蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

【裂空の弾丸――ホーティ盗賊団サイド――】零れ落ちる泪

リアクション公開中!

【裂空の弾丸――ホーティ盗賊団サイド――】零れ落ちる泪

リアクション

「お、のれえええええ!」
 怨念たっぷりの叫びと共に、体制を立て直すファナティック。
 その顔は苦痛と、屈辱から般若すら恐れ戦くほど激昂していた。
「というか、あんたがずっと喋るからうちの天使ちゃんが乗ってる船が落ちたこと、忘れてるんじゃないわよね!?」
 ファナティックの老化と共にできた隙を見逃さなかったニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)がフラワシ【大熊のミーシャ】を具現させ、氷の拳を叩きつける。
「ぐぬぅ!?」
 またも攻撃を喰らう形になったファナティックが呻く。
「天使ちゃんが感じた恐怖に比べればなんてことないでしょう? 恐怖のあまり、テレパシーで安否確認してたら無視されたんだから!」
 実際はタマーラのお昼寝中にしこたまテレパったものだから、テレパシーを無視されていただけなのだが内密にしておこう。
「天使ちゃんに手を上げるとか、そんな外道はあたしが許さないわ」
 その言葉に賛同するように、ニキータの空賊たちが囃し立てる。
 幼女は大切にしろ、幼女は可愛いのだ、幼女はぁはぁ、などという声が聞こえてくる。
 そういう種類の人たちらしい。最後のは特定の人物だけのようだが、見ないフリをして欲しい。
「貴様ら……貴様らなんぞに……!!」
「……さっきあんたが云っていたアダムとかヘセドって何なの? モブキャラ、ってわけじゃないわよね?」
「知ったことか! ヘセドがなんだ! アダムがなんだ! 機晶石だ! 全ては機晶石から始まり機晶石で終わる! だがアダムは機晶石を道具とし、あまつさえ大陸やクォーリアを消し去った! そうではない! 機晶石こそが万人、いやこの世界を導くべきものなのだ!」
「アダムもアダムっぽいけど、あんたもあんたね。結局あんただって、自分が強くなるために機晶石を道具として使ってるじゃない」
 そのニキータの言葉が、ファナティックの逆鱗に触れる。
「ふざけるなふざけるなふざけるな! 我はただ一人このセ界で機晶石をツかウことを許された機晶セキのシ途、守ゴ者、シモべなのダ! 貴様らの様なチシキなきモのになああアアにがワカルううゥウ!」
 完全に暴走状態へ陥ったファナティックが機晶ユニットを使い、がむしゃらにレーザーを撃ち続ける。
「ま、まだこんな力が……!?」
「キエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロオオオオォォォォオオ!!」
 ファナティックが近くにいたニキータに襲い掛かる。
「がっつく男は嫌われるわよ!」
「うん、その通りだ」
 理性を失ったファナティックと襲われたニキータの間にエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が割って入る。
「エース! その方と共に離れてください! 今のファナティックは何をするかわかりません!」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が叫ぶ。
 エースとニキータが離れると入れ違いに、ファナティックへと『クロスファイア』を撃ちこみ体に穴を開け、その傷に『朱の飛沫』で身から焼く。
 だが、ファナティックも機晶ユニットも止まらない。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
 当初の知性はもはや皆無。目に見えているものにさえ攻撃していない。
 ファナティックの理性は完全に吹っ飛んでしまった。
「これでは、あまり情報は期待できそうにないな」
「そうね。だからって放っておくことはできないわ」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が憐れなファナティックを見ながら言う。
 そこへ合流したエースとエオリアも狂ったファナティックを見やる。
「……遅かれ早かれこうなっていたのかもね」
「ですが、一度完膚なきまでに倒せば理性を取り戻すかもしれません」
「それに賭けるしかないか。ってことなんだ、君たちももう限界だろう? 引いてくれないかな?」
 エースがハデスに向けて撤退を要求する。
「……もはやここまでか。今回は負けを認めよう。だが、次こそはこのドクター・ハデスが微笑むこと、覚えておくといい! フハハハハハハ!」
 素敵な台詞を残して、ハデスたちは撤退。残るはファナティックと機晶ユニットのみ。
「それじゃ、俺とエオリアでファナティックを。メシエとリリアは機晶ユニットを頼むよ」
「了解した」
「心得たわ」
 エースとメシエが『ホワイトアウト』を使いファナティックの視界をジャックし、メシエとリリアが機晶ユニットを向う。
「そのユニットに雷は効かない、わ。近づいて、叩き壊して……!」
 リネンやレンと共に、フリューネと戦い続けていた舞香が二人へそう伝える。
「了解した。……遅くなってすまなかったな」
「後は私たちが、排除するわ!」
 ここまで奮闘を続けた舞香のために、二人は機晶ユニットへ向う。
 相変わらずレーザーががむしゃらに撃たれている。あまりにも無防備だった。
「竜の牙は、レーザーよりも強いのよ!」
 リリアが『龍飛翔突』で機晶ユニットを直上から突き刺す。その攻撃は深々と刺さり、機晶ユニットを貫通した。
「残り二つ!」
「次は私だな。雷が効かぬなら、これでどうだ!」
 メシエが【焔のフラワシ】を使い、機晶ユニットを丸ごと焼き尽くす。
「これで残り一つ!」
 同時にリリアとメシエが残った機晶ユニットをターゲットする。
 しかし、それは必要なかった。
「……本当は、あの下劣な男にお見舞いしたかったけど、あんたで我慢してあげる」
 力を振り絞った舞香が遥か高度から稲妻のように落下し、【バトルハイヒール】でもって機晶ユニットを一蹴。
 攻撃を受けた機晶ユニットに無数のヒビが入り、最後はバラバラになって空へ散った。
「お見事」
「私も見習いたいものね」
 機晶ユニットは全て排した。残るはファナティックのみ。
「是が非でも捕縛したいけど、無理な場合は諦めて倒そう」
「そう言って、あなたは最後まで諦めなさそうですね?」
「情報は大切だ。そして何より、あまり殺生が好きじゃなくてね。さあ行くよ!」
 『ゴットスピード』を使用しているエースが先行する。目の前には暴れ続ける憐れなファナティックの姿があった。
「アア、アアア、アアアアアア!!」
「そうまでするほど、機晶石に魅入られるとは。形が違えば、僕たちは手を取り合えたかもしれないね」
 少しだけ、ファナティックへの同情の念を抱きつつ武器を構える。
 その後ろからエオリアが援護射撃を行う。
「アアアア、アアアアアアア!」
 その攻撃は暴れるファナティックの動きを抑制した。
「エース! あとはお任せします!」
 動きの弱まったファナティックの懐へとエースが潜り込み、『ライトブリンガー』を放った。
「グ、ア?」
「急所は外してあるから死なないけど、多分、死ぬほど痛いよ」
 その一撃はファナティックの動きを止めた。しかし、それは数秒のこと。