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第1回ジェイダス杯開幕!

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第五章 走り屋、迷走中

 チェックポイントである薔薇の学舎を抜け、先頭集団はタシガン家の屋敷に面した通称宮殿通りへ。しかし、スタート地点である霧の中の街灯亭に向かうには、二股に別れた道を芸術家通りに入らなくてはならない。この分岐ポイントを見分けられるかが、今後のレース展開を大きく左右するぞ。


「100万Gは私のものでありますっ!!!」
 最初に分岐点を見逃したのは、蒼空学園シュラト ハセル(しゅらと・はせる)選手。どうやら賞品に目がくらみ、自我を失った模様。シュラト選手、このままコースアウトか?!
 そして、シュラト選手に釣られたのか。次々と宮殿通りを走り去っていく者達が続出だぁ!!
「あ〜みんな、そっちは道が違いますよ〜」
 おや、道を間違えそうになっている選手達に、わざわざ声をかけているお人好しがいるぞ。カポカポと愛馬の太郎さんを走らせていた田中マリオ(たなか・まりお)選手だ。
 薔薇学生である田中選手にとって、タシガン市街地はまさにお庭。一応コンパスを用意しておいたのだが、今のところまったく出番がない。
「見通しが悪い所でスピードを出すと危ないんだけどなぁ」
 しかし、田中の声は届かない。
 本大会最軽量を誇るソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)選手が田中選手の横を通り過ぎていく。軽量級の身体を活かし、軽快な走りを見せてきたソア選手だが、ここで大きくコースアウト!
 こちらに来ている情報だと、ソア選手。事前にタシガン市街地の地図を入手し、入念な下調べをしてきたそうだが、予想外に深い霧に方向感覚を奪われたか?!
 ソア選手に続くのは、蒼空学園葉月ショウ(はづき・しょう)選手とイルミンスールのイリット・ガルフ(いりっと・がるふ)選手、椎名ひより(しいな・ひより)選手。正規のコースを走らなくとも、チェックポイントである薔薇の学舎で3回、通過の証を受け取っていれば失格にはならないが、これは大きなタイムロスになるぞ。

 ここでまたしてもコースアウトをした選手がいるぞ。
「振り落とされんなよ、お嬢〜!」
 鬼のような形相で宮殿通りをすっ飛んでいったのは、イルミンスールの織機誠(おりはた・まこと)選手。パートナーの上連雀香(かみれんじゃく・かおり)選手をタンデムに乗せての出走だ。本大会には、上連雀選手との思い出作りのために参加したと言った心優しい織機選手だが、どうやら空飛ぶ箒に跨った途端、人が変わったらしい。
「落ちつくのじゃ、誠〜。道を間違えているぞ!」
 分岐ポイントをきちんと見抜いていた上連雀選手。何とか正しい道へとナビゲートしようとするが、織機選手は止まらないっ。
 と、ここで業を煮やした上連雀選手。巧妙な罠を織機選手に仕掛けたぞ。
「あ〜あそこに吸血鬼じゃ!」
 上連雀選手が指さしたのは、宮殿通りに植えられた街路樹だ。
「何っ?! どこだ、吸血鬼?! オレの鋼の肉体で瞬殺してやるぜ!」
 しかし、目を血走らせた織機選手は気がつかない。よほどパートナーに格好良い所をアピールしたいのだろう。空飛ぶ箒を急停車させると、鼻息も荒く空飛ぶ箒から飛び降りた。と、瞬間、織機選手の表情が激変したぞ。
「あの…できれば穏便に事を済ませたいのですが…」
 モミ手をしながら、街路樹に向かって頭を下げる織機選手。
 と、ここで上連雀選手が動いたぞ。すかさず織機選手の手から空飛ぶ箒を奪い取ったぁ。すかさず自分の分の箒を取り出すと、2本の箒を両手でしっかりと握りしめる。
 箒にひらりと跨った上連雀選手は織機選手に向かって言い放つ。
「わらわは先に行くぞ」
「って、えぇ?! 待ってよ、お嬢!」
 突然の裏切りに、慌てる織機選手。しかし、すべては遅すぎた。
「お主は追いてくのじゃ。わらわと誠の箒でツインターボ。これで優勝はいただきなのじゃぁ〜!!!!!!」
 騎乗した上連雀選手は、素早く正しいコースへと方向を修正する。憐れ、取り残された織機選手、振り返ることなく霧の中へと消えたパートナーを見送るしかないのか?
「おい、お前。体重は幾つだ?」
 おぉ〜っと、ここで捨てる神があれば、拾う神もいたぞぉ〜〜〜!
 織機選手に声をかけたのは、同じくイルミンスールからの参加者、七尾蒼也(ななお・そうや)選手。同校の者達がチームやペアを組んで参加する中「数を頼みにするのは好きじゃない」と単独参加を決めた、誇り高きイルミンスールの一匹狼だ。
 しかし、突然体重を聞かれた織機選手は戸惑いを隠せない。
「……64kgですけど。それがどうかしましたか?」
「細身に見えても、身長があるだけあってやはりそれなりにあるな…」
 ぼそりと呟き、何やら考え込む七尾選手。どうやら軽ければ乗せてやっても良いと思ったらしいが…。
「お前も頑張ってくれ」
 あっさりと言い捨てると、七尾選手は空飛ぶ箒の高度を上げた。
「って、えぇ〜〜〜?!!!!」
 二度も見捨てられるとは、織機選手にとって今日は厄日なのか?
 そう言えば確か、朝のニュースで、本日の蠍座の運勢は恋愛運・勝負運ともに最悪だって言ってたっけ。ご愁傷様〜!