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【歪な侵略者】鏡の国の戦争(第3回/全3回)

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【歪な侵略者】鏡の国の戦争(第3回/全3回)

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【鏡の国の戦争・決戦5】




「砲撃準備、他部隊と合わせて、5、4、3、2、1、発射」
 開幕、幾つもの艦による一斉射撃が執り行われた。
 その特等席に座っていたのは、Arcemだろう。
「こりゃひでぇ」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)はその様子を素直にそう評した。要塞級の主砲が、計六つ、むろんどれも一回限りではなく、次々と繰り出されているのだ。
「被害の程はわからないが、これで足並みを崩すことはできただろうな」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は淡々と状況を分析する。Arcemに限らず、着弾地点の詳細な情報を得るには、舞い上がった煙が落ち着くのを待つ必要があるだろう。そして、それだけの時間をのんびり過ごすつもりはこの戦場の誰にも無い。
「よし、撃ち方止め。ま、挨拶としてはこれで十分でしょ。作戦通り、急速離脱。Arcemの韋駄天さ、見せてあげようじゃない」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の指示を受け、Arcemは一旦後退し、その後ぐるりと側面へと向かわせる。
 予測通りならば敵とほとんどぶつからないルートだが、それでも大回りだ。ごく普通の艦船であれば、相当な時間を要するだろう。だが、魔改造にも等しい機動性強化を行ったArcemは、遅くとも昼過ぎには敵中枢部にたどり着く計算だ。
「さて、あとはヘビが出るか蛇が出るか」
 甲板で青空を見上げながら、夏侯 淵(かこう・えん)は一度目を閉じた。



「よっ、ほっ」
 ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)が操縦するサイファーは、出迎えに来たヘリとミサイルを丁寧にソニックブラスターで撃ち抜いていく。
 ヘリも機銃やロケットランチャーで甲板上のサイファーを狙うものの、ほとんどは手を出せないまま、出せてもサイファーの盾に攻撃を吸われて手出しができていなかった。
「随分と寂しい歓迎ですね」
 大きく迂回しした鋼鉄の獅子の面々を出迎えたのは、十数機のヘリと数十発のミサイルだった。それも、もはや打ち止めのようだ。
 一通りの迎撃を追え、使った分のエネルギーの補給を行っていたルースのところに、あまり急いだ様子もなく連絡が届いた。
「直進してくる地上部隊?」
 ロースは報告をオウム返しにする。
 迂回ルートを進んでいるこの部隊は、今のところ敵の大勢力とはぶつかっていない。出てきたのは、ミサイルとヘリぐらいなものだ。大型怪物はもちろん、対空座なども出会っていない。
 つまり、警戒されていないラインだったというわけだ。
「そんな場所に地上の歩兵さんがよちよち歩いてくるって事は」
「事は?」
 サブパイロット席のソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)が首を傾げる。最初はイコンに随分緊張していたようだが、だいぶ慣れたようだ。それなりに動いて、被弾ゼロというのも彼女の精神に大きくプラスに働いているようだ。
「こっちと目的は同じでしょうね」
 こちらが主要ルートの要塞化を進めているのを、怪物達が知らないわけが無い。正面突破を諦め、迂回する部隊を用意したのだろう。数を見る限り、本命とは言い難そうだが、無視するわけにもいかないか。
「補給はあとどれぐらいかかります?」
 整備班に尋ねると、間もなく、という返事が帰ってくる。
「あまり戦力を割くわけにいきませんからね。置いていかれる前提で出撃する必要がありそうですね」
「置いてかれちゃうんですか……」

「見えた見えた、一番貰うぜ」
 イアラ・ファルズフ(いあら・ふぁるずふ)は誰よりも先にラハティエルを飛び立たせた。見えてきた敵の地上部隊に、弾幕で牽制を入れる。
「ほとんど、戦車や装甲車か」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は敵に再度対空装備が無い事を確認する。彼らは千代田基地攻略部隊であって、この部隊に対して切られた札ではないようだ。
「地上部隊は、僚機と戦艦の砲撃に任せよう」
「了解っと」
 地上の歩兵部隊には弾幕を張る程度に留め、その後方にいるレッドラインへと機体を進ませる。ウィッチクラフトライフルで先制するが、それは全て盾によって防がれた。
「硬い硬いっては聞いてたけど、めんどくせー」
 イアラがぼやいた瞬間、レッドラインの盾を持っている腕が千切れ飛んだ。
「流石、狙撃仕様なだけはありますね」
 甲板にて機晶戦車を操るメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は感嘆の声をあげる。今の狙撃は、ルースによるものだ。僅かに盾から隠れていなかった肩を撃ちぬく、なんて芸当はさすがに戦車では不可能である。
「それでは、こちらも仕事をしてみせませんとね」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)がそう言って、二両の戦車の砲塔が火を噴いた。

「赤い方は、接近戦に持ち込んだ方が早いな」
 ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)はレッドラインをソニックブラスターで牽制しつつ、そう呟いた。
「そうは言っても、この機体に近接武器は無いんだけどな」
 サブパイロットの清 時尭(せい・ときあき)は軽口を返す。
「ま、うちらは技量でなんとかなるからいいんだけどな」
 間合いを保ったまま、ジャーマはその機動力で防御を掻い潜る事ができる。だが、どうしても時間はかかる。
 まして、部下のイーグリッド二機が常に二対一の状況が取れるように立ち回っていれば、自然と自身の戦果は落ち込んでしまう。
 最も、自分の戦果はいいのだ。ウォーレンはそれよりも部下の生存率を優先するタイプの指揮官なのである。
 問題は、時間がかかる事だ。
「俺達は機動力を重視した部隊だ。こんなところでノロノロと遊んでるわけにはいかねぇよな?」
「今のこちらの戦力なら、十分片付くだろうな」
 ステップのような動きでレッドラインの追撃からジャーマは離脱する。引き付けて敵の動きを制限する。
 レッドライン達の動きは、馬鹿正直に接近戦を繰り出すことを控え、なんとかこの場をやり過ごそうというのが透けてみえる。
「時間稼ぎか」
「時間を稼ぐのなら、若干あちらに有利かな」
 時間がどちらに味方するか。その答えを正確に出すのは難しい、空港の戦いと、千代田基地の状況、通信でのやり取りはどちらもあるが、状況が傾く時は一瞬だ。そして千代田基地の状況は、改善される要素はほとんど無い。自分達の働きに大きくかかっている。
「んじゃ、しかたねーな」
 ウォーレンは素早く人員をリストアップした。
 まず最初に声をかけたのはエースだ。エース本人の機体、ラハティエルは問題無いが、指揮下のアンズー隊を旗艦させるのに少し時間がかかる。続いて、ルースに声をかけた。エースの隊と自分の隊で敵の進軍を止められるが、やはり目が欲しい。
 二人の承諾を取ったのち、旗艦のルカルカに通信を繋ぐ。
「というわけで、そっちは先に進んでくれ。俺達はこっちを片付けてからのんびりおっかけることにするさ」
「ええ、了解したわ」
 飛び交う言葉は最低限。
 機体の回収の必要性が無くなった戦艦達は、高度をあげ、遅れた時間を取り戻すために速度をあげる。
 最後までその姿を見送る事なく、残った戦士は敵を見据えた。
「さぁて、そんじゃこっから本番な!」