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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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 イルミンスールの修練場に、レン・オズワルド(れん・おずわるど)ヘレス・マッカリーゴルドン・シャイン、彼らに向き合う格好でかつてのエリュシオン第五龍騎士団所属の騎士たちの姿があった。
「現在、天秤世界のバランスは鉄族に傾きかけている。そして鉄族の長、“灼陽”は龍族との最終決戦を実行に移そうとしている兆候が見られた。
 このまま戦端が開かれれば、龍族の敗北という形で幕となる可能性が高い。……そこで皆には、天秤世界に入りアメイアの指揮の下、龍族に協力してもらいたい」
 天秤世界の状況――契約者の拠点の事実上の崩壊、龍族と鉄族の戦闘再開――を把握したレンは、早急に龍族側の戦力を整えるため、第五龍騎士団に召集をかけていた。ここから選抜を行い、竜兵隊長ヘレスと選抜メンバーを格闘式飛空艇 アガートラームで天秤世界に送り届け、アメイア・アマイアに合流させる計画であった。
「……レンさん。あちらの龍族にはどうやって話をつけるおつもりですか?」
 ヘレスがメンバーの選抜を行っている間、ゴルドンがレンに尋ねる。
「それについては、ガウルに頼んだ。彼は先日、龍族の長ダイオーティの身辺警護で信頼を得ている。彼の話ならば耳を傾けてくれるはずだ。
 直接の交渉は俺が行く。……俺にも戦う理由があるのでな」
 その言葉の裏には、パートナーであるメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が“灼陽”内で消息を絶ったという事実が潜んでいた。それでも彼は、第五龍騎士団をアメイアの下へ送り届けた後、“灼陽”の下へは行かずに鉄族に与し“灼陽”の修理を担当したドクター・ハデス(どくたー・はです)の下へ向かう心積りでいた。龍族は移動要塞との戦闘に慣れておらず、戦えば無用な被害を生む。自分及び第五龍騎士団であれば心得があり、全体の戦闘を有利に運べる算段と、囚われの身となったメティスを心配しつつも彼女であれば必ず帰ってくる、という信頼が彼を冷静な行動へと向けていた。
「レン殿、メンバーの選抜が完了した。精鋭25名、いつでも出撃可能だ」
 ヘレスがメンバーの選抜を完了した旨を告げ、レンが頷いて言う。
「よし、行こう。
 俺たちには帰るべき場所がある。それを決して忘れるな!」
 おう、と団員が応え、『アガートラーム』へ次々と乗り込んでいく――。

●天秤世界:『昇龍の頂』

「先日は私の身を護っていただき、ありがとうございました。
 お身体の方はもう大丈夫ですか?」
「ええ、日常生活には不自由しない程度までは。
 ……それで今日は、ダイオーティ様にお願いがあって参りました」
 面会を求めてきたガウル・シアード(がうる・しあーど)ダイオーティが先日の礼を言い、そしてガウルはイルミンスールから自分のパートナーが信頼する戦力を連れてやって来るので、彼らとの面会の場を設けてほしいと伺いを立てる。ダイオーティは快く了解し、レンたちの到着に合わせて面会の場が持たれることになった。
(まさか、イルミンスールからレンがやって来るような事態になるとは。
 レンは今の天秤世界は非常に不安定な情勢だと言っていたが……)
 自室へと戻る間、ガウルは情勢が決して楽観出来るような状況でないことを意識し、もっと自分に出来たことがあったのではないか、そんな事を思いかける。
(……いや、そうではない。過去を見るより未来を見るべきだ。
 レンならばそう言うだろう。彼はそういう男だ)
 おそらくレンならば、心で不安に感じていたとしてもそれを表に出さず、笑って「大丈夫だ」と言ってくれる。だからこそ俺たちはこうして離れていても、為すべきことを見失わずにやっていける。
 再び活力を取り戻した顔つきで、ガウルがレンたちの到着を待つ――。

●イルミンスール:校長室

「……さて。私はレンから「イルミンスールを頼む」と任されている。
 アーデルハイト、私はお前に2つ、伺わねばなるまい」
 天秤世界に向かったレンの仕事を引き継ぐ形でやって来たアリス・ハーディング(ありす・はーでぃんぐ)が、威厳を漂わせてアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)に向き合い、問う。
「1つは、今後の対応をどうするのか。そしてもう1つは、今回の拠点崩壊の責をどう取るつもりなのか。
 私には今の状況が、ザナドゥの時と同じに見える。アーデルハイト、お前の判断ミスで多くの命が危険に晒されている。無事を願うだけで許されるはずはないだろう?」
 漂う雰囲気と言葉に、傍に控えていたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が身を乗り出しかけるのを自ら制して、アーデルハイトが口を開く。
「確かに、ミーナを天秤世界に行かせるのを私は止めなかった。じゃが今の状況は予測の範疇であり、まだ契約者自身の行為で解決出来る段階にある。
 この時点で私が手を下すべきではない。契約者は『未来』を創造することが出来る唯一の存在。彼らの行いを我々が決めてはならん」
「契約者は若く、未熟である。彼らの持つ力は彼らにとって身に余る。
 彼らの持つ力を正しく導くのが我々の責務ではないのか?」
「その責務を放棄したつもりはないぞ? 今はまだその時ではない、私はそう言いたいのだ」
「…………、ではアーデルハイト、『もしも』の時はどのような手を下すつもりなのだ?」
「まさに『切り札』じゃからな。その時までに姿を明らかにしては、切り札でなくなってしまうじゃろう?
 心配するな、二度同じ真似はせん。この世界と契約者に影響は与えずに済むと約束しよう」
 それを聞いて、アリスが思案する。疑念は当然残るが、アーデルハイトがパラミタと契約者を護る、と公言した以上、ザナドゥの時のような勝手な真似をするなら今度こそ自らの進退を決定する。ここでしくじれば今後は要職を退く、そう言っているようにも取れるので、問うべき事柄に一応の回答は得られたことになる。
「レンも第五龍騎士団も、役目を果たすために行動している。
 お前にも同じ働きを期待しているよ」
 最後にそう言って、アリスが立ち去る。姿が見えなくなった所で、ザカコが息を吐いてアーデルハイトを労う。
「お疲れさまです、アーデルさん。
 ……たとえ何があったとしても、自分はアーデルさんの傍に居させてもらいますからね」
「労いは不要じゃよ。こうも毎度責を問われるようでは、本格的に隠居も考えたくなるがの。パラミタに居る限りは、どこに居ようと変わらぬ気がするが」
「……アーデルさんにはこれからも、イルミンスールの生徒の面倒を見てほしいですよ」
 口調からそれが冗談の類であることは分かりつつも、ザカコはついそう言ってしまう。もしもの場合には一人で背負い込んでしまいそうなアーデルハイトに、自分は何をすることが出来るのか、そんな考えが頭を過る。
「ところで、アーデルさんの仰った『切り札』とはどのようなものなのでしょう?」
 気分を切り替えたくて発した問いに、アーデルハイトは苦笑して答える。
「たとえイルミンスールの生徒であっても、私の口から話しはせんよ。
 それに、おまえなら想像がつくじゃろう。お前がさっき話した内容が、切り札に関係しておる」
「そうなのですか? 確かさっきした話は……」
 ザカコが記憶を振り返る――。

「……そういえば、前にミーナさん自身が天秤世界の世界樹とイルミンスールをコーラルネットワークで繋げる事は不可能でないと言っていました。
 ルピナスによって操られているとは言え、今のミーナさんもまた天秤世界に存在する世界樹と言って良いと思います。ならば、イルミンスールから今のミーナさんへとコーラルネットワークで接続する事が出来るのでは無いでしょうか?」
 ミーナの救出と事態の打開策をアーデルハイトと練るべくやって来たザカコが、ミーナの話を思い出しながら意見する。
「ミーナさんにまだ自我が残っているなら、繋がる事で連絡を取り合う事も出来るかもしれません。上手くいけばミーナさんの救出や、回廊の地下にいるルピナスの動向を知ったり、止めに行くのにも役立つかと。……もちろん、繋がった結果イルミンスール側にも問題が発生するかもしれませんが、ミーナさんを助け、ルピナスが天秤世界を脱する前に何か手を打つためには多少のリスクも受け入れねばならない、そうではありませんか?」

「そうじゃ。対象がハッキリしていればコーラルネットワークを伸ばすことは可能。現にコロンも、まあ、これはコーラルネットワークとは違う原理なのじゃろうが、ミーナと連絡を取ることは出来る。
 コロンでは連絡を取れないと言っていたが、より上位の存在が試みれば、繋がることは可能。かつてのルピナスなら何かやらかしたかもしれぬが、契約者の身体を得たことで一つの枷が出来た」
 本来『聖少女』は完全に成長しきれば、全てのものになり得る可能性を秘めた存在である。ミーミルはそこから、エリザベートのパートナーとして彼女を護る守護天使になることを選択した。ルピナスもまだ何になるかを決定していないが、契約者の身体を得ている今は『契約者』になっている、と言える。聖少女の可能性よりは契約者の可能性の方が把握している分、アーデルハイトの態度にも余裕が見えた。
「切り札も、ミーナと繋がれる確証があるからこそ、有用なのじゃ。
 ……じゃが、それを行使するような事態には、なってほしくない。切り札を切れば、確実にミーナは生きてこの地を踏むことが叶わなくなる」
 アーデルハイトの言葉にザカコは、先程アリスに言った『この世界と契約者に影響は与えずに済む』という言葉を思い出す。つまりそこに、ミーナは含まれていないのだ。
「アーデルさんは、契約者の働きでミーナさんが戻って来ると、信じていますか?」
 ザカコの問いに、アーデルハイトは腹案を用意している背景から複雑な表情を見せるが、やがて「うむ」と一言、頷く。
「なら、何とかなるでしょう。彼らの働きに期待ですね」
 あっさりと言い切ったザカコへ、アーデルハイトが驚いたような顔をして、そして今度は苦笑ではなく笑って「そうじゃな」と答える。
「っと、ヘルから連絡ですね」
 ザカコが携帯を取り出し、強盗 ヘル(ごうとう・へる)と通話を始める。

「おっ、繋がったな。今俺は迷宮の【D】ってとこに居る。
 ルピナスの拠点が崩落して通れなかったんだが、契約者が道を作って通れるようにしたんだ。そっから一部の契約者がルピナスを追って、根っこに乗って降りていった。
 俺はここから、契約者の拠点に向かってみるつもりだ」
 ザカコへ状況を報告し、通話を切ったヘルが帽子をかぶり直して、さて、と口にする。
「ま、この根っこを登っていくのが当然、一番早ぇよな。問題は素直に登らせてくれるかどうかだが――」
 ヘルが飛び移ろうとした矢先、下で振動が生じたのに合わせ、根っこの一部が膨らんで人の姿を取り、ヘルに向けて手持ちの武器を突きつけてくる。
「言ってるそばから!」
 生み出された、『デュプリケーター』に特徴が酷似したそれの攻撃をヘルは避け、背中に回りこんでまずは蹴りを見舞う。数歩よろめいたデュプリケーターが振り返った所へ、機晶石を核に用いた爆弾を投擲して対象を粉々に破壊する。
 しかし、一体を葬ったのもつかの間、今度は3体のデュプリケーターがヘルを囲むようにして出現する。
「へっ、こいつはちと分が悪いな! 一旦退かせてもらうぜ!」
 今度は爆弾を地面に放ち、爆発で瓦礫を生み出してデュプリケーターの行動を阻害する。その間にヘルは態勢を整え、あわよくば仲間と合流するために移動を開始する。