蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

リアクション公開中!

インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

リアクション


【5】 GUARDIAN【2】


 海底に向かったガーディアン第三形態を追って、ピングイーン(ダイバーモデル)は光無き海の中を潜航する。
 メインパイロットを務めるのはフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)。サブパイロットは十七夜 リオ(かなき・りお)だ。
「正直、魔法少女とかガラじゃないんだけどなぁ、僕……」
 リオはため息を漏らす。魔法少女仮契約書の力で、魔法少女ロイヤル・リオとなった彼女だが、想像以上に露出度の高いコスチュームに戸惑いを隠せない。
「小さい頃は憧れたりもしたけど……ううっ、なんでこんなに肌色率が高いんだよぅ。心無しか、胸も強調されてる気がするし。なんだよ、この契約書。なんかエロイよっ」
「ロイヤルな胸……」
「まぁこの中ならフェル以外に見られる心配もないけど……」
 ピングイーンの後部には、コンテナが積んである。かろうじてイコン一機分が乗せられるスペースに、天御柱学院生徒会長の山葉 聡(やまは・さとし)サクラ・アーヴィング(さくら・あーう゛ぃんぐ)の搭乗するコームラントがあった。滑り止め無しの突貫台座のため、転落防止にワイヤーロープで厳重に固定されている。
 水中に適応がないコームラントでは、まともに活動することが出来ないため、リオの提案でこのような形態となったのだ。
「……まったく、コームラントで水中戦は無理だよ」
『面目ない』
 モニターに映る聡は頭を掻いた。彼もまた、契約書によって魔法少女となっている。流石に学院の顔である生徒会長が女装と言うのも問題なので、こっそり変身したのだが、彼の爪の甘さだろう、通信の映像送信はオンになっていた。
 聡の衣装は、白のロリータドレスだった。頭に大きなリボンが乗っている。
「ん、まぁ、でも……一緒に戦えば、ふふ、お互い心強いよね」
『なに、笑ってんだよ?』
「う、ううん。なんでもないよ」
『変な奴だな』
 リオはこっそりフェルに耳打ちする。
「ふふふ、会長のやつ、自分の姿が丸見えなの気付いてないよ」
「え、うん……」
 フェルは通信設定を確認する。
(こっちの映像も送信されてるけど……)
 モニターにもうひとつウィンドウが開き、サクラが表示された。
 彼女は吸血鬼らしく、黒と赤のゴシックドレス風魔法少女衣装だった。
『ふふふ。魔法少女ヴァンピール・サクラです。そろそろ海京の要となる支柱区画に到着ですよ。皆さん、注意してください』
「了解!」
 無数の柱が前方に見えてきた。柱は遥か上に、そして遥か下に、海の闇を貫いて伸びている。これこそがメガフロートを支える要。人工島を海底に繋ぎ止める重要な柱なのだ。
「レーダーに高エネルギー反応!」
 ビングイーンのレーダーが、前方に大きな反応を感知した。高速で海中を移動しながら、柱を次々に破壊している。その姿は、光の無い海の底でも視認することが出来た。
 目は無く大口の目立つ顔貌と背中に生えた四対の翼、不気味に蠢く蛸の脚を持つ下半身。そして全身から放つ白い光。教団の研究資料にあったガーディアン第三形態だ。
「目標捕捉! メカニック魔法少女ロイヤル・リオ、参上っ!」
(……名乗ってる。意外とリオ、ノリノリ? やった方がいいかな?)
「んー、魔法少女アデリー・フェル?」
 フェルは機体を加速させる。
「フルスロットル入れるから衝撃注意」
『ああ、あのデカブツを柱から引き離すぞ!』
 連絡を密に、目標を射程に捉える。
「カウント、3……2……1、アタック!」
 ハンドガンとミサイルポッドで牽制する。コームラントも接敵に合わせ、アサルトライフルで(ビームキャノンは使用出来ないため)射撃を行った。
『ガアアアアアアアアアア!!』
「敵、触腕がこちらを指向してる。八時の方角」
「了解。コームラント、衝撃に備えて」
 回避と同時に目標を絞る。脅威となるだろう触腕に照準を定めた。
「敵の攻撃の要は、このタコアシ。まずはここを落とす」
『ああ。火力を集中させるぞ!』

 前方の闇に時折、爆発による閃光が混じる。
 ジェファルコン特務仕様は加速して、戦闘海域に入った。
 魔法少女となったメインパイロットの笠置 生駒(かさぎ・いこま)は整備科在籍らしく作業服を基としたコスチューム。
 情報収集を担当するシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)も魔法少女になったが、こちらは酒好きの趣味を反映し、居酒屋の店員を思わせるデザインの衣装だ。
『なぜワシを置いてゆくのじゃー』
 通信回線が開き、モニターにジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)の暑苦しい顔面アップが表示される。
「どうしたの?」
『どうしたもこうしたもない! お前らが来るのを格納庫で待っとったのに置いていくとはどういう事じゃ!』
「だって、ジョージを乗せると獣臭くなるから……」
『失礼な!』
「それにシーニーのほうが優秀だし」
『シーニーなんぞ、ただのアル中じゃろが!』
「うっさいわ。こちとら二日酔いで頭が痛いっちゅーねん」
 シーニーは迎え酒を煽りながら、澱んだ目で画面のジョージを見つめる。
『ほら見ろ、アル中じゃろ!』
「……うーん、うるさいから切るね」
『あ、こら!』
 ガーディアンを射程に捉え、撹乱を誘う軌道で周囲を動き回る。そして隙を見て、カットアウトグレネードを撃ち込む。
 しかし、特殊な磁場干渉波を発生させる対イコン用のグレネードはガーディアンにはなんら影響を及ぼさなかった。むしろ攻撃で怯ませる事が出来なかったのが、生駒に不運をもたらした。
『我は神に祝福されし、大海の守護者。我に仇なすは神への反逆と知るがいい』
 叩き付けられた触腕が、ジェファルコンの左腕を粉砕する。あまりの衝撃に、機体はくるくる回転し、コクピットの二人は激しく揺さぶられた。
「うわあああああああっ!!」
「わっ、ちょっ待って! 気持ちわるっ! 吐く!」
 制御不能のジェファルコンに追撃を加えるため、ガーディアンは猛然と迫る。
「……や、ヤバイかも!」

陰陽くノ一唯!」
魔導巫女エクス!」
「我ら、都の仕置き人。悪即斬の名の下に、海京八百屋町の闇を斬る!」
 海の闇を斬り裂いて、高機動型鬼鎧絶影が迫る。 ジェファルコンとガーディアンの間をかすめ、伸ばした触腕を鬼苦無の一刀の元に断つ。海中でも高水準の機体制御を発揮し、即方向転換、逆手に構えた二式で触腕に斬り込む。
 戦闘補佐を担うのは、魔導巫女エクスことエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)。戦闘の邪魔にならないよう、魔法の巫女装束にたすきをかけている。
「接近戦では気を抜くなよ。あの触腕、攻撃力もさることながら、反応も素早い、近距離で複数に指向されては、絶影と言えど避けられんぞ」
「ああ。たった一体で行動しているからには余程、戦闘能力に自信があると見た」
 メインパイロットの陰陽くノ一唯こと紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は集中を高め、迫り来る触腕の軌道を計器の予測と歴戦の勘を頼りに回避。触腕の一本に剣を突き立て凍結させたところを、掌打の一撃で粉々に打ち砕く。
 そのまま連撃を叩き込めそうだったが、エクスの忠告に従って長居をせず、触腕の範囲から急速離脱を行う。
「触腕は全部で9本か。今、2本潰したから残るは7本になるな」
「9本って……タコなんだかイカなんだか、中途半端な奴だな」
 モニターの隅にウィンドウが開き、生駒が現れる。
「おお、無事だったか。危ないとこだったな」
『ありがとう。助か……ぶっ!!』
 突然、噴き出した。
「え? え?」
『ちょっと待ってよー、なんなの、その格好!』
 魔法少女仮契約書の力で魔法少女となった唯斗だったが、望む姿にはなれなかった。いっそのこと、超カワイイ乙女に女体化して、相棒のエクスをぎゃふんと言わせようと考えていたのだが、契約書にそこまでの力は無かった。
 でも、なんとか女に近づけようと契約書は頑張った。その頑張った結果が、超絶厚化粧&二郎系ラーメンを思わせる山盛りの胸パット地獄だった。新宿二丁目によくいるタイプの容姿である。
「……情けがあるなら、触れるな」
 その時、センサーが警告音を発した。
「……来る! メギドファイアだ!」
「来たな……!」
 熱線砲は水中でもなんら減退することなく健在だった。横一文字に薙ぎ払われる熱線を、絶影は素早く躱す。その瞬間、後方にそびえる海京の柱が崩れ落ちた。
「……げっ!?」
「何をしている、唯。後ろに気を払わんでどうする!」
「こ、こんだけ柱が並んでたら、どうしようもないだろ……」
 再びガーディアンの口腔部に高エネルギーが収束する。
 しかし、そこに破損したジェファルコンが、反撃を食らわせるべく接近した。
「食らえ、スクラップ置き場で拾った廃棄ミサイル!」
 んなもん拾うなって話だが、廃棄の粗悪品ミサイルは粗悪品がゆえに爆発の威力は低かったが、直撃と同時に黒煙を撒き散らし、簡易的な目くらましとなった。
『グガアアアアア……!?』
「目標と再接近。カウント、3……2……1、アタック!」
 コームラントの銃撃に合わせ、ピングイーンは魚雷を連発。集中砲火を浴びせる。
「……今だ!」
 絶影は素早く懐に潜り込む。補陀落山おろしで、ガーディアンの巨体を海上にまで投げ飛ばすと、加速器の出力を限界に上げて、絶影もロケットのように海上に飛び出した。
「斬っ!!」
 超高速のファイナルイコンソードが目標を両断する。
『グ、グガ、ガアアアアアアアアアアッ!!』
 ガーディアンの身体が左右にズレた瞬間、紫色の炎が勢いよく噴き上がった。