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第壱幕 カフェテラスの攻防


 豊富な昼の太陽光が降り注ぐ下、高く高くそびえる世界樹がある。その内部にあるイルミンスール学園が所有する実験棟。
 そこからカフェテラスに通ずる道は数本で、それぞれが幾つものカーブを描いている。
 本来ならばこの時間、これらの通路は、そしてカフェテリア内は雑多な雰囲気に満たされる筈だった。だが今その空間は、雑多ではなく多重の騒音が支配していた。
 原因の一つは、
「――――――!」
 人型ゴーレムが進行する度に起こる破壊音。
 人を優に超える高さを持つ無機質な石像が、東側よりゆっくりとカフェに迫って来ているのだ。加えて重なる雑多の音は、
「このっ、邪魔な石像が、よくも私の優雅なおやつタイムを――!」
 三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)の猛り声だ。ゴーレムに相対する彼女は腕を振り上げてパワーブレスを発動させ、
「行って、こころ!」
「りょーかい、のぞみおねーさま。ケーキを台無しにさせるわけにはいかないから張り切るよ!」
 叫びに答えるのは宙に浮かぶ箒に跨ってランスを構えた新宮 こころ(しんぐう・こころ)だ。
「――だあっ!」
 のぞみによる攻撃能力補助を受けた彼女は槍を腰だめに箒で加速しゴーレムに突貫。
 激突した。
 動きが緩慢な石像はこころのチャージを腹部へ受け、そのまま五メートルの距離を推された。
「やああっ!」
 こころは箒の加速を弱めず、力尽くでランスをねじり込む。
 推進力を受け続ける石像は自重で床を擦り、自身の一部を欠片として残していくが、
「ぎ……ギ……戯……」
 倒れない。後ずさるだけで、その身体は健在だ。それを示すかのように右の拳を振りかぶっている。それを見た沢渡 真言(さわたり・まこと)は、
「こころちゃん、一旦引いて下さい!」
 言って、こころの背後に身体を配置。氷術をゴーレムの肩口にぶち込んだ。瞬間的にその場所は凍る。
 関節の動きを凍結させられた石像は殴りの動きを止め、進行も止める。
 その隙にこころは身をゴーレムから離し、のぞみの傍へと舞い戻った。
 真言ものぞみの元へ向かうが、警戒は解かない。
「…………!」
 ゴーレムが逆の手で凍結部を砕くことで再動可能としたからだ。
「氷術の効きが悪いですね。無機物だから多少砕けても行動に支障は無いようですし」
「それだけじゃないよ、真言おねーさま。あのゴーレム構成は脆いけど、力比べじゃこっちが負けちゃう。のぞみおねーさまの補助もあるのに」
「真言にこころ、議論するのはあと。見てよあれ」
 のぞみの眼には動きを取り戻し、再びカフェへと向かうゴーレムの姿が映っていた。
 身体の中心部と右肩に大きな凹みを作りながらも、やはりゆっくりとした動きでカフェへ侵入しようとする。
「うーん、どうにも火力不足ですね。取り敢えず、足だけは止めておきますか」
 呟き、真言は手持ちの蜘蛛糸でゴーレムの足首を絡め取る。本来刃物となる糸でも石像の硬質さを前にしては縄と同じだ。
 ゴーレムの動きがより緩慢になる。そこに飛び出す影があった。
「ナイスですわ糸使いの少女。このチャンス、わたくしが頂きますわよ」
 石像に走り行くのはモニカ・ハーウッド(もにか・はーうっど)。金の髪を揺らす彼女は数秒でゴーレムの足元へ肉薄し、
「モニカ流柔道奥義その一、膝砕き!」
 殴った。右膝に横合いから、右腕のフックを叩き込んだ。
 結果、瓦礫の密集体であるゴーレムの方膝が割砕した。
「……真言おねーさま、のぞみおねーさま。柔道って殴るのあり?」
「いや、まあ、当身というものはありますが、あれは表現に困るというか――」
「あたしはノーコメントで」
「そこっ、うるさいですわよ! 折角体勢崩したのですから追撃追撃!」
 モニカの言葉に沿うように、二つの姿が片膝をつくゴーレムに接近していく。
 魔鎧黒栖 彩子(こくせい・あやこ)を身に付けた武者鎧姿の八雲 千瀬乃(やくも・ちせの)出雲 櫻姫(いずも・おうひめ)である。
 出雲の二歩先を駆ける八雲は、己が纏う彩子に向けて口を開き、
「動きの補正は頼みますよ彩子さん」
「これ、千瀬。いきなり魔鎧に自分の動きを任せる奴があるか。こんな優れた鍛錬の機会が沢山あるというのにそんな体たらくでは勿体無いことこの上ないぞ?」
「は、済みません姫様。私の修行に助言を下さって」
「よいよい。ほれ千瀬、危なくなったら手伝ってやるから言って来るんじゃ」
 は、と承諾の意を出雲に示した八雲は、己が身を加速させた。
 右膝を失ったゴーレムは、両の腕を支えにして尚も前進を図っている。八雲はその支えの片方へ、刀を左に携えたまま一直線に突き進み、
「はあああっ!」
 刀の抜き打ちで手首を薙ぎ払った。だが、それだけでは終わらない。
 抜き放ちの流れで彼女は刀を大上段に。そして重力に引かれるままに、
「チェスト――――!」
 石像の下がった面に撃ち込んだ。剣の軌跡は綺麗に縦一閃。
 そして、振り下ろした刀を八雲は鞘に納める。次いで目線を上げて己の剣筋を眺めると、
「……切れていませんね」
 いまだ健在するゴーレムの顔があった。
 無機質な、感情のないその顔には確かに一筋の刀傷があった。しかしそれだけだ。両断どころか、半ばまでも刃が通っていない。
 彼女は首を傾げ、腰を床に落として目を瞑り、
「……ううむ、斬ったという手ごたえはあったんですが。刃筋が悪かったのか足運びが悪かったのか。いやはや難しい議題ですが、得物自体は悪くないのですから、結局これら全て私の未熟です。見方を変えれば鍛錬のし甲斐があるとも言えますが、猛省の必要がありますね」
「こら千瀬――! 敵の足元で座禅を組むでない――!」
 その場で自身への反省を始めた八雲の元に出雲が走る。何故なら、
「あ、ガ――」
 ゴーレムが再度の攻撃姿勢に移ったからだ。上半身を逸らして残る腕を引き絞る。曲線を描いて、その腕が落ちて行く。
 千瀬への直撃コース。
 だが、その攻撃を防ぐために動いたのは出雲だけではない。
「おいおい、あほうじゃねーかお前ら。態々怪我しに行ってどうするよ」
 ゴーレムの脇から日比谷 皐月(ひびや・さつき)が大型の盾を構えて、
「おらあっ!」
 石像の攻撃をインターセプトしたのだ。
 斜めに構えた盾で、石像の腕を受け流す。流した先で激しく土埃が舞うが、日比谷はそれに構うことなく、
「ギリギリって程でもねえけど、セーフには違いねえな」
「おう、皐月か。助かったぞい。……って、これ千瀬、いつまで瞑想しておるつもりじゃ」
「ああ、姫様。今やっと自己反省を終えました。どうやら修練が足りないようです」
「そんなこと分かり切っておるわ――!」
「おいおい、仲が宜しいのは結構だがよ、一応ゴーレムの射程距離って事忘れんなよ二人とも」
 日比谷の言葉が示す通り、石像は腕を振り上げる最中であった。そこへ入る音があった。
 銃声だ。打楽器のような軽快な音がゴーレムの振り上げた腕にぶち当たり、音楽が連続する。石の腕を砕いていく。
 音の放ち手であるのは笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)。笹奈は短機関銃を構えたまま、
「そこの三人、そのままでいると危ないよ。ボクは銃撃の達人じゃないし、狙った所に百発百中なんて出来ないからさ」
 日比谷たちに警告し、射撃を続けた。砕けた残骸の雨を浴びる彼らは、
「ひゅー、言う割にやるねえ」
「感心しとる場合か! さっさと距離を取らんと流れ弾を浴びるか、デカイ残骸を食らって痛い目見るんじゃぞ。ほれ、千瀬も早くせんか」
「いえ、ですが、まだ修練の内容が決まっていな――」
「――家でやれ――!」
「……賑やかで飽きねえなおまえら。ともあれ離れるぞ。このままじゃマジで邪魔ものだ」
 日比谷と出雲に引き摺られるようにしてゴーレムから距離を取る八雲を見届けた笹奈は、
「よし、じゃあ本格的に攻めようか。決めてはお願いするよアインス」
「了解しました紅鵡さま」
 笹奈の呼びかけに呼応したアインス・シュラーク(あいんす・しゅらーく)はゆっくりとした動きで前に出る。
 激しくなる笹奈の銃撃を縫うようにして歩く彼女は、既に両の腕と片足を失い大破しかけのゴーレムに近寄り、
「今、私が楽にして差し上げます」
 垂れた頭に薙刀を叩き込んだ。銃撃の衝撃を受け続けたゴーレムの頭部は脆く、それだけで砕け散った。
 頭部が無くなると同時、ゴーレムの身体が崩れ落ちて行く。
「うーん、これで一件落着って感じだね」
 笹奈が笑みを湛えて言うが、彼女の横に控えたアインスは首を振り、
「まだ西の道に敵性物体が残っています紅鵡さま」
「……でもさ、こっちにいる人皆、さっさとティータイム再開してるんだけど」
 その言の通り東側の道にいる笹奈から見えるカフェテリア内は至って平和そのもので、皆何事もなかったかのように、もしくはすっきりした顔でお茶や食事を楽しんでいる。
「こうしてみると皆豪傑だよね……」
「それに混ざろうとしている紅鵡さまが言える台詞ではないと思いますが、気のせいということにしておきましょう」
「そうそう、気のせい気のせい。そんじゃ、お茶を楽しもうか」