蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

ようこそ! リンド・ユング・フートへ

リアクション公開中!

ようこそ! リンド・ユング・フートへ

リアクション


■ エンディング

「……よみがえった死霊・ジュリエットと悪魔に魂を売った重犯罪者・ロミオは爆発の中、こなごなに粉砕されたものと思われる。正義は勝ったのだ。かくして悪は滅び、2人の悪魔を倒すことに全力を合わせたことで両家は心を通じ合わせ、以後和解の道を――って、アホかーーい!!
 激怒したスウィップ・スウェップが投げつけた本の角が、見事リーレンの額にヒットした。
 額を割られたリーレンは、プーッと血を吹き出しながら後ろに向かって卒倒する。
 そしてそのまま、リンド・ユング・フートから消えていった。



「くっそー! あれだけ人数いたのに、どうしてこうなるのよ! 館長に怒られるの、あたしなんだからねっ!」
 肩を怒らせ、憤慨しているスウィップ・スウェップに、小芥子 空色(こけし・そらいろ)を抱いた双葉 朝霞(ふたば・あさか)はおずおずと、前に進み出た。
「スウィップさん、ここにある物語の住人になれたら……私、同じ人生を繰り返すだけでいいの? 何も考えなくてもいい、ただの歯車になれるかしら。
 それなら、私もそうなりたい。
 私をどうか、この世界に置いてください。名前もないような一通行人でも、苦しくても、辛くてもいいの。ただの繰り返しなら、身を任せるだけでいいなら、きっと面倒じゃないわ」
「――はあ?」
 スウィップ・スウェップは今まで聞いたことのない理屈に、目をぱちくりさせた。
(ただの繰り返し、って……この子、そんなふうに思ってたの?)
 ばかな子。
「なぜ? あちらの世界にあなたの望むものは本当に何ひとつないの? あなたが心にかけるものは? 傍らにいるその子は?
 その子はあなたとつながっているからこそ、ここに呼ばれてきたのよ。そのつながりすら、本当に、完全に、あなたには意味がないというの?」
「私がいなくなっても、お人形さんは新しい主人を待つだけよ」
 肩をすくめて見せる朝霞に、スウィップ・スウェップはタクトを振り上げた。
 無数の稲光が落ち、世界が暗闇と化す。
「違う! そういうことじゃない!
 つながりを絶つということは、何もかもを失うということ。なぜなら、今のあなたは髪の毛ひと筋、その唇から発する言葉まですべてあちらの世界が作り出したものだから。
 あなたという意識すら、あちらの世界での経験が作り出したもの。世界の干渉なしには、今のあなたは存在しない」
 住む世界を変えるというのはそういうことだ。
 生まれ落ちる赤子のように、真っ白でなければならない。
「もしもこちらの住民になりたいというのなら、あなたはひと粒の種となり、ここでゼロから始めなければならなくなる。向こうにいたことも覚えていない。なぜここにいるのかも!
 ただの歯車になりたいのなら、向こうの世界でもなれるわ。どこででもなれる。何も感じず、心を死なせて生きるのは、とても簡単なことよ。それができないのは環境のせいじゃない、あなたの問題。あちらにいようと、こちらに来ようと、たとえ本の世界の住民になろうと、今のあなたである限り、それは変わらない。今のあなたを変えない限り!」
 くるくると回転し、スウィップ・スウェップは両手を天にかざした。
 暗闇に太陽が生まれ、青空が広がり、草原の海がどこまでも続く。朝霞は草のにおいを感じた。頬に触れる風を感じとれた。空を渡るヒバリのさえずりを、小川のせせらぎを、彼女は全身で感じ取った。
「この風景は、あなたが作り出したもの。あなたが記憶する世界の一部。あたしはこれを作り出すことはできる。でも感じることはできない。あたしはこれが何なのか知らないから。
 よく考えて。ここへくれば、あなたは今感じているものすら感じ取れなくなるのよ?」
 無言で見上げる朝霞の目を覗きこみ、スウィップ・スウェップは両手を広げた。

「もしまた会うときがあって、そのときもまた、それを望むのであれば……あなたを歓迎するわ」

 ようこそ、リンド・ユング・フートへ。

担当マスターより

▼担当マスター

寺岡 志乃

▼マスターコメント

 こんにちは、またははじめまして、寺岡です。

 イベシナなので軽く軽く……と思っていたのですが、ふたを開けてみたらやっぱりいつものわたしでした(笑)
 いわゆるこれは「天才はバカの真似ができるが、バカは天才の真似はできない」ということでしょうか?
 うむむむむむ…。

 集団無意識世界の図書館リンド・ユング・フート、名前の語源は、ユング心理学からです。まんまです。
 リンドは、イメージ的なもので「輪舞曲(ロンド)」のように微妙に変化していく世界から。でもロンドだと語感が悪いのでリンドに変更しました。
 フートは……フートは……なんだったっけ? 忘れちゃったなぁ(笑)


 ああ。でもでもでもっ。
 皆さんの作られた『ロミオとジュリエット』ものすごーーーく楽しんで書かせていただきました。
 もし機会がありましたら、またこのリンド・ユング・フートで物語の記憶の修復をしたいなと思っています。
 そのときはぜひ『オペラ座の怪人』で。
 あの悲劇を、皆さんの力でハッピーエンドに作り変えてしまえたらと思います!


 それでは、ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
 次回「【カナン再生記】擾乱のトリーズン 第2話」でもお会いできたらとてもうれしいです。
 もちろん、まだ一度もお会いできていない方ともお会いできたらいいなぁ、と思います。

 それでは。また。

※2/1 本文を一部修正・訂正させていただきました。
 お知らせいただきましてありがとうございます。気づけなくてすみませんでした。