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リアクション
【4・嗅覚&味覚対決!】
一同は今度は食堂へやって来た。
「さて。勝負も後半戦となりました。現在の対戦成績は、2対1で我らゴブリン7の優勢となっております。生徒の皆さんはここが踏ん張りどころです! それでは第四の勝負。嗅覚&味覚対決を始めます。代表者、前へ!」
盛り上げている白井さんの声で、出てきたピンクとカレーのふたり。
「さて。リーダーには悪いけど、ここで勝負を決めてしまいましょうか」
「やっと食事にありつけるよ〜! もう待ちくたびれちゃった〜!」
それに対するは立川 るる(たちかわ・るる)と小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)&ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)とリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)&マーガレット・ヴァーンシュタット(まーがれっと・ばーんしゅたっと)と闇咲 阿童(やみさき・あどう)&後光 皐月(ごこう・さつき)の7人……。
「あ、ちなみに俺は参加しないので。料理だけ食べさせてもらえます?」
そう言うのは阿童。彼は早くもテーブルに座って今か今かと待っており、
「がんばれ皆〜」「ファイトだ〜」「早く始めろ〜ハラ減った〜」「ぐ〜(腹の虫)」
先程目を覚ました那那珂をはじめとした見学生徒達と、応援に回っていた。決してただ食事を楽しみにしているわけではない。後がなくなったこの大切な場面で、そのような不謹慎な事は断じてない……きっと、多分。
とにかくそんなわけで、阿童を除いた6人が挑むこととなった。
「よろしくお願いします」
まずピンクに一礼するリアトリス。黒の執事服を着て、紳士的な振る舞いに思えたが、
「これは丁寧なお嬢さんですね、こちらこそよろしくお願いしますわ」
体型が細身で声が女声だったため、そんな風に返されてしまい、開始前からショックなリアトリス(♂)だった。
そんなやり取りが行われていたりした後、
「ルールの説明を致します。この勝負では聴覚対決と同じく目隠しをし、においと味だけで何の料理かを当てるというものです。においはいくら嗅いでも結構ですが、食べられるのは一口だけとなります。考える時間は十五秒です」
「え〜。食べられるの一口なの〜? だったら僕そっちに行こうかな〜」
白井さんの解説に、ゴブ・カレーは阿童をはじめ参加者以外の生徒が座っているほうへと行こうとしていたが、ピンクに止められていた。
そしてゴブリン側2名と生徒達6名は、長テーブルの前に並べられた椅子へと着席し、アイマスクをつける。準備は整った。
「では、まずはこの料理からです」
運ばれてきたその料理。それから漂うのは鼻を刺激する香ばしい香り。食する前より辛さを思わせ、色で例えれば黄色を連想するその料理は……。
「あ、わかったわ。これはあの料理ね」
ピンクは早くもわかったらしく、余裕綽々といった感じの表情になる。
が、生徒の中にも負けじと嗅覚に自信有りの生徒は存在した。
「るるもわかったよ!」
るるがそう宣言し、他の生徒からも『これはあれかな?』という雰囲気が漂う。そして白井さんの手により料理が口へと運ばれ、味わう参加者達。それで間違いないと確信を持つ生徒達。制限時間を長く感じるほどに、皆余裕があった。
「では皆さん、答えをどうぞ」
白井さんの合図に、
「「「「「「「カレーライス!」」」」」」」
大半の答えは重なった。が……。
「それがしの、あ、こぉたえぇは、カレー、うどんだぁ〜」
唯一、なぜか歌舞伎風に若干違う答え方をしている人物がいた。マーガレットである。
「えーと……正解はカレーライスなんですが。まあ一問目ですし、カレーうどんもオマケで正解にしましょう。ということで、全員正解です! は、拍手〜」
多数の生徒にはすごくかっこ悪いとドン引きされ、白井さんらゴブリン7にも苦笑いで気をつかわれているマーガレットであった。もっとも、本人はアイマスクで見えてないので気づいていなかったが。
そんな風になんか変な空気になりながらも、勝負は続いていく。
「あ、えーと。それでは気を取り直して次の料理です。どうぞ!」
続いて出てきた料理からは、暖かい湯気が立ち上りご飯や卵の香りが漂っていた。
そして感じる味。塩コショウで炒められているのがわかった。そんな料理とは……。
「では、お答えをどうぞ!」
ピンクが「チャーハンね」で、カレーも「炒飯。もう一口貰えます?」と答え。
るるの「チャーハンだねっ」という答えに、皐月の「ちゃーはんだよね」という答え。
美羽は「チャーハンよね!」と答え、ベアトリーチェも「炒飯です」と答える。
リアトリスもまた「チャーハンだね」と答え、なかなか優秀な7名の回答は一致するが。
「よしこれだ! ピ、ラ、フぅ〜」
再びマーガレットは歌舞伎調子で別回答をしていた。
もはやそれに対しリアクションをとる人物はいなかった。
「……正解はチャーハンです。そちらの方、残念でした」
「え! ピラフちゃうの? 嘘〜!」
今度はオマケしてもらえず。マーガレット、脱落。ちなみにチャーハンは中国の飯料理だが、ピラフはトルコやアラビアの飯料理の名称である。
「では次の料理へと続きます、カモン!」
そして出されていく料理の数々。
味噌汁、ゆで卵(コレは料理でいいのか?)、コロッケ、ハンバーグ、カキ氷、などなど……料理は次々と出てくるが、意外にも脱落する者は出ずに進んでいき、勝負は予想外の長丁場となっていった。
ちなみに余ったぶんは見学者達がきちんと食べている。
「どれもなかなか美味しいな……。これは一体誰が料理を?」
白井さんにそんな質問をしつつ、もくもく食べているのは阿童。
「実はレッドが作っているんですよ。彼はああ見えて料理上手でしてね」
「へぇ。後でレシピでも聞いておこう」
そんな風にややまったりとした雰囲気になりつつあった。だが、それを感じ取った白井さんは、うん、と何やら意味ありげに頷くと、
「さて……皆さん、かなり優れた鼻と舌をお持ちのようですね。では、ここからは更にレベルをひきあげるとしましょうか」
参加者には聞こえないように、そんな呟きを漏らした。
そして。次に出されるのは、再び辛そうな香辛料の香りのする料理。今度は唐辛子らしきそれで、味わう彼らはじっくりと舌で料理を転がし、辛さと柔らかい食感を味わう。
「では、お答えをどうぞっ!」
最初に勢いよく、カレーが「マーボー豆腐だ!」と答えるが。
続くピンクは「麻婆ナス、ね」と回答していた。
「マーボーなす!」「麻婆茄子、だよね?」「まーぼーなす!」
そしてるる、皐月、美羽が順に答えていき、
「麻婆茄子ですね、挽き肉は肩ロースの粗挽きを使って、調味料はトウバンジャンとテンメンジャン、それにニンニクやショウガ……」
ベアトリーチェは素材の解説までして、
「この香り、麻婆豆腐……じゃなく、麻婆茄子!」
最後に、慎重に香りを嗅いでいたリアトリスが回答を示した。
「正解は、麻婆……茄子、でした! カレーは見事ひっかかってしまい残念でした!」
それにがっくりとうな垂れるゴブ・カレー。
「アナタは食べるのに集中し過ぎなのよ。まあいいわ、後は私にまかせなさい」
残ったゴブリン7サイドはピンクのみ。
これで数的には5対1で、断然有利な展開となり、盛り上がっていく生徒達勢力。
「ではでは、続いての料理はこれです!」
出て来たその料理に、初めて参加者に少し戸惑いが生じた。
それもその筈。その料理からはあまり、特徴あるにおいがしてこなかったのだ。いや、正確には香るにおいもあった。しかし、それは米の香りだけだったである。
戸惑いながらも口に入れた一同。それは米だが、やや水っぽい感じがあり、やわらかい歯ごたえがあった。じっくり皆が噛むこと十五秒後。
「では、答えは……どうでしょう!?」
「わかった、これお粥でしょ」と叫んだのは皐月。
「もしかして、ただのお粥?」と少し疑いつつ告げる美羽。
「粥ね、これ」と言うピンク。
「お粥ですね……でも、炊き加減や水加減は絶妙です。お米もかなりよいものを使ってるみたい」と答えるのはベアトリーチェ。
「おかゆ? で、いいのかな?」と言うのはるる。
そんな風にやや不安ながらも、挑戦者は同様の回答を導き出すが。
「これは……きっとお茶漬けだよ」
最後に答えたリアトリスだけは、やや異なる答えを出していた。
「はい! 正解はぁ〜……お粥でした! 意表をついたこの料理に苦戦するかとも思いましたが、脱落した方はわずか一名。皆さんお見事です!」
残念ながら脱落したリアトリスだったが。「考えた末の答えだったけど、深読みしすぎちゃったみたいだね……もっと嗅覚を鍛えないと」と、前向き思考でマーガレットの元へと下がるのだった。
「さてさて、果たして次の料理はなんでしょうか?」
進行を続ける白井さんの声で運ばれてきた次の料理。
しかし、今度は何やらちょっと焦げくさい臭いがしてきた。更になんだか生臭く、参加生徒達も若干顔をしかめる。それでも勝負は勝負なので、ぱくり、と一口食べた。
瞬間――
長テーブルが思いっきりひっくり返される。星×徹クラッシュっ!? と誰かが叫んだ。
それをしたのは、アイマスクをとって怒り心頭といった目つきを衆目に晒している美羽だった。彼女は美味しいものが大好きなのだが、不味いものは大嫌いで。それゆえ起こった行動であるのは明らかだった。
「なんなのこの料理は! これ作った人は、麺の茹で方も満足に知らないのっ!?」
床に無残な姿で落ちた問題の料理は、イカスミパスタ。
「麺は硬いし、イカの生臭さが残ってるし、それになによりかわいい女の子達(自分含む)に、口や歯が汚れちゃうイカスミを平然と出すなんて……どういう神経してるのよっ!」
「へ、変ですね。レッドがこんなミスをする筈ないんですが」
焦る白井さんが目を向けた厨房の方から顔を出したのは、当のゴブ・レッドではなく、ゴブ・ブラックのほうだった。
「クククク……レッドがそろそろ次の勝負の準備をするとかでな……で、オレが代わりに作ってやったというわけだ。どうだ、黒い闇の味がしただろ。クックックック……ク?」
刹那、美羽は超ミニのスカートを翻し、跳んだ。
そして勢いよく、伸びた美脚でブラックを見事に蹴り飛ばした。更にそのまま、テコンドーやカポエラの足技を繰り出し続ける美羽。
ドズボスドカバキグチャドコバキガスベキゴンガキャアッ!
……数分後。
すっかり動かなくなるまで蹴られ続けたブラックを、今はベアトリーチェがヒールで癒していた。暴れまわった美羽は他生徒にどうにか取り押さえられ、今は気が済んだ様子で落ち着いていた。
ただ、レッドカードとなり残念ながら美羽はこの勝負から脱落扱いとなってしまったが。
とにもかくにも、残るはピンク、皐月、るる、そしてベアトリーチェの4名となった。
「えー。一時勝負が中断してしまいましたが、これより再開させていただきます。ここからは交代したゴブ・カレーが調理したちゃんとした料理が出てきますので、ご安心を」
そして、改めてアイマスクをし直し着席する一同。
ちゃんとテーブルも直され、床も掃除済みである。
「では、再開一発目の料理は……これだぁっ!」
今度はまた海の香りがしてきていた。続いて感じる食感は冷たく、鮮度が伝わってくる味だった。刺身であることは明白だったが、問題は何の魚かということだが。
「サーモンのお刺身ですね」「お刺身、この味はサーモンだよ」「サーモンのお刺身! このにおいは間違いないよー」「刺身サーモンです」
ベアトリーチェ、皐月、るる、そしてピンク共に一致の回答だった。
「はい! 皆さん正解です……それにしても驚きましたね、もう10問以上進めているというのに未だ決着はつかないまま。わかりました、では、次なる料理ならどうでしょう!」
そして運ばれてきた料理。まず伝わるのはトマトや牛肉のあたたかな香りが伝わってきていた。一口が参加者たちに運ばれ、それぞれ食感を確かめていく。
「さあ! 答えは正確にお願いしますよ、ではどうぞ!」
「ビーフシチュー」「ハッシュドビーフ」「ビーフストロガノフ」
ここへきて、ついに答えはみっつに分かれた。それぞれ似通った料理名ではあったが。
「えー? この匂いはビーフシチューだと思うけどな〜。っていうか、今の答えのみっつって、どこがどう違うの?」
ビーフシチューと答えたるるのそんな疑問に、
「え〜っと……ビーフシチューは肉を大きめにして、その肉を煮込んだシチューがメインのお料理だけど。ハッシュドビーフは、薄切りのお肉をデミグラスソースで煮込んだ料理だった筈で〜……それから……」
「ビーフストロガノフは、それらにサワークリームや生クリームを加えて酸味やまろやかさを付けるのが基本ね。もっとも、詳しい分け方をするとキリがなくなるけど。私も正直今のはどれなのか迷ったわ」
ハッシュドビーフと回答した皐月とピンクが答え、
「それにしても、根気よく玉ねぎは炒められてるし、牛肉を炒めるのにバターだけじゃなく、サラダ油も入れてるせいか味がさっぱりしたものになってるわ。スープも一度温めなおしてトロ味をつけてるのね。手がこんでるわ」
ビーフストロガノフと言ったベアトリーチェが、料理に関する解説を述べていた。
「さあ……ようやく動きがありました。ここで終わってしまうのか、それともまだ勝負は続くのか? 正解は、正解は、正解はぁっ…………」
異様なまでに溜める白井さん。
静まり返る見学者達からは、さっさと答え言ってよ的な雰囲気が立ち込めつつ、ついに、
「ビィィィィフストロガノフでしたぁーーーーっ!」
勝負がつくのだった。
「やった、やったぁ!」
それを聞き、小躍りして喜び合うベアトリーチェと美羽。
るると皐月もやや残念そうながらほっと一息をついて、アイマスクを外していた。
「負けたわ……まさかここまでとはね」
「嗅覚と味覚、そして料理知識を駆使したこの対決は、ここに決着いたしました!」
ピンクと白井さんの言葉を最後に、数時間にも渡った勝負は終わり、生徒達は一勝をもぎとった。
*
《途中経過》
生徒達VSゴブリン7
視覚対決 × ―― 〇
聴覚対決 〇 ―― ×
触覚対決 × ―― 〇
嗅覚&味覚対決 〇 ―― ×
第六感対決
2 ―― 2
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