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ワルプルギスの夜に……

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ワルプルギスの夜に……

リアクション

 
    ☆    ☆    ☆
 
 鷹野 栗(たかの・まろん)は、燃えさかる篝火のそばまで空飛ぶ箒で近づいた。眼下に、氷の魔獣に追い詰められた羽入綾香の姿を見つける。
「こっちなのです!」
 氷の魔獣を挑発した。
 だが、魔獣は眼前の獲物以外には反応しなかった。
「栗!」
 叫び声に気づいた羽入綾香が、上を見あげて驚きで目を丸くする。
「無視するのでしたら、綾香の方を無視するのですよ!」
 鷹野栗は、箒を飛び降りて空中に躍り出た。そのまま、真下にランスを構える。
「バーチカル……バースト!」
 バーストダッシュで倍加した落下スピードごと、鷹野栗は真下にいた魔獣の脳天にランスの穂先を叩き込んだ。身体の真芯を貫かれた氷の魔獣が、バラバラに砕けて周囲に飛び散る。
「さすがに、反動は凄いのです……」
 大地に突き立ったランスにつかまりながら、鷹野栗はつぶやいた。だが、まだ休む暇はない。鷹野栗は、羽入綾香を助け起こすと肩を貸した。
「どうして分かったのじゃ」
「大切な家族の危機だよ。分かるに決まってるよ」
「そうじゃな」
 疑問に答える鷹野栗に、羽入綾香は聞くまでもないことを聞いてしまったと苦笑した。
 篝火の炎が近づいてくる。とにかく、炎から離れるのが先決だった。空飛ぶ箒に乗って、ひとまず上空に逃れる。
 敵も、炎に焼かれないようにと後退して一箇所に集まり始めた。その間隙を縫って、天黒龍がパートナーの許へ駆けつける。
「まったく。これだから、怪しい奴はうかつに信じるなと言っておいただろうに……」
 天 黒龍(てぃえん・へいろん)に叱責されたが、紫煙葛葉はなにも答えなかった。確かに、天黒龍の言うとおりだからだ。たまには彼から離れて一人で振る舞いたいと考えたことは、いけないことだったのだろうか。
「なんていう顔をしている。せっかく祭りに出してやったんだ、何か得る物はあったのであろうな。それを私に話してくれなければ困るではないか。私は、おまえの話が聞きたいのだ」
 すぐには天黒龍の言葉の意味を計りかねて、紫煙葛葉はますます困惑の表情になった。
「しかたのない奴だ。では、これから、一つ私たちの伝説でも作ろうではないか」
 天黒龍が、意味ありげに笑った。
 クルリと一回転すると、待ちかまえていた紫煙葛葉の手をパンと音をたてて叩き、反転して身をかがめる構えをとった。その手には、漆黒の握りに輝く広刃の円月刀型の光条兵器が握られている。
「難儀している者がいるな。ゆくぞ。私の後ろはおまえに任す」
 紫煙葛葉に背を見せると、天黒龍は大胆に進んでいった。舞うように円月刀をひらめかせ、炎の魔獣を切り伏せていく。光条兵器の輝きに炎を消し飛ばされた魔獣は、再生する暇もなく消滅していった。
「道が開けましたか。行きます!」
 明智 珠輝(あけち・たまき)は、愛馬の手綱を操ってリア・ヴェリーの許へむかった。
 天黒龍のおかげで、邪魔な魔獣たちが分散して道ができている。
 紫紺のマントをはためかせて一気に敵の間を駆け抜けると、明智珠輝は腕をのばしてリア・ヴェリーを白馬の上に引っぱりあげた。鐙の後ろに乗せる一瞬に、口にくわえた解呪符を口移しにリア・ヴェリーの顔に貼りつけた。実に薔薇の学舎的ということだろうか。
「ちょっと待て、なんていうことをするんだ!」
 麻痺から冷めたリア・ヴェリーが、顔を真っ赤にして怒鳴る。
「ふふっ。私もやるときはやるだろう?」
「もの凄く、言葉の意味が違うと思うぞ、このド変態!」
「まあいいではないですか。しっかりつかまっていなさい、もう一度モンスターの中を突っ走りますからね」
 そう言うと、明智珠輝はランスを構えて白馬を走らせた。
「はーい、美海ねーさま、お待ちになりましたー?」
 この場に最後まで取り残されていた藍玉美海のそばに、ふいに久世 沙幸(くぜ・さゆき)が姿を現した。
「遅いですわ。隠れ身を使ったのなら、もっと早く来られたでしょうに」
 さすがに、藍玉美海が文句を言う。
「だって、戦いの方は、他の人たちに任せた方が安全ですもん」
「だったら、早く治しなさいよ」
「はい、ただいま〜♪」
 どことなく、久世沙幸は楽しそうだった。状況的には、とてもそんな余裕はないのだが。きっと、普段と立場が逆転しているせいかもしれない。今は、いつもと違って、藍玉美海は久世沙幸の思うがままだった。
 少し残念に思いつつも、久世沙幸は藍玉美海に解呪符を貼った。
 
    ☆    ☆    ☆
 
「光条兵器さえ取り出すことができますれば……」
 ラティ・クローデルは、必死に自分の一部である武器を呼び出そうとしていたが、毒のせいかうまくいかない。
「この状態では、無理ですよ」
 ハティ・ライトも武器を持とうとしたが、手に力が入らなかった。二人の間には、ミルフィ・ガレットが倒れている。
「これはまずいぞ」
 アレクセイ・ヴァングライドが気力を振り絞って這い寄ってきながら言った。
 彼らを嘲笑うように、左右からスケルトンが近づいてきた。
 やられると観念しかけたとき、突然小型飛空艇が上から降ってきた。そのまま、躊躇なくスケルトンを下敷きにしてバラバラに叩き潰してしまう。
「よお、乗ってくかい?」
 軽く片手をあげて、小型飛空艇に乗っていた九条 瀬良(くじょう・せら)が陽気に言った。
 それを見て、もう一体のスケルトンが大きく口を開けてケタケタと笑った。その大口が閉じられる前に、頭蓋骨の上半分だけが粉々に吹き飛ぶ。
 頭を失って右往左往するスケルトンの後ろに、まだ硝煙をたなびかせている銃を構えた渋井 誠治(しぶい・せいじ)の姿があった。
「どうだ、少しは上達しただろう」
 そう言って、渋井誠治はハティ・ライトに微苦笑をなげかけた。
「さあ、早くこっちへこい」
 その場に立ったまま、ハティ・ライトを手招きする。
「行きたくても身体が動かないんです」
「し、しかたない奴だ」
 ちょっと及び腰でスケルトンを大きく迂回して避けながら、渋井誠治はハティ・ライトの所へやってきた。
「あのお、誠治、まさか……」
「バ、バッカ、怖いわけないだろ? ビビってなんかないっての! いいから行くぞ」
 顔を真っ赤にして言い返すと、渋井誠治は苦笑を押し殺すハティ・ライトを助け起こした。
「さて、合流できたのはいいが、簡単には逃がしてくれないようだぜ」
 新たに近づいてきた氷の魔獣を見て、九条瀬良が言った。
 その後ろから、何か近づいてくる。
「もう。アレクセイったら、なんでそんな所にいるんですか」
 小型飛空艇に乗った六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が、パートナーを見つけて叫んだ。
「おーい、ここだー、ここ!」
 アレクセイ・ヴァングライドが、手を振って叫んだ。その姿に、おやあの女性はと、ハティ・ライトとラティ・クローデルが心のアルバムを参照する。
「行きますよー!」
 分厚い丸眼鏡を軽く上下に動かして確認すると、六本木優希は小型飛空艇のスピードをあげた。
 行く手に立ち塞がった氷の魔獣が、アイスブレスを吹きかけてくる。
「アイスプロテクト!」
 小型飛空艇をターンさせて横をむけると、六本木優希はナイトシールドを突き出して叫んだ。魔法の障壁を纏った騎士盾がアイスブレスを跳ね返す。小型飛空艇を横滑りさせると、六本木優希は敵に乗りあげるようにして氷の魔獣を地に倒した。素早く飛空艇の姿勢を立てなおして反転すると、ふらふらと立ちあがった敵めがけてランスを構えてチャージをかける。氷の魔獣が、強烈な一撃に砕け散った。
「今行きますわよ」
 六本木優希は小型飛空艇を反転させると、パートナーの許へと急いだ。
「とにかく、ミルフィさんを連れて脱出しましょう」
 小型飛空艇があれば、麻痺している仲間もなんとか運べるだろう。
「すみません。有栖お嬢様が来る前に、安全な場所に」
 少し苦しそうにミルフィ・ガレットが言った。どうも、麻痺もさることながら、泥酔した後なので体調が優れないらしい。
「それはいいけど、あいつらをどうすんだよ」
 ちょっと及び腰で、渋井誠治がスケルトンたちを指さした。
「まったく、いったい何匹いやがるんだ」
 さすがに、九条瀬良も嫌そうに言う。
「とにかく、突破いたしましょう」
「おう、今までの礼、たっぷり返してやるぜ」
 六本木優希の言葉に、アレクセイ・ヴァングライドが意気込んだ。
「おや、何かおかしいですね」
 突然スケルトンたちが灰になって砕け散るのを見て、ハティ・ライトが驚いた。
「悪しき者よ、汝等しく神罰を受け、その罪の重さにより灰と帰するべし!」
 神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)が唱えるバニッシュによって、スケルトンが灰とななる。
「有栖お嬢様、来てしまわれたのですか」
 ミルフィ・ガレットが、肩を落とした。パートナーにいらぬ世話をかけてしまったと思い詰めてしまったらしい。
 そんなことには構わずに、神楽坂有栖は目の前に残った最後のスケルトンに対してホーリーメイスを構えた。敵が剣を振り上げたところへ、バーストダッシュを使って一気に懐に飛び込む。そして、腰を沈めた低い位置から、大きくメイスを振り上げた。スケルトンの身体が、バラバラになりながら大きく空中に跳ねあげられる。
 地上に落下してさらに砕けるスケルトンの残骸を背景にして、神楽坂有栖がパートナーの許へとやってきた。
「おみごとですわ」
「私だって、りっぱに戦えます」
 無条件で褒めるミルフィ・ガレットに、神楽坂有栖はそう答えた。そして、解呪符をパートナーに渡す。
 ミルフィ・ガレットとしては、自分が役にたたなかったのが死ぬほどくやしいと同時に、神楽坂有栖の成長を喜ばずにはいられないという複雑な気分だった。
「さあ、早くここを立ち去りましょう」
 神楽坂有栖が、一同をうながした。