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フューチャー・ファインダーズ(第1回/全3回)

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フューチャー・ファインダーズ(第1回/全3回)

リアクション


【6】


「……メルキオールが言ってたクイーンって、どストレート過ぎるよ……!」
 館下 鈴蘭(たてした・すずらん)霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)は、超国家神のホログラフィに、ファーストクイーンに似た雰囲気を持つ彼女の姿に、驚きを隠せなかった。
 ただ、おかげでここにいる理由は思い出せないが、ここにいる理由は出来た。
「彼女が本物の……って言い方は変だけど、”あの”ファーストクイーン様なのか。そして、グランツ教が”何”なのか。それを突き止める必要で出来たわね」
「……そうだね。僕も頑張るよ」
 そのためには、あの信者の輪に加わるのが近道だ。
 二人は、商店で生地を買い、ソーイングセットで超国家神の衣装を真似て作った。
「そう。コスプレよ」
「ちょっと待ったぁ!」
 沙霧は叫んだ。
「なんで僕までコスプレする羽目になるわーけー!?」
 衣装を着させられた彼は、恥ずかしさで真っ赤になった。
「え? だって似合ってるし。目の色もクイーンと同じだから」
「目だけでしょ!」
「大丈夫よ。お化粧したら、私よりもそっくりに見えるんじゃないかな」
「ううう……。ぜ、絶対遊んでる……」
 とは言え、鈴蘭の目に狂いはなく、化粧をしてウィッグを被ると、沙霧は様になった。そっくりとは言えないが、雰囲気はちょっと近いかもしれない。
 すると、信者達が集まってきた。
「おお。凄いな、これ。自分で作ったのか?」
「うわー、似合う。おねーさん、写真一枚撮っていい?」
「え? え? 僕?」
「僕じゃなくて、”私”よ、沙霧くん」
 それから、その場で撮影会が始まった。
 中にはノリのイイ人もいて、商店街で、神官の聖衣や、クルセイダーの着ているようなヘルメットやライダースーツを買って来て、小さなコスプレ大会となった。
「わー。似合って……あ、うん。似合っていますよ、クルセイダー」
「お褒めに預かり光栄です。超国家神・沙霧様っ……なんつって」
「良かったら、皆さんで集合写真も撮りましょー」
 その中には、コルテロの姿もあった。
「超国家神様と同じ姿になることで、崇高なる精神を自らに重ねる祈芸なのだな」
 感心する彼に、鈴蘭は言った。
「形から入る、って言うけど、身形を整えると背筋がぴんとして、その姿に相応しい人格や、思考を持とうという気持ちにもなれるの。クイーン様のお姿を真似ることで、素晴らしい人となりやお考えへの理解が深まる気がするわ」
「マーベラス! マーベラスだ、超国家神・鈴蘭!」
 コルテロは、そう言って写真を撮った。
 撮影会が終わると、二人は、教団と超国家神をたたえる歌をデュエットし始めた。

 そこに、藤林 エリス(ふじばやし・えりす)アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)マルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)が現れた。
 三人は、クルセイダーの動向を気にして、人だかりの隙間から、彼らの様子を窺っう。彼らは、広場で騒ぐ信者は気にせず、通りの人々に目を光らせているようだ。
「……こっちは気にしてないのかしら?」
「逆に、教団に敵対する人間が、信者がたくさんいるとこに紛れるとは思ってないのかも」
 エリスとアスカは、祈芸を打つ信者を見つめた。
「ちょうどいいわ。昔から木を隠すには森の中っていうし、あたし達も信者に混じって、クルセイダーの目を欺きましょ」
「下手に動くと見つかっちゃいそうだしね〜」
「わ、私はその、あまり芸とかは得意ではないんですけど……」
 共産党宣言は、複雑な顔をしていたが、二人は気にせず信者の輪に飛び込んだ。
 エリスは、まじかる☆くらぶを使って、新体操部仕込みの棍棒演技を披露する。
 演技は三部構成。最初は超国家神の神聖さを表現する厳粛な演技。続いて、国を守護する神の熱き魂を表現する情熱的な演技。最後に、どこかの大学を思わせる大根おどりで国民の平穏を……。
「ちょっと何よそれ、エリスちゃん」
「え? オタ芸には笑いもいるかなって」
「あんまりふざけてると怒られ……」
 その時、まわりの信者たちがサイリウムを手に、大根おどりを始めた。
「……この人たち、結構なんでもノッてくるのね」

「祈りか……」
 信者の中に、刀真と月夜と玉藻の姿があった。
 大根おどりが盛り上がる中、刀真は、超国家神をただじっと見つめた。
 彼女に祈りを捧げて、記憶のない不安を解消できるだろうか。そう思った瞬間、彼は無意識に、月夜の胸から光条兵器”黒の剣”を引き抜いていた。
 そして、剣舞を捧げた。そうする事で、だんだんと不安に揺れる自分の心が落ち着いていくのが分かる。不安は少しづつ、超国家神への信仰に変わった。
(俺の剣は殺す為の剣だけれど、それを彼女を傷つけようとする存在に向ける事で、彼女を護ることができるだろうか? この剣を彼女は認めてくれるだろうか? 認めてもらえるなら、俺はこの剣を彼女の為に振るおう……)
 鬼気迫る剣舞に、誰彼ともなく、拍手が起こった。
「ちょっとぉ。アスカちゃんの見せ場をとらないでよ〜〜♪」
「む?」
 アスカは、斬音剣を構え、刀真と一緒に剣舞を始めた。
「セクシー剣舞ぅ、いっくよぉ〜〜☆」
 舞うたびに、うぃっちろーぶから、ちらちら胸の谷間と太ももがお目見え。これには、神に純潔を捧げる気まんまんの宗教系男子も、思わずガン見してしまう。
 アスカのセクシー剣舞に、男子がワーワー。
 刀真の一心不乱の剣舞に、女子がキャーキャー。
「むぅ……」
 それを見て、何故だかわからないけど、月夜はちょっとむっとした。
「なんだろう、この気持ち……」
「どうした? 何故、そんな顔をしている?」
 その時、後ろからおもむろに、玉藻が彼女の胸を揉んだ。
「なっ、何!?」
「つまらなさそうな顔をしているから、ちと励ましてやろうかと」
「待って、あっ、あんっ……。ちょ、ちょっと待って。ぁ……」
「しかしお前のモノは、収まりはいいが、ちと小振りだな」
「あ、あんっ……。わ、私だって、別に好きで小さいわけじゃ……」
「なるほど。では我が教えてやろう」
 玉藻は、月夜を引きずって前に出た。
「え? え?」
「他のことはあまり覚えていないがこれは覚えているぞ」
 そう言って、彼女は、バストアップ体操の指導を始めた。
「は、恥ずかしいよっ!」
「何がだ?」
 何が恥ずかしいって、胸を気にしてるんだって思われるのが恥ずかしい。
 月夜は、耳まで真っ赤になった。
「もっと恥ずかしがれ。女は人に見られて美しくなるのだ」

 ハーティオンと細女、コハク、共産党宣言は、離れた場所で様子を見ていた。
「これはなんというか……。非常にお祭りと言うか。私のデータベースで言うところのカーニバルと言うべきか」
 戸惑いながら、ハーティオンは、真ん中のほうで歌っているラブを見つめた。
 勇敢な彼と言えど、あそこから彼女を連れ帰るのは困難なミッションに思えた。
 コハクと共産党宣言は、流石にまっただ中に入って祈芸を披露する勇気はなく、信者の盛り上がりに合わせて、手拍子をしたりサイリウムを振ったりしている。
「やっぱり、あの集団に入るのはちょっと……」
「わかりますよ、同志コハク。あそこに行けるのは特殊な才能の持ち主だけです」
 そこに、美羽とエリスがやってきた。
「こんなとこにいないで、あっちに行こうよっ」
「今、あたしと美羽で、ジャグリング合戦して盛り上がってるとこなんだ」
「う、うーん。僕たちは、向いてない気がするんだよね……」
「ぶーっ。つまんないよぉー」
 その時、ふと二人の視線が、ハーティオンをとらえた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 私は踊りに来たわけでは無いのだ! それに私はダンスは踊れないというか……」
「いいからいいから」
「細女博士!」
「こっちはまだデータ収集が終わってないから好きにしてていいわよ」
「そ、そうではなく!」
 ハーティオンは、連れて行かれた。
「ま、待つんだ、君達。君達も私と同じ困難を共にする者のハズ。だったら、不用意に目立ってクルセイダーが来るのを避けなくては。私では人目につき過ぎるぞ」
「えー? でも、他にもそういう人いるよ?」
 エリスは、激しく踊り狂うロボットを指差した。

「目が覚めたら鋼鉄のボディになってたぜ!」
 それは、魔鎧カスケード・チェルノボグ(かすけーど・ちぇるのぼぐ)を纏った斎賀 昌毅(さいが・まさき)だった。
 カスケードの魔鎧形態が、ガンメタリックなイコンアーマーなので、傍目にはロボにしか見えない。
 そして、昌毅も記憶障害の所為で、自分の状態を正しく把握出来ていなかった。
「俺のイコン愛が強すぎてとうとう俺はイコンになったんだな! メカメカしいボディだし、この機晶石使ったライフルはきっとバスターライフルだし、なんか脚にブースターついてるし、手の甲の数字はきっと残EN量だな! 神様ありがとう!」
 昌毅は、神様(超国家神)に捧げる盆踊りを踊った。
 けれど、しばらくすると、だんだん冷静になってきた。
「……何をやっているんだ、俺は」
『ようやく正気に戻ったか』
 落ち着いてカスケードの声も耳に入るようになった。
「これはカスケードだし、ここは以前海京を襲った奴らの町じゃねぇか。なんで俺はこんな敵地のど真ん中で一心不乱に踊ってんだよ。俺をイコンにすることも出来ない神様に祈る義理なんてねぇぞ、畜生!」
『……お前さん、どんだけイコンになりたかったの?』
 昌毅は、不審な動きをしないよう盆踊ったまま、周囲を窺う。
「……で、どうしよう、カスケード」
『とりあえず合体したまま様子をみよう。いざと言う時、バラバラに逃げるより、合体しておった方が何かと便利じゃろ。まぁ悪目立ちしてしまうのは避けられんが』
「そ、そうだよ。こんな格好で踊ってたら嫌が応でも目立って……」
 一瞬、焦ったが、まわりの反応はそうでもなかった。
「あれ?」
 コスプレで人気を集める鈴蘭や、ロボなハーティオンのおかげで、注目はされているものの、祈芸の一種だと思われて、怪しい目では見られてなかったのだ。
「なんか、踊り狂ってる間に、危機は去ったみたいだな……」
「そこの君」
 ふと、目の前にハーティオンがいるのに気付く。
「なんだよ?」
「あの子らが、どうしてもロボット同士のおもしろ祈芸百連発が見たいと言って、きかないのだが……」
 美羽とエリスが、信者達が期待の眼差しでこちらを見ていた。
 超体育会系企業に入社一年目の忘年会のような、凄まじいプレッシャーが、昌毅にのしかかる。
『……クルセイダーの目を誤摩化すためじゃ。頑張れ』
「……それ、マジで言ってんの?」