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【5・第六感対決!】

 場所は屋上に来ていた。
「さて。ついに勝負は最終戦です。2対2のイーブンで迎えた第五の勝負。泣いても笑ってもこれがラスト! 最後の第六感対決を始めます。代表者、前へ!」
 白井さんの声で、
「とうっ!」
 ちょっとした段差から無意味に掛け声かけつつ飛び降り、スタッと着地してヘンテコで異様に複雑な決めポーズをとって現れたのは、
「天が呼ぶ、地が呼びゅ、人が呼ぶ! ギョブリ……げふん……ゴブリン7リーダー、ゴブ・レッド! 今ここに、しゃんじょう!」
 相変わらず、噛み倒しのレッドだった。
 ちなみに彼が事前に行っていた準備というのは、この決めポーズの構想だったりする。だがそれは文章では描写し難いポーズゆえ、、残念ながら割愛される結果となっていた。
 そんな哀れなレッドに立ち向かうのは、十倉 朱華(とくら・はねず)ウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)樹月 刀真(きづき・とうま)エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)、そして神野永太&燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)の8人……。
「あ、私は応援に回りますので」
 というウィスタリアを除き、計7人の精鋭だった。
「ほほう、ラッキー7じゃないか。縁起がよくて、くぇ……結構なことだ」
「最終対決は、第六感の対決です。ルールは単純明快、くじびきなどの運のみが左右される勝負で当たりを引き続ければ勝ちです。先程までの勝負とは異なり、時間制限はありません。しかし、必ずひとつの勝負でひとりが脱落しますのであしからず」
 そして白井さんは、屋上の床部分を指差すと、
「まずは、こちらをご覧ください!」
 と言った。とはいえ、わかりやすくデカデカと描かれているので、既に全員が注目していた。床のそれは、当たり部分を隠した8本の白線あみだくじだった。
「そう、最初は巨大あみだくじ対決です。あの中に当たりは7つあり、各自スタート地点を選び、見事当たりと書かれたゴールに辿り着ければ勝ち、何も書かれていないひとつを選んでしまった方が脱落です」
「なるほどな。ま、最初くらいは選ぶのは俺様が最後にしてやろう、どうぞお先に選んでくれ。生徒達そくん」
 偉そうな態度で仕切るレッドだが、諸君、の部分を噛んだため台無しだった。
「それでは、僭越ながら俺からいかせて貰います。確率は7分の1ですし大丈夫でしょう」
 まず歩み出るのは刀真。彼は口ではそう言いながらも、トレジャーセンスを使い六感の力を高めて線を選び、結果左端を選んでいた。
「次は、僕が」
 朱華が一歩出た。その途端、急にウィスタリアはオロオロとし始める。
(大丈夫でしょうか……朱華にもしものことがあったら、私は……)
 そんなウィスタリアはとりあえず危険が及ばないよう、朱華に禁猟区をかける。それに当の朱華は苦笑いを浮かべつつ、右から2番目の線の前に立った。
「では続いては、永太達がいきましょうか」
 永太はそう言って、彼もまたトレジャーセンスを使用し選択に挑む。しばし悩んだ後で、刀真の隣の線を選んだ。
「さ、ザインも早く……ザイン?」
 一方、永太のパートナーのザイエンデはというと。
「…………」
「? な、なんだよ。俺様に何か用か?」
 なにやらレッドと睨み合っていた。実はこういった戯事が嫌いなザイエンデは、無言でレッドにガンを飛ばし、威圧していた。
「言いたいことあるなら言ってもいいんだぞ、おい」
「…………」
 だんまりを続けるザイエンデ。
「俺様と、きょ……拳でやりたいっていうのか?」
「…………」
「違うのか、だったらなんだっていうんだ」
「…………」
「…………さすがに怒るぞ?」
「…………」
「ザイン、ほら早く選ばないと後がつかえてるから!」
 一触即発になりかける直前、永太が強制的に引っ張っていった。
「…………いっそ殲滅戦になった方が、わたくしは得意ですから」
 などと冗談めいたことをいう相方を永太は軽く小突いて、はやく選ぶよう急かす。そして結果ザイエンデは永太の隣、左から三番目の線を選び憮然とした様子で佇むのだった。
「さあ、後は俺達だな」
 残った生徒はエヴァルト、ロートラウト、ミュリエル。
 その中でまずエヴァルトは心を無にし、
「よし。これだ!」
 直感で出た選択肢……とは違う、右端の線を選ぶのだった。彼は自分の直感は、その反対が当たりやすいという経験があるということから、そんな選び方をしているのである。
「じゃ、ボクはこれね!」
 続くロートラウトは、特に考えることもなく出たとこ勝負と言わんばかりの即決で左から四番目、ザイエンデの隣を選択した。これで残りは2つ。
「うーん……どうしたものでしょうか」
 残されたミュリエルは未だ悩んでいた。ここまで来れば、もう既にハズレは誰かが選び当たりの線だけが残っている可能性のほうが高いとも言えるのだが、彼女はとことんまで悩み続け、その数分後に、
「おい。いい加減選んでくれよ」
 とレッドに催促される形で、右から三番目の朱華の隣に立つのだった。
「やれやれ、じゃ俺様は残り福のここだな」
 そして最後にレッドが歩み出て、結果左から、
 刀真、永太、ザイエンデ、ロートラウト、レッド、ミュリエル、朱華、エヴァルト
 の順に並ぶこととなった。
「では。巨大あみだくじ、解禁!」
 当たり部分を隠していた幕が白井さんの手で開かれ、同時にスタートする8人。
 じぐざくと走り歩きして阿弥陀さまのくじを進んでいく彼ら。
「当たりですね」「僕もです!」「俺も当たりだっ!」
 いちはやくゴールの当たりに辿り着いた刀真、朱華、エヴァルトが次々抜けていく。
「ふふ……俺様が運で負けるなどあり得ないぜ」
 珍しく噛んでいないレッドも、当たりに辿り着いていた。
「やったね!」「ふぅ、悩んだ甲斐があったです」
 更にロートラウト、ミュリエルの行く先も当たりだった。
 そして、
「あ……」
 永太の先、そこには当たりと書いて……あった。
 つまり。
「…………」
 ザイエンデの佇む場所には、当たりの文字は無かった。しばしの沈黙の後、
「…………やはり殲滅を」
「するんじゃないっ!」
 永太の静止は早かった。
 こうしてあみだくじ勝負はザイエンデが脱落し、残り7人となった。

「では続いては、くじびきです」
 白井さんが取り出したのは、両手で抱えるくらいの大きさの箱。そこからは7本の紐が垂れ下がっていた。その中の一本が当たりというのは、もはや言うべくもなくわかる。
「さっきみたく待たされるの嫌だからな、今度は俺様がいちびゃんに引かせてもらうぜ」
 ぎゅっ、とレッドがすぐさま紐の一本を握る。
 次にロートラウトが紐をとり、永太、朱華が続く。
 エヴァルトはまた「これはないな」という感じのする紐を敢えて選んでいた。
 そしてやはりまた悩んでしまうのはミュリエルだった。
「どうしよう……こっちにしましょうか、それともこっち……」
 それから一分ほど悩んだ末ようやく紐を掴み、残った最後の一本を刀真が握った。
「では皆さん、いっせーの、せ!」
 白井さんの掛け声で、7人は各自自分の紐を引っ張った。
「ふ、当てゃりだ」「当たりよ!」「当たり!」「当たりです」「当たりっ!」「当たり」
 当然6人が当たり、そしてハズレを引き当ててしまったのは……
「ぐす……やっぱりあっちを選んでおくんでしたぁ……」
 がっくりとうなだれるミュリエルだった。こうして、残り6人。

「次は福引回しです。この福引ガラガラの中には6つ玉が入っており、赤い玉が当たり、白い玉がハズレとなっています」
 町内会などでありがちの、ガラガラ回すアレを出してくる白井さん。
「じゃあ、僕が最初にやらせてもらいますね」
 そのハンドルに手をかける永太が、ガラガラと回転させ、コロン、と玉を落とす。
「っ!」
 色は…………白だった。
「おぉーっと、これは予想外! いきなりハズレが出てしまいました!」
「う、嘘だ! きっと全部白い玉で……」
 そう言って回し続けるも、残りは当然全部赤玉だった。
 すごすごと下がる永太が脱落し、残りは5人となる。

「続いては、トランプ選びです。ここにある5枚のトランプはそれぞれキング、クイーン、ジャック、エース、ジョーカーです。この勝負はジョーカーがハズレ、それ以外のカードを引けば当たりです」
 シャッシャッとトランプをきり、そして絵の面を下にして差し出す白井さん。
 最初にひいたのは朱華。
「ほっ、よかった……キングです」
 続くエヴァルトは未だ自分の勘と違うものを選ぶ。
「よし、クイーンだ! セーフ!」
 その次にひくのは刀真。
「ジャックです、まだハズレは出ずですか」
 残る二枚、それを先に引いたのはロートラウト。
「…………なるほどね」
 と、ここでくるりとレッドへと向き直り、
「レッドくん、降りるなら今の内だよ?」
 意味深な言葉をぶつけるロートラウト。それに対し、レッドは少し眉をひそめるが、
「これはポーカーじゃないから、ドロップアウトはできゅない……だろっ!」
 それでも気圧されることなく最後のトランプを引き抜いた。
 そのレッドの手にあったのは……エースのカード。
 対するロートラウトの手からはジョーカーのトランプが滑り落ちた。
「ま、しょうがないよね……」
 無意味ながらブラフをかけて挑んでみたロートラウト、脱落。残るは4人。

「続いての勝負はおみくじです。大吉、吉、小吉、凶とあり、もちろん凶がハズレです」
 神社でみかける、六角形の箱を出してきた白井さん。
 レッド、刀真、朱華、エヴァルトがそれぞれその箱を振り、出てきた番号に応じたおみくじを手渡される。
 まずレッドが「はっはー! 俺様の運は、やはり最高のようだな。でぁい吉だ!」
 そして刀真が「吉ですか。可もなく不可もなくですね」
 続いて朱華が「僕は小吉です……ということは……」
 最後。
 注目が集まる残るひとり、エヴァルトはおみくじを凝視してぷるぷると震えていた。
「数撃ちゃ当たる作戦でここまで残ったけど、それも終わり、か」
 自分の直感はその反対が当たりやすいという経験も、あくまで経験に過ぎなかったようで、落ち込みながらさがるエヴァルト。
 こうして残るは3人。レッド、刀真、朱華のみとなった。

「さて、続いての勝負は……えー……」
「ふふん、どんな勝負だろうとこの俺様には勝てんと思うがな」
 ふいに呟いたレッドの言葉に、
「ちょっと待ってください!」
 唐突に刀真が叫んだ。
「聞き捨てなりませんね、そこまで言うのでしたら……」
 と、ポケットからコインを取り出して、
「そこの噛み噛みゴブ・レッド、俺とコイントスで勝負です!」
 そんな宣言をするのだった。生徒達をはじめ、他のゴブリン7メンバーからもどよめきが流れる。
「先程からそちらの勝負にばかり付き合っていたんですから、一度くらいこちらの土俵で戦っても構いませんよね? ルールは簡単、お互いがそれぞれ用意したコインで裏表を当てる事を競う、それだけです」
「ふふん。この俺様に勝負をいで……挑むとはいいどきゅ……度胸だ。いいだろう、おい白井、悪いがこいつとサシで勝負させてもらうぜ。そっちのアンタもいいな?」
 いきなり振られた朱華は、とりあえず反射的に頷きで返していた。
 白井さんも、しょうがありませんね、と言いたげながら首肯した。
「いきなり勝負がついてもつまらないしな、しゃ……先に三勝した方の勝ちでどうだ」
「わかりました。いいですよ」
「そうか、では……いきゅぞ!」
 レッドもコインを取り出し、ピィ……ン、と弾く。そして空で回転するコイン。
「裏!」と叫ぶレッド。「表っ!」と叫ぶ刀真。
 そしてレッドの手の甲に落ちたコイン、その面にはゴブリンの絵面が書かれていた。
 ここで刀真は、このコインのどっちが裏で表かわからないことに気づいたが。
「く、表か。お前の一勝だな」
 どうやら絵面が表なのは、日本の硬貨と同様らしかった。
「では、今度はこちらから……それっ!」
 ピン……と弾かれるコイン、正確には十円硬貨。
「表!」と言うのは刀真。「裏だ!」と言うレッド。
 そして刀真の手の甲へと落下した硬貨には、有名な鳳凰堂の絵が描かれていた。
「なに……? 俺様が二連敗だと……?」
 それに沸き立つ生徒達。刀真も余裕の表情で、笑みを浮かべる。
「さあ、後で一回で俺の勝ちです!」
 さすがにレッドにも焦りが見えはじめた。しかし――
「はい、そこまでです」
 予想外の闖入者によって、それは遮られた。白井さんだった。
「ん? おい、白井。なんのつもりだ」
「本来なら口は出さないつもりでしたが、流石にこういう行為は見逃せないタチでして」
 珍しく冷たい口調で、白井さんはぐっ、と刀真の腕を掴んだ。先程の硬貨が握られている方の、腕を。刀真の表情が引き締まる。
「ブルーほどではありませんが、目はいいほうでしてね……それ、見せて貰えますか?」
 そして、開かれたその手にある硬貨を観察する白井さん。表には鳳凰堂、そして裏には……やっぱり鳳凰堂があった。
「なるほど、両面表のイカサマコイン。これなら先にコールしてしまえば勝ちは動かない、そういうわけですか」
「ふふ、勝てば官軍、負ければ賊軍……いい言葉だと思いません?」
 この状況下でも冷静にそんなことを呟く刀真だったが。
「まあそうですね。しかしこちらとしても、これでせっかくの勝負が決着するのは見過ごせません。よって……アナタは残念ながら失格とさせていただきます」

「やれやれ、なンか不完全燃焼だな。最初に俺様のコインの裏表を当てたのは、間違いなきゅアイツの強運だったってのに」
 刀真が失格で下がらされて勝負がご破算になり、少々不満げなレッドであったが。
「まあいいか。まだ完全に決ちゅ……決着がついたわけじゃないからな」
 そして見据える視線の先、そこには最後に残った朱華がいた。
 コイントスの勝負中は、ウィスタリアのいる見学生徒の中に混じっていたが。改めてまたこの場に出てくることになるのだった。
「アンタは反則とかしてくれるなよ?」
「……大丈夫だよ。やるからには、正々堂々、全力で!」
 そして向かい合うふたり。朱華は、ここまで来たからには絶対勝つぞ! という気持ちで改めて心中で気合いを入れていた。
「さて! 色々とありましたが、勝負は本当の本当にこれで最後! ラストを飾る勝負は……これです!」
 白井さんが隅に隠していた幕をバサッと取り去ると、そこにはまるで時限爆弾のように、カチカチと動いている時計に似た小さな機械が置かれていた。
「最後の勝負はドキドキのコード切断対決! 赤か青か、どちらかのコードを切り、時計をストップさせられれば当たり! そうでなければハズレです!」
 おぉおおおお……と、どよめく一同。
「では、ハサミをどうぞ。コードは赤か青の二本だけですので、使うのは一回きりですが」
「だったら、ここはそっちに譲ってくれ。俺様は最後まで運で勝負するからな、赤か青か選ぶなんてのは性に合わねー」
 そんなレッドに言われ、ハサミを渡されいざコード切りへと向かうことになる朱華。
 他の生徒達にも緊張が走る。辺りは静まり返り、声援も今は皆自主的に控えていた。
「ちょ、ちょっとまってください!」
 そんな中、声をあげたのはウィスタリアだった。
「あの、これって大丈夫なんですか? まさかハズレたら朱華が酷い目にあうんじゃ」
「ああ、大丈夫ですよ。ハズレならハズレで、何もありませんから」
 白井さんはそう宥めるが、ウィスタリアはそれでも心配で堪らなかったのか、再び禁猟区をかけなおし、第六感の強化になるかもと考えパワーブレスまで朱華にかけていた。
「はは、相変わらず過保護だなぁもう」
 そんな風に笑い、緊張が解け、気負わず楽しく挑めばいいかなと思い直した朱華。
「よし、行くよ!」
 そして、そのまま朱華はハサミを手に件の機械へと近づき、あっさりとコードを選び、そして切断した。予想外の速さに、誰も彼も驚く暇もなかった。
 朱華が切ったコードは、赤。
 本当に深く考えずに、勘だけで選ばれたその結果――
 時計は、停止していた。
「ふ……コンギュラキュチュ、ラ、レイ、チョン!」
 Congratulations!(おめでとう!)とレッドは言いたかったらしい。
「ここに、決着がつきましたぁ〜っ! 勝ったのは、生徒達チームで〜す!」
 静寂から一気に、大歓声に変わった。

          *
《最終結果》
          生徒達VSゴブリン7
視覚対決       × ―― 〇
聴覚対決       〇 ―― ×
触覚対決       × ―― 〇
嗅覚&味覚対決   〇 ―― ×
第六感対決     〇 ―― ×
            3 ―― 2