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小ババ様の一日 旅立ち編

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小ババ様の一日 旅立ち編

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ヴァイシャリーだよ

 
 
 マホロバ、シボラ、カナンを旅して、小ババ様はついにシャンバラに戻ってきました。
 途中いくつか波乱もありましたが、さすがは小ババ様専用イコンです、故障することもなく敵を蹴散らして安全に小ババ様の旅をサポートしました。
「こばこば〜」
 イコンを降りて箒に乗った小ババ様は、ヴァイシャリー市内の観光を楽しんでいました。
「えっ、小ババ様?」
 ゴンドラに乗っていた緋桜 ケイ(ひおう・けい)さんが、運河の上を飛んでいる小ババ様を見つけて驚きました。
「こばー」
「くまー」
 同じゴンドラに乗っていた雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)さんがすかさず挨拶を返します。アイドルとしては、負けてはいられません。
「こばこばー」
「くまくまー」
「こばー、こばこば!」
「くまー、くまくま!」
「いつまでやってるんですかあ。しゃいにんぐべあくろ〜!
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)さんに怒られました。
「これから買い物に行くんだけど、小ババ様も行きます?」
「こばー」
 小ババ様としては、観光なので大歓迎です。
「さて、ではそろそろ陸に上がろうか」
 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)さんが、ゴンドラを岸に着けてもらいました。ヴァイシャリーには車のような物はありませんから、船が主な交通機関です。イルミンスールの箒や蒼空学園の小型飛空艇のような物に乗っている人もいますが、やはり船がよく似合います。
 商店街をブラブラと進み、一行はブティックに入りました。以前、緋桜ケイさんたちが贔屓にしていたお店のようです。
「近々またビューティーコンテストがあると聞くからな。優勝者としては、連覇を目指さねば……」
 何やら、悠久ノカナタさんが燃えています。これは前にやったとか、これでは前に負けるとか、あれこれの服を手にとっては放り投げていきます。
「ふっ、小ババ様はどれがいいと思う?」
 雪国ベアさんが、七本七色のマフラーを手にとって小ババ様に聞きました。
「真のおしゃれは、スタイルを変えないところにあるんだ」
 自信満々で雪国ベアさんが言いました。そういえば、小ババ様もほとんど服を替えたことがありません。今度じっくりおしゃれでもしてみましょう。
「私も参加しようかなー」
 ソア・ウェンボリスさんが、魔法少女用のコスチュームを見ながらつぶやきます。
 とりあえず、今は下見と言うことで、そのまま外に出ました。
 その後お茶をして、バイバイです。
「こばあぁぁぁぁ!」
 小ババ様が、運河のそばでパチンと指を鳴らしました。
 じょばばばぁぁーっと、運河の中から水飛沫を散らして小ババ様専用イコンが現れます。
「そ、それは……」
 初めて見る小ババ様のイコンにソア・ウェンボリスさんが驚きます。緋桜ケイさんは興味深そうに見ています。
「ふっ、グレートとわのカナタちゃんの方が上だな」
 なんだか、悠久ノカナタさんはどうでもいい対抗心を燃やしているようです。
「まったく。びしょびしょじゃないか。こういう物を隠すときは、少し考えないとな」
 そう言って、雪国ベアさんが小ババ様専用イコンを拭いてくれました。
「よし、これで俺様のようにつやつやになったぜ」
 雪国ベアさんがサムズアップして、キランと牙を輝かせます。
「こばあ」
 小ババ様は、ぺこりとお辞儀をするとイコンに乗り込んで出発しました。
 
    ★    ★    ★
 
「こばー」
 小ババ様は百合園女学院の駐車場にイコンを駐めると、学校の見学を始めました。小ババ様は女の子ですから、問題なく百合園女学院の中に入れます。
 のんびりとイコン格納庫の方へと行くと、何やらぶつぶつという声が聞こえてきました。
 Night−gauntsというセンチネル型イコンの前で、フォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)さんが満足そうに立っていました。その足許では、二匹の猫ちゃんがゴロゴロと寝っ転がっています。
「よし、修理は完璧じゃ……。だが、暇になってしまった……」
 なんだか、手持ち無沙汰のようです。
「最近はライバルのアーデルハイトも見かけなくなってしまったし、イルミンに行っておんなじ姿をしている小ババ様でもいじくるかのう……むっ!?」
 見つかってしまいました。小ババ様の背に、悪寒が走ります。
「こんな所に大きな小バエがあ。叩き潰してくれる!」
 なんだか嬉々として、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんがはえたたきを持って追いかけてきました。
 あわてて、小ババ様は逃げて行きました。
 
    ★    ★    ★
 
「こば、こば、こば……」
 イコンの中で、小ババ様は荒い息をついていました。百合園女学院の格納庫の方からは黒煙が上がっています。ランドセルの中のミサイルは、空っぽになっていました。
 とっととヴァイシャリーを離れようとしていると、眼下に果樹園が見えました。
 果樹園では、アニス・パラス(あにす・ぱらす)さんという人が動物さんたちと一緒に遊んでいるのが見えました。なんだか手に持っているビスケットのせいでちっちゃい動物からでっかい動物にまで、一斉にたかられているようにも見えますが、多分気のせいでしょう。
 そのそばでは、佐野 和輝(さの・かずき)さんがじっとこちらを見あげていました。ここはあの人たちの秘密基地なのでしょうか。
 ふと横を見ると、鳥に乗ったちっちゃなルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)さんという人が飛んでいました。
「しーっ、内緒ですぅ」
 ルナ・クリスタリアさんが言いました。
「こば、こばあ」
 小ババ様が、うなずいて手を振ります。それを見て、ルナ・クリスタリアさんは安心したかのように佐野和輝さんたちの所へと戻っていきました。
 動物たちにも手を振ると、一緒にアニス・パラスさんも手を振り返してくれました。
 そのまま湖沿いに小ババ様は飛んでいきました。
 
    ★    ★    ★
 
 ヴァイシャリー湖の南には、変わった建物がありました。何やら、南にむかって地面に二本の線が書いてあります。
 それは、新しく開通した魔列車の駅と線路でした。
 興味を持った小ババ様は、その線路を辿ってヒラニプラに行くことにしました。これは迷子にならなくて楽ちんです。
 しばらく飛んでいくと、運のいいことに魔列車が走っているのを見つけました。
「こばあ!」
 わーいと、小ババ様がイコンで競争します。
 しばらく一緒に走っていましたが、ふいに何かを思いついて、小ババ様が魔列車の上に着陸しました。イコンを客車の屋根に固定します。これは楽ちんです。小ババ様は、しばらくそのまま流れる景色を楽しむことにしました。
 おや、何やら、下の方から声が聞こえてきます。ちょっと覗いてみましょうか。
「ら〜ら、ら〜らら♪」
 アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)さんが、窓のそばで歌っていました。
「魔列車が運行を始めて、ずいぶんと便利になりましたね」
 対面の座席に座った非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)さんが言いました。
「ええ。移動に際して、モンスターの心配をしないですむのはありがたいものです」
 イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)さんが同意しました。
「できれば、ザンスカールから空京へも、早く開通してくれるといいのですが」
「そっちも、列車ができるのですか?」
 非不未予異無亡病近遠さんに、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)さんが聞き返しました。
「いえ、できると便利だなということです」
 今のところ、そんな計画はないので、ただの希望だと非不未予異無亡病近遠さんが答えました。
「誰ですか、覗いているのは!」
 イグナ・スプリントさんが、小ババ様に気づいて叫びました。
「な、なんでございますか!?」
 窓の外から逆さまに覗いているイコンの帽子の部分を見て、アルティア・シールアムさんが驚きました。
『こ、こばあ!』
「小ババ様!?」
 コックピットの中で照れ笑いをする小ババ様に、ちょっと四人が驚きます。
「そういえば、小ババ様が旅に出ているとイルミンスールの広報に……」
 イグナ・スプリントさんが思い出しつつ言いました。
「旅仲間ですね」
 非不未予異無亡病近遠さんが微笑みました。
「じゃあ、お菓子をあげますわ。お行儀よく召し上がれ
 ユーリカ・アスゲージさんが、自分用のおやつを小ババ様に分けてくれました。
「こばあ♪」
 ありがたくお菓子をもらうと、そのまま魔列車の屋根に乗っかって、小ババ様はヒラニプラを目指しました。