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パニック! 雪人形祭り

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パニック! 雪人形祭り

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 公民館。椿と吹雪が隣の部屋に行くと、やはりそこにも多くの子供たちがいた。だが二人がいた部屋と違い、寝ている子供は少なく、皆はしゃいで賑やかそうだった。
「さーあ、みんな捕まえちゃいますよー」
 常葉樹 紫蘭(ときわぎ・しらん)が、目隠し鬼ごっこできゃあきゃあ逃げ惑う子供たちを(どさくさに紛れてぎゅうっと)捕まえて遊んでいるし、
「はーい、次はお星さまを出すよ〜! ほーら、きらきらー☆」
 魔法少女コスチュームのネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)がスキルで粉のような星を降らせて、子供たちを喜ばせている。隣で高天原 水穂(たかまがはら・みずほ)が、もふもふの尻尾をにぎにぎして遊んでいる小さな女の子の頭を撫でていた。
「テス君は……ここに、いるんでしょうか……?」
 遊んでいる子供の邪魔をしないよう、そうっと二人が入っていくと、少し離れた場所で、本を読んだりして比較的静かに過ごしている子供の一群の傍にいる水無月 瑠璃羽(みなづき・るりは)がこちらを見た。
「あの、この部屋にテス君、という子はいますか……?」
 吹雪が尋ねると、瑠璃羽は、
「ん〜……確かそんな名前の子が、おったような……」
 その言葉に引かれるように、隅で本を読んでいた子供がこそっと目を上げた。
「あ、あの子やな。君、君」
 瑠璃羽が手招きすると、少年はどこか神妙な顔をして、それでも素直に三人のもとにやって来た。
「こんにちは、テス君。あのね、聞きたいことがあるんだけど」
「……もしかして、ナーリルのこと?」
 吹雪の問いに、先回りして答えたテスに、今度は椿が問いかける。
「どうして、そう思ったんですか?」
「ナーリルは、祟りなんか起こさないよ」
 少し頑なな声で、テスは言う。問いへの答えにはなっていないが、椿は察して、そうですね、と彼の頭を撫でた。テスも、大人たちの噂を耳にしているのだ。
「ナーリルは優しい子だった。ナーリルは、ただ、おうちに帰りたかっただけなんだ」
「おうちに……? ナーリルちゃんは、おうちに、帰ったんですか……?」
「僕、見たんだ。雪人形の中に、ナーリルがいた。ナーリルはたくさんの雪人形のお友達と一緒に、ずっと住んでたおうちの方へ走っていった」
 椿と吹雪、瑠璃羽は一瞬、顔を見合わせた。
「それは……ナーリルちゃんにそっくりの雪人形、だったの?」
 三人を代表する形で吹雪が訊くと、テスはちょっとの間口ごもり、それから言った。
ナーリルのブローチを、付けてたの」
「ブローチ?」
鳥の羽の形した、ブリキのブローチ。死んだお母さんが、ナーリルのために作ってくれたんだって。だから、毎日付けてたんだ」
「……どうしてその雪人形、ナーリルちゃんのブローチ付けてたんでっしゃろ?」
 二人とテスのやり取りを聞いていた瑠璃羽が首を傾げる。テスは、またしばらく口ごもったが、話し出した。
「ナーリルが雪崩に遭った時、ブローチなくなっちゃったんだって。大人の人が言ってた。多分雪崩の中で取れて、流されて……見つからなかった、って」
 しばらくの間、沈黙が流れた。それを破ったのは、
「あ、雪の中に、ブローチみたいなのがあったよー」
 近くで、寝転がって本を読んでいた一人の子供だった。
「あ、あたしもそれ見たー。雪の中から出てきたんだよねー」
 周りで話を聞いていたらしい子供たちが、続々と話に参加してくる。いつしか、ネージュや水穂、紫蘭も傍に寄ってきていた。

 話を纏めるとこうだった。――今朝、今日のために近隣の集落から来た子供たちが街の広場に集められ、実行委員が山から運び出してきた大量の雪で、各々好きなように雪人形を作った。その時、雪の中に何か鈍く光る金属片のようなものが入っていたのを、何人かの子供が見た。そしてそれは、一人の少女の手に渡ったらしい、ということだった。

「そのブローチを拾った女の子にも、話を聞いてみたいなぁ」
 吹雪がそう言って周りを見渡したが、名乗り出る者もこの子だと教えてくれる者もない。
「あ、……お、お手洗い行きたい」
 急にネージュが言ったので、水穂は一瞬呆気にとられたが、いつものことなのでくすっと笑った。すると、周りの子供たちが、
「おしっこ、ミウもー」
「あ、あたしも行きたいー」
「…じゃあ、あ、あたしも……」
 次々に名乗り出始めた。部屋は暖かいが、尿意を催していたのはネージュだけではなかったらしい。
「よ〜し、じゃあ、皆で行こっかー」
「わらわも一緒に行きますぇ」
 紫蘭に牽制気味の視線を送りながら、付き添うために瑠璃羽が立ち上がり、ぞろぞろと連れ立ってトイレへ向かった。