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)のサポートの元、故郷の料理であるドイツ料理がテーブルに並べられている所を見ると、事前に時間をかけて準備をしていたことが伺える。
「おぉー! こら綺麗なペンダントやー。なぁ父ちゃん、つけてもえぇか?」
「あっ、こらネラ、貰ってすぐに開けるのは失礼だろう。……ごめんなさい、父さん」
「いや、構わんよ。気に入ったのなら付けていてくれ」
 アルツールが渡したプレゼントであるペンダントは、表には保護のルーンを模した彫刻が、裏にはミーミル、ヴィオラ、ネラの名とアルツールのメッセージが彫られていた。
「じゃあ、私も……開けていいですか?」
 アルツールの許しをもらい、ミーミルがプレゼントを開封し、ペンダントを身につける。不思議と温かい、誰かに守られているような感覚に包まれ、ミーミルが微笑む。
「よかったですねぇ、三人とも」
 エリザベートの言葉に、『聖少女』の三人が笑顔で頷き、胸元でペンダントがキラリ、と光った――。

「今の君らは、デカイ剣を力任せに振り回している状態だ。つまり、敵が力の大きさに目を奪われている間はいいが、見切られたら簡単に懐に入られたり防がれたりしてしまう。
 派手な一撃に惹かれる気持ちは分からなくもないが、まずは自分の力を無駄なく、確実に使いこなす。最初は力の一割から、少しずつ割合を上げていって最後には『全力での一撃』を確実に出せるようにする。僕はこの近くの森に暮らしているから、時間ができたらいつでも来ると良い。そのために必要な、立ち回り方を教えてあげよう」
「本当ですか? じゃあ、お願いします。私、頑張って学びます」
「ふむ、そうじゃな。ワシは週一くらいでシグルズ君とこに一緒に飲みに来ているから、先に連絡してくれればいつでもお相手しよう。
 状況をよく観察し、敵の、そして自分の有利な点・不利な点を冷静に把握するのは大切なことなのだよ。これは普段の生活でも結構役に立つぞ?」
「なるほど……確かに、言われる通りだ。是非、講義をお願いしたい」
「普段ならアルツールが勉強を見てあげられるんだけど、例えば今回事が無事に運ばず急に事件が発生して生徒が巻き込まれたりした場合、仕事を優先しないといけないの。
 私はその点、あまり荒事が得意というわけでもない分、学校に残ったりすることも多いから貴方達のお父さんが忙しいときは、私が代わりに勉強を教えてあげるわ。授業の無いときはだいたい職員室か職員寮にいるから、こんな『お婆ちゃん』でよければいつでも訪ねていらっしゃい」
「よっしゃー、ほんなら行ったるわー。……ん、なんかおばあちゃんが歯噛みしとるで、なんやろな?」
「あぁ、気にしなくていいと思うわ」(……そうよね、お母さんのお母さんだもの、この子たちにとっては『お婆ちゃん』になるのよね)
 シグルズの教えをミーミルが、仲達の教えをヴィオラが、そしてエヴァの教えをネラが受ける旨がまとまろうとしていた。無事に教えが進めば、彼女たちはそれぞれ武力・判断力・知力に秀でた存在として、そして三人力を合わせて事に当たることが出来るだろう。

 ――こうして、幸せな時間はあっという間に過ぎていった。
 ……その後、『煉獄の牢』調査隊から、『炎龍』の出現と緊急事態を知らされることになる――。

「……戦いの、予感がする……」
 空に浮かぶ月を見上げ、東 朱鷺(あずま・とき)がぽつり、と口にすると、その姿が忽然と消える。
 彼女のあくなき探究心と知識欲を満たす場に、『煉獄の牢』は相応しいだろうか――。