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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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「王と共に、ゲリラ戦の真似事をするとはね。まあ、その対象はデュプリケーターに絞られたわけだが」
 呟き、佐野 和輝(さの・かずき)が両手に装備した銃のうち片方を、接近する人型のデュプリケーターへ放つ。当初の方針は龍族と鉄族も対象としていたが、契約者との協議の結果龍族と鉄族へはごく最小限の接触に留め、デュプリケーターの討伐を主目的とするよう方針が変更されていた。
(そのデュプリケーターだが、この前と比べ全体的に数値が上がっている。見た目も変化しているし、やはり成長するというのは本当か)
 片方で一体の敵を、もう片方で別の敵を狙い撃つ和輝。サングラスを通して見える敵の行動予測に基づき、向上させた身体能力による正確無慈悲な射撃は殆どのデュプリケーターを沈黙させるが、時たまデュプリケーターが超反応を見せ回避、もしくは武器で弾くシーンが見られた。……尤もそれも、和輝に攻撃を繰り出す前に踊りでたパイモンの二刀によって沈黙させられるのだが。
「流石だな、俺の出番が殆ど無い」
「……王が出番あるような状況はマズイだろ。それにこれ、俺が護られてるような気がするんだが?」
 和輝の苦言というか文句はある意味尤もであるが、絵面的に二刀を構えたパイモンが、二丁拳銃の女ガンマンを護る構図はピッタリであった。
(……ふぅ。これもアレか、スノーを纏った事で外見的には女性に見えるのが原因か?)
『あら、私のせいとでも言いたいわけ?』
(そういうわけではないが……)
 和輝に魔鎧として纏われているスノー・クライム(すのー・くらいむ)が冗談よ、と口にして、声色を真剣なものに変えて報告する。
『後方、アニスとリモンに今の所脅威は向けられていないわね。そのさらに後方では龍族の鉄族への攻撃が続いている』
 二人のやや後方で支援に徹するアニス・パラス(あにす・ぱらす)は和輝の方でも状況を把握しているし、非戦闘員の立場であるリモン・ミュラー(りもん・みゅらー)へはスノーが従者やペットを護衛として配置しており、逐一状況も確認している。
(まだまだ龍族も鉄族も、デュプリケーターを真の脅威とは捉えていないか。まあ、ここで龍族が『ポイント32』を取れなければ龍族は追い込まれる形になる。
 鉄族の『龍の眼』取得を容認した以上は、取ってもらわなければな)
 この辺りは非常に迷う点だった、と和輝はパイモンから聞かされていた。もし自分が彼の立場にあったとして、『鉄族・龍族に契約者が既に味方している状況下で、それぞれが目標とする拠点を取らせない方向に動くか、取らせる方向に動くか』という判断を迫られたら、どう対応するだろうか。
(……まあ、すんなりとは決められないだろうな)
 そんな事を思っていると、重装備のデュプリケーターが隊列をなして向かってくるのが確認出来た。これもこれまでのとは異なる光景であり、彼らも集団戦法を覚えたということなのだろうか。
「流石に数が多いな。……アニス、前方の集団が見えるか?」
『うん、見えるよ〜。あれに一発おっきいの、やっちゃう?』
「ああ、凍えるのを一つ、頼む。物理攻撃には強そうだが、寒さには弱そうだ」
『オッケー、雪使いアニスの大吹雪、受けてみろ〜』
 前方の集団へ、アニスの生み出した強烈な寒波が襲う。為す術もなく巻き込まれたデュプリケーターの集団はそのまま凍りつき、無防備な姿を晒す形になる。

「く……うっ! ……こ、ここは――」
「おや、目覚めたのか。そのまま眠っていた方が幸せだったかもしれないがね」
 龍族の戦士が目を覚ますと、リモンの不敵な笑みが自分を覗き込んでいるのが見えた。
「いやなに、ちょいと暇を持て余してね。そこにちょうど君が負傷して転がり込んできた。ここでは龍族を陰ながら支援するのが私達の方針だ。
 治療をしてやろう……その代わり、少しだけ君の身体を調べさせてもらえないか? 短時間で人から龍、その逆へ変化する仕組みは非常に興味深い」
「か、身体が動かん……! や、やめろ、何をする――うわあぁぁーー!!」

 ……一方背後では、リモンが契約者及び負傷した龍族へ、“治療”を行なっていた。
「ふむ……人の細胞とはその構成要素に大きな違いが見られるな……これは面白い、是非詳しい調査が必要だ」
 実に楽しそうに微笑み、次の“試験対象”が舞い込んでこないかを待つリモンであった。


「あ、パイモンさま、はっけーん。むこうのでゅぷりけーたーはぜんぶやっつけたよー」
「残りはここの巨大生物とデュプリケーターだね。それじゃもう少し、働こうかな」
 『ポイント32』付近に出現したデュプリケーターを掃討したナベリウスとアムドゥスキアス、彼らと共に戦っていた契約者が合流を果たす。
(危険な存在だった魔族も今やこうして一緒に戦ってる。つい先日まで「世界に破滅と混沌を!」なんて喚いてた危険人物でさえ、今こうして平然と地上で暮らしてるわけだし、『危険な存在だから異世界に追いやっても必要悪』なんて理屈が通らないのは、イルミンスールが一番良く分かってるわよね?)
 同じく戦場にあった藤林 エリス(ふじばやし・えりす)がそんな事を思い、次いで龍族と鉄族の味わった境遇を思う。彼らに共通しているのは、かつての世界で不当な扱いを受けていたということ。
(あたしは龍族と鉄族の『被支配階級からの脱却』を応援するわ。支配する者とされる者、こういう不平等があたしは一番許せないのよ!)
 故に、当初の方針には否定的だったが、方針が変更されデュプリケーターをメインに攻撃する事になって、結果としてはこれでいいのではと思う。下手に戦力を均衡にするのは、決着の付かない戦いを無駄に長引かせることになる。もちろんそれがいいのか悪いのかと問われればどちらとも言えないが、デュプリケーターが龍族と鉄族、契約者の共通の敵として認知され、共同で撃破する流れの方が良いように見えた。
(デュプリケーターには、『契約者からどうにかしないとダメ』と思わせないとね。その為にも……あんたには礎になってもらうわ!)
 エリスの見据える先、パラミタに生息していた巨大生物をベースにしたもはや別の巨大生物が、契約者と魔神の前に立ちはだかる。イコン部隊は他の巨大生物の対応に当たっており、この場は自分たちで切り抜ける必要がありそうだった。
(魔法で攻撃して、向こうの目をこっちに引き付ける。そうすれば魔神や他の契約者の攻撃も通りやすくなるはずね)
 方針を決定したエリスが、アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)マルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)に方針を伝える。
「りょうか〜い。横取りなんてイケナイこと企むデュプリケーターちゃんにお仕置きだよ★」
「同志エリスの方針、把握しました!」
「二人ともお願いね。それじゃ、派手に行くわよ!」
 三人頷き、まずはエリスが先手を取って電撃魔法で巨大生物を貫く。攻撃を受けた巨大生物が繰り出す反撃を、エリスとアスカは箒で、『共産党宣言』は飛空艇で飛んで回避、次の手を繰り出す。
「エリスちゃんやみんなを歌で応援しちゃうぞ〜★」
 上空を旋回するように飛びつつ、アスカの歌の力が戦う者に勇気と力を与える。その効果を脅威と判断した巨大生物が背中の羽を分離させアスカを取り囲むようにして攻撃しようとするが、次の瞬間にはマイクを剣に持ち替えたアスカの斬撃でその大半が沈黙させられていた。
「歌って踊れてしかも戦える魔女っ子アイドル、あすにゃんだよっ♪」
 上空で支援を行うアスカ、地上では『共産党宣言』が巨大生物やデュプリケーターの索敵と、デュプリケーターが契約者の不意を打てないように魔法による牽制を行っていた。
(同胞同士を対立させすり減らして革命の芽を摘む……それは権力者の常套手段です。……ではパラミタにおいては世界樹こそが、古い秩序と既得権益にしがみつく権力の最たるもの、ということなのでしょうか……?)
 考えてみれば、世界の秩序を保ってきたのだから世界樹がそのように思われるのは一理あるだろう。そして、不満が爆発した者の行動の最終的な矛先は、世界樹ということになる。故に世界樹は最終的な判断としてそれら反乱分子を天秤世界という『必要悪』へ放り込んだ、と考えると筋は通る。
(戦うも亡国、戦わざるも亡国、という気もしますけれど……)
 世界樹の世界とは実は、抑圧され続ける者と繁栄を続ける者とが混在している世界なのかもしれない。抑圧され続ける者が戦いを起こし、しかし大半は鎮圧されるかもしくは滅びの道を辿り、だからといって戦わなければそのまま(それは滅んでいるというわけではないだろうが)な世界。一方繁栄を続ける側も決して身分が護られているわけではなく、放蕩を続ければ抑圧され続ける側によって滅ぼされる。
 それを打破して新しい世界の作りを目指すのか、契約者はこの世界でそんな事まで試されているのかもしれなかった。


(結局上も、デュプリケーターをぶっ潰すって話で纏まったんだってな。ま、そんなん俺には関係ねぇ。どうせハナからデュプリケーター一点でやるつもりだったしな)
 殺戮者の剣を担ぐように持ち、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)がそのデュプリケーターを視界に入れる。契約者からパクったという巨大生物も見た目が大きく異なっていたし、人型の方は何度か切り結んだ際、一撃で仕留められなかった事があった。
(やっぱ成長すんだな、こいつら。……いっそトカゲと鉄くず喰わせてからの方が楽しめそうだが……面倒だ。
 泣いて喜べぇ、その状態で俺が本気で相手してやっからよぉ)
 ククク、と狂気を含んだ笑いを零せば、数体の人型デュプリケーターが無機質な瞳を竜造へ向けて迫る。
「宴の始まりだぜぇ!!」
 叫び、竜造が一歩を踏み出す。瞬時にデュプリケーターの集団の先頭へ躍り出た竜造は大剣を手近なデュプリケーターへ振り下ろす。強化された腕力と身体能力を載せた一撃は、手持ちの盾で防ごうとしたそれごとデュプリケーターの身体を叩き割り、地面に転がす。
「おっと、テメェらはこの状態でもまだ生きてんだろぉ? 逃がしゃしねぇぞ」
 溶けるように地面に消えたように見えるその粘性の液体を、竜造はそれぞれ一振りずつ大剣を叩きつけて追撃する。べシャッ、という鈍い音と共に液体が輝きを無くし水分を失い、カサカサとしたのを見て、これでようやく完全に仕留めたのだろうと判断する。
(どうせなら雑魚だけじゃねぇ、こいつらの親玉の小娘にも会ってみたいもんだ。来て早々こちらの巨大生物をパクったって話だし、相応の実力があるとみていいからな)
 親玉の小娘が、本気で殺したいと思えるに足る人物なのか……。
 大剣を振るいながら、竜造はそんな事を考える。


 剣を振り下ろした人型のデュプリケーターだが、漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が生じさせた漆黒の闇は攻撃を無効化してしまう。
「――――」
 するとデュプリケーターは距離を取り、代わりに弓を持っていたデュプリケーターがドレスへ矢を放つ。
(考えるだけの知恵はあるのですね。……私達と戦うことで持つ必要が生まれた、という可能性もありますが)
 それらを闇に吸収させつつ、ドレスは再び闇を纏い、今度はその闇を弓を放つデュプリケーターへ向ける。
「? ?」
 すると、デュプリケーターはドレスを見失ったのかあらぬ方向を向く。ドレスはその内の一体に狙いを絞り、石化の魔力を込めた弾を放つ。弾に当たったデュプリケーターは当てられた場所から徐々に石化し、やがて一つの像が出来上がった。
(状態異常は普通に効くようね。ただ痛みに対する反応は見られなかった。
 まとめるなら、状況に対応するだけの知能を持ち、痛みに対する反応はなく、しかし混乱させることも石化させることも可能、と)
 デュプリケーターに関する情報をインプットしたドレスへ、魔王 ベリアル(まおう・べりある)がつまらなそうに尋ねる。
「調査はもうおしまい? 僕、あいつと戦ってみたいんだけど」
 ベリアルが指差すのは、巨大生物。デュプリケーターも時たま、契約者やパラミタの種族が使うような剣技(ヴァルキリーの爆発的加速に似た移動が確認出来た)等を使ってきたように見えたが、巨大生物に至っては契約者のイコンが持っているビットや、ビーム装備まで備えている。それが実際どのくらいの威力を持っているのか、ベリアルは肌で確認したいようだ。
「ええ、確認したいことはだいたい終わったわ。私はパイモン様に内容を伝えてくるから、好きに戦いなさい」
「はーい! じゃ行ってくるね」
 まるで子供のような返事をして、しかし動きは子供のとはかけ離れた動きで巨大生物に迫り、まずは普通に拳を繰り出す。
「いたたたた! うーん、流石に硬いなー。じゃあ次は本気で行くよっ!」
 力を解放し、反撃に飛んできた脚を弾いて、ベリアルはその根本に拳を叩きつける。今度は攻撃が通り、脚の根元を潰された巨大生物が激昂する。
「まだまだ、ここからが本番だよっ! 僕にキミの全てを見せなよ」
 挑発するような指の動きをして、ベリアルが戦いを楽しむように振る舞う。