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薔薇に捧げる一滴(ひとしずく)―NL編―

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薔薇に捧げる一滴(ひとしずく)―NL編―
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リアクション



気まぐれな雫

 スイッチが解除されたことにより、次第に落ち着きを取り戻す会場。とくに黄色のエリアは友愛が主として働いていたようで、参加者の混乱は1番少なかった。雫を探す気がなく、メイン広場でお茶を楽しんでいる六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)は、むしろその効果でいつもより話が弾んだなと思う程度で、幸せな気分でいるようだ。
「こんなにたくさん、アレクさんとお話したのは初めてかもしれませんね?」
「そーだったか? ま、昔は俺様に怯えてたもんな」
「べ、別に怯えてたわけでは……」
 引っ込み思案な自分が人助けだなんて、今思い返しても思い切ったことをしたと思う。けれど、そうして行動出来たからこそ初めての友達が出来て、こうして他校のお茶会にも付き合ってくれている。庭園での豪華なお茶会は、少し家のことを思い出しそうになってしまうけれど、切なく思うより良かったと思えることの方が多い。
(あのとき会えたのが、アレクさんで本当に良かったです)
 思い返しても温かい気持ちでいられるのは、ひとえにアレクのお陰だろう。その憧れから少しずつ変化する思いに、優希は微笑んでいた。
「随分、嬉しそうだな?」
「はい。アレクさんと、これからも一緒に居たいです」
 思っていたよりも素直に出た言葉に、自分自身で驚きながらも用意していたペンダントを渡そうと取り出した。
「ユーキ、今なんて……」
 プレゼントよりもその言葉をもう1度聞きたいとでも言うかのようにテーブルに肘をついて優希の顔を覗き込むようにするが、それを防ぐように目の前にペンダントを下げられてしまった。
「あ、あの……大切な人の無事を願うのに黄色いリボンを渡す風習があるって聞いて。でも、アレクさんにリボンは似合わないから、ペンダントならって」
 黄色にも色味は様々な物があるようで、優希が選んでくれた物は落ち着いた男性にも扱いやすいものだ。呆然としながらも受け取って眺めてみると、どんな顔して買いに行ったのやらと嬉しさが込み上げるが素直になれない自分がいる。
「なんだよ、無理してんなもん用意しやがって」
「していま……きゃあっ!」
 風に漂っていた優希の長いリボンへ手を伸ばし解くと、大慌てでリボンが飛ばないように押さえている。別に悪戯がしたかったわけではないが、こうでもしないと緩みかけた自分の口元を見られてしまいそうだから仕方なかった。優希が広がる髪ごと必死に押さえていると、気付かないうちにアレクが自分の後ろに回っていた。
「出会った頃よりも大分前向きになったな」
 ポン、と優希の頭に手を乗せると、恥ずかしさを誤魔化すように頭を撫でる。面と向かって言ってやろうかとも思ったが、先手を打たれてしまってはそれも難しい。
「そ、それよりっ! アレクさんはさっきから何をしているのですか?」
 リボンを止め直したいのに、アレクがなにやら髪を弄っているらしくてそれもままならない。お世辞にも几帳面とは言えない性格なのを知っている分、ぐちゃぐちゃにされなければいいのだが……。
「あー、まぁ、こんなモンだな」
「え?」
 優しい風に揺れる、新しいリボン。視界を掠めたそれに疑って手を伸ばすが、間違いなく質の良い鮮やかなリボンだった。
「……やっぱ、あとでユーキがやり直してくれ。どうも俺様には細かい仕事は向かねぇみたいだな」
 指を滑らせて何度も確認する度に顔が綻んでいくから、自分の目に狂いはなかったとアレクも微笑を浮かべる。
「アレクさん……ありがとうございます」
「おう、こっちこそ。大切にするな」
 良い効果は男女で起こるわけではない。宮琉羽 尊(くるわ・みこと)竜ヶ崎 みかど(りゅうがさき・みかど)も意気投合したようだ。
「あなたがもってきてくれたお饅頭、可愛らしいからいくらでもはいっちゃうわ」
「そう? 良かった。みんなで食べてくれたらと思って。ねぇねぇ、こっちのは何て名前?」
 大食らいの尊にとって、食べ物が増えるのはとても嬉しいし、みかどもまた神社の名産を喜んでくれて嬉しい。和風育ちで洋菓子が珍しいので、尊に教えて貰いながらお茶会を楽しんでいるようだ。
「なんや、そっちも楽しそうやなぁ!」
 一通り薔薇を見て回った日下部 社(くさかべ・やしろ)七瀬 歩(ななせ・あゆむ)がメイン広場に戻ってきて2人と合流した。楽しそうな笑い声に惹かれてテーブルを覗けば、お饅頭の箱があるではないか。。
「あたしもおせんべい持ってきてるんですよ! まだ少しあるから、これもどうぞ!」
 薔薇に囲まれつつ、テーブルには和風なお茶菓子が並ぶ。縁側でないことが悔やまれるくらいにまったりとした空気に、4人はほっと一息つく。
「一緒にお茶を頂いてるけど、私たちお邪魔じゃないかしら?」
 ふと社と歩を見れば同じ学校でないのは明らかで、パートナーでもないなら会える時間は貴重なんじゃないかと尊が心配する。けれども、2人はにこにこして同じテーブルに座ったままだ。
「そんなん思うくらいやったら、自分らから声かけへんって! こーいうんはな、みんなで楽しまなあかんからな!」
「そうですよ〜やっしーさんってば面白すぎて、おなか痛くなっちゃいますよ!」
 仲良く薔薇園をまわってきただけあって、どんな薔薇があったと身振り手振りで伝えてくれる社と、そのときのハプニングを教えてくれる歩。ノリの良い2人に、ずっとメイン広場でお茶をしていた尊とみかどもまるで一緒にまわっていたかのような気分になる。
「そんな凄い薔薇があったんだね。ボクはここから見えるものも十分に綺麗だと思っていたから」
「普通の薔薇も、捨てたもんじゃないわよね」
 色とりどりの花が咲くし、珍しい豪華なお菓子もあるしで、飽きることがないから気付けばメイン広場から移動していなかったのだ。けれど、話をきけば現物を見たくなるのも確かで、他にはどんな物を見てきたのかと話をするたびにイメージをふくらませていた。
 そうして、平穏を取り戻した桃色のエリアではリュース理沙が顔を赤くして向き合っている。
「……え?」
 何が起こったのかわからないと言うような顔をした理沙に、望みが薄いと思いながらも再度リュースは告げる。
「遅くなりましたけど、誕生日プレゼントです。薔薇の意味も含めて、受け取ってください」
 入り口で摘んだ普通の薔薇は刺が綺麗に取られ、サファイアのように鮮やかな青いリボンが結ばれている。甘い薔薇と続けざまに出されたこの薔薇に、理沙は驚きを隠せない。
(意味ごとって、これって……本当に!?)
 白い薔薇、蕾、そしてトゲがない――これら3点を合わせると「踏み出すのは怖いけれど、あなたを純粋に愛しています」となる。告白の意味に気付いてあげるべきなのかと思いつつ、理沙は照れ隠しにリボンの話題に切り替えた。
「こ、このリボンって私の誕生石の色? 嬉しいな、ありがとう!」
「はい、それがオレの大切な物ですから……そういえば、理沙ちゃんは何を持ってきたの?」
 ひいてはそれがどんな意味なのかと言うことを考えられないよう、リュースもまた理沙に話を切り替える。
「あの、持ってきてはいないんだけど……ここにいる人、かな」
 すぐに下を向いたため、同じテーブルにいる自分のことなのか理沙の心の中にいる別人のことなのか決定打をもらえなかったリュースは、焦る気持ちを抑えてきちんと答えが貰える日を待つことにした。
「……わかりました。それでは、何かお菓子を貰ってきますね。理沙ちゃんは何がいいですか?」
「ま、待ってリュース!」
 ここまで来たら、自分の大切なものを告げてしまおうかとも思う。けれど、なんとなくハッキリと口にしてしまうのは恥ずかしくて誤魔化すように笑ってみた。
「お茶会、ゆっくり楽しもうね。私の事をもっと知ってほしいから」
「――ええ、楽しみにしています」
 一瞬驚いた顔をしたから、こちらの気持ちに気付いたのかもしれない。けれど、とても嬉しそうに笑ってくれたから、恥ずかしいという気持ちよりも幸せな気持ちで満たされるのだった。
 さて、もう終わりが近づいたお茶会で、まだ諦めずに雫を探している人物がいた。ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、どうしても返事とともに用意したくて白い薔薇の中をくまなく探していた。そのサポートをしているエディラント・アッシュワース(えでぃらんと・あっしゅわーす)も、先ほどまではルカルカに薔薇の剪定方法を教えていたのだが、彼女は1人で奥に進んでいってしまった。
「ルカルカちゃん、大丈夫かなぁ……」
 心配そうに見るエディラントと並び、何度も時計を確認するダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)もまた、その先を眺める。そそっかしい彼女のこと、転んだり髪を引っかけていたりしないかと心配でならないが、自分の答えのためだと2人の付き添いを途中で断ったのだ。
「……あと3分待って戻らなければ探しに行こう。迷ったら大変なことになるからな」
「その間はれいちゃんのお手伝いでもしたいんだけど、なんだか難しそうなんだよね」
 薔薇の品種改良を研究している藍澤 黎(あいざわ・れい)はと言えば、青エリアを希望していたがエディラントがルカルカの付き添いで向かうために同じ黄エリアになってしまい、魔力の違いや何やらブツブツとこ難しいことを口にして入り口で別れてしまったため手伝うことも出来ない。
 そして1人先を行くルカルカは、白いドレスワンピースを汚さぬように気をつけながら進んでいく。
(絶対、今日のデートでお返事するのよ)
 プロポーズのときにもらったペンダントを握りしめると、ひんやりとした空気が漂う。夕刻となり寒くなってきたのだろうかと辺りを見回してみると、1輪だけ夕日に煌めいてる薔薇があった。不思議に思って近づけば、瑞々しく潤う花から少しずつ雫がしたたり落ちている。
「……見つけたわ」
 エディラントに教えて貰った「花は葉を3〜4枚つけて必ず5枚葉の上で切る」というのを思いだしたが、コレは切って良いものだろうか? どんな仕掛けになっているのかとその薔薇に触れたとき、まばゆい光が辺りを包む。
「冷た……っ」
 思わず引っ込めた手を追いかけるように、光の粒もルカルカの元へやってくる。そして、大きく弧を描いたまま胸元のペンダントに落ちていった。
(え? えぇ? 一体何が起こったのかしら)
 一瞬きらっとペンダントが光った気もするが、別段何か変わった様子はない。目の前から薔薇は1輪確かに消えていて、指に残る冷たさも夢じゃないことを物語っていた。



「あ、ルカルカちゃん戻ってきた!」
 尻尾があればぶんぶん振り回していそうな笑顔で、代わりに腕を振り上げるエディラントと、安心した顔をするダリル。2人に迎えられて、ルカルカは真一郎と待ち合わせている出口へと向かった。
「雫はやはり見つからなかったか」
 何の変哲もない真っ白の薔薇を持つルカルカに残念だな、と声をかけるが彼女はそう思うことなく笑っている。
「手に入らなくても。ルカルカが彼に伝える言葉は変わらないわ」
「あーあ、ルカルカちゃんが結婚しちゃったら、こうして気軽に遊べなくなっちゃうのかな」
 拗ねたように呟くエディラントにくすりと笑って小さな子をあやすように頭をなでる。
「そんなことないわよ、真一郎はルカルカを閉じ込めたりなんてしないから、一緒に遊べるわ」
「珍しいな、最近結婚だのなんだのという話を出せば照れていたのに」
 普通に返すルカルカになんとなく違和感を覚えたダリルは、何か考え方でも変わったのだろうかと尋ねてみた。けれど、まるでそんなダリルがおかしいと言うかのようにルカルカは笑う。
「そうかしら? 本当のことに照れる必要がどこにあるの?」
「それは……そうなんだが」
 やはり何かがひっかかる。このままルカルカを真一郎に会わせていいものかと悩んでいたが、すでに出口で待っていた真一郎を見つけるやいなや、ルカルカはその胸に飛び込んでいった。
「真一郎さん、お待たせっ!」
 元気な姿に顔を綻ばせ、遠目で見守るダリルたちに会釈をすると真一郎はルカルカに花を贈る。
「あなたに似合う花を選ぶのに時間がかかりましたから、あまり待っていませんよ」
「よかった、ルカルカも真一郎さんに渡したい物があるの」
 交換するように真っ白い薔薇を差しだし、スカートの裾を持ち上げてお辞儀をする。
「この間のお返事ですが……お申し出お受けします。一緒に歩いていきましょう」
「ありがとう。ふがいないかもしれないが、私に未来をエスコートさせてくれ」
 そうして、引き合うように口づける。今ここで、2人の愛が永遠っとなるように誓って。
「――お取り込み中すまないが」
 ずかずかと歩み寄り、ダリルは真一郎に右手を差し出す。
「ルカルカを頼む。任せたぞ鷹村」
「……ああ、何があっても守り抜こう」
 力一杯に握りしめられた手は、男の友情などというものではなく「泣かせたりしたらわかっているだろうな」というダリルの宣言でもあった。それが痛いくらいにわかる真一郎は、ひりひりする手が任された証なのだと気が引き締まる。
「2人はなんか、俺とれいちゃんとは違うよね」
 デートの2人を置いて、黎と合流しようと待ち合わせ場所に向かう2人は、パートナーとしての絆の話題となった。契約して日が浅いからだろうかと悩むエディラントに、ダリルが言ってやれることは少ない。
「絆は人それぞれ。お前なりに藍澤と絆を深めていけばいい」
「そう、なんだけどさぁ」
 それだけでは不服なのか、ダリルの先輩としての発言を期待しているようにじっと見てくるので、仕方なく口を開く。
「封印前の事をルカは聞かないでくれてる。使い手でありながら傲ることなく、あれで実は結構気を使ってるし優しいんだ。俺達剣の一族には、ユーザーはただ1人の存在。だから彼女の望みは叶え、敵は排除するのだ」
「そっか、契約者は自分にとって……ありがとう! なんとなくわかった気がする」
 黎を待つ数分間、パートナーにしかわかり得ない辛さや喜びを分かち合うことが出来て、お互いに本音が話せる相手がいるのは良いことだとしみじみ思うのだった。



「人の手に渡ったか……」
「それほどまでに、生徒たちも成長しているということですよ」
 日も傾き冷え始める空気と、そろそろ終わりを迎えるお茶会に興味はないと言いたげなジェイダスが立ち上がると、さっと上着をかけるヴィスタが誇らしげに笑う。
 きっとこれからも苦難を乗り越えるに違いないと思うのは、教壇に立ち彼らの真剣さを間近で見てきているから。それは、学校が違えどもきっと変わらないものだと思っている。
「誰しも、大切な者のためには頑張れるものなのでしょう?」
「……その口ぶりは、まるで他人事だな」
「校長のように素敵な方と巡り会えれば、考え改めるかもしれませんが」
 表情を読まれぬように扉を開け、頭を下げるヴィスタの横を通るとき、呟くように言付ける。
「後日あるお茶会も、護衛役に直を指名しよう。ヴィスタもこの会で学ぶことが多いようだしな」
「……御意」
 終焉を知らせる鐘が、広い薔薇園中に響き渡る。甘いもの、切ないもの、人それぞれの愛の形を改めて考えることになっただろう1日に終わりがやってきて、参加者はどんな思いで帰路につくのだろうか。
 幸せなことばかりではないけれど、今日という日を思い返すときは明るく話せる誰かが隣にいますように。そして、大切なものを見返したときには優しい気持ちになれるようにと願いながら、主催したルドルフは薔薇園の入り口で見送っているのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

浅野 悠希

▼マスターコメント

この度はご参加ありがとうございます、GMの浅野悠希です。
家の諸事情で1週間以上の遅れとなりまして、申し訳ありませんでした。

さて、今回の内容についてですが、ほとんどの方に予想して頂いた通り、エリアの色は薔薇の花言葉に関するものでした。
この色に関するトラブルは幸せだった方、辛かった方様々だと思います。
それを乗り越えるアクションが人生の分岐点にある選択肢だったわけです。
キャラクターによっては、他の行動をする場合もあるかもしれませんが、咄嗟のことに対してそう色々出来るわけではないので、あえて選択させて頂きました。
そして、お土産の薔薇が雫の場所。たどり着くためには真っ白い薔薇を選択し、かつ愛の雫を探しに行かなければなりません。
けれども、答えは冷たい雪の花ですから大変脆く溶けやすいのが特徴です。
そのため、人が1番少ないエリアを選ばないとたどり着けなかったのです。
以上の理由により、今回雫を獲得出来る人は1人だけという仕組みだったにも関わらず、無事に手に入れることが出来ましたね。
その効果は「素直になる」というものなので、キャラクターによってはあまり効果を感じないかもしれません。
大切な思いを包み隠さず素直に相手へ伝えるには、たくさんの勇気がいる人もいるでしょう。
そんな人に渡っていれば幸いです。

2日目にもご参加される方は、仕掛けがバレた上でどのような展開になるのか、ぜひお楽しみにしていてください!
このたびは、たくさんの方にご参加頂きまして、誠にありがとうございました。


12月16日……誤字脱字、一部加筆修正致しました。
また、個別コメントは全員に配布しております。