蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

ヴァイシャリーの夜の華

リアクション公開中!

ヴァイシャリーの夜の華

リアクション

 ラーフィンドンは、イルミンスール席に軽食と飲み物を配りに回っていた。
「あっ、花火始まったんだね!」
 座布団を3枚借りて眠っていた玲奈が伸びをして体を起こした。
 ドンが無言ですっと、軽食と飲み物が置かれたトレーを差し出す。
「ありがと! カツサンドと烏龍茶もらおっかな」
 玲奈はカツサンドと烏龍茶を選んで手に取った。
 皆の歓声に振り向けば、6学校の名前の後――ちょうど自分が依頼した仕掛け花火が始まったところだった。
 ハートのマーク。その周りを6学校の校章に描かれている図柄が囲んでいた。
「喧嘩せずに、仲良くひようへ」
 もぐもぐとカツサンドを食べ、団扇で扇ぎながら玲奈は花火を楽しんでいく。
「ここにも置いておくから、自由に食べてね。……っとこれは校長のために作った特別なサンドイッチだよ。お口に合うかどうかわからないけど」
 ラーフィンはエリザベートの存在に気付きそう付け加えてから、スペースの中央に置かれた丸テーブルの上に、ラップに包んだサンドイッチと飲み物を並べておく。
「美味しそうですぅ〜。あとで食べるですぅ〜」
 エリザベートは沢山のお菓子を食べ、綺麗な空の華を見て大人しくなっていた。
 ラーフィンもそのままその場に留まり、皆と一緒に花火を楽しむことにする。
 ドンはそっと、その場から身を引いた。
 身体が大きいから、邪魔になるかもしれないと。
 端で柵によりかかり、空を見上げる――。
ドン、パパン
 また空に花が咲いた。
 赤と黄と緑の光のまあるい花が一斉に。
 その後。
 浮かんだ白い光が空で広がり、まるで羽のようにふわりと瞬いた。
「あ、難しいのに作ってくれたんだ」
 ミレイユがふんわり微笑んだ。
 『白い羽毛が舞うような花火がいい』と提案したのは、ミレイユだった。
 ミレイユが微笑む姿に、シェイドも微笑みを浮かべる。
「綺麗ですね」
「うん」
 空に羽毛のような光が現れて、小さな光に戻り舞うように消えていく。

 次の仕掛け花火は、薔薇の学舎の生徒が依頼した花火だった。
「お、始まったな」
 薔薇学の瑞江 響(みずえ・ひびき)はにやりと笑みを見せる。
 空に描かれたのは、薔薇の学舎の校章。
 それから『世界平和』という文字。
 その隣に薔薇の花。
「なかなかの出来だな。俺らが手伝っただけあ……」
 しかしその直後、響の顔が笑顔のまま一瞬にして固まった。
 その隣に、どーんとこんな文字が浮かび上がっていた。
響・LOVE
「愛してるぜ、響」
 隣に座っていたパートナーのアイザック・スコット(あいざっく・すこっと)が、響に手を伸ばす。
 響きはその手を掴んで。
 ぎりぎりと捻り上げて。
 冷い笑顔を湛えながら。
 思いっ切り蹴りをぶち込んだ。
「ぶぐはーっ」
 薔薇学のスペースからアイザックは派手に吹っ飛ぶ。
 無論、響は注目の的となる。
 拳を握り締め、とにかく目を逸らした……っ。

「花火も素敵だけど、夜景も綺麗だよな」
 和装の涼介は茶屋で、エルミルルミーナに茶を出した後、ライトアップされた塔に目を向ける。
「ええ、美しいです。ね」
 エルミルは茶碗を手に、ルミーナを見て微笑んだ。
 仄かな明りの中、浴衣姿のルミーナ個人もまた美しかった。
「そうですね、綺麗な街です。そして、お集まりの方々もとても綺麗ですわ。エルミルさんも」
 ルミーナはそう微笑み返す。
 エルミルの自慢のふわっふわポニーテールも浴衣と共に映え、彼女の美しさを引き立てていた。
「これも食べてねっ」
 クレアは、クーラーボックスから取り出した水羊羹を2人に出した。皆を持て成している彼女も浴衣姿だった。
「ありがとうございます。可愛らしい浴衣ですね。とても似合ってます」
「うん、おねぇちゃん達もホント綺麗!」
 エルミルの言葉に、クレアは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「あっ、このお店にはまだ寄ってなかったわよねっ」
 イルミンスールのターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)が、ジェイク・コールソン(じぇいく・こーるそん)の腕をぐいぐい引っ張りながら現れる。
「こんにちは」
 ジェイクは若干困り顔でありながら、嬉しそうでもある。
「お茶と、お菓子は全種類食べたいな!」
 そういうターラの手にはカキ氷と焼きそばがあり、腕に下げている袋の中にはマドレーヌやケーキなど配られていたものが沢山入っている。
「俺は茶だけで。……そろそろ落ち着いて観賞しよう、な?」
 花火が始まるまでの間、大人しくゆっくりと過ごしたかったジェイクだが、「折角のイベントなんだから思いっきり楽しまなくちゃ損」と、振り回されていた。それはそれで、一緒に行動できるのは嬉しくもあるのだが。
「ゆっくりしていってくれ」
 涼介が茶を2人に出す。
パパパン
 美しい光の花が空に咲いた。
「うわあっ、凄い大きな花火……きれい。そうね、お店も一通り回ったし」
 花火に見とれるターラに、ジェイクは見とれていた。
「撮るよー」
 後方からの声に、茶屋に集まっていた皆が振り向く。
 がカメラを向けて立っている。
「えっ」
「皆さん気持ちよく写真撮影に協力して下さいね」
 驚く女性達の肩を、ラルフががしっと掴み、中央へと促す。
「ほらほら! 思い出作りの記念撮影ですよ〜」
「お店の方も、花火をバックに皆一緒に並んでくださいね」
 勇とラルフに促され、集まっていた者達が中央に身を寄せ合う。
「ドーンと花火が上がっている時にお願いね!」
 ターラはジェイクの腕をぐいっと引っ張って、とびっきりの笑顔をカメラへと向ける。
「次の花火が上がる音が合図ということで……宜しく頼む」
 ジェイクは茶碗を持ったまま、笑みを浮かべた。
 エルミルとルミーナもより近付いて。
 涼介とクレアは手を止めてカメラの方に顔を向け、微笑みを浮かべた。
ドン、パパパン
パシャ
 花火が上がる音の直後、シャッター音が響いた。

「さて、次は百合園の席にでも行ってみるかな」
 作業を終えては教導団のスペースから百合園のスペースへと歩き出す。
 ふと気になり、胸元の赤い花に目を止める――。彼女は百合園の席にいるだろう、か。
「何をしているんですか?」
 陽気な声に振り向けば、百合園の腕章をつけてカメラを構えた蒼空学園のエドワード・ショウ(えどわーど・しょう)の姿があった。
「主催者の許可を得て、このイベントの取材をさせてもらってるんです。よろしければ写真も一枚撮らせていただけますか?」
「花火の音サンプリングして音作りに活かそうと思ってな、取材大歓迎だ是非撮ってくれ」
 ハンディレコーダーを手に柵に寄りかかり零はポーズを決める。
 花火が上がると同時に、エドワードはシャッターを切った。
「しっかり紹介頼むなー!」
 撮影が終わると、零は百合園席に友人の姿を見つけ、走っていった。
 エドワードは辺りを見回し、次の被写体を探す。
 今度は女の子とか。女の子とか女の子がいいと思いながら、目を止めたのは可愛らしい3人組の少女だった。
「わぁー、花火きれいなの……」
 カキ氷を食べながら、すっごっく可愛らしい笑顔を浮かべている。
 声を上げたのは一番小さな女の子だ。
「いやぁ、舞い散る花火に負けない美しい華が揃いました、ね」
 少女達にそう声をかけて、カメラを向けた。
 くりると振り向いて、不思議そうにエドワードを見たのは未沙未羅愛美の3人だった。
「うん! 撮って撮ってっ」
 未沙は嬉しそうに未羅の手をとって、愛美に近付いた。
「お願いします」
 愛美も美沙に肩を寄せ、小首を傾げて微笑む。
パン、パパン
 花火が上がると同時にシャッターが切られる。
「現像したら送ります。連絡先教えて下さい。それと」
 エドワードは美沙に近付いて言った。
「美しいお嬢さん、私と結婚してください」
 目をぱちくりと瞬かせた後、3人の少女は笑い出した。
「先生、ナンパは授業中だけにして下さい」 
「写真は学校で下さいなの」
 未沙と未羅の言葉に、エドワードも軽い笑みを浮かべる。
「了解しました。可憐な蒼空学園のお嬢さん達」
 そう答えたエドワードの服の裾がくいくいと引っ張られた。
 振り向いた先に、ガーデァの姿があった。
「皆で写真撮りたいです」
 エドワードはガーデァに頷いてみせた。
「喜んで撮りましょう」
「やった! みんなー、写真撮ってくれるそうです!」 
 ガーデァは知り合った友達、知らない人にも向けて声を上げた。
 声を聞いた若者達が次々に集まる。
 エドワードは全員入る位置まで下がり、花火が上がると同時にシャッターを切ったのだった。

 ピンポンパンポーン
『迷子のお知らせです。蒼空学園の五明 漆(ごみょう・うるし)さんが行方不明となっております。服装は蒼空学園の制服、黒色のロングヘアー、瞳の色は黒。地球人の標準身長の女性です。見かけた方は、迷子センターまでご連絡下さい』
「なんと!」
 放送を聞き漆は驚愕した。
 何度か呼ばれていることには気付いていた。
 だけど、どうしてもその迷子センターにたどり着けないのだ。
 迷子になった者の為に迷子センターを作ろうと思っていたのに!
「そうか、やはりわらわは迷子になってたのじゃ。いかんのう……」
 きょろきょろと辺りを見回し、階段から下りてくる男女の姿を見つけた。
「賑やかだったな」
「楽しかったね。沢山お菓子も貰っちゃった」
 漆は幸せそうに歩く2人――蒼空学園のにみ てる(にみ・てる)グレーテル・アーノルド(ぐれーてる・あーのるど)に近付いた。
「おぬしら、屋上の場所は知らんか?」
「ん? 屋上ならこの階段から出られるぞ?」
「おお! ここから行けるんじゃな」
 漆は喜び勇んで階段に向かう。
「あ、そっちは下りだよ? 屋上に行くんだよね?」
「んん!? そうじゃった。上に向かわねばのぅ〜。恩にきるぞ!」
 漆は礼を言って階段を駆け上がる。今度こそ、たどり着けるだろう。
 てるとグレーテルは顔をあわせて微笑み合った後、校舎の外へ向かっていく。