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●第三章 空中大乱闘 2001ページ〜3000ページめ●

 小型飛空挺、箒、バイク、徒歩、自転車。
 空駆けるページを追う面々は、思い思いの乗り物や装備で進んでいた。
「皆、こっちじゃ!」
 先頭を行くのはセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)の操る小型飛空挺。エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が背後に乗っている。ほどなくして巨大な影が落ちてきた。
「紙竜! 紙の竜ですよ! すっごく素敵じゃないですか!」
「少し落ち着け。五月蠅い」
 紙でできたレッサードラゴンが、上空を悠然と飛んでいた。大きな翼を広げ長い尾を揺らしている。騒ぎ続ける橘 ニーチェ(たちばな・にーちぇ)に、橘 ヘーゲル(たちばな・へーげる)がデコピンをくらわせた。
 先陣を切って六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)の小型飛空挺が飛翔。遅れてミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)も小型飛空挺で飛び上がった。六本木優希は紙ドラゴンの目前へ。気を引くように小型飛空挺を蛇行させる。
「こっちです」
 紙ドラゴンの挑発に成功。六本木優希に視線を向け追い始めた。
「皆さん、今のうちに攻撃を!」
「優希様、ブレスが来ます!」
 傍を飛ぶミラベル・オブライエンの声に小型飛空挺を急旋回。直後に【ドラゴンブレス】が吐き出される。魔法書が忠実に再現したもの。直撃すればかなりの深手を負うだろう。
「優希様、お気をつけください!」
 ミラベル・オブライエンが叫ぶ間にも紙ドラゴンは鋭い爪を二人に向ける。
「くっ……」
 六本木優希の肩口を掠めた。痛みに構わず彼女は【ファイアプロテクト】使用。さらなる炎の攻撃に備える。
「大丈夫か?」
 紙ドラゴンに並走して飛ぶ小型飛空挺に乗る葛葉 翔(くずのは・しょう)が六本木優希に声をかけつつ光精の指輪を掲げた。
「くらえ!」
 眩しい光が紙ドラゴンを撃つ。紙ドラゴンはバサバサと翼を動かし睨んできた。しかし怯むことはない。
「もう一度だ!」
 光精の指輪を再び紙ドラゴンに向けた。
「ギャオオォォウ!」
 本物の声を再現し紙ドラゴンが翼と尾をバタバタと動かす。
「うわっ!」
「きゃ!」
「うっ!」
 囮を務める六本木優希とミラベル・オブライエン、並走する葛葉翔、ドラゴンの頭上を小型飛空挺で飛んでいた緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が傷を負う。
「これはまだ移れそうにないですね……」
 風圧で切れた頬を拭い、緋桜遙遠がドラゴンの背を見つめる。巨大な背中に生えた翼が空を打っている。
「ゆくぞエース!」
「了解っ!」
 掛け声と共に、紙ドラゴンの斜め後ろで飛んでいたセシリア・ファフレータが展開していた最大濃度の【アシッドミスト】を放つ。
「効いているようじゃな」
 満足げに微笑むセシリア・ファフレータ。紙ドラゴンを覆う紙の鱗が風に揺らぎ始めた。
「もう一度じゃ!」
 再び【アシッドミスト】を紡ぎだすセシリア・ファフレータの背後でエース・ラグランツは【博識】を応用。紙ドラゴンの弱点を見抜く。
「セシリアさん、奴の弱点はたぶん指令を担当している目と、繋ぎ目が細い翼の付け根、尾の付け根部分だぜ。狙い撃ちしてやれよ!」
 言いながらエース・ラグランツはハンドガンを構え連射。内一発がドラゴンブレスを放つ紙ドラゴンを掠める。続いてセシリア・ファフレータの【アシッドミスト】が翼の付け根に炸裂。剥がれたページがばらばらと舞い始めた。
「しっかりつかまっていてください!」
「わわっ、落ちるっ!」
 ファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)の乗る小型飛空挺は、クマラ カールッティケーヤの叫び声を引きずりつつ急速にセシリア・ファフレータ達の小型飛空挺に近づいた。
「セシリアさん、援護するよ!」
 セシリア・ファフレータに向かっていく尻尾に向け【火術】を放つ。尻尾は火に当たる直前で翻る。
「うわ、惜しい」
「援護としては十分です」
 クマラ カールッティケーヤに微笑みかけ、小型飛空挺を紙ドラゴンに近づける。
「ファルチェさん行っちゃえー!」
 先程セシリア・ファフレータが攻撃を放った翼の付け根部分に向け一閃。当たってすぐに小型飛空挺を急旋回。羽ばたく翼にぶつからぬうちに避ける。
「オイラもやっちゃうよ!」
 後退する間に【雷術】を紡ぎ、放つ。翼の付け根に雷撃が落ちる。そのまま近付き、ファルチェ・レクレラージュが再び紙ドラゴンを切りつける。
 攻撃に耐えきれなくなったページがはらはらと、宙を舞った。そのまま落ちていくページを、大きなノズルが吸い込む。
「回収はワタシ達【とある惑う書、お掃除隊】にお任せあれっ!」
 段ボールロボットのあーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)が巨大掃除機を背に小型飛空挺でドラゴンに近づいた。
「この犀苦輪パワーで一網打尽だよ! サイクロンで眼をクルクル回して、逃亡剤のおしおきだぁ」
 楽しそうに言ってドラゴンの目前にノズルを向け一枚一枚吸い込んでいく。
 と、翼がはためき他の小型飛空挺ごと風圧で離される。めげずに近付き【轟雷閃】を繰り出す。紙ドラゴンは振り払うかのように身を震わせた。麻痺させることはできないようだ。
「これならどうだ!」
 箒に乗った本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が尾をバタバタさせる紙ドラゴンに向かい【雷術】を立て続けに発動。尾と翼に稲妻が落ちる。一瞬翼を止める紙ドラゴンだが、すぐ【ドラゴンブレス】の構え。
「危ない!」
 慌てて箒の高度を下げる。囮となっている六本木優希から大分離れているが、炎は頭をかすめていく。
「私も頑張るっ!」
 ブレスが終わったと同時にクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が箒で上昇。ドラゴンに急激に近づき【ツインスラッシュ】を放つ。先ほど【雷術】が当たった場所に当て、ページが飛び散る。
「わわっ、飛んで行っちゃ駄目!」
 しっかりとページを掴む。攻撃を受けたページは抵抗しない。
「しっかり持ってろ、クレア!」
 本郷涼介は再び箒で上昇。暴れまわる紙ドラゴンに再び魔法を繰り出そうと詠唱を始めた。
 その背後に箒に乗る二つの影。天枷 るしあ(あまかせ・るしあ)マリハ・レイスター(まりは・れいすたー)だ。箒に腰かけ紙ドラゴンを睨みつける天枷るしあの背に、マリハ・レイスターが箒にまたがってぴったりと体を寄せている。戦場に似合わず夢を見ているかのようにうっとりと瞳を閉じていた。
「光条兵器をお願いします」
「あ、うん!」
 天枷るしあに呼びかけられ、慌てて光条兵器を渡すマリハ・レイスター。天枷るしあは杖の先に刃のついたような光条兵器を担ぐようにして持ち、紙ドラゴンに向けた。
「大人しくしてください」
 言葉と共に光条兵器から光を放つ。魔法砲弾のように飛んだ光は紙ドラゴンの魔力を撃つ。その背後でマリハ・レイスターは大きく息を吸い込み、メロディーを紡ぐ。
「青い空は 思い出に似て 陰る夕日は あの日の故郷」
 精一杯の声を出して歌う『郷愁の歌』だが、雄たけびや攻撃の轟音にかき消されて紙ドラゴンに届かない。
「うぅ……折角歌ってるのにー」
「仕方ありませんよ」
 攻撃の合間を見て天枷るしあが振り返った。
「周りが静かな時にまた歌ってください」
 パートナーの返事を待たずに、天枷るしあは攻撃を再開した。