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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)

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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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リアクション

 

合流

 
 
「イルミンスールとアトラスの傷跡から、連絡が入っています。敵は、砂嵐に身を隠してアトラスの傷跡に接近中。アトラスの傷跡の宇宙港では、避難と迎撃態勢を整えつつあるとのことです」
 フリングホルニ第一艦橋のオペレーター席をあてがわれたリカイン・フェルマータが、中央にある艦長席のエステル・シャンフロウに告げた。
「合流を急ぎましょう」
 そばに立つ艦長のグレン・ドミトリーの言葉に、エステル・シャンフロウがうなずいた。あくまでも、フリングホルニの艦長はグレン・ドミトリーであり、エステル・シャンフロウは指令官と言うことになるが、双方が同席する場合はエステル・シャンフロウが艦長席に座ることになっている。
「エンゲージポイントへ急げ。全速前進!」
 グレン・ドミトリーの命令で、補助推進器であるウイングフローターが追加推力を叩き出す。
「おっと、おいてきぼりはごめんだな」
 併走するレン・オズワルドの格闘式飛空艇 アガートラームが速度を上げてそれに追いついた。反対側には、ノーン・クリスタリアたちのオクスペタルム号がいる。
「前方、合流艦隊見えました」
「あれが……」
 リカイン・フェルマータの言葉に、エステル・シャンフロウが前方スクリーンを凝視した。
 そこには、四隻の機動要塞の艦隊と、大型飛空艇と数機のイコンがすでに集まっていた。
 先頭でその威容を誇っていのが、戦艦型の機動要塞HMS・テメレーアだ。もともとが機動要塞のため、その大きさはフリングホルニの倍近くあった。外観こそ現代の戦艦ふうに改修されているが、要塞の例にもれず機動力は低く、その分を火力で補う、まさに要塞艦というコンセプトになっている。
 右につけるのも、HMS・テメレーアと同じく戦艦型の機動要塞ウィスタリアである。こちらは、地球の従来型戦艦デザインのHMS・テメレーアとは対照的に、本体の左右に細長い副船体を持つV字型のデザインをしていた。中央船体だけであればフリングホルニよりも小さいが、副船体を含めるとより大きくなる。艦名通りの藤色をした船体はデザイン的な美しさを際立たせている。
 左に位置するのが土佐で、機動要塞としてはHMS・テメレーアよりも大きい。ウィスタリア同様に左右に副船体を持っているが、こちらは中央船体の方が長く、左右の船体は機関部とイコン格納庫に滑走路を含めて中央部の半分ほどになっている。イコン用に特化した戦闘空母というデザインだ。
 後方に位置するのが伊勢で、同じく機動要塞ではあるが艦隊の他の船と比べるとやや小さく、ほぼフリングホルニ級である。その外観は戦闘ヘリ空母に近い。主砲を三門持ち、艦後方が飛行甲板となっている。
「こちら、HMS・テメレーア以下、ウィスタリア、土佐、伊勢のH艦隊。麾下の艦隊への編入を請う」
 HMS・テメレーアで通信を担当したローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が、フリングホルニに通信を入れた。
『こちらは、フリングホルニです。貴殿の艦隊の参加を歓迎いたします』
 スクリーンにエステル・シャンフロウの姿が現れて、礼を述べた。
『私の呼びかけに集まっていただいた、すべての人々に感謝を。艦隊編成後は、こちらの指示に従い作戦行動を取ることになりますので、よろしくお願いいたします』
 エステル・シャンフロウが、集結した全艦艇とイコンにむけて挨拶した。
「いい顔のプリンセスだね、守りがいがあるってもんじゃないか」
 スクリーンを見たHMS・テメレーア艦長のホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)が言う。
「プリンセスじゃなくて、領主様よ」
「ホワイトエンサインの下に立つ身としては、その方が盛り上がれるというものなのだよ」
 訂正するローザマリア・クライツァールに、ホレーショ・ネルソンがウインクをしながら答えた。
「そうなのでございますか?」
 機動要塞の操艦を学ぶための研修生としてHMS・テメレーアの艦橋に乗り込んでいる常闇 夜月(とこやみ・よづき)が、ホレーショ・ネルソンに訊ねた。
「もちろんだとも」
 確信を持って、ホレーショ・ネルソンが答えた。
「では、艦列を組むとしようか。全艦に通達、リングフォーメーションをとれ」
「各艦に通達。リングフォーメーション」
 ホレーショ・ネルソンの言葉を、ローザマリア・クライツァールが各艦に伝えた。
 フリングホルニを中心として、艦隊が艦列を組む。HMS・テメレーアが前方、伊勢が後方、ウィスタリアが右舷、土佐が左舷を守るようにして展開する。それによって、フリングホルニを中心とした艦隊が整っていきつつあった。
 
    ★    ★    ★
 
「動きだしたようだ」
「うん動きだしたよ」
 HMS・テメレーアが回頭するのを感じて、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)鬼龍 黒羽(きりゅう・こくう)シュヴェルツェ シュヴェルトのコックピットの中で言った。
 プラヴァー・ステルスに重装甲と重武装を施した紫紺の機体は、黒いステルスマントが特徴的だ。
 HMS・テメレーアはカタパルトを持たないので、甲板の上で待機している。
「補給の方は、ばっちりよ」
 甲板から引き出したエネルギーケーブルをシュヴェルツェ・シュヴェルトの機体から外しながら、鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)が言った。
「了解。エネルギー100%確認。いつでも出られるよ」
 サブパイロット席の鬼龍黒羽が、エネルギーゲージやスラスターを確認しながら鬼龍貴仁に報告した。
「あわてるな。俺たちの任務はHMS・テメレーアの防衛だ。夜月から指示があるまではここに待機だ」
 落ち着いて、鬼龍貴仁が言った。
 同様に、トーマス・ジェファーソン(とーます・じぇふぁーそん)キャロライン・エルヴィラ・ハンター(きゃろらいん・えるう゛ぃらはんたー)の乗ったアウクトール・ブラキウムもHMS・テメレーアの甲板上で待機していた。ドゥルガーをベースとした機体だが、両肩から折りたたまれた翼のように下がった四門の異なる砲身が特徴的だ。高エネルギー形態のアウクトール・ジェイセルの状態では、前方にスライドした四つの砲身が一つに合体して、機体前面に巨大な複合砲を形成する。
「アウクトール・ジェイセルの火力と防御力を持ってすれば、必ずHMS・テメレーアを守れるよね」
「ええ、もちろんよ」
 キャロライン・エルヴィラ・ハンターの言葉に、砲撃を担当するトーマス・ジェファーソンが静かに答えた。
 
    ★    ★    ★
 
「へえ、この艦隊の艦とは全然違った飛空艇だなあ」
 HMS・テメレーアの甲板の上から、近づいてくるフリングホルニを見やってトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が言った。すぐそばには、イコンのシュヴェルツェ・シュヴェルトとアウクトール・ブラキウムが立ったまま待機している。
 戦闘時の救護班としてHMS・テメレーアに乗り込んでいるため、今はまだ出番がない。むしろ、出番がない方が、戦いとしてはいいわけではあるが。
「エリュシオン帝国の艦と言うよりは、まったく新しいコンセプトで作られた新造艦のようですね。いやはや、長くこの世界にいると、いろいろと珍しい物を見られるものです。昔は、火矢で敵の船団を燃やしたりする戦いでしたが、今度の戦いはどうなることやら」
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が、英霊としての記憶を少し辿りながら感慨深そうに言った。
「なあに、いざとなったら俺も砲手として活躍するぜ」
 むんと力瘤を作って見せながら、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が言った。
「無茶はしないでくださいよ。最初の怪我人があなたじゃ洒落にならないですからね」
 ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が、すかさず釘を刺した。
 
    ★    ★    ★
 
「こちらの識別信号をフリングホルニに送れ。むこうの信号ももらって、各艦に伝達」
「了解しましたわ」
 土佐艦長の湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)に言われて、高嶋 梓(たかしま・あずさ)がフリングホルニのリカイン・フェルマータとデータを交換した。ブラックバードを通じて、リンクシステムを確立させていく。
 
    ★    ★    ★
 
「準備急ぎますよ」
「おう」
 土佐格納庫内で、トラックの移動整備車両キャバリエからあわただしく修理用資材を下ろす長谷川 真琴(はせがわ・まこと)に、クリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)が威勢よく答えた。土佐は艦隊の中でもイコン空母の性格が強いので、いざ戦闘が始まればイコンの補給修理であわただしくなるだろう。
『おっと、気をつけてくれ』
 コンテナ物資を、高機動パック仕様プラヴァーの飛燕で運んでいた岡島 伸宏(おかじま・のぶひろ)が、足許を駆け抜けたクリスチーナ・アーヴィンに外部スピーカーから注意した。大破したイコンの搬送や、四肢などの交換は専用の機器を使うよりも、イコンで行った方が早いこともある。
「もう、気をつけるのは伸宏君の方だよ。ごめんねー。ああっ、そのコンテナはあっちだよー」
 クリスチーナ・アーヴィンに素早くあやまると、山口 順子(やまぐち・じゅんこ)が岡島伸宏に言った。
 
    ★    ★    ★
 
「これだけ大規模な艦隊戦って、ボク、初めてなんですけど」
 集まった艦艇を思いながら、土佐のイコンデッキに搭載されたクルキアータタイプのフレスヴェルグのコックピットの中で、マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)が言った。パールホワイトとピーコックブルーに塗装されたフレスヴェルグの機体は、腰部スラスターを擁し、ビームアサルトライフルで中遠距離攻撃用に特化している。
「臆することはないさ。敵さんは、一領主以下の身で帝国に喧嘩を売るような馬鹿野郎だ。そのあげくに、ニルヴァーナへ逃げ込むしかなくなってるわけだからな。侮るのはまずいが、やっつけても、まあ、しょうがないよなと言うところだ。気を楽に持て。いざ戦いが始まったら、俺たちは切り込み隊だ」
 斎賀 昌毅(さいが・まさき)が、マイア・コロチナに答えた。彼らの出番はまだだが、そう遠いことではない。