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狙われた乙女~番外編~『休息プラン』

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狙われた乙女~番外編~『休息プラン』

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 別の席では、百合園のジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)が、他校生達にヴァイシャリー家での武勇伝を話して聞かせていた。
「メイドとして参加していたのに、ダンスのお誘いが多くて困りましたわ。きちんとお断りした結果、あの場で立ち回ることが出来ましたの。その後もヴァイシャリー家に仕える執事や護衛からのお誘いが多くて本当に困っていますの。でも百合園生として学業を優先しなければなりませんでしょ」
「そうそう、奴等のしつこさといったら、ゴキブリ並だね。断っても断っても誘ってくるしさー。確かにあたしらの活躍は目覚しかったけど、身の程をわきまえて欲しいものだね!」
「……」
 ジュリエットとアンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)の誇張された話をジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)は少し離れた位置でただにこにこ聞いているだけで、止めることはしなかった。
「皆様ほどお美しければ、男性は放ってはおけないでしょうから。仕方のないことなのでしょう」
 執事として手伝っている蒼空学園の本郷 翔(ほんごう・かける)は、ジュリエットとアンドレの話を聞きながら、姫林檎、さくらんぼといった果実を皆の皿に乗せていく。
「人を惹きつける魅力に溢れちゃってるから、苦労するよねぇ」
 ふうと溜息をつきつつ、アンドレは紅茶を飲むのだった。
「皆様のお話しもお聞きしたいですわ」
 ジュリエットは、事件当日ヴァイシャリーを離れていた百合園生達……秋月 葵(あきづき・あおい)エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)、それから一緒にお茶とお菓子を楽しんでいる高原瀬蓮(たかはら・せれん)アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)に目を向けた。
「そちらも大変だったそうですね」
「うん」
 アイリスの隣で、ジュスティーヌがそう声をかけるとアイリスはもの凄く深く頷いた。
「解体を手伝ったわけではないのですが、色々とありましたからね」
 エレンディラが労わるような目を皆に向ける。
「あはははっ。別荘大変だったよね〜。私は楽しかったけど……」
 葵はお菓子を摘まんで食べながら、瀬蓮とアイリスの方に顔を向ける。
「瀬蓮ちゃんはテントの爆発に巻き込まれたりして災難だったね〜。アフロにならなくてよかったね」
「う、うん」
 瀬蓮は髪にちょっと触れながら首を縦に振った。
「爆発に巻き込まれた方々、アフロになってしまったんですよ」
 軽く笑みを漏らしながら、エレンディラは皆に説明をする。
「爆発ですか」
 ジュスティーヌが驚きの表情を見せる。
「結局どうして爆発したんだっけ?」
「ミルミちゃんが間違って自爆用の紐をひっぱっちゃったみたい。ストレートパーマ用の料金、報酬に上乗せする! それでチャラ! って言ってたよ」
 葵の問いにそう答え、瀬蓮は苦笑しながら紅茶を飲む。
「用事が出来てしまい、調査段階でしかお手伝いできなかったことが悔やまれます」
 翔は葵達の皿にも姫林檎をのせていく。
「翔さんがいらしたら、また違った結果になっていたかもしれませんね。……はい、こちらも食べて下さい」
 エレンディラは箱から出したドーナツを瀬蓮とアイリスの皿の上に乗せた。
「葵ちゃんがどうしても瀬蓮さんやアイリスさんと一緒に食べたいって言って買いにいったんですよ」
 言って、にこにこと微笑む。
「空京で1時間以上並ばないと買えないお店のドーナツ買ってきてたんだ♪ 一緒に食べようと思ってエレンと買いに行ったんだよ〜」
 葵も嬉しそうな笑みを浮かべている。
「あ、ありがとう。瀬蓮もここのドーナツ大好き。なんかあれからドーナツ食べる気なくなってたんだけど……っ。うん、戴きます!」
「戴くよ……」
 瀬蓮とアイリスは微妙な笑みを浮かべた後、美味しいドーナツを食べ、少しずつ本来の明るさを取り戻していく。
「キミ達は怪盗の正体を知ってるかい? 実は露出趣味の変態だったんだぜアイツ」
 新調した教導団の制服を着たアクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)の言葉に、ジュリエットとジュスティーヌは思わず顔を合わせる。
「露出度が高めの服をよく着ているようでしたけれど、変態的ではなかったと思いますわ」
「ええ、行動、思惑はともかくとして、パーティーでのあの方は紳士的な印象でした」
 ジュリエットとジュスティーヌはファビオの姿を思い浮かべながら、そう言った。
「変態ねぇ。確かに意味不明だったけどね、やってることが」
 アンドレは姫林檎を摘まみながら呟く。
「ったく、ナイナイ!」
 ベシッと、パートナーのアカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)が裏手突っ込みをアクィラに入れる。
「別荘側には怪盗舞士の偽物が出たのよ。まだ本物だと信じて疑わない人達がいるみたいだけど。こんな身近にも」
 ベシベシとアカリはアクィラを叩く。
 アクィラといえば、可愛らしい百合園生を前に鼻の下を伸ばし、でれでれ状態だ。アカリの突っ込みを気にもせず、勘違い気味な話を続ける。
「鏖殺寺院はいなかったことになってるけど、きっと居たに違いないぜ! みんな俺達がやっつけたけどな」
「はわー、そうなのですか。いつの間にやっつけたのですか? ずっと一緒にいたのに」
 もう1人のパートナークリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)はアクィラに純粋な尊敬の眼差しを向ける。
「それもナイナイ」
 ドスッとアカリはアクィラをどつき、クリスティーナをぺしぺしと叩いた。
「別荘を占拠したいた奴等と戦っている最中に、別荘が崩れちゃって。その後は皆で救出活動をしたの。だけど、なんだか途中で地下に落っこちちゃって……それから……ふふ、これ以上は教導団員として話すことはできないわね」
 仲間に責任を擦り付けてしばいているうちに、妖精に似た生物に逃げられてしまったなどとは、とても言えない。
「そういえばご一緒した教導団の方々、あまりいらっしゃらないですねぇ……私なんかより他の団員の方々のお話の方が面白いのに残念ですぅ」
 クリスティーナが見回すも、仲間の姿は少なかった。
「ふっ、それなら仲間の分も俺が語ってやるぜー! あのゴキブリ屋敷のことをな〜。聞いた話によると奴等あのGを食……」
 ピキーン
 突如冷たい視線がアクィラに注がれる。
 お嬢様方は目を反らすも、1つ鋭い視線がアクィラに注がれていた。
「デリカシーがない!」
「流石に、その話はやめた方がいいと思いますぅ〜」
 アカリとクリスティーナの肘鉄がアクィラに飛んだ。
「その話はやめて頂きたい……!」
 そして、隣に腰掛けていた男イルミンスールのヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)が、持っていたバットを地面に打ちつけた。
 その隣の男――ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が冷たい視線の主だった。冷たいというより、怯えが見える目だ。
「二度とその話題を出したらダメ。何もかもが終わるわ――!」
 アカリは彼等、ゴキブリ暴走家が作った伝説を知っている。ごくりと唾を飲み込んで、肘鉄をガスガスッとパートナーに連続で打ち込んでいく。
「いてっ、笑える話だってのに」
 どうにも百合園生達の良い反応が得られず、アクィラは深く溜息をつく。
「興味深いお話しでしたよ。教導団の方々の楽しい一面も拝見させていただきました」
 翔は落ち込むアクィラの皿にも、取り分けたフルーツを乗せていく。
「戴きますぅ〜」
 クリスティーナがさくらんぼを1つとって、口の中に入れて微笑む。
 ゴホン。
 と、咳払いを1つすると気持ちを切り替えてウィルネストはぱっと笑顔を浮かべた。
「いやー、壮観壮観。百合園は施設も綺麗だねー」
 にこにこっと隣に座る女の子に目を向ける。
「あと、生徒も皆可愛いよね。ねぇ? お嬢さん?」
「え、ええ」
 隣に座っていた百合園の冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は微妙な笑みを返す。
 彼女は知っている。ウィルネストの数々の暴走を。
 男性が百合園に入り込んでいること。特に彼のように暴走の危険がある人物に小夜子は注意を払い、あえて彼の隣の席についていた。
 白百合団員としてちゃんと上にも報告をしてある。百合園上層部ではウィルネストは既に有名人だ。
 とはいえ、百合園に特別に警戒されているわけではない。ここで問題を起こしたりしなければ。
 ちなみに、ウィルネスト自身は、あの別荘で自分が何をしたのか、仕出かしたのかよく覚えてはいない。いないからこそ堂々とこの場でちゃっかり楽しめている。
「白百合団員は、可愛いだけではありません。お気をつけくださいね」
 小夜子のパートナーエノン・アイゼン(えのん・あいぜん)が、ウィルネストにそう微笑みかけた。
 小夜子の後をついて回りながら、周囲に目を光らせていたエノンだが今のところ何も問題は起きていない。
「今日のお客様は紳士的な方ばかりなようですけれど」
「うん、俺超紳士だぜっ。可愛くて強いお嬢様達かぁ。ホント百合園はサイコーだよな〜」
 へらへらとウィルネストが百合園生達に微笑みかけると、ジュリエット、ジュスティーヌが綺麗な笑みを返してくる。
「わたくしは白百合団員ではありませんけれど」
 ジュリエットは紅茶を飲みながら、微笑みを浮かべる。
「勿論、団員以外も凄く可愛いぜ〜。アップルパイ、良かったら食べてくれよな!」
 ウィルネストは手作りの――自分ではなく、パートナーが作ったものだが――アップルパイを女の子の皿に。寧ろ女の子だけに配っていく。
「どうぞ、お菓子は自由に食べてくれ。ウチの馬鹿が迷惑をかけた」
 ヨヤはスコーンや焼き菓子を入れてきた袋を取り出す。
「お預かりします」
 翔が受け取って袋をあけて、大皿の上に並べていく。
「ウィルをよろしく。どーぞどーぞ、ウィルをよろしくー」
 そう言って、大皿の上からお菓子をとり皆に配っていくヨヤの姿に、テーブルに笑みが溢れた。
「あ、校長が淹れてくださったお茶です。お代わりどうぞ」
 小夜子はティーポットに、静香が淹れたお茶を入れてテーブルに持ってきていた。
 葵の紅茶が減っていることに気付いて、立ち上がって注ぐのだった。
「ありがと〜」
 葵は暖かなカップを両手で包み込む。
 瀬蓮とアイリスもお代わりのお茶を入れてもらい、お茶で喉を潤しながら談笑を続ける。
「おっ、マドレーヌもらい!」
「ウィルネスト! お前に食わすために作ったんじゃないんだぞ!」
 焼き菓子をとったウィルネストの手をヨヤが叩いた。
「んー、美味しそうだから、百合園のお嬢様にとってあげようとしただけだよ」
 ふて腐れ気味に言って、ウィルネストはとったマドレーヌを小夜子とエノンの皿の上に乗せた。
「遠慮なく食べてくれよな。今日は、白百合団員を労うための会だとも聞いてるぜっ」
「ありがとうございます」
「戴きます」
 小夜子とエノンは素直に微笑んで、マドレーヌを戴くことにする。
「程よい甘さで美味しいです」
「良い卵を使ってるようですね」
「美味いだろ〜。校長が淹れた茶も美味いな!」
 ウィルネストもヨヤの目を盗んで、1つマドレーヌを口の中に入れ、紅茶を飲んで小夜子達と微笑みあった。