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■やりすぎ注意?

 いくつか角を曲がった。すでに十分二十分は歩いたように思う。それでも突き当りに行き着かず、ぐるぐる回っているような気になりながらも熱海 緋葉(あたみ・あけば)が指を差す。
「こっちよ」
「本当かよ。女の勘とかなんとか言うけど、行き当たりばったりじゃないのか」
 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)はしかし、文句をこぼしつつも素直に従う。どのみち指針はないし、
「まぁ、妨害がある方こそ正しい道、って感じはするよな」
 猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)は来た道を振り返って言った。彼らの通った道に、点々と転がる住人の姿。少しやりすぎたな、と反省しなくもないが、これもイベントの一環である。そういうことにする。
「そうよ、猪川くんの言う通り。なにもないとこをわざわざ守ったりしないでしょ」
「そりゃそうだけどな。とりあえずは信じてるよ、緋葉」
「あ、ありがと」
「先に進めば進むほど、妨害が激しくなるってことだよな、気をつけていこうぜ、勇刃」
「おうっ、勇平、一緒に頑張ろうぜ!」
 勇平が先頭に立ち、先を見やる。行けども行けども廊下の道筋に変化は見えない。長丁場を覚悟した矢先、
「うわっ、瑠夏ーー!?」
 前方からの声に足を止めた。
「なんだ?」
「勇平、どうした?」
「多分この先から」
 どったんばったん、安下宿の薄い壁にぶつかったりぶつけられたりするような音が響く。なにやら壮絶な立ち回りでも演じているようで、断末魔のごとき絶叫すら聞こえてくる。
 顔を見合わせた。
「行ってみよう」


 何気なくドアを開いて、次の瞬間天城 瑠夏(あまぎ・るか)は吹っ飛ばされた。コントかなにかではないのか、というくらい唐突で派手な吹っ飛び方だった。
「うわっ、瑠夏ーー!?」
 手記 『エーベルハルト記』(しゅき・えーべるはるとき)は慌てて瑠夏に駆け寄る。瑠夏はむくりと起き上がり、自身が吹っ飛ばされた扉を指差した。
「え、って、シェリーなにやってんの!?」
 目を向ければシェリー・バウムガルト(しぇりー・ばうむがると)の拳によって派手に吹き飛ばされている住人の姿。あまりに容赦のない一撃に住人はぐったりとして動かない。
「なにって、瑠夏くんに攻撃してきたじゃない。ハルトくんもやるでしょ?」
 さも当然のように言われても困る。
「それより瑠夏くん、大丈夫?」
「別に、大したダメージじゃない……次は、ない」
 まさかドア開けていきなりふっ飛ばしてくるような住人は二人もいまい。油断していたハルトに、無造作に次のドアを開ける瑠夏を止めることは出来なかったし、またしても吹っ飛ばされた瑠夏を受け止めることもできなかった。そしてシェリーは即座に吹っ飛ばし返す。断末魔を上げてぐったりと動かない住人の姿。
 てんどんかよ。
 さすがに呆れたハルトをよそに、シェリーは手をぶんぶん振り回して声を張り上げる。
「あー、もう、めんどくさいっ! 全員今すぐ出てきちゃってください! 全員倒して瑠夏くんの安全を確保するからっ!」
「いやいやいや、ちょっと落ち着いてシェリー」
「いい加減……俺も、やり返したいな」
「待て待て待って、瑠夏、君まで熱くなっちゃいけない」
 やる気満々にみなぎらせた瑠夏とシェリーに挟まれてハルトは慌てふためく。どうどう。完全に止まらない列車に乗っている二人を止めるには至らず、もはや自分の力では事態を止められないと悟ったハルトは辺りに助けを求めた。
「お、なんやおもろそうなことやっとるな」
 通りがかった綿貫 聡美(わたぬき・さとみ)は、瑠夏たちを眺めて実に嬉しそうに笑う。その笑顔の嬉しそうな具合といったら、目の合ったハルトが、「あ、だめかも」、と諦めかけたほどである。
 藁にもすがる思いでハルトは聡美に尋ねた。
「一応聞くけど、スタンプラリー参加者、だよね」
「スタンプラリー? なんじゃそりゃ」
 うん、知ってた。
「なんやここでなら思いっきり暴れていいって聞いたから来たんやけど、なるほどこれならたっぷり遊べそうやなぁ。ケヒッヒッヒ」
 コキコキ肩を鳴らしている聡美の姿を見て、平和的に解決する助けになるなどと愚かしいことを誰が思おう。望み散ったハルトは瑠夏とシェリーに引きずられつつ願う。
 世界が平和になりますように。
「大丈夫……峰打ちだ。魔法だけど、な」
「ケヒッヒッヒ、さあ楽しいお遊びの時間や」


 以上の顛末を眺めていた勇刃、緋葉、勇平の三人は顔を見合わせ、言葉も無く一致した意見を口にした。
「俺たちはああはならないようにしよう」