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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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「ケレヌスさん。私、ケレヌスさんに約束して欲しいんです。
 鉄族と戦う前に、戦況次第では鉄族と休戦し話し合いの場を設けると宣言して欲しいんです」
 出撃前、ケレヌスの下にやって来た杜守 柚(ともり・ゆず)――その背後にはアムドゥスキアスと、魔神 ナベリウス(まじん・なべりうす)(ナナ、モモ、サクラの三名)――の申し出に、ケレヌスは戦人としての気勢を保ちつつも足を止めて柚に尋ねる。
「……その意図は何だ?」
「戦わなければ倒される、それは分かっています。けど、勝つための戦いじゃなくて、止める為の戦いをしたいと思っていますし、皆さんにもそうしてほしいと思っています。
 天秤世界のことはまだよく分かっていないけれど、多分、どちらかの種族が勝って、一つの戦いが終わったらまた別のどこかの世界の種族が落とされて戦いが始まってしまうんじゃないかって。
 そんな悲劇を繰り返す事に、ここで終止符を打たなくちゃって思うんです。アムくんやナナちゃんやモモちゃんやサクラちゃんたちも、私の思いに賛同してくれています」
 柚の言葉に、アムドゥスキアスとナベリウスの三人がそれぞれ、頷いたり笑ったりして言葉の通りだという意思を示す。
「……何にせよ、まずは我らの劣勢を五分五分にまで戻さねばな。
 無論、そこまで言うからには力を尽くすのであろうな?」
 脅迫ではなく、意思を確認するケレヌスの発言に、柚はしっかりと相手の目を見てはい、と答える。
「……分かった。相手がどう答えるかは知る所ではないが、こちらとしてはその態度で事に当たるとしよう」
 確約するような言葉を残し、ケレヌスが背を向け歩き去る。緊張が解けた柚がへなへなとその場にへたり込む。
「お疲れ、柚」
「ゆず、かっこよかった!」
 杜守 三月(ともり・みつき)とナベリウスの三名が柚を支え、彼らに付き添われて立ち上がった柚が、皆を見る。
「ケレヌスさんは約束してくれました。だから今度は私達が、ケレヌスさんとの約束に応える番です。
 アムくん、ナナちゃん、モモちゃん、サクラちゃん、一緒に戦ってください」
 柚の願いの言葉を、二柱の魔神は快く受け入れる――。

「おぉー、ゆれるゆれるー!」
「きゃはは、たのしいたのしいー!」
「うー、モモちゃんサクラちゃん、あんまりうごかないでよーおもいよー」
「……ボクが一番辛いんだけどね、これ」

 そして、柚と三月、アムドゥスキアスとナベリウスはアジュールに搭乗……まではよかったが、通常定員2名の所に6名はどう考えても無理があった。結果として一番上手く乗れたのは、アムドゥスキアスが追加の席に座り、そのすぐ上からナナ、モモ、サクラが肩車の要領で乗っかる、というものであった。
「立ち見の方が良かったかな……」
「柚、真面目な顔してボケないで……」
 柚の感想に三月がツッコミを入れる。今『アジュール』は龍族の精鋭部隊、『執行部隊』のやや後方付近で龍族とともに戦闘待機を行っていた。鉄族の精鋭部隊『疾風族』も『龍の眼』を発ったとの報告があり、接敵は時間の問題という所であった。
「僕たちの戦いは、倒す戦いでも圧倒する戦いでもない。思いを伝える戦いだ。
 鉄族の隊長……“紫電”にも僕たちの思いが、伝わるといいね」
「三月ちゃん、伝わるといいね、じゃないですよ。伝えるんです、私達が、私達の戦いで」
「あはは、今日の柚は強いや。僕も負けそうだ」
 会話で互いに緊張を解して、前方を見据える。こちらからでも鉄族の姿が見えるくらいになっていた。


『先に言っておくことがある。もしこの戦いが長引き、戦況が膠着する時になれば、我々龍族は鉄族と停戦に向けた話し合いを用意する心積りがある』
 『勇猛なる緑龍』ケレヌスと傍に控える『沈着なる青龍』ヴァランティ。対して会するのは『超戦術戦闘機“紫電”』と『超戦術爆撃機“大河”』。両者の間には長年に渡る絶対に負けられないという意思がありながら、それ以外のものも介在しつつあった。
『……正直言うとな、オレもちぃと悩んでんだ。このままテメェらと戦っちまっていいのかってな。
 なんかこう、もっと別の、すんげえやべぇ敵が居て、そいつらと戦う、ってのも悪くねぇんじゃないか、そんな気がすんだ』
 それは“紫電”の言葉でもあり、鉄族の言葉になりつつあった。彼らは契約者と共に戦う日々を経て、誰かと共に戦うことの大切さを得た。それはあくまで『戦い』という枠ではあるが、彼らにとって大きな変化といえよう。
『……“紫電”、一応聞いておく。身を引くつもりはあるか?』
『そいつは出来ねぇな。オレはオレでありつつ、鉄族だ。
 龍族に戦って勝つ、それは鉄族の望みだ。それを自ら取り消すことは鉄族の死に繋がる』
『……そうだな。俺も俺の考えは別にあるが、龍族である以上鉄族には何としても勝つ。
 くだらないことを聞いた、忘れてくれ』
『おうよ。長年の付き合いで忘れてやらぁ。
 つうわけで……今日こそその首もらってくぞ、ケレヌスぅ!』
『取れるものなら取ってみるがいい!!』

「ま、当然の流れよね。ここでお互いに戦うの止めますー、はちょっと興醒めだわ」
 鉄族の陣営に戻ったグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)が、ケレヌスと“紫電”の会話を思い返して呟き、言葉を重ねる。
「……ようやく、ここまで来たわね。
 二大勢力の最終戦争。アタシの“本来の目的”」
『貴女が鉄族に身を置いた理由……矢張り“抑止”でしたか』
 シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)の声に、グラルダは特に感情を混じえずに頷く。グラルダがこの戦いに参加したのは世界樹の為でも、この世界を救う為でもない。
 それは天秤が龍族に傾かない為の抑止力。グラルダに言わせれば感情の無い、ただの“重り”。
「アタシはシステムの一部として此処に来たわ。天秤を傾かせる、ただそれだけの為に。
 ……まぁ、それは大分狂ったみたいだけど。ちょっと鉄族に傾き過ぎて危うい所にあるけど、それはいいわ。他の奴らがどうにかするでしょ。
 大切なのは、アタシがアイツ等に、鉄族の皆に出逢ったことよ」
 グラルダの脳裏に蘇る、鉄族との出会い。道場破りの如く戦いを申し込み、“紫電”に圧倒され、“BOOBY”などというコードネームを付けられ、それからも“紫電”とは喧嘩の絶えない日々を送りつつも、その日々は決して不快なものではなかった。そう思いたかった。
 出来るならもう少し、この日々を続けていたい。積極的に何かを得ようとするつもりはなく、ただ何となく過ごしている内に出来上がったものを守りたいという思い。
「これ以上の言葉は不要。アンタ達が多分そうであるように、アタシ達にも守らなきゃいけないもんが出来た」
 それは“紫電”や“大河”という存在であり、鉄族というより大きな存在であり、彼らと共にする日々というさらに大きな存在まで含む。
「もしあなた方が目的を遂げるというのならば、私達の屍を越えていく事です。以上」
 シィシャが括るように言葉を紡ぎ、そして二人の搭乗するアカシャ・アカシュは武装を展開し、今まさに出撃しようとしていた――。
『はいはーい。お取り込み中いいかな〜?』
 と、“大河”の気が抜けるような柔らかな物言いの言葉が飛び込んできて、グラルダは面食らったような顔で通信に答える。
「何よ“大河”、戦いは始まっているわよ?」
『それは分かってるよ〜。だからグラルダちゃんに言っておきたいことがあるの。
 ほら、なんか凄いシステム組んでたでしょ? えっと何だっけ、システム――』
「ちょ!? “大河”アンタいつの間に知ったの、てか言うな! 絶対に言うな!」
 慌ててグラルダが“大河”の言葉を遮る。グラルダはこの戦いが始まる直前に、『システム:シデン』なるシステムを組み上げていた。それはグラルダが見てきた“紫電”の動きをトレースするものとなっており、使用すれば特に近接戦闘において性能を向上させることが出来る。
『うふふ〜、グラルダちゃんも可愛いところあるわぁ。お姉ちゃんとしては最近グラルダちゃんとしーくんが仲良くて、ちょっと妬けちゃうけどね〜。
 で、そのシステムなんだけど、ちょっと問題あると思うの。しーくんやわたしを守るためのだってのは分かるけど、じゃあグラルダちゃんはどうなのかな?』
 “大河”に指摘されて、グラルダは何も言えない。『システム:シデン』の使用は機体と搭乗者に多大な負担を強いる。最悪機体は使用不能、搭乗者は長期の不調を訴えることになりかねない。
『だ・か・ら、色々手を加えさせてもらったよ。
 じゃじゃ〜ん! 『システム:シデン』改め『SyDEN』!! かっこ良くしようと頑張って考えたんだよ?』
「…………何も言ってあげないわよ。まったく、勝手なことしてくれちゃって」
 通信の向こうで“大河”が大層不満そうな声を上げるのをとりあえず無視して、グラルダは溜息を吐くと同時に、自分がこれほど気遣われていることを有難く思う。
「で? その『SyDEN』ってのはどういうものかしら?」
『えっとね、グラルダちゃんとしーくんが同じ対象をロックオンしている時に、グラルダちゃんとしーくんがパワーアップするんだよ』
「…………は?」
 思わず変な声をグラルダが挙げる。どうやったらそんなことになるのかとか色々と聞きたいことがあったが、つまりあれだろうか、このシステムは――。
『二人の共同作業で、並み居る相手を蹴散らしちゃえ♪』
「言い方がなんかおかしい!! アンタ絶対からかってるでしょ!?」
『そんなことないよ〜。わたしもね、みんなとの時間をもう少し楽しみたいんだ。グラルダちゃんもそう思ってるよね?』
「…………意地でも言ってあげないんだからね」
『素直じゃないな〜。ま、そこがグラルダちゃんの可愛いところだよ。
 じゃあ、説明したからね。あっそうそう、先にしーくんには言っておいたんだけど、しーくんもグラルダちゃんとおんなじ反応してたよ。でもちゃんと了解してくれたから、大丈夫だよ』
 散々言って、“大河”が戻っていく。
「何なのよ、もう……」
 どっと疲れた様子でグラルダが呟き、その『SyDEN』を使うことになればどうなるのだろう……とふと、そんな事を思う。