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リアクション
第一章 VSゴブリンの群れ
「僕に勝てるとでも思ったか?」
メイア シオン(めいあ・しおん)が踏み込みざまに放った斬撃がゴブリンを薙ぎ捨てる。
耳を支配していたのは幾つもの耳障りな唸り声。
何体ものゴブリンが群れを成していた中に、メイアは一人だった。
スタートの合図と共にバーストダッシュを用いて集団を突出し、一人、先行していたのだ。
その先に居たのはゴブリンの群れだった。
しかし、いくら下級モンスターが相手とはいえ、大勢に無勢。
「クッ!?」
三体目を倒した所で、すぐに囲まれ、背後より一撃を受ける。
それで、メイアの動きに隙が出来る。その隙に、もう一方からの攻撃を受ける。
歯を食い縛りながら、斬り上げる。が、反撃の手が追いつかない。
と――。
「敵発見、これより攻撃にうつる。抜刀!」
士道 輝(しどう・ひかる)の声が鳴り響き、次いで、ゴブリンの断末魔が鳴った。
メイアが視線を走らせた先、輝の切っ先が返って、ゴブリンの血を空に捨てる。
そして、メイアの背後でもゴブリンの身体を貫き砕く鈍い音が鳴った。
セレーネ・ラノス(せれーね・らのす)の槍がメイアの背後に取り付くゴブリンを蹴散らしたのだ。
「大丈夫ですか?」
セレーネの凛とした声。
「う、ん――ありがとう。大丈夫」
メイアは痛みを堪えた顔で剣を振るいゴブリンを裂いた。
輝が傍のゴブリンを切り伏せ。
「大丈夫という顔ではない。後方で治療を受けて来――ッ!?」
言っているそばから、ゴブリンの一撃を受ける。
一人から三人に増えたが、それで手に間に合うほどゴブリンの数は少なくない。
「士道さん!?」
「問題なし!」
上がるセレーネの声を、一喝にて収め、輝は己を攻撃したゴブリンの方へと剣を払った。
その切っ先が寸での所で避けられる。
が、輝の刃を逃れたゴブリンを、後方より撃ち放たれた弾丸が弾き倒す。
後方。
アサルトカービンを構えた如月 恋(きさらぎ・れん)が居た。
「大切なのはチームワーク。みんなでゴールを目指すわよ!」
恋が高らかに言う。
その横でオリヴァー・デミアン(おりばー・でみあん)が笑む。
「にわか仕込みの連携だって、千里の道も一歩から。まずは歩き出さないと始まらない。頑張ろう、皆」
言って、オリヴァーは前方の三人が列で展開出来るように銃でゴブリンを牽制していく。
その隣で恋が頷く。
「そういうこと。相手はそれほど能力が高いわけじゃない。囲まれなければ負ける事はないわ」
恋がセレーネ達の端を抜けて回り込もうとしたゴブリンを狙い撃つ。
更に、オリヴァーが別のゴブリンに狙いを定めて引き金を引いた。
二人の援護を背に、呼吸を取り戻した輝が落ち着いた足裁きで剣を繰り出して行く。
「戦線を構築する!」
「ええ!」
そうして。
セレーネとメイアを合わせた三人の動きが一つの流れを生み始める。
オリヴァーはその様子に目を細めて軽く笑んだ。
「それなりに形になってる」
「今、相手にしているゴブリン達を叩いたら一度下がってもらうわ」
恋がゴブリンを牽制しながら言う。
オリヴァーがゴブリンを狙い撃つ手を止めずに、ん、と少し考えてから。
「なるほど。次のゴブリン達には、まず僕らの掃射攻撃を入れるわけだ」
頷いて恋の方を見やった。
恋が「そういうこと」と返しながら向けた視線の先。
新手のゴブリンの一団が雄たけびを上げながら進軍して来ていた。
巻き起こる旋風のような射撃音。
新手のゴブリン達がオリヴァー達の掃射攻撃で出鼻をくじかれている。
しかし、数は、先ほど片付けた第一陣よりも多かった。
前一列の屍骸を乗り越えてゴブリンどもが雄叫びを上げる。
状況を前にして、紫光院 唯(しこういん・ゆい)が剣を抜く。
彼女の瞳は何処か遠く彼方を見据えていた。
「一緒に行きましょう、メリッサ。何処まで続くともしれない道だけれど……」
傍らに立つパートナーのメリッサ・ミラー(めりっさ・みらー)は、静かに頷いた。
「あなたとなら何処までも行きますわ、唯。例えどれ程血塗られた道であろうとも」
そして、唯はパートナーの声に送り出されるように地を蹴った。
一方。
「さて、と……そろそろいきましょうかねぇ」
シエンシア・カサドール(しえんしあ・かさどーる)が緩く微笑を浮かべ、駆け出す。
その背を見送るツーク・アイデクセ(つーく・あいでくせ)が、「ほぉ」と愉快げに息を零す。
「初の訓練ですなシエンシア……」
声は心底から状況を楽しんでいた。
「楽しめる事を期待してますよ」
そして、ツークがスプレーショットを放つ。
それは、こちらに押し寄せようとしていたゴブリンどもを一挙に撃ち払った。
駆けたシエンシアが剣を抜きざまに生き残りのゴブリンを一閃する。
「マティエ」
「おっけーです、りゅーき!」
唯とシエンシアを援護する射撃に、曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)とマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)のそれが加わる。
そして、体勢低く踏み込んだ唯の切っ先が銀色の糸を引きながらゴブリンを斬り上げた。
返す刃でゴブリンの攻撃を受け、流している間にもう一方から攻め来るゴブリンの気配へと一瞬ばかり視線を走らせる。
次の一手はツインスラッシュ。
唯の描いた対の軌跡に裂かれて、二体のゴブリンが地に落ちる。
そして、唯は気配を感じるままに身を翻しながら、剣を払い出し――
「唯ッ、違いますわ!」
後方のメリッサの声が鋭く唯の耳を打つ。
「――ッ!」
響いたのは僅かな金属音。
「ほぉ、これはスリリングな」
後方で、ツークが楽しげにひっそりと零していた。
ひたりと止めた唯の刃に触れていたのは、シエンシアの剣。
そして、互いの切っ先は互いの首に触れる寸前で留まっていた。
お互いに敵と勘違いして斬り合う所だったのだ。
「わぁ……危なかったですねぇ」
その格好のまま、シエンシアがのほほんと笑う。
「……ええ」
ほそり、と唯が零す。
そして、後方から瑠樹の緊迫感の無い声。
「あー……もう少し余裕もって戦っても大丈夫だ。オレたちが援護するから」
「私、いっしょー懸命がんばります! りゅーきと一緒に!」
瑠樹の隣でマティエが、うんと気合を入れながら銃を構えて見せている。
シエンシアが唯に視線を返す。
「だそうです」
唯もシエンシアに視線を返し。
「是非そうしましょう」
再び、剣と剣が軽く触れる音。
その次の瞬間には、二人は別々の方向に踏み出し、ゴブリンを斬り飛ばしていた。
「いやあ、今のは中々面白かったですな」
ツークが援護射撃を行いながら、満足そうに言う。
その、やや後方でメリッサが胸元の辺りを握りながら、細く溜め息を零した。
「心臓に悪いものですわ」
「まあ、互いに無事で何よりだ」
瑠樹がだらりと言って放った弾丸がゴブリンを撃ち倒す。
マティエが瑠樹とは別の方向への射撃で敵を牽制してから。
「私たちも味方を撃たないよーに気をつけなくてはいけません!」
むん、と気合を入れ……何故か瑠樹とメリッサとツークの三人から頭をぽふぽふ撫でられたりしていた。
◇
先頭集団は、どうやら順調にゴブリンの群れを蹴散らしながらコースを進んでいるようだった。
それら先頭集団の後方。
レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)を中心とした獅子小隊14名は、目的の”モノ”を発見していた。
レオンハルトの合図と共に隊は列を組んだまま、待機する。
遠く前方に在るのは、集団の端に佇む四輪走行の直立型ロボット……防衛システムだった。
システムが自ら動く様子は無い、
と、先頭集団の生徒の一人がうっかり近づいてしまったのが見える。
瞬間。その生徒の足元に撃ち込まれたのは、防衛システムの両腕に配備されたマシンガンによる凶悪な弾幕だった。
生徒はすぐに退避行動を取り、無事に逃がれていく。
これで、システムの射程は把握した。
そうして、獅子小隊は、それぞれの思惑を胸にシステムの方へと進み出す。
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