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これが噂のクリスタルティアーズ

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これが噂のクリスタルティアーズ

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始まりは終わり

 校長室のドアが閉まっていた。
「あれ?」
 和泉とエドワードは首をひねった。
 後ろに控えていたガートルードとシルヴェスターも、ドアを何度かノックして、中からの応答を待った。
「…………」
 無音。
 どうして開かないのだろう? 何故鍵がかかっている?
 これからどうしたら良いのか分からず、ドアの前でしばらく佇んでいると。
「何か用ですか?」
 年配の事務局長が声をかけてきた。
「……あの、これを……これを静香校長先生に食べさせた……いえ、食べてもらいたくて持ってきたんですが」
「私は蒼空学園の者ですが──、あぁ許可は頂いています。『WeeklyExpress』新聞に今回のクリスタルティアーズのことを載せて、パラミタ全土の各学園に配信する予定なのですが、その件で校長にインタビューをと思いまして」
「私達は……えと、付き添いです」
 ガートルードとシルヴェスターは顔を見合わせて慌てて答える。コネ作りに来たなどとは口が裂けても言えない。

「校長は出かけましたわ。ラズィーヤ様と一緒に」

「へ?」
「え?」
「それを渡せば宜しいのでしょうか? 承知致しました」
 半ば奪われる形で、手に持っていたカキ氷が取られた。
「新聞のインタビューに関しては……そうですね、申し訳ありませんが他の先生にお願いして頂けないかしら。校長でないと駄目と言うことはありませんでしょう? ──で、他に何かありますか?」
「あ、い、いえ……」
「……ありません」
 有無を言わせない迫力に、納得せざるを得なかった。

(静香様に、あ〜んって、あ〜んって! したかったのに〜〜〜〜!)
(何故こんな結果に〜〜〜〜美しい校長にインタビュー〜〜!!)
(コネ作り〜〜〜!!!)

 皆、心の中で血の涙を流した。


 ◆


「──ケルベロスちゃん、食べてくれますよね? 気に入りますよね?」
 エルシーは運んでいる子供用プールの中に入っているクリスタルティアーズの残骸を見ながら、不安そうな声を出した。
「きっと大丈夫、食べてくれますよ。こんなに暑いんですから」
 ルミが安心させるように言った。
「そうですね、喜んでくれるといいのですが」
「でもシロップはこれで良かったんでしょうか? ケルベロス君、甘いの大丈夫ですかね」
 碧衣がオレンジの匂いの漂うプールを見ながら言った。
 丸い氷が、ぷかぷかと浮いている。
「食事もあれだけじゃ足りないし、お腹がすいていればこのくらいあっと言う間に平らげると思うぞ」
 重そうに腕を持ち替えながら、垂が答える。
「重い……重いよ」
「もうちょっと、あともう少しだから、頑張ろう」
「うん、分かった、頑張る」
 カリンとメイは、口で息を吐きながらお互いを励まし合った。

 コトワが泣きそうな声を出した。
「重いッス〜。息があがっちゃうッスよ〜」
「う、腕の感覚が……」
「落としちゃ駄目、落としちゃ駄目よ!」
 セラがフィルに叱咤する。
「た、たすけて」
 乃羽が弱々しい悲鳴を上げた。
 いくら子供用のプールとは言え、中にたっぷりの氷と液体が入っていれば、何人で持っていようと重いものは重い。
「もうちょっとだから、頑張ろう! そっちは大丈夫〜?」
「大丈夫じゃないわぁ〜」
 伊月が、今にも手から離れそうなもう一つのビニールプールを必死に掴んで、息を荒げている。
「く、苦しい〜苦しいどす〜」
「もしかして、一回休憩したほうが良いかもしれませんわ」
 エリスとティアも、もう限界に近い。
「ちょっと休憩しましょうか」
 雫が提案して、皆の歩みが弱まった。
「でもでも! 下ろしちゃったら持ち上げるの大変だよね」
「そ、そうですね。体制を整えるだけの休憩にしましょうか」
 桜と命が下ろそうとする皆の行為を止める。
「おう〜」

「ひぃひぃ、ふぅふぅ」
「ふぅふぅ、ひぃひぃ」
「あっ!」
「え? うわっ!!」
「どいてっ!」
「こっちに来ないで!」
「ちょっとちょっとちょっと──あぁっ!」


 びしゃ、びしゃああぁあぁああぁっ!!!!!!


 クリスタルティアーズでぬかるんだ地面に足を取られ、持っていた子供用のプールがひっくり返ってしまった。
……二つとも。

「ぎやあぁぁあぁぁ〜〜ケルベロス君にあげようと思っていたカキ氷がぁあぁ〜〜!!」
「早く、早く集めましょう!」
「大丈夫かな? 大丈夫かなこれ!?」
「汚れなんて付いてないよね? 大丈夫だよね」
「うわぁあ〜〜〜ん」


 涙を流しながら皆で拾い集め、汚れていないわずかばかりの氷を集めて、ケルベロス君のもとへ運んだ。
 みんな泥だらけになっている。
 食べさせてあげたいと思って用意したカキ氷。
 プールいっぱいに作ったカキ氷。
……微々たる量に、なってしまった。


 クリスタルティアーズのカキ氷──ケルベロス君が喜んで食べてくれたことが、救いだった。


担当マスターより

▼担当マスター

雪野

▼マスターコメント

今回こちらのシナリオを担当致しました雪野です。
かき氷製作に参加下さいまして、ありがとうございました。
気に入って下ると、とても嬉しいのですが……。本当にありがとうございました!