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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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【0】PROLOGUE


 朝の訪れを告げる声と言えば、すずめの声だが、四方を海に囲まれた海京では、朝の声と言えば海猫の声である。
 群青に橙色の差す朝の空が、東からゆっくり広がっていった。群れをなす海猫が、黄金に輝く雲に影を落としていた。
 けれど、耳を澄まして聞こえるのは海猫の声ではなかった。

「モーニングビッグウェーーーブだ! イェーーーイッ!!」
「きゃああああああああああああああああああああーーーッ!!!」
 茜色に染まる屋根の上を、海京警察の敏腕刑事サーファー刑事は、颯爽とサーフィンしていた。
 その背中にアイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)が涙目でしがみついている。
 屋根を削るような叫びを上げ、2人を乗せたサーフボードは屋根のへりに。刑事はボードを強烈にキックしジャンプ、隣りの屋根へと飛び移った。
「イェーーッ! 今日もいい波だ! いい波が来てるぜッ!」
「た、た、助けてーーーッ!!」
 アイリの悲鳴を置き去りにして、ボードは屋根を勢いよく滑り降り、加速したままアイキャンフライした。高い塀を飛び越えて、目の前にそびえる樹に突っ込んだ。
 枝木をへし折りながらも、刑事はアイリを抱えてクールに着地を決めた。
「潜入成功だな……!」
 ここはグランツ教の海京支部。刑事はグラサンを光らせ、朝焼けに燃える礼拝堂を見上げた。ゴシック建築を思わせる細部まで意匠が凝らされた聖堂の造形は息を飲むほどに美しかった。
「……な、な、何考えてるんですか……!」
 アイリは涙目で叫んだ。
「サーフィンで突入するとか何なんですか! 死んじゃうじゃないですか!」
「はぁ? わけわかんね。なに、そんなキレてんだよ。つか、協力してくれるって言ってた連中はどうしたんだよ。侵入作戦すっから、朝4時にボード持って水着で来いって言ったのに……んだよ、全員ばっくれか?」
「皆もっと賢い方法で侵入を考えてるんですよ!」
 そう言う彼女は根が真面目なので、なんだか変だと思いつつも、素直に朝4時に来てしまった。流石に水着とボードは持って来なかったけど。
「……せっかくシスターに変装してきたのに、衣装がズタボロじゃないですか」
「だから水着で来いって行っただろうが。話聞いとけよ、マジで」
「サーフィンで突入するなんて知るわけないでしょ! 大体、何で刑事は変装してこないんですか!」
 刑事は金髪グラサン、そして海パン。たっぷり塗ったココナツオイルの匂いを纏っている。もう秋の足音が近付いていると言うのに、完全なる夏男。
「馬鹿、おめぇ、ほんと馬鹿。ここよく見ろ」
 刑事はボードの裏に書かれた”神官用”の文字を見せた。
「……これが、なんです?」
「……わかってねぇな。サーファーにとってボードは魂だ。そのボードに神官って書いてあんだぜ。俺はもう実質”神官”になっちまってるわけよ。あんだすたん?」
「い、意味がわからない……」
 意味はわからないが、既に一度、彼がこの方法でグランツ教に潜入を果たしている事実を受け止めなくては。
「何でバレないのかしら……」
 アイリは腑に落ちないものを抱えつつ、ビルの屋上で教会を監視している漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)を携帯で呼び出した。
『もしもし……』
 月夜は毛布に包まって、眼下に見える教会を凝視していた。足元には大量の栄養ドリンクと、インスタントコーヒーの瓶が転がっている。実は昨日から不眠不休で教会の監視を行っているのだ。
『お疲れさまです。何か変化はありましたか?』
『いいえ、今のところは……』
 月夜はちゅーと栄養ドリンクを啜った。
『でも、警察のくれたデータですこし分かった事もあるわ』
 月夜は膝の上にある資料を目で指した。海京警察からコピーしてもらった1年間の教会の電力使用量のデータだ。
『アイリに教えてもらったクルセイダーの動きがあった日付と、教会の電力使用量が跳ね上がる日付が一致してる。教会でこれだけの電力を食う装置なんてない。けれど、教会には何か大きな装置がある事を示してるわ。教会には不必要な”何か”がね』
『例えば、”シャドウレイヤー”発生装置ですか……』
『そう言う事ね』
 月夜は頷いた。
 アイリと刑事は、礼拝堂を見上げた。そのはるか上にパラミタ大陸も見えた。

 長い一日が始まろうとしていた。