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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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「前方に龍族の部隊と、契約者のイコンを複数確認。もう少し進んだら、鉄族の部隊に出撃指示を送るわ」
 『伊勢』を操舵するコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)に頷き、吹雪が策の成就を頭に思い描く。圧倒的な姿の“灼陽”に加え鉄族が控えていれば、龍族の注意は必然そちらに向くだろうし、鉄族があえて隙を作れば好機とばかりに飛び込むはず――。
「! 前方の機動要塞からこちらに向けて、高エネルギー反応を確認!」
「こちらの姿がバレているでありますか!? バリアー展開、主砲を受け切るであります!」
 龍族側の動きに一瞬驚かされつつも、吹雪はこれまでの戦闘の経験を生かして冷静さを取り戻し、バリアーの発動を指示する。バリアーが十分展開し終わった直後、機動要塞からエネルギーの波動が、『伊勢』を貫かんと迫る。しかし『伊勢』もこの攻撃に対して十分な対策を取っていたため、エネルギーの波動は『伊勢』の進行を少し足止めするだけに留まった。
「どうするの? 向こうは“灼陽”を狙い撃たず、あえてこっちを撃ってきたわ。確実に向こうはこっちの姿を捕捉している。
 こうなってしまったら、吹雪の策は決して成らないと思うわ」
「……偵察の時点で見抜かれていたでありますか。契約者であれば見破ることも可能であります。
 ……それでも、ここで退く道理はないであります! 鉄族、及び“灼陽”に戦闘開始の合図を。高い質でもって圧倒するであります!」
 作戦は龍族側に見抜かれていたものの、強化された“灼陽”、そして訓練を重ねてきた鉄族がこの程度で龍族に遅れを取るとは、吹雪は決して思わなかった。
(鉄族は自分達を受け入れてくれました。その恩に報いるのが正しい姿ではないかと思います)
 天秤の傾きとやらを気にするなら、龍族を味方するのが筋なのだろう。だが吹雪は何度かの鉄族と組んでの戦いを経ており、今更龍族に『寝返る』事は出来なかった。
(筋を、通させてもらうのであります)
 決意の表情を浮かべ、吹雪は『伊勢』を戦闘態勢へ移行させる。火器の管制は鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)が担当し、鉄族の部隊をある意味囮にしてこの地にやって来た龍族に弾幕を張って退かせる。


「愚弟、出撃前に聞いておくぞ。
 本気で龍族の長を仕留めるつもりか。それが何を意味するのか、理解しているのか?」
 “灼陽”に兵装の一つ、『ビッグバンブラスト』を託し終えた柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)の下へ、ストライク・イーグルの整備を行っていた柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)がやって来て尋ねる。
「もちろん、本気だとも。俺は一度、鉄族に味方すると決めた。だったらそれを最後まで貫くだけだ」
 唯依を前に、恭也が視線を逸らさず答える。唯依は恭也の姿勢を見、そうか、と答え、満足したような顔を向けると整備に戻る。同時に情報収集のために装置を起動させ、『オリュンポス・パレス』がもたらす戦況データを逐一確認する。
「俺は、この戦争を鉄族の勝利で終わらせると決めて参戦している。
 ……なら、この命を賭けてでも勝利を引き寄せるさ」
 決意を秘めた瞳を愛機、『ストライク・イーグル』へ向け、恭也はその時を待つ――。


「美羽さんとロノウェさんは、“灼陽”に専念してください。護衛の相手は、私達が務めます」
 そう言って小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とロノウェを送り出し、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)と“灼陽”を護衛する鉄族の相手をする。
「僕が前線に飛び込んで、鉄族を撹乱する。ベアトリーチェは隙を見て範囲魔法をお見舞いして」
「ええ、心得ました。どうかお気をつけて、コハクさん」
 ベアトリーチェに頷き、コハクが槍を構え、飛び出す。龍と戦闘機と比べるまでもない体格差、存在する性能差は普通にやっては覆せない。
(僕の中に眠る力を、今、解放させる……!)
 故にコハクは、ヴァルキリーが秘める『熾天使の力』を解放させる。背中に三対の羽が生え、全ての能力が驚異的に向上したコハクの軌道は、もはや鉄族すら捉え切れるものではなかった。
『う、うわああぁぁ!!』
 恐怖におののく鉄族の声を聞いても、今のコハクには許容も慈悲もない。振るう二撃で主翼を刈り取り、少なくともこの戦場においては戦闘不能状態へと陥らせる。
『奴を撃て! 複数で囲め!』
 そんなコハクを落とすべく、四機編成の部隊が方針を定めて散開、コハクをターゲットにレーザー砲を放つ。回避行動を取るコハク、そこに後方の一機がビーム砲でコハクを捉える。ビームは出現したフィールドによって拡散させられるが、使用していた『熾天使の力』の効果が薄れてきたのも影響して、それまでの変態機動は見られなくなった。
『今なら奴をやれるぞ! 各機、奴を狙い撃て!』
 リーダー格であろう後方の機体も、そして前線の三機も一斉にコハクを追い詰めようと動き出した時、天空に突如、光の輪が出現する。
「荒ぶる獅子に天使の慈悲を――」
 詠唱の言葉を紡ぐベアトリーチェの、掲げた杖から光の筋が出現した光の輪へ飛べば、無数の光線となってコハクを追い詰めようとしていた鉄族の部隊に降り注ぐ。
『うおおぉぉぉ!?』
 予期せぬ上空からの攻撃に、鉄族は為す術もなく被弾し、高度を落としていく。地面に落下してしまわない限りは、地上ギリギリを航行する“灼陽”に着艦することが出来たものの、修理には相応の時間を要しそうだった。

「いっけーーー!!」
 帯電するハンマーを携えた美羽が、果敢に“灼陽”の新設された武装を破壊せんとする。だが“灼陽”の対空射撃は凄まじく、接近する前に美羽を守っていた三体のインテグラルポーンを破壊され、自身も成果を上げることが出来ずに撤退を余儀なくされる。
「きっつーい! なにあの戦艦、チートだよ!」
 美羽が愚痴をこぼすのも無理はない。現実では戦艦は飛行機に屈し、宇宙戦艦も人型の機動兵器に屈することが多いというのに、目の前の戦艦“灼陽”は契約者や契約者が搭乗するイコンをはねのけ続けている。メタな話をすれば、ハデスが三話に渡って修理を行っている分、一話くらいなら無双出来る戦力になっているだろうという結果であった。
「美羽、怪我をしているわ。それに服も焦げてる」
「あーーー! これお気に入りなのにー! 悔しいなーもー!」
 ロノウェに治癒してもらいながら、美羽は服がボロボロになったことを何より気にする。今すぐハンマーでボッコボコにしてやりたかったが、次向かえば今度こそ自分の命が危ない。
「無茶はいけないわ。私達が“灼陽”に付かず離れずの攻勢をかけ続けることで、他の仲間が“灼陽”を攻撃しやすくなる。
 今は無理に攻撃を通そうとして撤退するよりも、“灼陽”にプレッシャーを与えることを優先しましょう」
「うぅー、仕方ないよね。ロノウェと一緒に戦えなくなったら嫌だもん。ロノウェの言う事に従うよ」
 煮え切らない思いはありつつも、美羽はロノウェの方針に従い、“灼陽”へ決して無視できない程度の攻勢をかけて戦力を割かせる。
 こうしている間に他の仲間が“灼陽”を捉え、戦力を減じてくれる事を信じて。


 それぞれの種族の長が会する場では、いつ長が標的にされるか分からない。
 ……尤も、この場において最も戦力を有しているのは“灼陽”であり、そこに攻撃が集中するのは当然の事であった。その圧倒的な攻撃力と防御力で戦場に君臨し続ける“灼陽”をいっそ退けてしまいたく思いながらも、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が操舵するシグルドリーヴァはダイオーティと“灼陽”が致命的な損害を被らないように備えていた。
「折角鉄族側に認められたというのに、あくまで中立を貫きますか」
「どちらか一方が斃れれば、この世界の趨勢は決まってしまいますでしょう? そうなればどちらに認められたとか、そんなのは関係無くなってしまいますわ。
 あぁもう、いっそ龍族と鉄族が合併して、鉄龍族とでも名乗ってしまえばいいのですわ」
「それはそれで、龍族から文句が出そうですね。
 まぁ、しかたありません。主の意向通りに進めるのがメイドの嗜みというものです」
 風森 望(かぜもり・のぞみ)の物言いにムッとしたノートが望を見上げつつ睨むが、望は涼しい顔でノートに言い寄る。
「お嬢様一人ではこの船を動かせないでしょう。というか、一人にするとどんな馬鹿をしでかすか分かりませんので、副長としては残りませんと」
「ふん! 勝手になさい」
 プイッ、とそっぽを向くノートだが、怒って立ち去らない辺り自覚の念はあるようだった。望も、こういう所があるから放っておけないのだと思い至る。