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【真相に至る深層】第二話 過去からの螺旋

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【真相に至る深層】第二話 過去からの螺旋

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3:それぞれに、想い、想う行方


 そうして、異論百出飛び交う中で、熱と共に煮詰まりかかった空気を、突如吹き飛ばすものがあった。

「フハハハ!我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!」

 高らかに笑い声を上げたのは、ドクター・ハデス(どくたー・はです)だ。一同の間に一瞬、今そんな場合か、と言いたげな空気が流れたが、そんなものはハデスにとっては関係ない。何時ものごとくのマイペースで、眼鏡をきらりと押し上げると、堂々と宣言をはじめた。
「ククク、ディミトリアスに接触している「何か」。我々オリュンポスは、それの顕現に賛同しよう!」
 あれ、ちゃんと意見を言うのか、と何人かが思っただろうが、本番はこれからである。
「『悲しみと願い』の感情を抱えし存在……それこそ、我ら秘密結社オリュンポスを導く偉大なる魂(グレートスピリット)に他ならない! 今こそ、永きに渡る封印から解き放ち、その存在を顕現させ、我らの偉大なる野望である世界征服の実現に力を貸してもらわねばならぬ!」
 メガネを光らせ、白衣を翻しながら、『何か』の正体を自信満々に断言するハデスだが、とりあえず根拠は無いようだ。あったらあったで、それも凄いとは思うが。
 兎も角、こちらはこちらで暴走中のハデスに、周囲からは様々な種類の目線(主に「それはないわー」といった冷たいものが多いのはご想像いただけるだろうが)を浴びながらも、ハデスは留まることを知らずに宣言を続ける。
「ククク、もしも、グレートスピリットの顕現に反対するというのであれば、我らオリュンポスは、そこのスカーレッドに助太刀し、強引にでも封印を破らせてもらうとしよう!」
 その宣言にあわせて、飛び出したのはアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)と、オリュンポスの戦闘員達だ。その陣形は既に戦闘態勢をとっており、いざ動き出せば契約者達はスカーレッドとの挟み撃ちになりかねない。契約者達が顔色を変え、ツライッツと共に氏無がじり、と前へ出ると、ハデスは不意に「それから、氏無よ!」とびしりと指を突きつけた。唐突のことに氏無が目を瞬かせていると、ハデスはしたり顔で続ける。
「『我らの安全確保』や『他国との摩擦回避』が任務などというが、そのような小さな理由で、お前は『自分のやりたいこと』を曲げられるのか? それとも、そのようなちっぽけな目的が、お前のやりたいことなのか?」
「…………ちっぽけな、とはよく言ってくれる」
 その言葉は、ハデスの意図しないところで何かを突いたのか、氏無が僅かに顔色を変えた。
「そのちっぽけなものを守るために、命を散らしてった奴もいるんだ。ボクのような死に損ないにとっちゃ、やりたいことじゃない、生きてる意味さ」
 その物言いに気圧されたのか、一瞬じりとハデスが後ろに下がると、僅かに重く冷たくなった空気を断ち切るようにして、歌菜が口を開いた。
「氏無さんが守りたいことも判ります。危険を回避しなきゃいけないこともわかってます。でも、ディミトリアスさんを通じて「何か」へ干渉できるチャンスは、今しかありません。「何か」が何なのか、何をしようとしているのかそれをここで聞くべきです! でないと、もっと大きな危険を見逃してしまうかもしれないじゃないですか……!」」
 歌菜の言葉に、鉄心も続く。
「この場所が龍脈上にあるという事は、「何か」のエネルギー源がほぼ無尽蔵と言う可能性もありますし……「何か」の目的が何であれ、此方の意思を反映し事態を軟着陸させるには「そのもの」を知るしかない」
 そのための方法は、先に挙げられた方法やそれ以外にも、契約者達の中には何か思い当たることがあるようだった。それを表情から見て取って、氏無は黙って成り行きを一同に任せようとしているらしかったが、それでも反論を口にしたのはゆかりだ。
「ですが、相手が仮に龍であれば主導権を取れるのは一瞬の可能性もあります。もしくはその隙を突いてクローディスさんが奪われる危険性もあります。それよりは、封印した上で速やかに彼女達を封印した状態のまま脱出させるほうが安全なのではないですか?」
 ゆかりが指摘するように、その危険性はあるだろう。接触した瞬間に飲み込まれるかもしれない。だが同時に、封印することで安全が確保できるとは限らない。故に、歌菜の目は揺るがなかった。
「私は、ディミトリアスさんとクローディスさんを信じてます。彼らは強い!」
 決して、易々と飲み込まれたりするような人達ではない。その言葉に「確かに」何人かが頷いた。そんな中。
「それに、なーんか悪い奴って感じじゃないんだよなぁ」
 歌菜の言葉を受けて、のんびり口を挟んだのは唯斗だ。その言葉に意外そうに目を瞬かせた氏無に、いや、と唯斗は頭をかいた。
「ただの勘だけどさ。他にもいる筈だぜ? そう感じてる奴が」
 頷くもの、訝しげな顔をする者と様々だが、一同の腹は殆ど決まろうとしていた。
「それにまぁ、何とか出来そーな気がするだろ? 俺達なら、さ」
 その言葉に応じるように、皆が頷くのを見て、唯斗は視線をスカーレッドへとやった。
 今はルカルカやセレンフィリティ、白竜と世 羅儀(せい・らぎ)という面々で抑えてはいるが、スカーレッドが強敵であるという上に、相手が良く知った教導団員であることが躊躇させているのか、またはあまり傷つけてはならないという手加減の難しさ故か、埒のあく様子が無い。唯斗はその光景に、同じく前線へ出ようとする者達に、にやりと不敵に笑って見せた。

「それじゃまそっちは任せた。いっちょ……あっちの姉さんを止めて、埒をあけにいきますか!」