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血みどろの聖女

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血みどろの聖女

リアクション


Scene2
2-1

「ひじりんがお仕事をしている間、キャンティはちゃんと見張りをするんですの〜」
 水色ストライプのワンピースに白い帽子を着けた銀髪たてロールもかわいらしい黒猫のゆる族キャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)は、不穏な動きがないか酒場周辺を警戒していた。
 そんな目立つような格好にもかかわらず、誰にも見咎められないのは、ひとえに光学迷彩のおかげである。
「あれ? あれれ〜? あの人たち屋根の上でなにをしてるのでしょう〜?」
 気配に見上げると、酒場の屋根の上に長い黒髪の少女と長身の男の姿が見てとれた。

 一方、混乱する酒場内で聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)は、おされ気味の者に近づいては銀の盆を差し出すを繰り返していた。
「お探しのものは、これですか?」
 盆には、その相手が求めているであろう武器が載っている。
「お、おう! 気が利くじゃねぇか」
「では、こちらの明細にサインをお願いします」
 次に差し出されるのは契約書。
 内容も確かめずに無闇にサインすれば、あとから多額の請求書がくるという代物だ。
「ま、拒否したらしたで、認めをもらう方法はいろいろございますので……」
 と、次のカモ……もとい、顧客を探す聖の目に留まった男の上に何かが降ってきた。


どべちっ!


 乱闘真っ最中の人々の間に藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が落ちてきたのだ。
 下敷きになった誰かがうめき声をあげる。
 そして天上には大穴。
「……」
「亡霊、私は大丈夫です」
 自らが開けた大穴から覗き込んでいる亡霊 亡霊(ぼうれい・ぼうれい)に、優梨子は自分の無事を知らせた。
 そして亡霊が降りてくるのと同時に、取り囲む者たちの中で一番先に目に付いた男に攻撃をしかけはじめた。
「な、なんだ? オマエは?」
「名乗ってもムダです。すぐに忘れさせてしまいますから!」

どん!!

 デリンジャーを男の身体に押し付け引き金を引く。
 崩れ落ちる男に冷徹な微笑を投げかける。
 その優梨子と背中合わせに亡霊はエンシャントワンドで敵を殴りつけている。
「……」
「くっくっくっくっ……」
 亡霊の背後から含み笑いが聞こえてくる。
 やがてそれが高笑いに変わっていく。
 実に楽しそうな嬉しそうな笑い声だ。
「あーはっはっはっ!!」
 打たれようが、蹴られようがそんなのはお構いなし、痛みすら戦闘意欲を高揚させる刺激にしかならないようだ。


 王大鋸は、ゴンサロ一家の連中にボコボコにやられたようだが、諦めが悪いというか根性を見せたというか、再びゴンサロに向かっていく。
 それを屈強な守護天使に阻まれつつ、シー・イーと共に立ち向かう。
「こりねぇ野郎だなっ!」
「うるせぇ! ぶっ殺してくれる!!」
 威勢よく吼え、威勢よく投げ飛ばされるを繰り返す。
 何度目かに壁に叩きつけられた時、王はカリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)に背後から羽交い絞めにされた。
「なんだこの野郎!」
「ちょっと待って! 王ちゃん、キミ勘違いしてるんだあのマレーナって子は、ゴンサロ一家とは関係ないよ」
 プロレスラーっぽい妖艶な衣装を着けたカリンが王に投げ飛ばされそうになるのを耐えてさらに組み付く。
「ぐあぁあああ! 離しやがれ!!」
 一方、アイドル系のプロレス衣装を身に着けたメイ・ベンフォード(めい・べんふぉーど)は、シー・イーの目前にエンシャントワンドを突きつけた。
「悪いけど、カリンの邪魔はさせないからね。アタシが相手よ」
「……」
 シー・イーのドラゴンニュート特有の無表情な瞳がメイを見上げた。
 それが、ふっと細まり笑ったらしいことがわかる。
「邪魔などしナイ、好きニすればイイ」
 と、王とカリンの様子に目を向ける。
 好きにすればいいというより、勝手にしろという感じ。
 王はカリンに組み付かれたまま暴れていた。
 そこへ割って入るのは弩 雷門(ど・らいもん)だ。
 アサルトカービンを王に組み付いているカリンに突きつける。
「しょうがねぇな王ちゃんはよ……四天王になるんだろ? こんなことで不意打ち食らってるようじゃな」
「なに言ってるの〜? 王ちゃんは、私とこの戦いを終わらせるんだよ、ね」
「てめぇら、勝手なこと言ってんじゃねぇよ!」
 各々好き勝手なことを口にする。
 とりあえず気を取り直して、勝ち残るため&戦いを終わらせるために、協力することに合意した。
「王ちゃん、背中はオレにまかせな」
「私だって王ちゃんの背中くらい守れるんだから!」
「だから、勝手なこと言うなって言っとろーが!!」


 この騒ぎを肴に小鳥遊 徹平(たかなし・てっぺい)は酒を飲んでいた。
「あんたは、四天王とやらを目指さないのかい?」
「別に興味ないからな……」
 カウンター奥の女将の問いにそう答えながら、近くまで吹っ飛ばされてくる奴にとどめの一撃を加えて、そのポケットから財布を失敬してみたりする。
「俺は旨い酒が飲めれば、それでいい」
 その近くのテーブル席では樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は食事をしていた。
 このふたりが、この酒場に寄ったのは偶然であり、決して四天王だの半裸のねーちゃんが目的ではない。
「うらあぁあああ!!」
「……」
「きゃっ」
 そこへゴロツキが襲いかかってきたのを、刀真は食事中の月夜を盾に相手をひるませ、テーブルの上の酒瓶で殴りつけた。
「女将、スピタリスを床にぶちまけろ!」
「無粋なやつだなぁ……」
 剣の花嫁月夜から取り出した光条兵器 黒の刀身の片刃剣を女将に突きつけ、アルコール度数の高い酒を瓶ごと床に叩きつけるようにと脅す。
 それを徹平が割って入り制止した。
 徹平の手にはデリンジャーが握られ、それを刀真のこめかみに突きつけている。
「邪魔をするなら、君から斬りますよ」
「酒には罪はねぇぜ! とっとと失せやがれ!」
 にらみ合う刀真と徹平。
 その一発触発のふたりを月夜はスプーンをくわえたまま見守る。
「ふん……バカバカしい」
 しばらくして、刀真は手の甲で徹平のデリンジャーを押しのけると、女将に突きつけていた光条兵器をさげた。
「月夜、行きますよ」
「う、うん……あ、女将さんコレ食事代」
「食事代と修繕費は、暴れている連中からもらってください」
 刀真は食事代を払おうとする月夜を促すと酒場を後にした。
 それを見送った徹平はカウンターに腰をすえると再び酒を注文するのだった。
 「オバチャン、酒もう一杯!」


2-2

 ゴンサロ一家や四天王めあてのパラ実の学生をはじめとする全国の不良たちが乱戦を行う一方で、酒場の女たちはわが身を守るために、時には戦いながら逃げ惑っている。
「ヒャッハァ〜! 女狩りの時間だァ〜!! 四天王? そりゃ女や飯よりいい物なのかァ〜?」
 そう叫びながら逃げ惑う女たちを追いかけるのは、南 鮪(みなみ・まぐろ)である。
 女たちを追いかけていた鮪は、ふと肌もあらわな血まみれの服をまとった少女の姿が目に留まるやいなや、極上の獲物を見つけたとばかりに方向転換した。
「ヒャハハハッ!」
 両手をわきわきとイヤらしく動かしながら、マレーナのたわわな胸に突撃してくる。
 そのあまりにも突然で唐突な方向転換に、マレーナも周囲の人々も面食らってしまう。
「いただきま―――――」
「きゃ……」
「おわたぁ!!!」

タタタタタタタタタッ

 鮪の足元を襲うのは、鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)のアサルトカービンである。
 こんなこともあろうかと、少し離れた場所からマレーナの様子をうかがっていたのだ。
「はいはい、女性には紳士的にねー。それ以上不埒なことをすると、頭に穴が開くよー」
 翔子はアサルトライフルの照準を鮪の頭にぴたりとあわせた。


「つったく、どいつもこいつもしょうがねぇなあ」
 翔子に撃退される鮪を見ていた一色 仁(いっしき・じん)が、マレーナに笑いかける。
「何バカなことを言っているんですの?!」
「うわ、ミラなにするんだ?」
 ミラ・アシュフォーヂ(みら・あしゅふぉーぢ)は、パートナーの仁の服を剥ぎ取りマレーナに着せかける。
「あ、ありがとうございます」
 自分の姿のひどさに今さらながら気づいたのか、マレーナが頬を染めて礼を言う。
 ミラはそんな彼女を冷静に観察していた。
 血みどろの衣服を身に着けているが、それ以外の異常は……
「ねえ仁。彼女はケガをしているわけじゃないわよ。あの血……」
 ミラは仁にそっと耳打ちした。
 マレーナの血は衣服にだけついていること。
 だからといってケガをしている様子はないこと。
 意識レベルも高いし、憔悴している様子もまったくない。
「……被害者ではないってことか」
「加害者ってことも考えられますわ」
 仁はミラの報告に考える。
 マレーナが誰かに危害を加えたとは考えにくいが、事実マレーナは血まみれの衣服を着ており、それは返り血とも考えられる。
「……少し、冷静になるか」
 マレーナの胸に未練は残るが、パートナーを危険にさらすつもりはないのだ。


「これ以上ここにいるのは危険じゃない?」
 戦いは激化する一方だ。
 マレーナがこれ以上酒場にいるのは危険だミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は言う。
 そしてマレーナの手をとる。
「でも……」
「とりあえず、酒場の外へ出たほうがいいですわ」
 酒場を後にすることを躊躇するマレーナだが、ミルディアもパートナーの和泉 真奈(いずみ・まな)も、これ以上パラ実の不良で人間のクズで女の敵どもの中に彼女を置いておきたくなかったし、自分たちもいたくはなかった。
 そして一同は、マレーナを連れてゴンサロの酒場を後にする。
 外に出ると津久見 澪(つくみ・みお)が近くにある公園へ行くのはどうかと言うので、とりあえず案内されるまま公園へと向かった。


 公園といっても空き地に毛が生えた程度のものだったが、その水のみ場でリンダ・ウッズ(りんだ・うっず)がマレーナの血まみれの身体を洗ってやると言いだした。
 公園の水のみ場である。視界を遮るものは特にない。
「ここでですか?」
「女どうしじゃけん、恥ずかしいことないけん」
 と自分も裸になるリンダ。
 マレーナに負けず劣らずの巨乳でスタイルも良い。
 じゃなくて! 一緒に公園まで移動してきた男性陣は決まり悪げに目をそらしたりしている。
「じ、自分で洗いますから……」
「気にしちゃぁおれんじゃろう」
 抵抗するマレーナだが、リンダはまったく気にしない様子で、マレーナが着ているものを脱がしていく……
「そ、そんなに胸を触らないでください―――――っ」
 公園の入口で不審者が来ないように見張りをしている澪の耳にマレーナの悲鳴が聞こえてきた。
「リンダはナニをしてるアル?」