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 2.パートナー契約〜恋人の場合〜

「愛美さんの『運命の人』は『白馬の王子様』が理想なのですよね? では、まず窓際の席から攻めてみてはいかがですぅ〜」
 そう言って、明日香が引っ張って行ったのは「恋人達の園」だった。
 仲睦まじげな2人が、ティーカップ片手に談笑している。
「え? でもさ。マナミン1人で行くのって、何だかお邪魔虫みたいじゃ……」
「何を言ってるんですか! 愛美さん! ここはファイトですぅ〜っ!」
 ドンッ。
 明日香は愛美の背を思い切り突き飛ばし、無理やり話の輪に入りこませる。
 
 その結果、神和 綺人(かんなぎ・あやと)クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)匿名 某(とくな・なにがし)結崎 綾耶(ゆうざき・あや)蓮見 朱里(はすみ・しゅり)アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)ピュリア・アルブム(ぴゅりあ・あるぶむ)七枷 陣(ななかせ・じん)リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)小尾田 真奈(おびた・まな)如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)が、互いの「嬉し恥ずかしい馴れ初め」について語らされる羽目となった。
 
「初めて会った時? 実は良く覚えていないんだ」
 綺人はすまなさそうにクリスを振り返った。
 追い付いたばかりの瀬蓮と花音が、ワクワクしながら聞いている。
「そういえば、私も余り覚えてないですね?」
 クリスは首を傾げる。
「何しろ、余りにも不思議なことずくめでしたから」
「不思議なこと?」
「誰かに呼ばれたような気がして。ふと、目を開けたら、白い着物を着た人が、互いに手を伸ばせば届きそうな所にいて……」
「そうだ! 女の子が浮かんでいたんだ!」
 綾人はポンと手をたたく。
「月がとっても綺麗な夜だったかな? 眠れなくて、庭を散歩していたんだ。声がするなぁって、思って。空を見たら、クリスが浮かんでいたの」
「それで?」
「うん、彼女を見た瞬間、痛いような嬉しいような感情が心の中に溢れて……。そこから記憶がないんだよね。気が付いたのが朝になってから」
「手を……伸ばしたんですよ、アヤ」
 クリスは頬を染める。
「私も同じように手を伸ばしたのです。そして、手が触れ合った瞬間、意識が途切れました」
「で?」
「朝起きたら、隣にアヤが寝ていたんです。ビックリしましたよ!」

 きゃ――あっ。

 3人娘は頬に両手を当てて絶叫する。
「ちなみに私が『アヤ』と呼ぶのは、その時の名残ですね。本人が自己紹介する前に『この子はアヤ』って、アヤのお姉様から紹介されちゃって」
「で、色々話しているうちに、彼女の故郷―パラミタに興味が沸いたの。それでパラミタに行ってみたくなってクリスと契約したんだ」
 ね? と2人は互いをみる。

「いいんじゃない? マナ。これぞ『運命の人』! て感じで」
「いーや、まだよ!」
 キラリンッ! 愛美の目が光る。
「10人いるの、まだ10人も! マナミン、もっとグッと来る話が聞きたい!」

「グッと来るかどうかは、分からないけど……」
 匿名 某はケーキを食べる手を止めて、結崎 綾耶を紹介した。
「出会ったきっかけってのがこれまた妙なもんで。外出した時に電柱の下でぶっ倒れてる綾耶を見つけて、連れて帰ったのが始まりだったな。正直、最初の頃は綾耶を異性として見てなかったな。『アホの子一号』なんて、今考えたら最悪な呼び方だったし」
 ばつが悪そうな顔。
「それが変わったのは、行きつけの店『猫華』でチョットした事が起こったからだな。それから綾耶を異性として見るようになって、何かこう、急に可愛く思えて……気がついたらこうなってた、かな? まあ、まだ順調とはいえないところもあるけど、それはこれから少しずつなんとかしていくさ」
「綾耶さんは? 某さんの言うことに間違いないの?」
「そうですね」
 綾耶は素直に頷いた。
「この関係になったのは、某さんが言う通り『猫華』で起こったチョットした事がきっかけですね。とはいえ、ほとんど私が1人で暴走しちゃったところがあるので、聞かないで下さると助かります……思い出すと、ちょっぴり恥ずかしくて……」
 頬に手を当ててうつむく。
「その後も私が知らなかった事が分かったりして……」
 他人に負の感情は抱かないこととか。
 相手が気に入るであろう動作で応じて、関係を築いていくこととか。
 指を折りつつ、説明する。
「この関係が壊れちゃうんじゃないか、って事もありましたけど。某さんや色んな人が助けられたおかげで、それは避けることが出来ました。これからはこの関係が続くよう、出来る事を少しずつ頑張っていきます」
 デレデレと寄り添う2人。
「わわ、が……っ、頑張ってね!」
 2人の恋愛パワーによろけつつ、3人は別のターゲットに向かう。
「デレデレも……」
「うん、飽きちゃったね!」
「チョット変わった話とか、ないのかな?」

「じゃ、私達のケースはどうかな?」
 言い寄ったのは蓮見 朱里だ。
 パートナーのアイン・ブラウとピュリア・アルブムを両脇に立たせる。
「実は私ね。前の学校で酷くいじめられてたんだ」
 朱里は酷い過去をサラリと晒す。
「入学後すぐにお祖母ちゃんを亡くして、不幸のどん底にあった私は、いかにも弱そうで狙われやすかったみたい。ある日いじめグループの怖い人達に追いかけられて、必死で古い神社へ逃げ込んで……そこで助けてくれたのが、封印から解けたアインだったの」
 アインを眩しそうに見上げる。
「あの頃の私の目には、必死になってかばってくれたアインの姿が『蒼い鎧の騎士』とか『王子様』に見えたんだ。契約者になれば、あの空に浮かぶ島へ、新しい学校へ行ける。だから『一緒に連れてって』、って」
 それでね、とピュリアに目を向ける。
「こっちに来てからは、新しい友達も出来て。ピュリアという新しい『家族』も出来た。そして、アインとの関係も……。彼にはとっても感謝してるんだ」
「僕も同じ気持ちだ、朱里」
 アインは朱里を抱き寄せる。
「5000年前の戦いで大破した僕は、仮死状態のまま修復カプセルに入れられ封印されていた」
「5000年も!?」
 計り知れない時の長さに、3人は眩暈を覚える。
「でも、どうしてそんなに長く封印されてしまったの?」
「よく覚えていないのだが……」
 おそらく、と強調して説明する。
 地上に落下した後、巨石と間違えられて『御神体』として神社に祭られていたらしい、ということ。
「ただ生も死も定かでないまどろみの中で、人々の、そして幼い頃の彼女の声は、僅かに聞こえていたような気がする。そして今から1年前、彼女の助けを呼ぶ声と共に、封印は解けた」
 朱里を愛おしげに見下ろす。
「あの時の僕は、騎士として、守護者として、目の前のか弱い存在を、理不尽に虐げられる彼女を守りたいと、心から思った。でも今は…むしろ自分の方が彼女に助けられたり、日常の中の大切なもの、人の心を教えられることの方が多いような気がするな」
「ピュリアさんは?」
「うーんとね、『本当の』パパとママはね。魔物に襲われて殺されちゃたんだ」
 俯いて、悲しげな顔。
 愛美達は顔を見合わせて、覗き込む。
「あとで知ったんだけど、『おーさつじいん』とかいう悪い人達が、モンスターを操って人を襲わせてたんだって。パパとママもそれで……」
「それで? 亡くなってしまったのね?」
 ピュリアはわずかに頷く。
「でね、1人ぼっちになって、ずっとさびしくて……ある日モンスターに襲われかけたピュリアを助けにきてくれたのが、『今のパパとママ』だったの」
 明るい表情で顔を上げる。
 朱里とアインを交互に見て。
「ママも今のピュリアと同じぐらいの年にパパとママを亡くしたから、ピュリアには同じ思いをさせたくないって言ってた。『たとえ血がつながってなくても私達は家族だよ』って」
 そのまま抱きつく。
「今のパパとママ、やさしくてとっても大好き。ずっと一緒にいてね!」
「まあ、ピュリア!」
「ピュリア!」
 朱里とアインは、我が子を抱きしめた。
 感動に目を潤ませた花音が、愛美に呟く。
「こういう『運命の人』もいいのかもしれませんね?」
「でも子供もセットじゃ、マナミン捜すの大変かなあ?」

「じゃ、じゃあ、参考になるか分からないけど……」
 片方だけだし、と申し出たのは七枷 陣。
 リーズ・ディライドと小尾田 真奈という綺麗どころを両脇に侍らせる。
「二股なの?」
 先程とのギャップもあって、愛美達は冷たい視線を送る。
「陣君、サイテー」
「いや、二股という訳では……」
「どっちも『本妻』なんだよねー」
 パートナー達は仲良く声を合わせる。
「は? それって、どういうこと?」
「つまりやなぁ、小谷……」
 陣は深く息を吐きつつ、考えをまとめる。
 
 陣が2人と契約した経緯は、呆れたことに「成り行き」だった。
「退屈な人生に一時の清涼剤を」程度な軽い気持だったらしい。
 蒼空学園には行った理由も、「ネット環境整ってそう」というだけの理由だったそうだ。
 
「でもな、人の気持ちって分からんもんでさあ。色んな依頼を受けて行く内に、段々と2人に惹かれてって……で、いつの間にか2人に恋するオレが居たんや」
 リーズと真奈の肩をポンッと叩く。
「2人に想いを告げられて、最低やなって思ったけど。受け入れて、今のオレらがいる。茨の道だっつーのは分かってる。でもこれが、オレ達の選んだ道やから。この想いだけは曲げたくねぇんよ。世界中に否定されたって、さ」
「真奈さんとリーズさんはそれでいいの?」
「良いのですよ、愛美様」
 答えたのは、真奈だ。
「私は元々太古に作られた兵器です。運用される事なく闇に葬られ……そして空京の隅にある廃棄場で、ずっと眠っていたのです。溶鉱炉に落とされる寸前に2人の手がなければ、今の私はないのです。こうして元気な姿で動けることも……殿方への想いが膨らむことすら……」
 幸せそうに陣に目を向ける。
「お優しい御主人様。リーズ様は兎も角、子を産めない私なんかの想いを受け入れてくれて。だからこそ、2人でご主人様のこ、恋人……になったんです。許されない事なのかもしれません。でも……これが私達の選んだ道ですから。今のこの関係こそが、一番の幸せだと信じています」
「リーズさんは?」
「そうだね。はたから見たら『おかしい』のかもしれないけど」
 リーズは真剣な表情で答える。
「ボク、孤児だったし。ヴァルキリーの施設で育って、15の時にパートナーを探しに東京っていう町に降ろされたんだよね。ボクと波長の合う人を数日内に見つけないと、シャンバラに戻されちゃうって、制限があったんだ。期限の最終日、もうダメかなって思ってたら陣くんに声掛けて貰ったの。嗚呼、この人だ! やっと見つけた、って思って……ニハハ、あの時は思いっきり泣いたなぁ。で、蒼学に入って依頼を受けて、真奈さんと出逢って。あっという間に時間が過ぎて……て、あれ? 何話してんだろう? ボク」
「『運命』ってそんなものなんですよー、って。話ですよね?」
 いいですねー、と花音はホウッと溜め息を吐く。
 
「でもマナミン、『運命の人』の相手は1人じゃなくちゃ嫌かな?」
「私の…場合は、千百合ちゃん…1人で……」
 しまった! と思った時にはもう遅い。
 そうした次第で、百合園女学院の如月 日奈々は冬蔦 千百合について語らされる羽目となった。
 
「うーん、と。出会った…のは、10年前の秋、ですぅ〜」
 日奈々は全盲だ。
 愛美達は話しやすいよう、日奈々の近くに立つ。
「その頃の…私は、家に…引きこもるように…なっていました、ですぅ〜。事故で、眼が…見えなくなって、周りの…こととかが、全然…分からなくなって…しまったので……」
 
 ……そんな状態だったある日、家の倉の中に、誰かがいるような気配がした。
 何だか、呼ばれてるような気がしたから、手探りでその気配の方に向かって行った。
 向かった先には何か封印されているものがあって、その封印を解いた。
 そうしたら眠っていた千百合が目覚め、日奈々にありがとうと言った。
 その声と雰囲気に日奈々は一目ぼれ(?)したのだそうだ。

「それから、お互い…身の上話やら、いろんなことを、話し合い…ました、ですぅ〜」
 日奈々の傍らにナイトのように立って、千百合が話をつなぐ。
「その時初めて、日奈々は『パートナー契約』の事を含めたパラミタの件を知ったんだ。それで、あたしとずっといたいから、契約して欲しいって」
 一方の千百合の方も、日奈々のことを話を聞いているうちに守ってあげたいと思うようになっていった。
 だから契約をすることを決めたのだ、という。
「これから先、あたしが日奈々を守ってあげる。だからあたしも日奈々と契約したいよ」
 コホンッと咳払い。
「確か、そんなことを言ったかな?」
「千百合さん、かっこいいっ!!」
 愛美達は感心する。
 花音は凹む。
「私も! 涼司さんにそんな一言、言わせてみたいです……」
「なぜ、トーンが下がる?」
 愛美はツッコむが、現実の壁が厚すぎる花音は凹んだままだ。
「いきなりカップルは、キツ過ぎたのかな?」
 じゃ、この辺りで一旦戻ろうか?
 バイバイと手を振って、3人は元のテーブル席に帰って行く。
 
 戻ってきた愛美達を、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が待ち構えていた。
「もう、酷いよ! 約束したのに!」
「ごめん、ごめんね? 美羽ちゃん」
 瀬蓮は可愛らしく美羽に合掌する。
「久しぶりに、一緒にお茶しようって……」
「うんうん、ごめんね。じゃ、パフェってことで」

 5分後、美羽は上機嫌でパフェをつついていた。
 もちろん、瀬蓮のおごりである。
「そーいえば、コハクとはどうなったの?」
 瀬蓮の一言で、4人の話題は美羽のイケ面パートナー――コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)に移った。
 ちなみに2人の馴れ初めについては、「世界を滅ぼす方法(全6回)」を参照である。
 ザッと話すと。
 迷子になりやすい少女や、世界を滅ぼす魔物を巡る騒動に巻き込まれる中で出会い、信頼し……晴れてパートナーとなったのだった。
 そんなこんなの2人は、学園内でも有名なカップルの1組である。
 はた目からは、とっても幸せそうな2人。
 だが――。
「最近、考えちゃうんだ」
 美羽はハアーと溜め息をついた。
「何だかどんどん、コハクが手の届かない存在になって行きそうで……」
「そーお? 彼ってば、美羽ちゃんことしか見えてないと思うけどなあ」
 瀬蓮が断言して、残りの2人が頷く。
「そんなことないよ!」
 美羽は最近の出来事をまくしたてる。
 コハクが女王器を渡されたことやら、「神子」かもしれないことやら。
「でも、美羽ちゃんは『彼女』でしょ?」
「『彼女』だって、言われたことないもん! その、コハクの口からは……」
(まあ彼、『超』がつく程奥手そうだしね)
 瀬蓮は思ったが言えなかった。
 美羽が遠くを、それは不安そうに眺めていたので。
 パフェを突くフォークは、違うフルーツを突き回る。
(でも、どうすれば……)
(……蓮さん、瀬蓮さんってば!)
 愛美が脇腹を小突く。
 耳元で囁く。
 瀬蓮はビックリして顔を上げたが、
「ねえ、美羽ちゃん」
 ニッコリと笑って美羽の手を取った。
「私達と一緒に行こうよ!」
「え?」
「出会いの馴れ初め。いろんな人から聞いて回るの! そうすれば美羽ちゃんもヒントが見つかるかもしれないし、ね?」