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伝説のリンゴを召し上がれ

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伝説のリンゴを召し上がれ

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 丘を登るにつれ、大きな伝説の木の下にいるパラミタオオカミたちの姿も見えてきた。
「噂通り、パラミタオオカミがいるみたいだね。20……いや、30匹はいるみたいだ。と、兎に角、あのパラミタオオカミをなんとかしないと……」
 紅鵡が数えた通り、木の根元には、地面が見えないほどのパラミタ狼が集まっていた。
「昔から守っているのね……優しい気を感じるけれど、手を付けようものなら、噛まれるだけでは済まなそうだわ」
 奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)は、パラミタオオカミたちと、どうにか話をつけてみようと決心しつつ、グローブをはめ直した。
美味しいリンゴの話を聞いて沙夢について来た雲入 弥狐(くもいり・みこ)は、ショックを受けていた。
「モンスターって……この狼達のこと? まさかねー……」
 モンスターと呼ばれる獣も多いが、パラミタオオカミを見ても、モンスターとは思えなかった。
「代々守っているなら仕方ないかなぁ……でも、きっと話は聞いてくれるはず!」
 と、元気な口調で、皆に声をかける。
 追っ払うなんてことはしたくない。大切なものをわけてもらうのだから、相手の了承を得るために相談を持ちかけたい。追っ払ってしまえば、パラミタオオカミ達に、辛い思いをさせてしまうような気がするから。
「パラミタオオカミ、か……まぁ、ある程度、意思疎通可能ならば、取り引きの形で、相手も納得の上、収穫させてもらえるのが一番かと思う。そうでなければ、ヒュプノシスで眠らせるなりして、用が済むまで大人しくしててもらうしかないかな」
 と、言う源 鉄心(みなもと・てっしん)も、無駄な殺生は避けたいと思う気持ちに変わりはない。
「ガウ……」
「グルルル……」
 パラミタ狼たちが、威嚇するようなうなり声を上げる。大切なリンゴの木のある地へ侵入してきたコンダクターたちを、かなり警戒しているらしい。
「いつも練習や訓練でへとへとになってるプロレスリング・シャンバラ維新軍の皆に、リンゴのデザートを差し入れしようと思ったんだけど……な、なんか、狼さんたち怖いよぅ」
 と、怯む鬼龍 黒羽(きりゅう・こくう)を庇うように、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が、歩み出る。その手に持っているのは、禁煙ならぬ禁血をしたい吸血鬼が飲むと言われているトマトジュース。
「こちらから何も渡さずに、ただ、リンゴを渡せじゃぁ、誰だって嫌がりますよね」
 と、貴仁は、トマトジュースを注いだ皿を差し出した。
「トマトは、狼の桃って学名らしいですし」
 リンゴの木の周りをグルグルと回っていたパラミタ狼のうち、小さな3匹がやってきて、クンクンとトマトジュースの匂いを嗅ぎ始める。
「子犬っぽい感じ……子供の狼さんかな?」
 黒羽が、おそるおそる両耳の間を撫でると、子供オオカミたちは、ペロペロとトマトジュースを舐め始めた。
 もう少し大きい子供オオカミたちは、興味がありそうに貴仁と黒羽の方を伺いながらも、遠巻きにしている。
「リンゴを分けてくれたら、このマンガ肉と調理したリンゴをあげる、って約束しますよ」
 貴仁が取り出したマンガ肉を見た子供オオカミたちは、「クウンクウン」と甘えるような声を上げ出した。どうやら、子供世代との交渉は好調のようだ。
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)は、ついてきてくれたワイルドペガサスのレガートに、説得を頼んでいる。
「レガートさんは言葉分かるみたいだし、狼さんたちに話しかけてくれないかなあ……『リンゴ……くれや』みたいに」
「ちょっと待って! 動物のことなら、ドルイドのわたくしにお任せですの! さあ、レガートさん、『お手』ですわ!」
 仲間とパラミタオオカミたちに、ドルイドとしての実力を見せつけるために割り込んだイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)だったが、レガートは、そんな彼女に、容赦ない頭突きを食らわせてしまった。
ドッ!
「うぐうっ!」
「大丈夫ですか、イコナちゃん!」
 ティーがあわてて、、妖精の塗り薬や命の息吹で治療する。
「大丈夫ですわ、ふたりは仲良しです!」
 復活したイコナは、そう言って、ぽいぽいカプセルに詰めて持ってきたクモワカサギを取り出した。
「今度は網焼きにして持ってきましたの」
 食べてくれるだろうかと心配したが、中くらいのオオカミたちが、次々と寄ってくる。その足元に……、
 コロコロ……。
 言葉を交わしたわけではなかったが、何か通じるものがあったのか、レガートと見つめ合っていたパラミタオオカミが、大粒のリンゴを1個、転がしてきた。
「狼さん、ありがとう! お誘いしてくれた美瑠さんも、ありがとうございました!」
 礼を言ったティーが、レガートにリンゴを差し出す。
「レガートさん、リンゴ、好物だったよね?」
 レガートは、嬉しそうに翼を上下させ、自分も一口齧ってみたティーは、
「うん、美味しいです」
 と、大満足。
 続いて、オオカミ達に「御免ね」の代わりに、夜明けのルビーという名の甘いトマトを沢山持ってきたルカルカとザカコが、「この分だけ、リンゴ下さい」という気持ちで、リンゴのように真っ赤な実を差し出す。
 沙夢と弥狐、淳二とミーナとナナユキも、ひとつずつ分けてもらい、木の根元に寝そべっている中型のパラミタオオカミの前に、そっと置いた。
「クーン」
「クウーン」
 まるで「お返しだよ」と言いたそうに声を上げたパラミタオオカミたちが、くわえたリンゴを四人の手に渡す。
「言葉は通じないかもしれないけれど、心は通じ合うものよ」
 と、沙夢が言い、弥狐は、感慨深げに頷いた。
「大切なもの……か」
 交渉が成立し、トマトジュース、マンガ肉、網焼きのクモワカサギ、赤いトマト、雲海わたあめなどと交換に、幾つかのリンゴを分けてもらうことができたが、美瑠の籠はまだからっぽだった。
「まだ足りないね。がんばっている見習いパティシエールを手伝ってあげたいけど、どうすれば、パラミタオオカミを傷つけたり殺したりせずに、伝説のリンゴを収穫できるかなあ」
「もう、交換するものもありませんし……」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)荀 灌(じゅん・かん)が悩んでいると、場にそぐわない陽気な声が……、
「ここは、ミーが打開策をだすネ」
 うんうん唸って悩むふたりも可愛いけれど、絵的にそのままじゃつまらない、とヴィクトリア朝 メイド服コスプレ(びくとりあちょう・めいどふくこすぷれ)は、考えた。
「はい! 郁乃&荀灌。そんなしかめっ面しないで、笑顔で膝枕してあげれば、気持ちよさにみんな寝ちゃうから、その隙に手に入れればいいのヨ。そうそう! その時はナマ足でネ! そこ大事なとこダカラ」
「んだそりゃぁ〜! それはあおまえの欲求じゃな……!!」
 と、怒鳴ろうとした郁乃だったが、木の根元に寝そべるパラミタオオカミたちの姿を見て、「いや、いい手かも…?」と、思ってしまった。
「そっか、ヴィクトリア、寝かせればいいんだね」
「子守唄を唄って、狼を寝かしつけて、その隙にリンゴを採るっていう作戦ですか……?」
 さっそく、子供オオカミを膝に乗せ、子守唄を口ずさむ郁乃と荀灌を眺めつつ、ヴィクトリア朝は、「実は自分の欲求だったんだけどネ」と呟く。
 ふたりともホットパンツ姿で、よだれモノの生足がそこに並んでいるのだ。生足膝枕は王道ではないか。
「狼って子守唄効くのかなぁ? 少なくとも……ヴィクトリアさんには効かなそうですけど」
 鼻息粗く、瞬きもせずにこちらを見ているヴィクトリア朝に、
「なんだかちょっと怖いです」
 と、苦笑する灌だったが、子供オオカミたちは、すやすやと寝息を立て始めている。
「ふふん、ミーのお手柄ネ! お礼は、ナマ足膝枕耳かき付きでいいヨ」
 つい、心の声が漏れてしまったヴィクトリア朝に、郁乃の怒りが飛ぶ。
「こらぁ〜っ調子乗るなぁ〜!! ってか、やっぱ、膝枕はあんたの欲求かっ!」
 けれど、ヒントのお礼の膝枕にこそ怒っていたけど、妥協案のアイドルコスチュームに素早く着替えてきた郁乃の姿に、灌は感心してしまうのだった。
「飴と鞭というやつですね。それにしても、どこに用意してたんだろう……?」