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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

リアクション

 
(先程の攻撃は、我が剣の持つ力の遥か上をいっていた。……それを確かに身に受けたにも関わらず、あのように生きておるとは……)
 オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)が余裕の消えた表情で、前方の八神 誠一(やがみ・せいいち)とルピナスの戦闘を静観する。誠一はオフィーリアにとっては『未完の我が剣』であり、このような事態になるまでは『ただの人間に過ぎぬ我が剣が、果たしてどこまで特別な力をその身に宿す存在と渡り合えるか』を見届けるつもりでいたが、今となっては流石に身の危険を感じざるを得なかった。
「…………」
 誠一が、オフィーリアの心配をよそにルピナスへ攻撃を仕掛ける。既にオフィーリアから光条兵器『破月砕星』を受け取っており、シリンダーボムで牽制を行いながら煙幕を生じさせ視界を奪い、自身はしっかりとルピナスの位置を捕捉した上で瞬間移動による急接近からの疾風の如き突きを見舞う。
「…………?」
 誠一が、確かにルピナスの身体を貫いた感触を覚えつつ、その違和感に表情を歪める。そもそもルピナスはシリンダーボムの牽制も、煙幕による撹乱も『気にしていなかった』。目を閉じたまま、腕をだらりと下げたまま、一歩もその場を動くこと無く誠一の全ての行動を受け止め、しかしその場に存在し続けている。
「……足りませんわ。わたくしの意思を砕くには到底、足りませんわ」
 と、それまで沈黙を保っていたルピナスがようやく、言葉を発する。その言葉を聞いただけで、誠一は何かに恐れるようにルピナスから飛び退き、本来はイコン用に使われる手榴弾を投げて撹乱を狙いつつ、自身は『鋼糸刀・華霞改』を鋼糸に変化させると、ルピナスの周囲に網状に展開させる。
「…………!」
 そして、張り巡らせた鋼糸から衝撃波を発生させ、生み出された衝撃波はまるで鳥籠に捕らわれた鳥に外から槍を突き立てるが如く、ルピナスを斬り刻まんとする。対してルピナスは何もせず、ただ衝撃波に身体を斬り刻まれ続ける。それでもルピナスの目は開かず、苦しむ様子もない。
「あらあら。服が汚れてしまいましたわ」
 攻撃を終え、糸を回収した誠一の耳に、ルピナスの声が届く。煙が晴れた先に浮かび上がるルピナスは、服の殆どを喪失し非常に扇情的な姿を晒していたが、今は色めき立つような雰囲気では決して無い。あれほどの攻撃を浴びて、見た目はともかく一向に弱った気配がないのが誠一には恐ろしく感じた、感じられてしまった。
「うふふ……おしまいですの? ではこちらから行きましょうか?」
 微笑んだルピナスが一歩を踏み出すと、誠一の足が一歩下がる。まだ試していない攻撃手段は残しているものの、もしそれも効果がなければ完全に『負けて』しまう。そうなった時に果たしてこの場から生きて帰れるのか、それすらも分からなくなってくる。
「あなたがいくらわたくしを殺そうとも、わたくしは殺されはしませんの。わたくしが生きようとする限り――」
 紡がれようとした言葉は、瞬間移動でルピナスの直上に出現した毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)がルピナスの首を刎ねる事で遮断される。大佐は首を刎ねただけでは止まらず、転がった首と残った胴体へ無数のカマイタチをぶつける。
「我が剣よ、今こそ存分に狂い、死を纏いて舞い踊るが良い!」
「……!!」
 オフィーリアが命ずるのに呼応し、誠一が『破月砕星』を構えてルピナスの懐へ飛び込み、そこにあるであろうルピナスの身体を滅多斬りにする。四方八方からの斬撃の嵐に、ルピナスの身体は破片すらも残らぬ塵と化して消え、気配も霧散した……ように感じられた。
(先程のルピナスの言葉……どういう意味だ?
 奴が生きようとする限り死なない? それが奴の不死性に繋がっているというのか?)
 周囲に注意を向けつつ、そういえば、と大佐は思い返す。奴は「わたくしの意思を砕くには到底、足りない」と言っていなかったか。
(奴を倒すには、奴の生きようとする意思を砕かなければならない。そうしない限りは奴は生き返り続けるというのか?
 ……せめて、奴の不死性に限度があれば手の打ちようがあるのだがな。これでは抽象的過ぎ、具体的な対策を立てられん)

『!!!!!!』

 大佐の思考を遮る、大きな爆音が地面の下から響く。これほど大きな爆発は、どうやらこの下で『化物』と『化物』が戦っているようだった。
「……もはや怖いもの見たさだな。だが、どのみち行くしか無いか」
 覚悟を決め、大佐が駆け出す。その背中を、力を過剰に放出したことで一時的な行動不能状態に陥っていた誠一を抱くオフィーリアが見送る。
(未完の我が剣では、今はここまでか。
 生きようとする意思……なるほど。ならばその意思を砕きさえすれば、勝ったことになるのだな)
 ククク、とオフィーリアが笑う。誠一がそこまで『完成』するかどうかはさておき、『目標』が出来たことを今は喜ぶばかりであった。


「モード・エクスターミネート……マスターの敵を排除する」
 シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)の、感情を全く含まぬ声が紡がれる。ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)と『合体』したことで完全にタガが外れてしまった牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)の毒気に当てられ、最も慎重であるはずのシーマも、今この時は殺戮マシーンと化していた。
「……排除する」
 各部位に装着された推進機構が光を発し、瞬間、と言うべき時間でルピナスの目前へ現れると、大剣が薙ぎ払われる。剣はルピナスの身体を上下に二分するが、それでルピナスは絶命することなくこちらも僅かの間に元の姿を取り戻す。
「……これは、こちらから手を下さねばなりませんわね。肉体の損傷以外には、止まることは無いでしょう」
 ルピナスが片手を横に伸ばし、それをシーマが持っているのと同じ剣のようなものにすると、同じように薙ぎ払う。シーマは辛うじて受け止めるが、大きく吹き飛ばされ地面を転がる。常人ならばそれだけで死んでいたかもしれない。

「どんな理由があっても殺しはいけないんだよぅ? 理由をつけて殺すのはいけないんだ! だから殺すためだけに来たの来たの来たのっ! ルピちゃんが味方でも改心しても殺すのっ! 捻じ曲がらない殺意だけが誰かを殺すのっ! ぃあーぁぁぅ、やふぅ……あぁぁ、白い肌、噛み付きたいよぅ……えへへ、愛してぇ……?」

 シーマを退けた、そこに間髪入れずアルコリアが魔杖を掲げると、菱型状に闇黒の属性を持った魔力弾が生成され、発射される。その身に浴びれば身体の組織という組織を侵食、崩壊させる魔力弾が4発、加えて光の属性を持った光槍と属性を持たない純粋魔力弾も、ルピナスを襲う。対するルピナスも両手を掲げると、順に暗黒の弾、光の弾、無色の弾が生み出され、それは飛んできた魔力弾とぶつかり合って相殺し、後に途方も無いエネルギーを放出する。今度は『深峰の迷宮』の【C】だった部分が壊れ、ルピナスとアルコリア一行は遥か下へと落とされる。


「楽しく楽しく、暇だ。少し独り言を言おう、複製者よ」

 落ちている中か、あるいは落ちた後か。
 アルコリアとナコトが合体したナニカに纏われているラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)の、『独り言』が響く。



          『私達』 の目  的は
   ・世界平和
        ・暴力のない世 界
  ・皆と皆が手を取り    合って生きてゆける世界

                 そんな     邪悪な願いだよ。

      夢、希望を叶える為     努力する者も
           自分の欲望の為に     誰かを陵辱する者も
『私達』    の  目には同 じにしか    見えないのだ。

この世界が     ヘ  ドロの海    にしか見えないのだ。

    争い   を厭うとは     、それ    ら    全てを唾     棄する行為



 まるで子供がブロックを投げて遊ぶように、『言葉』のブロックが投下されていく。

「言葉にしても伝わらないさ、伝えようとしなければ真実のままで居られただろう?
 だから『私達』は語らないのさ。語った時点で真の想いから遠ざかっているのだから」


 ラズンがふぅ、と息を吐いて、彼女の『お遊び』に終焉を告げる。

「飽いた。さぁ、殺され殺そう、どちらも大差ないさ」


 『深峰の迷宮』の4つのフロアよりも更に下のフロア、地図では道が途絶えている手前のフロアに、狂した戦闘音楽が響き渡る。
「終わりたくない死にたいよ。でも死んじゃぁいけない、諦めちゃぁいけない。皆と仲良くしたいなんて大罪を夢見た私は呪われて在れ、許されなく永久に、うけ、きき、ぅ……きゃはははははははははははっ」
 魔力を解放し、アルコリアの瞳の色である赤とナコトの瞳の色である金を片方ずつの目に宿らせ、アルコリアでありナコトであるものが身体の隅々から魔力生成した刃を出現させ斬りつける。
「ふふふ……ええ、そうですわ。
 わたくしは死んではならない……諦めてはいけない……あなた方がわたくしをどれほど叩き潰そうとしても、わたくしは生きて差し上げますわ」
 ルピナスもやはり同じように全身から刃を出現させ斬りつける。無数の刃と刃が交錯し、弾け、それぞれの肉体が傷つき、崩れていく。魔鎧として纏われていたラズンは無数の斬撃の中で微かな塵になるまで斬り刻まれ、役目を終えてしまっていた。
「かはっ――」
 そして、急所を抉られたアルコリアが血を吐き、崩折れる。合体が解け、ナコトの本体であるメモ帳は表紙から裏表紙まで綺麗に二等分されて地面を転がる。
「何も……何も無くなろう……?
 埋まらないのなら……空っぽになっちゃえばいいじゃない……ね……?」
 自らの血の海に浸り、アルコリアがうわ言のように呟く。『それ』を見下ろし、ルピナスが言う。
「得ていたものを失うのと、最初から失っているのとでは、違うのではありません?」
 振り返り、数歩歩いた所でルピナスも同じように崩折れ、倒れ伏す。いかにルピナスが生きようとする限り生き続けるとはいえ、それにも限界があった。
「ふふ……ここまででしょうか……」
 ついに諦めとも取れる言葉をルピナスが吐いたその時、ふわり、と誰かが舞い降りてくるのを感じる。
「! …………」
 その誰か――ミーミルは周囲の惨状を目の当たりにして驚き、しかしなんとか気を保ってルピナスの下へ歩み寄る。
「……わたくしを見届けに来ましたの?」
「……違います。私は誰も、失わないために来ました」
 ミーミルの言葉に、ルピナスはフッ、と笑う。……本当にこの子は。
「では、わたくしを助ける、ということですわね」
 ルピナスの言葉に、ミーミルがこくり、と頷く。手をかざし、力を送ろうという意図なのだろう仕草を見せるミーミル――。

「そんなちっぽけな力よりも――あなたの全てをわたくしにくださいな」

 刹那、ルピナスの両手がミーミルに伸びる。驚きの表情を浮かべるミーミルがルピナスに捕らえられようとした瞬間――。


「まだ、少々物足りないもので……ミーミル様。期待していますわよ?」


 ミーミルの渡した羽根を頼りに瞬間移動してきた綾瀬が二人の間に入り込み、ミーミルに微笑みを浮かべる。

『――――』

 直後、『微笑みを浮かべたモノ』がルピナスに『食べられ』、『微笑みを浮かべたモノがくっついていたモノ』もルピナスに『食べられる』。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ミーミルの慟哭が響く中、綾瀬を喰らったルピナスが立ち上がる。
「ふふ。契約者の身体というのも、悪くありませんわね」
 その姿は、三対の羽以外は綾瀬そのものであった。口調も同様のため、羽さえなければ綾瀬と勘違いしてしまうほどであった。
「さて……そろそろでしょうか。
 未来の世界樹……その力、見せてもらいますわよ?」
 ルピナス(ビジュアル:綾瀬)がパチン、と指を鳴らす――。


●天秤世界:契約者の拠点

「――――!!」

 リカインと共に契約者の拠点に待機していたミーナが、突如身体を震わせ苦しみ出す。
「ど、どうしたのミーナ君!?」
「う……あ……何これ……僕が……僕でなくなっていく……?
 に、逃げて……僕から離れて……早く……!!」
 うずくまるミーナ、全身に脈打つ筋が浮かび上がっていく。

「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 ミーナの慟哭と同時に、全身から枝葉が伸びる。
 地面や壁、天井を枝が貫き、拠点の天井を超えた枝の先から葉が生まれ、瞬く間に『樹』となる。一方地面を掘り進む枝はやがて根となり、徐々に地下へと進んでいるようだった。


「……ねえ、何か聞こえなかった?」
 拠点地下を探索していたフレデリカが、聞こえてきた誰かの叫び声に顔をしかめる。
「ええ、誰かの叫び声が――」
 フィリップも同意した瞬間、何かが迫って来るような音が響いてくる。
「……レスリー、いざという時は、分かっているな?」
「うん、任せといて」
 グリューエントの険しい口調に、スクリプトも普段のおちゃらけた様子を消して答える――。

「嫌な音が聞こえますね……これは、一旦戻った方がいいでしょうか」
 同じ頃、レイナもやはり拠点地下を探索していた所、誰かの叫び声、そして何かが迫って来るような音を耳にしていた。
「! これは間に合いませんか……ならば!」
 レイナが武器を構え、迫り来るモノを待ち構える。

『――――!!』

 地面を(彼らにとっては天井を)突き破って現れたのは、樹木の根っこと思われるモノだった。
 それは彼らにとっての地面に突き刺さると先へ先へと進み、かつ周りに枝を伸ばしていく――。


●『“灼陽”』

「ククク……ついに、ついに完成だ!
 目覚めよ、新たな“灼陽”、その名も『超々弩級戦略次元破壊殲滅艦“灼陽エックス”』よ!」

 ハデスの声に答えるように、修理を完了した“灼陽”改め“灼陽エックス”が天秤世界の空にその勇姿を晒す。
「……ふむ。各部異常なし。
 まさか再び、私がこのように元の姿を取り戻す日が来ようとはな。……いや、元の姿よりも力に溢れておる」
 自分の身体の――今の“灼陽”は二十代後半の筋骨逞しい青年であった――感触を確かめるように拳を握っては離し、“灼陽”が満足気に微笑む。
「ドクター・ハデスよ、よくぞ私を修理し、強化してくれた。感謝するぞ」
「フハハハハ、礼には及ばん!
 そうだな……これから俺が言う事に耳を傾け、決断を下してくれるならばそれでいい」
 そう言って、ハデスは“灼陽”に対し今後の方針を提案する。それは、契約者の目がデュプリケーターに向いている今、一気に龍族との決着を付けるというものであった。
「契約者たちが自由に行動できる状態では、前回のように龍族側に付き、鉄族と龍族の戦いの邪魔をする輩も出てこよう。
 だが、契約者の戦力が、デュプリケーターとの戦いと深峰の迷宮の探索とに分かれている今こそが、龍族を仕留め、天秤世界を我らの手にする最大のチャンスなのだ!」
「よく言ったドクター・ハデス。我ら鉄族は『龍の眼』を龍族から奪い取り、士気も高い。そして私も修理を終え、元の姿を取り戻した。
 ここで戦いの矛を収める理由はない。当初の予定通り、『オペレーション:529』より七昼夜の朝、『オペレーション:ファイナル』を発動する!」

 “灼陽”の言葉に、鉄族の歓声が湧き起こる。
(……これは、いけませんね。直ぐにレンに連絡をしなければ――)
 この状況下、一人険しい表情を浮かべたメティスがそっと部屋を出、レンと連絡を取ろうとして、強い衝撃を受け気を失う。
「安心しろ、峰打ちだ……えへへ、一回やってみたかったんだよねー。
 さーて、この人をオリュンポスまで連れて行けばいいんだよねー。うっふっふー、お菓子たーっくさんもらっちゃうんだからー」
 十六凪から極秘に使命を受けたデメテールがメティスを気絶させ、『オリュンポス・パレス』へと連行する。
「うわー、この人おっもーい! もうやだー、働きたくなーい!」
 しかし、二、三歩も歩かない内に不満を言い始める辺りが、彼女らしかった。


●天秤世界:ルピナスの拠点だった場所

「ああ、ザカコか!? 良かった、こっちは連絡つくみてぇだな。
 状況は――そうか、大ババ様が把握してるか。ならまだ何とかなるかもしれねぇな」
 強盗 ヘル(ごうとう・へる)ザカコに携帯で連絡を取る。ルピナスの拠点が大規模崩落を起こしてから暫くの後、契約者の拠点との連絡が取れなくなってしまったのだが、パートナー間の通信については問題なく行えるようだった。
「すぐに大ババ様に代わるですぅ! 一体どうなってるんですかぁ!
 こっちはミーミルも大変なことになってるんですよぅ!」
 エリザベートがミーミルを抱きかかえながら訴える。ミーミルがルピナスを追って飛んでいったのを追ってみれば、戦闘の残滓が漂う中ミーミルが独り、カタカタと震えてうずくまっていた。何かあったのは確かなのだが、ミーミルからは何も話を聞けていない。
『落ち着け、エリザベート。校長であるお前が浮き足立っては、皆の士気に関わる』
 アーデルハイトの声が聞こえ、エリザベートが歯噛みしつつ態度を改める。
『いいか、今から私が言う事をよく聞くのだ』
 そして、アーデルハイトが今起きていることの一部を話し始める――。


●イナテミス

「!」
 イナテミスで留守番をしていたティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)の、テーブルに置かれていたカップにビシッ、とヒビが入り、ティティナが怪訝な顔を浮かべる。
(まさか、ケイオース様の身に何か……?)
 胸を覆う不穏なもやもやに、ティティナは席を立ち『イナテミス精魔塔』へ向かう。ここからならイルミンスールの様子を確認することが出来、可能であれば天秤との通信もすることが出来る。
(……ダメですわ。様子は確認出来ますけれど、通信が繋がりませんわ)
 何度試してみても、天秤世界との通信を行うことが出来なかった。何が起きているのかは分からないが、何かが起きているのは確かのようであった。
「! お姉様から……」
 その時端末が鳴り、それが天秤世界の真言からのものであると悟ったティティナが、通信に出る。
「はい、わたくしは大丈夫ですわ。それよりもそちらで何が――」
 ――直後、真言の口からティティナは、天秤世界で起きている事を聞かされる――。


●ザナドゥ:ロンウェル

「……ダメです。『天秤世界』との交信が、途絶えました」
 ザナドゥの都市ロンウェル、その中心にあるロノウェの居城にて、ロノウェの代わりにザナドゥ各地の監視を担っているヨミの手伝いをしていた陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が、突如途絶えた天秤世界との交信を回復させようとしていたが、どうしても回復しないのを見て力無く首を横に振る。
「優……!」
 零が一瞬腰を浮かしかけ、思い留まる。本当は今すぐにでも飛び出したい気持ちだったが、自分が身重である事、優との約束が頭を過ぎり、零は腰を落とし窓の方を見る。
「交信は切れちゃいましたけど、契約者はいつどこにいても連絡が取れるって聞いたですよ?」
 ヨミの言葉に、そういえばと思いかけた矢先、零の持つ端末が着信を告げる。
「優! 何があったの、大丈夫なの!?」
『あ、あぁ、俺は大丈夫だ。まずは落ち着いてくれ、零』
「あっ……ご、ごめんなさい、優」
 優に諭され、零が気持ちを落ち着ける。頃合いを見計らって、優が端末の向こうから天秤世界の様子を伝えてきた――。


 物語は大きく動く。
 天秤世界の天秤は、今まさに大きく、大きく揺れ動いていた――。


古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』 完

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

猫宮です。
『古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』』リアクションをお届けします。

まずは、リアクション公開が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
言い訳になってしまいますが、GW進行を甘く見ていたようです(汗

今回、非常に事態が大きく動いています。
それに関しましてはとても賛否両論な気配が漂うのですが……こちらとしてはどうぞご理解よろしくお願いいたします、としか言いようがないのですが(汗

詳細につきましては、今後マスターページにてまとめたいと思います。
前回もそうでしたが、それなりの時間を要すると思いますので、しばしの間お待ちいただければ幸いです。

第4話は、今後の予定次第ということで、また間が空いてしまうかもしれませんが、どうぞ次回の展開をお楽しみにしていただければ嬉しいです。

それでは、また。