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目指すは最高級、金葡萄杯!

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目指すは最高級、金葡萄杯!

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第七戦 金葡萄杯の終焉


『さて、お昼休憩を挟みまして、午後の部の開始です。夜はお祭りも佳境なので、さっさとこの大会を終わらせたいのですが……終わると思いますかね?』
『ふああ……そうですねぇ。早く休みたいですぅ』
『レロシャン、マイクに向かってあくびするのはやめたほうが……』
『ではさくさくっと行きましょう! 外ではなにやら揉め事が勃発しているようですが、コチラは特に気にしませんよ〜。ルーク・クレイン(るーく・くれいん)選手。そのセコンドにつくのは吸血鬼シリウス・サザーラント(しりうす・さざーらんと)さんです。お相手は椎名 真(しいな・まこと)選手、バトラーでも派手に戦えるところを見てもらいたい、とのことです』

 真っ黒なコートを纏ったルーク・クレインはダガーの感触を確かめながら、石畳の上に立った。後ろにいるセコンドこと変態吸血鬼シリウス・サザーランドに顔を向けることなく、低い声で問いかける。

「約束、守ってもらえるんだな?」 
「もちろん。優勝したら、一度だけ君の好きにしていいよ」

 にっこりと微笑んでいるような声色が聞こえるが、そんなものは関係ない。

「優勝。目指して……絶対に……っ」
「よろしく。俺は椎名 真だ。いい戦いになるといいな」
「ああ。バトラーの戦いっぷり、魅せてもらおう」

 ルーク・クレインは愛想よくいうと、すぐさま距離をとってダガーを構える。その開いた距離をすぐさま埋めようとスライディングを一撃目に加えようと滑り込む。飛び上がったルーク・クレインは上空から投げナイフを相手めがけて投げつける。転がるようにして避けると、火術を鉄甲に纏わせて降りてくるルーク・クレインに飛び上がりざまに殴りかかる。両腕でガードをするが、火術で強化された一撃は黒いコートを焦がしながらダメージを与える。

「ああ、いい。もっと痛めつけられて、俺を楽しませてくれ……」

 はじめは小さな独り言が、ルーク・クレインがダメージを受けるたびに身悶えさせながらシリウス・サザーランドは恍惚とした笑みを浮かべていた。なるべくそちらを見ないようにしていたルーク・クレインだったが、椎名 真はそれを見ていてとてもかわいそうになってきた。

 だが手を抜く事は相手に失礼だ。そう考えて足技を止めることなく決めていく。流れるような足技は一種のダンスのようで、観客を魅了した。投げナイフが尽きたらしいルーク・クレインは連撃を放たれていた椎名 真の一撃を受け止め、同じく足技を繰り出してきた。

「蹴り技も、割と得意なんだぜ」
「それは楽しめそう、だ!」

 椎名 真は気合の一撃を放つために一度間合いを開き、すぐさま渾身の足蹴りを放つ。それを見事に受け止めるが、蓄積されたダメージがでかいのか、動きが一瞬鈍る。

「ふふ、あまり焦らすと……オシオキしちゃうよ?」
「黙れ変態吸血鬼!!!」

 まるでその本人に加える一撃のように、ルーク・クレインは渾身の蹴りを繰り出した。ガードに失敗した椎名 真は仰向けに倒され、リターニングダガーを喉下につきたてられた。

「参った。さすがに本職には勝てないなぁ」
「いや、あなたの蹴りは十分実践以上の力がある。僕が油断したからではないです」

 降参を明言した対戦相手の手をとり、勝利を観客と共に祝った。振り向くと、あくびをしながら選手控え室へ向かうシリウス・サザーランドの後姿があった。





『バトラーとはいえ、見事な戦いぶりでしたな』 
『あはあh、ありがとうございます。自分の技に自信が持てたし、いい戦いでした。じゃ、次の選手の紹介しましょうか……次の選手は最初に解説やっていた騎沙良 詩穂選手、対するは日下部 社(くさかべ・やしろ)選手です。両者ヤル気満々で既に石畳の上に……あ、あれ?』

 実況堰から素っ頓狂な声が洩れる。会場はざわついたが、すぐにその理由が分かる。一人がくす、と小さく笑いを漏らせば、あっという間に会場内は爆笑の渦に包まれた。

「なんやねん、真剣な試合の前にしっつれーなやっちゃ」
「ええと、それで戦うのかな?」

 騎沙良 詩穂は苦笑交じりに日下部 社の手元を指差した。本人は顔をしかめて手元を見ると……そこにあったのは持ちなれていた杖ではなく、お昼ごはんのときにお代わりして、食べ切れなかったフランスパンだった。たしか、食堂に忘れないようにって杖を机の上において、それを引っつかんできたはずだった。

「んなあほなあああああああああああ!!!!!」
「や、こっちの台詞だし。ていうか気がつかないのって凄い奇跡だよね。それ……とりあえず、降参する?」

 両者は既に石畳の上にいる都合上、武器を取り替えることはできない。ため息をついた日下部 社はフランスパンを振りかざした。

「酸の霧で混乱せぇ! アシッドミスト!!」

 詠唱をすると、これが不思議なことにちゃんと魔法として発動した。騎沙良 詩穂は目を丸くして一瞬出遅れてしまう。その隙をついて光学迷彩で姿を隠すと騎沙良 詩穂の死角から、石畳を走る雷撃を放つ。アシッドミストに加え、光学迷彩で相手の場所を探れなくなった騎沙良 詩穂は襲い来る雷撃をかわすので精一杯だった。

「全く、あんなもので魔法が発動するなんて……あ」

 何かに気がついたらしい騎沙良 詩穂は目を閉じて呼吸を整えた。どこからともなく小さな詠唱が聞こえる。

「……地這う雷撃を、食らわしたれ……」

 方角か分かればかわすのは簡単、そういいたげに笑みを浮かべると仕込み箒を本気で構え、スン、と鼻を利かせる。光学迷彩ではフランスパンのおいしそうな匂いを消してはくれなかったようで、「そこだ!!」と騎沙良 詩穂は仕込み箒を叩きつけようと飛び上がるが、何かに捕らえられる。足元を見れば氷術でいつの間にか足止めをされている。

「なかなかやるねぇ……詩穂怒ったんだからっ!」

 仕込み箒で足元の氷を砕くともう一度気配を探る。背後からまた足止めの詠唱をしようとしているのを聞き、べつ方向へわざと駆け出した。後ろから追ってくるのをにおいで確認すると、振り向いて仕込み箒を打ち付ける。見事にヒットし、光学迷彩が解けて顔面に真っ赤な痕をつけて日下部 社は倒れた。

「メイドの鼻と耳を見くびっちゃいけませんよ?」






『くそぅ、せめてちゃんと杖だったならもうちょっと……』
『ていうか、普通間違えないですよ。杖とパン』
『ううう……』
『落ち込む人は置いといて、次に参りましょう。吸血鬼のミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)選手、セコンドはパートナーでプリーストのメニエス・レイン(めにえす・れいん)さんです。対するは魔法使いのカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)選手、セコンドは機晶姫ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)さんです。イルミンスール同士の戦いですね』


 カレン・クレスティアは愛用している古代の杖をいとおしげに撫でて、杖術の構えで石畳の上に立つ。

「ジュレ、行ってくるね!」
「……カレン、思い出すんだ。あの苦難に満ちた冒険の日々を……今こそ、その成果を見せるときだ!!」

 無言で頷くと、意気揚々として円形の石畳の中央に立つ。
 上質なメイド服をまとったミストラル・フォーセットは、一礼の仕方も優雅に挨拶し、カタールを構える。

「えへへ、負けないからね」
「わたくしも、負けられない事情がございます」

 互いにその言葉だけ交わすと、カレン・クレスティアは駆け出しざまに短い詠唱で杖の先端に魔法の力を宿らせ、振りかぶって直接殴りにかかる。ミストラル・フォーセットも雷撃をカタールに纏わせており、身を低くして連撃を繰り出そうと腕を振るう。両者の一撃は重なり合い、せり合いとなった。純粋な武器であるカタールのほうがこの場合一撃が重くなるはずなのだが、カレン・クレスティアの魔法能力のおかげで強化された杖はカタールからの一撃を受けても欠けることすらなかった。

「……よりによって、厄介な相手と当たるものね」

 メニエス・レインは小さくため息をついた。カレン・クレスティアは純粋に戦いを楽しむかのように、身体を回転させ、カンフーの達人たちがそうするように舞いながら一撃を繰り出す。ミストラル・フォーセットもすばやくカタールをふりぬいて急所を狙うが、軽やかに動くカレン・クレスティアの動きをいまだ捉えられないでいる。

「く、メニエス様が見ている前でなんと言う失態か……っ!」

 予定ではもっとスムーズに試合が終了するはずであったが、これでは思っていた以上に……否、勝てるかどうかが怪しいかもしれない。その思考を邪魔するかのように、カレン・クレスティアはさらに一撃を加えてくる。さすがに避けきれず、肩に一撃食らってしまう。

「考え事してちゃだめだよっと!」
「くぅ……」
「ミストラル!!」

 セコンドから声をかけられ、ミストラル・フォーセットは顔を向けることなく呼吸を整えなおした。そしてもう一度駆け出し、カレン・クレスティアと競り合いを行う。その隙をついて体を可能な限り密着させ、血を吸おうと考えたのだ。
 あと10センチ、5センチ、3センチ……とどく、そう思った瞬間に競り合いの先から勢いが消えてカレン・クレスティアの姿も消えてしまった。
 回転させた杖が下からメイド服のスカートを盛大にめくる結果となった。客席からは歓声が上がるが、魔法使いの狙いはそこではなかった。杖で足払いを行い、うまく転んでくれたところに杖を突きつけた。

「へへ。降参する? このままファイヤーボール出してもいいんだよ?」
「……メニエス様……」
「ミストラル! 降参しましょう! 彼女は強いわ!」

 セコンドからの指示を受け、ミストラル・フォーセットは「参った」と降参を宣言した。


「やった! やったよジュレ!!」

 うれしさのあまり、石畳からぴょんと飛び降りた勢いでジュレール・リーヴェンディに抱きついた。機晶姫はしっかりと主人を抱きとめ、はにかんだ笑みを浮かべてカレン・クレスティアの髪を撫でて勝利を喜んだ。


「メニエス様?」
「上からの指示が来たわ。このあとの試合で、金葡萄を掻っ攫うから……うまくそれに参加しているメンバーを逃がすこと、だそうよ」
「了解しました」
「まぁ、一粒くらいくすねてもばれないでしょうしね……フフ」


『え〜なにやら皆さんお疲れとのことで、解説に来ていただいたのは先ほど出られなかったアレエ選手です』
『よ、よろしく……』
『百合園女学院の皆さんは、皆さん残念ながら本戦一回目で敗退ですが……気を落とさないでくださいね』
『はい。それに、皆いろんな思いを持って参加している。だから、勝つことが全てではないのだと……私は学んだ』
『お、なんだかいいお話ですねぇ……いいお話を聞いたついでに選手紹介をお願いしますね〜』
『はい……影野 陽太と……』


 紹介もつかの間、石畳の上には野球のバットを構えている少年と、フードをかぶった女性は石畳の中央に立っており、女性は金葡萄が捧げられている祭壇に歩み寄った。すると、手をかざし何かを詠唱すると、金葡萄を覆っている魔法を無理やり破って、金葡萄を手にした。詠唱をはじめた段階から宇都宮 祥子は駆け出そうと構えていたのだが、足元の影が足を捕らえていうことを利かせない。エペで差して自由を得たころには、金葡萄はフードの女性の手の中にあった。取り出した箒にまたがり、実況席に飛び込むと、ルーノ・アレエを引っつかんでそのまま屋台村のほうへと飛んでいった。

「ルーノ!!」
「ルー嬢っ」
「ルーノさんっ!!」

 悲鳴と共に、ルーノ・アレエを守ろうとしているものたちは屋台村へと駆け出していった。
 メニエス・レインはニタリと笑って、その集団に混じって走った。