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■衝撃! 貧乏下宿に地下迷宮は実在した!

 少し奥へ行くとたちまち迷宮じみてくる。不自然なくらい分岐も曲がり角も多く、いつの間にやら、明かりは頼りないろうそくの炎になっていて薄暗い。二階建てと聞いていたが、二回ほど階段を降りたような気がする。足元も冷たい石畳とくればまさしく迷宮の有様だが、時折思い出したように下宿らしい部屋の扉が姿を現すのだから異様な光景だ。
「久々にマッピング。こういう労力が必要だったのが昔のRPGだったんだよな」 
ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)は道を進みながら満足げだ。
「えーっと、14.17、Tっと。回転床まであるとは本格的やなぁ」
「本格的すぎて、なにか凝ったアトラクションみたいだよ」
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)が方眼紙に書き込みながら後に続く。
「『衝撃! 貧乏下宿に地下迷宮は実在した!』どう、セレアナ。いい感じのコピーじゃない?」
「あえてなんのコピーか聞かないけどね。いいんじゃないの、セレン」
 三人より前を行きはしゃぐセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)と彼女に苦笑するセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
 セレンフィリティは踊るように振り返って三人に呼びかけた。
「ほらほら、早く来なさいよ。隊長に続けー」
「誰が隊長だ」
「マッピングしとるんやから、もう少し慎重に進ませてくれ」
 泰輔が方眼紙を見せる。大家か管理人に売りつけて、ちょっとした小遣いをせしめようと考えているだけあって丁寧に書きこまれている地図だ。
「ずいぶんと進んだわね」
 セレアナが地図を見て、その後に先を見る。まだまだ先がありそうに見える。
「こうやって見ると、泥棒が餓死とかっていう噂もあながち冗談じゃなさそうですよね」
 フランツが言って、ヴァイスが同意した。
「ダンジョン物で迷子になったら大抵の場合生きて帰れないからな」
「せやからマッピングは慎重にさせてくれ」
「マッピングなんかこれでやってるわよ、ほら」
 もどかしげなセレンフィリティは銃型HC弐式を見せる。オートでマッピングされた地図は泰輔の書きこんだものより情報量は少ないが、迷わず探索する分には十分な代物だ。そんなセレンを見て、ヴァイスはこれだもんな、というような顔をした。
「む。なによ」
「自力マッピングはこの手のゲームで楽しい部分のひとつなんだよ。自らの手で徐々に埋まっていく地図、完成した時の達成感。オートじゃ味わえないね」
「人によるだろうと思うけどな」
「まぁ、そりゃそうだが」
 大雑把なところのあるセレンフィリティは、聞かされても、そういうものかな、としっくりこなかった。ただ、セレンフィリティにしても自分の価値観を押し付けようという気はない。
「仕方ないわね。ま、隊長は寛大じゃないとね。でもパッパとやっちゃってよ」
「だから、誰が隊長だ」
「あ、そこらへん、今までの傾向からするとトラップあるで」
「侵入者を拒絶するかのように数々の罠が待ち受ける地下迷宮。しかし、探検隊は不屈の闘志を持ってして危険な罠を乗り越える! そして、その先に待つものはいかに!」
 ノリノリのナレーションで進むセレンフィリティ。セレアナがため息をつく。
「ごめんなさい。うちのセレンがはしゃいじゃって」
 フランツが苦笑した。
「いえ、賑やかな人がいた方が楽しいですよ」
「しっかしロングコートにビキニで迷宮探索て、これはこれでえらい異様な光景やな」
 今更やけど、と泰輔はセレンフィリティの格好についてコメントした。
「まぁ、裸の方が強い職業もあることだし、いいんじゃないか」
 投げやりに答えて、ヴァイスは追従した。