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【歪な侵略者】鏡の国の戦争(第3回/全3回)

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【歪な侵略者】鏡の国の戦争(第3回/全3回)

リアクション


【鏡の国の戦争・千代田基地2】





 薄明かりの中、遺跡の中に落ち着く場所を決めるのに少し時間がかかった。移動した距離は大したものではないが、アナザー・アイシャは体をまともに動かしていられる時間はなく、またこの極限状態の緊張感もある。
「戦いに勝ったら、この世界が平和になったら、いつか俺達の国に遊びにきて欲しい」
 リア・レオニス(りあ・れおにす)は口数多く、アイシャに話しかけていた。
 その反応は、「うん」「はい」「ええ」といった短いものだが、まだ外の音を遮断しようとしていない。だが、心に届いているかどうかはわからない。
「べ……別に俺のアイシャと会ってほしいからではなくて、折角の縁なんだから色々みて回るのもいいんじゃないかなって」
「はい」
「アイシャと君はきっといい友人になれるよ」
 この時、レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)は僅かに彼女に変化があったように見えた。
 この暗がりのため、単なる見間違いもある。だが、僅かに彼女はその名前を聞いた時に、距離を取ろうとしていなかっただろうか。
「けど」
 次の言葉を発する途中で、リアはその場で立ち上がった。
 その直後、爆発の音が響く。リアが前もって敵の進路になるだろう場所に仕掛けていたものだ。
「おかしいですね、爆発の音が二つあったように聞こえました」
 仕掛けておいた爆弾は一つではない。爆発は迎撃トラップ兼敵の侵入位置を知らせるアラームの役割もあるのだめ、音には注意深く意識を向けていた。
「みんな、聞いてくれ、敵の新しい動きが判明した」
 世 羅儀(せい・らぎ)と共に叶 白竜(よう・ぱいろん)は入ってくるなり、そう切り出した。
 白竜は端的に、敵が発破採掘している事、彼らは爆薬を身に撒きつけており特攻も手段の一つにしているであろう事を端的に説明した。
「一塊になってたら危険という事ですか。国連軍の火器も、危険を考慮すれば使わない方がよい、と」
 冷気の魔法や、近接戦闘を彼らに対して行える契約者が対応しなければならない問題だった。
「行くぞ、まずさっきの爆発のあった場所を確認しよう」
「わかりました」
 今ので乗り込んできた敵が全て巻き込まれていればいいが、そればっかりは確かめるしかないだろう。
 もしも生き残りがいるのであれば、その中に爆弾付きがいるのならなおさら、接近させるわけにはいかない。
「俺は君の唯一の存在にはなれない。だけど友人にはなれる。生き残って、自分の人生を生きるんだろ!」
 振り返らずに、アナザー・アイシャに向かってそう告げ、二人は現場に走った。
「よし、オレも様子みてくるかな」
 羅儀は駆けていった二人の行った先とは別の方向に視線を送る。
「わかった。だが余り無理はするな。情報は持ち帰ってこそ意味がある」
「わかってるって、死に急ぐ理由もないし、命の賭け所は心得てるさ」
 笑顔を見せて、羅儀は外に向かって走り出した。



 銃剣は、銃と刃物のいいとこどりをした武器、というよりも中途半端な代物だ。振り回しどつくものであるため、精密さは一定のラインで諦める必要があり、剣と呼ぶほどの刃渡りはなく槍とするには長さが物足りない。
 そのような武器が、数多の武器の中から最後の六人に残ったのかと言えば、性能のおかげというよりも、問題に対する解答が多用にあるという点にある。銃は様々なものがあったが、どれも不具合によって姿を消していった。可能性がゼロでない以上、無限に等しい試行錯誤は必ずその一回を引き当てる。銃は強かったが、そうして全部消えた。銃口下部についた刃は、その一回を最も単純な方法で攻略する事ができた。
 使わなくてもいいが、備えてある。本来銃剣における刃はそういうものではないのだが、少なくとも彼にとってはそういう扱いだった。
「色々相手にしたけど、これは初めてかも」
 ザリスは自分に向けられた二つの銃口を確認した。
 左右に広く離れているのは、同時に二つを狙えない銃という武器を相手にしているからだ。
 大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)は、それぞれ銃剣銃を構え、背中に翼を供えている。一方は作り物で、一方は本物の翼だ。
「噂の司令級ね」
「今なら、降伏を受け入れるであります。武装を解除し手をあげ、その場に跪くであります」
 丈二はできるだけ声を張り上げた。
 銃口を向けられても、さほど気にした様子の無いザリスが、言う通りにする事はないだろう。抵抗してくる事は、予測済みだ。
 戦うのは避けられない。今のはむしろ、自分を奮い立たせるためのものだ。
 今この場に居るのは、彼とヒルダの二人だけである。共に戦いを潜り抜けてきた仲間は、ザリスを発見するための偵察と、ここに敵が近づくのを防ぐ警戒についている。契約者でない彼らにこの戦いは厳しすぎるし、何かあった時に仲間に情報を伝えるための人員は必要不可欠だ。
「降伏? まさか」
 抵抗の意思あり、ヒルダと丈二はほぼ同時に引き金を引いた。ザリスは僅かに身を捻り、髪の毛一本ほどの隙間を縫って銃弾を避ける。一回転は、丈二にピタリと銃口を向けて止まった。間髪いれずに銃口が火を噴く。
 丈二はザリスのような無駄に繊細な動きで銃弾を回避しようとはせず、素直に六熾翼で飛び上がった。回避動作はヒルダも同時に行われ、ザリスの動きを見切ってのものではなかった。
「足を止めるなよ!」
「そんな事、言われるまでもないわ」
 ザリスと自分では、技量も経験も単純なスペックでも、恐らく適うことはないだろう。だが、ザリスは一人で、獲物も一丁の銃剣のみ。付け入る隙が既に二つもあって、見つかっていないのも含めればもっとあるはずだ。
 何より―――今まで何度も戦場で戦った怪物達の動きが、この千代田基地では一段とよくなっている。ただ獲物を倒すだけではなく、こちらの連携を崩してくるその様は、指揮官の存在と因果関係が無いわけがない。
「倒す。それが無理でも足止め、時間稼ぎ、その間にきっと皆が何とかしてくれる。だから、自分は今自分にできる事をするであります!」