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古の白龍と鉄の黒龍 第1話『天秤世界』

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古の白龍と鉄の黒龍 第1話『天秤世界』
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『彼らは生き残りの種族、なのか?』

「新しい世界、とっても楽しみなの!
 ミーナさんとコロンさんが、「先端から入ると何処に行くか分からない」って言ってたの! だから行ってみるの!」
「こら、翠! あなたの事だからきっと、面白そうとかいう理由なんでしょ!
 こっちは分からないことだらけなんだから、飛び込んだ先が魔物で一杯だったらどうするの!」

 好奇心から、『深緑の回廊』の先端から飛び込もうとする及川 翠(おいかわ・みどり)を押さえつけながら、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)ティナ・ファインタック(てぃな・ふぁいんたっく)は根本から入り、既に構築が進められている拠点を目の当たりにする。
「たった数日で、もうこんなに出来上がっているのですね〜、凄いです〜」
「わ、電気まで点くの? 近くに発電所とか、送電線とかないのに、よくやるわね……」
 一時の休憩所程度ではなく、その気になれば数ヶ月は生活できそうな程度まで整えられた設備を前に、スノゥとティナが感嘆の声をあげる。
「各自の部屋まで用意出来てるですって? どんな技術を使ったのかしら……不思議だわ」
「異世界さんだからなの」
「……なんか、納得出来ないんだけどそう思うしかない、って感じね。まぁ、休める場所があるのはいいことだわ。
 それじゃ……行ってみましょうか。“天秤世界”を」
 ミリアの言葉に、翠、スノゥ、ティナがそれぞれ頷き、一行は拠点から北、龍族の勢力範囲と隣接する中立区域へ足を伸ばす。

「先に調査した契約者さんの話では〜、こっちの方角で先日、デュプリケーターさんと戦いがあったそうです〜」
 拠点から北方向に進み、そびえ立つ山を沿うようにして歩いていくと、開けた場所に出る。そこでスノゥが拠点で集めた情報を皆に伝える。
「確か、瀕死になった契約者がいたんだっけ。乗り物も奪われたって言ってたよね。怖いな……」
「昨日の今日でまた遭遇することはない……と思いたいわね。なるべく奥に行かないようにしましょう。
 ……って、言ってるそばから行こうとしない!」
 少し怯えた様子のティナと話していたミリアが、駆け出していきそうになる翠を手を伸ばして捕まえる。
「見たことない人に会えるかもしれないの」
「そうかもしれないけど、危な過ぎるでしょ。昨日の場合はザナドゥの王様とか居たから皆、無事に帰って来れたんだから。
 怪しい人に囲まれたりしないようにしないと。翠、ヘンな足音とか聞こえたら直ぐに言ってちょうだい」
「分かったの!」
 頷いた翠が、今度は北西の方向へ駆け出す。それを慌ててミリアが追い、スノゥとティナが続く。

「あ! だ、誰か倒れてるの!」
 そうして進んだ先、中立区域からも外れようとしていた場所で、翠は倒れ伏す一人の青年を見つける。
「も、もしかして、死んでる……の?」
 ミリアが恐る恐る近付いた瞬間、青年から「う……」という呻きが漏れる。
「大丈夫ですかぁ〜?」
「どこか怪我してるの? 回復した方がいい?」
「あ……あぁ、出来れば、頼む……」
「分かったわ」
 ティナが両手をかざし、青年に癒しの力を施す。しばらくして起き上がれるようになった青年が、強張った全身をほぐしながら翠一行に礼を言う。
「いやぁ、助かったわ。オレは瀬山 裕輝(せやま・ひろき)
 デュプリケーターを束ねとる少女がおるって聞いてな、もしかしたら彼女こそが、この世界での戦いを終わらせるためのキーパーソンではないだろうか、って思ってな……」
「思って……どうしたの?」
 尋ねられた裕輝が、親指を立てて妙に自信ありげな顔で答える。
「見つけたら拉致ったらええって思った!」
「…………」
 ミリアとティナが頭を抱え、スノゥと翠は頭に疑問符を浮かべる。
「いやいや、結構マジやで。実際少女を見たいう、あのでっかいバケモン見つけた所まではいったんや」
「……で、為す術もなくやられた、というわけ」
「失礼な! 結構いいとこまでいった思うとる。オレこう見えても強いんやで?」
 言って、裕輝が一歩を踏み込んだかと思うと、ミリアの額にピコン、とデコピンを見舞う。
「いたっ! ……え、嘘、全然分からなかった」
「な? どや、少しは分かってもらえたか?」
 ノリに生きてるような感じで、実はかなりの手練であることに意外なものを覚えつつ、翠一行はこくこく、と頷く。
「……んでも、結局負けてしもうたんやな。気付いたらここに運ばれとった」
「その化物が運んだ……なんてことはないわよね。契約者が見つけたなら拠点まで連れ帰りそうだし……もしかして、この近くに誰かが住んでるってこと?」
 ティナがその可能性に気付いた矢先、ミリアの脳裏にピコン、と反応するものがあった。
「こ、この反応は……」
「まさかミリア、この世界にも居るというの、あの至高の生物が……」
「な、なんやなんや。何かおるんか?」
「ミリアは『もふもふ』を察知出来るの。近くにもふもふした生き物が居るみたいなの」
 訝しむ裕輝に、翠が説明する。『もふもふ察知』、それはミリアのみに与えられし力。
「……こっちね!」
 今度はミリアが駆け出し、他の面々が追う形になる。そして、息を切らせたミリアが見つけた、小さな小さな看板。

『うさみん星』

「……星? 星というよりは、地下、よねぇ」
 苦笑するティナ、看板の傍には恐らく通じているであろう蓋があった。巧妙に隠されていたが、ミリアの力が在処を暴いたようだ。
「異世界さんの、さらに異世界さんなの! これはもう行くしかないの」
 翠は早くも行きたそうにしていた。ティナもこの先にもふもふがいると思うと、行きたい好奇心が湧いてくるのを感じていた。
「ま、乗りかかった船ってやつや。それに、こーいうんはノリで行ってなんぼ!
 つうわけでオレも付いてくで」
「……まぁ、ここまで来たら、行くしかないわよね。スノゥ、ここの場所を記録して送っておいて」
「分かりましたぁ」
 自分も行きたい気持ちがありつつ、ミリアはスノゥに場所の記録と情報の転送を頼む。
「それじゃあ……ごーっ、なの」
 蓋を開け、一行が穴の中へ飛び込む――。