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【蒼空に架ける橋】最終話 蒼空に架ける橋

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【蒼空に架ける橋】最終話 蒼空に架ける橋

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■序


 肆ノ島は混乱状態に陥っていた。
 何の前触れもなくオオワタツミが上空へ出現したのだ。
 浮遊島群の歴史、その最初に登場するのがこのオオワタツミである。オオワタツミによって浮遊島群の人々は雲海に閉じ込められ、逃げ場もなく、人を食らう魔物たちに囲まれて生きてきた。

『ワレガ ウケタ 苦痛ノ数ダケ、キサマタチヲ コロシテヤロウ。
 コノ先 何千年モ キサマタチハ 苦シミヌイテ シネ』

 オオワタツミが残したというその言葉は、深く人々の脳裏に刻まれている。
 7000年前の戦いで傷ついた体を癒し、力を蓄えたオオワタツミが、今度こそ自分たちを殺しに来るに違いないと。
 その潜在意識に織り込まれた恐怖は到底計り知れるものではない。
 そして今、そのオオワタツミが自分たちの目の前にいる。書物から想像していたよりもさらに禍々しい、醜悪な姿をさらして。
 肆ノ島の守護の要であるヒノカグツチはなぜか沈黙し、オオワタツミを攻撃しようとしない。さらには書物にあったように、雲海から続々とオオワタツミを慕う眷属の魔物たちが集まってきている。
 この事態に肆ノ島太守クク・ノ・チはなぜか沈黙し、何の声明も出さないように見える。おかしいと思い屋敷へ駆けつけてみれば、屋敷は半壊して、中にいる者がどうなったとも分からない状態だ。
 そうなれば、パニックを起こさないわけがなかった。
 逃げなくては……でもどこへ!? オオワタツミたちは空をふさいでいる!
 精神的に追い詰められた屋敷の使用人や市井の者たちが上げる悲鳴は、奥宮にいるクク・ノ・チの元までも届くほどだった。
「いかがなさいましょう、太守」
 脇に控えた外法使いの男が控えめに問う。クク・ノ・チの手前、押し殺されていたが、彼もまたこの事態に動揺しているのはあきらかだ。
 計画を前もって知らされ、賛同した者でさえこの様である。
 クク・ノ・チは伏せた目を上空へ向けた。
「問題ない。少し予定は狂ったが、配置したカガミは問題なく作動しているようだ」
 冷静に見ていれば、魔物がある一定の高さから降りてこないことが分かる。降下を試みる魔物は1体の例外なく、すべてある位置までくると動きを止め、悔しそうにすごすごと上へ戻っていく。
 その光景に、マフツノカガミの設置も間に合ったようだ、とクク・ノ・チは判断した。
「何も恐れることはない。カガミはすべてこの島にある。ほかのどの島より、この肆ノ島が安全なのだ」
 とはいえ、全島民がこの事態のさなかにそのことに気づけるとはクク・ノ・チも思っていない。
「奉行所の者たちに民の避難を急がせろ。わたしがやつらを食い止めているうちに
「……承りましてございます」
 太守に非難されたことに逆上し、襲撃した地上人と彼らが呼び出したオオワタツミ。
 人々を守るため、オオワタツミに敢然と立ち向かった太守。
 クク・ノ・チが狙っているのはその図式だ。
 この混乱を乗り切り、そしてオオワタツミも制したとなれば、クク・ノ・チの名声はさらに増し、島の人々は彼に心酔する度を深め、これまで以上のさらなる熱狂で彼を褒めたたえるだろう。
 そして島民の怒りはそのまま地上にいる者たちへと向く。
 地上を攻めることに懐疑的だった者たちも、すんなりとその考えを受け入れるに違いない。
「港と船の準備も急がせよ。じきにオオワタツミはほかの島を攻撃し始める。難民を受け入れてやらなくてはならなくなるであろうからな」
「ただちに手配いたします」
 為すべき任務を与えられたからか、外法使いたちは少し立ち直ったようだった。声に張りが出、表情が引き締まる。
 一礼し、走り去って行く彼らを肩越しに見送ったあと、クク・ノ・チは握り込んでいた手を開き、犬笛のような金属製の細長い筒に目を落とした。
 たしかにカガミは魔物の出現に反応して、守りの結界を張っている。しかしそれは条件反射のようなもので、無駄が多すぎる。しかも個々の残留エネルギーはほぼ底を尽きかけている状態だ。ただ周囲へ放出しているだけのエネルギーに方向性を与え、さらに持続させる動力源を与えてやらなければいけない。
 そのためにはヒノ・コが開発した起動キーによる命令の書き換えと、類いまれな法力の持ち主であるツ・バキが必要。
 クク・ノ・チは、部屋の隅で正座している仮面を付けた女性に目で合図を送ると身をひるがえし、奥の扉へと向かう。仮面の女性は黙したまま、彼の式神である随神たちとともに、彼に従って歩き出したのだった。