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リアクション
ほんの少し前に居た契約者の拠点が、突然中から生えてきた樹で覆われていくのを目の当たりにして、川村 詩亜(かわむら・しあ)と川村 玲亜(かわむら・れあ)はどうしよう、という思いでいっぱいだった。
「どうしようお姉ちゃん、あれじゃ戻れないよね?」
「そうね……でも、ここも危ないわよね?」
詩亜が視線を向ける先、『龍の眼』には先程から、鉄族の戦闘機が集結し始めていた。気の早い鉄族が地面の岩にビームを放ち、無数の欠片を生じさせる。鉄族がわざわざ二人の契約者を攻撃してくるとは思いがたいが、流れ弾の被害を受ける可能性は十二分にあった。
「じゃあどうするの? ……まさか、この下に行くつもり?
嫌だよーあそこ何だか怖いんだもん」
「気持ちは分かるけど、今はそれしかないわ。お願い、玲亜」
詩亜にしがみついて抵抗する玲亜を何とか宥め、二人は見つけた入口から『深峰の迷宮』の【D3a】と示されている場所に到達する。端末はオフライン状態だが、地図データは内部装置に保存されていたので閲覧が出来、それによればこのエリアは南部地方と『うさみん星』に繋がっているとのことだった。
「うさみん星、ってかわいいねー」
「どちらに行くかだけど、そうね……うさみん星に行ってみましょう」
「うん! お姉ちゃんに付いてくよー」
目的地を決め、二人は『深峰の迷宮』を進む――。
●うさみん星
『深峰の迷宮』の探索を終え、うさみん星に帰ってきた及川 翠(おいかわ・みどり)とミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)、スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)、リンセンとテューイはリンセンの屋敷で一息ついた後、これからどうするかを検討し始める。
「私は、うさみん族やポッシヴィの住民を、パラミタに連れて行ってあげたいと思うの。
天秤世界に閉じ込められたままよりは、いいと思うから」
発言したミリアへ、視線が集まる。どうかしら? とミリアが視線で尋ねれば、リンセンは少し考えて、口を開く。
「この世界を出て新しい世界へ行く……それは不安ではありますが、皆さんの住まわれている世界に行けるのであれば、この世界で生涯を終えるよりもずっと良いと思います」
「あたしもそう思う! ……でも実際どうやったら行けるの?
迷宮の探索は、構造がどうなっているかは分かったけど、何があるかまでは分からなかったし」
リンセンに続いて、テューイが発言する。マップを埋められて翠は非常にご機嫌だったが、探索の成果はせいぜいその程度だった。
「私達は『深緑の回廊』というのを伝ってこの世界に来たわ。この回廊を使うことは、あなた達も出来ると思うの。
問題はパラミタに来た後のことだから、それについてはお偉いさんに交渉ね。……ちょっと失礼」
ミリアが携帯を取り出し、ノルン・タカマガハラ(のるん・たかまがはら)へ連絡を取る。今現在通信設備は使用不可状態にあったが、パートナー間の連絡はそういった事故を飛び越えることが出来る。
『分かりましたわ。わたくしで良ければ頑張って説得してみせますわ!』
努力を約束してくれたノルンに礼を言って、ミリアが席に戻る。次に何をするべきか、それを話し合おうとした時にリンセンへ、【A】の入口から契約者二名がやって来た旨の報告が寄せられる。
「分かりました。お二人をこちらへ案内してください」
リンセンの指示を受け、うさぎの姿をしたうさみん族が二人を案内するため部屋を出る。
「はうー、可愛いうさぎさんがたくさんだよぉ」
「玲亜、ここの方に失礼だわ」
暫くして部屋に、うさみん族を抱きかかえてご満悦の玲亜と、姉としての威厳を保ちつつちらちらとうさみん族に視線を向ける詩亜が入ってくる。
「あっ、詩亜ちゃんに玲亜ちゃんなの!」
「翠ちゃん! 翠ちゃんもここに来てたのね」
翠が駆け寄り、詩亜と玲亜とキャッキャッ、とはしゃぐ。
「……話は分かったわ。ミリアさんはうさみんさん達を移住させるための計画を進めているのね?
そういうことなら、私も協力させて。……こんな可愛いうさみんさん達の為なら、私も頑張らないと……!」
「ありがとう。じゃあ、一緒に頑張りましょ!
あのもふもふなうさみん達を何とか連れ出して、もふりまくってやるんだから」
「お二人とも、心の声がだだ漏れですぅ〜。
でもぉ、皆さんで頑張れば、なんとかなる気がしますぅ」
ミリアから計画を聞いた詩亜が協力を約束し、ミリアと固い握手を交わす。そんな二人にスノゥがツッコミを入れつつ、皆で協力することには賛成の意思を示す。
「目下の問題は、龍族と鉄族の決着ね。ここでどちらかが勝者になってしまえば、戦いは終わり。
その後どうなるかは分からないけど、最悪、うさみん族やポッシヴィの住民みたいに、この世界に閉じ込められるかもしれない」
視線が集まる中、ミリアがビシッ、と指を差して宣言する。
「龍族と鉄族の戦いに決着を付けないために、明日を勝ち取るために!
私達も、イコンで出るわよ!」
「ぶーぶー。どうして私だけお留守番なのーっ!」
ミリアが用意していたイコン、『シュバルツ・フリーゲ2【暁】』に搭乗するメンバーがミリアとスノゥ、詩亜と玲亜に決まって、一人留守番という形になった翠が不満を口にする。
「だって翠、機体に乗ったら真っ先に押しちゃいけないスイッチ押すでしょ? 翠仕様にスイッチ取り払った席まで用意してるんだから」
「だったら大丈夫なの。今日がはじめての玲亜ちゃんは危ないから、私と代わるの」
「玲亜ちゃんは初めてだけど、悪いようにはならないと思うわ。翠の場合、スイッチを取り払ってもスイッチ押しそうな気がするの」
「ひどいの!」
結局ミリアにコテンパンにされ、翠が隅でいじけている。
(酷いこと言っちゃったかな……でも正直、無事に帰れるか分からないのよね。
翠だけでもケガしてほしくない、なんて言ったら意地でも付いて来そうだしね)
心に翠への気遣いを呟いて、ミリアがまず乗り込み、スノゥと詩亜で玲亜の搭乗を手伝って、『シュバルツ・フリーゲ2【暁】』に光が宿る。
「お姉ちゃん、私は何をすればいいのかな?」
「玲亜は座ってモニターを見ているだけでいいわ」
「分かった、そうする!」
詩亜の指示通り、玲亜が元々は翠仕様の席に座って、モニターをじっと眺める。
「戦いは、お二人に任せていいですか? 私はそれ以外の事を頑張ります」
「はい〜、よろしくお願いしますぅ〜」
「任せといて! さあ、行くわよ!」
ミリアの声をきっかけに、『シュバルツ・フリーゲ2【暁】』はふわりと浮き上がると、『龍の耳』の方角へ向けて飛び去っていった。
「皆さん、どうかご無事で……」
「大丈夫よ、リンセン。みんなきっと、無事に帰ってくる」
機体をリンセンとテューイが見送り、まだ隅っこでいじいじしている翠を連れて『うさみん星』へと戻っていった――。
●イルミンスール
「もう、いったい何なのよ。いきなり呼び出したと思ったら「うさみん移住計画のため、イルミンスールで交渉してきて」だなんて。
まあ、予定があるわけじゃないし、協力してあげるけどね。……さて、到着、っと」
詩亜にお願いされる形で、イルミンスールにやって来たミア・マロン(みあ・まろん)が入口から中へと入り、先に到着していたノルンと合流する。
「交渉って、何を話せばいいのかなぁ?」
「そうですわね……現状についてはアーデルハイト様はわたくし達以上に理解されていると思いますから、単刀直入にこうしたいのですけれどどうお考えでしょうか、と聞いてしまおうと思いますの」
「ふんふん、なるほどね。あたしは詩亜に呼ばれるまま来ちゃって、あんまりよく分かってないから、基本は任せちゃっていいかな?」
「ええ、構いませんわ。交渉が上手く行くよう、互いに頑張りましょう」
ノルンの言葉にミアも頷いて、二人はアーデルハイトの下へ向かう。
「……ふむ、大筋は理解した。
龍族と鉄族については事情が事情故、直ぐに移住、というわけにはゆかぬじゃろう。じゃがうさみん族とミュージン族については小規模であり、種族として温厚に見受けられる。
連れて来た後の事については問題はそう大事にはならないじゃろう。……問題は、その前にある」
ノルンとミアの話を受けて、アーデルハイトがこれは自分の推測であることを前置きした上で、口を開く。
「うさみん族もミュージン族も、天秤世界の理、ルールに従い他種族と争い、そして敗れた。つまり彼らは本来の世界から見れば『滅んだ』となされている存在のはず。
その彼らが果たして本来の世界であるところのパラミタに来て、そのままで居られるのか? 私はそこが気になっておる」
「つまり……天秤世界を出れば、うさみん族もミュージン族も消えてしまう、ということですの?」
「私はそう考えておる。個体としては生きておる以上、それが消えることは流石にないと思うが、『うさみん族のリンセン』は居なくなってしまう可能性が高い。
彼らの特徴からいって、そうじゃな……獣人の一人として存在することになるのやもしれんな」
言って、アーデルハイトが息を吐く。リンセンやテューイ、うさみん族やミュージン族がパラミタに存在する種族の一員として組み込まれるのであれば、ある日から獣人の人口が大きく増えました、シャンバラ人の人口が増えました、で済んでしまう話である。それなら大事にはならない、とはアーデルハイトはもちろん口にしない。
「……それ、どうにかならないのかな?」
ミアの言葉に、アーデルハイトは力無く首を横に振る。
「こればかりはな。彼らの運命を変えるには天秤世界の理に挑む他あるまいて。……あるいは互いに強い絆があれば、姿種族が変わったとて必ず巡り合えようて。
私からは以上じゃ、戻って皆で話し合うといい。どうするべきかを、な」
アーデルハイトに見送られて部屋を出たノルンとミアの二人は、得られた回答を持って再び天秤世界へと向かう。
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