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アトラスの古傷

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第五章 機晶鉱脈の主・後編


※最深部・調査隊員リスト(計8名)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)

柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)
ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)
アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ──────………。

「「なんだあいつはッ!?」」

 ほとんど同時に、最深部調査隊の一同は声をあげた。
 ほどなくして彼らが向かった先は、溶岩流が一切存在せず、幕が下ろされたように暗闇に包まれた大空洞だった。
 セレアナやアキラが『光術』を使用できたので、それを光源とした瞬間のこと。
 大空洞の壁一面に走る機晶鉱脈と、それを貪る巨大なミミズのような化け物の姿が映し出されたのだ。
 巨大というが、その巨大さが尋常じゃない。
 半径2mくらいの長胴に、全長は数十m以上ありそう(途中で穴に潜っているので詳しくはわからない)だった。
 更によく見ると、そのミミズのような化け物は、頭部にドリル状の機構を有している。
 あれが報告にあったイコンのような機晶技術……なのだろうか。
 そしてそんな化け物が、彼らが声をあげたのを受けて、こちらへ向きなおり───
 
「全員散れぇぇぇ!!!」

 カルキノスが怒号をあげる。
 それを聞いた各々は、ほとんど無意識の内に飛び退く。
 瞬間、直前まで彼らの陣取っていた地面は消し飛んでいた。
 あの化け物がドリルの先端から雷撃を放ったのだ。

「なんて無茶苦茶な……!」

 セレンは避けきれなかった時のことを想像して、やっぱりやめればよかったと後悔する。

「───ライザーワーム……」
「え?」

 ルシェイメアが唐突に呟いたので、アキラは素っ頓狂な声をあげた。

「……かつてあの化け物につけられた名じゃ。古王国のあった時代、今のシャンバラ大荒野にあたる平野で、幅を利かせておった巨獣じゃよ」

 そこまで言った後、「ただ、あのような機構は持っていなかったハズじゃが……」と小さく呟いたが、それは独り言のまま終わった。
 彼女は古代から存在する魔女なので、かつての出来事を知っている事は不思議ではない。
 ただ引っかかる部分もあったので、アリスがそれを突く。

「なんですッテ……? それジャア、アレ、5000年近く前からここにイルノ……?」

 その疑問には、恭也が答えた。

「さすがにそれはないだろ。おそらくだが、今まで封印されてたってクチじゃねえか」

 ルシェイメアはゆっくり頷いてみせる。

「なんで、今になって現れたんだろう……?」

 規格外の敵に、じっと様子を窺っていた詩穂も、なんとか言葉を絞り出した。
 が、すぐに遮られることになる。

「おいおいお前ら、そういう考察は偉いやつらに任せときゃいいんだよ! 今俺達調査隊にとって重要なのは、この化け物───ライザーワームっつったか? こいつをどうにかして倒す事だろうが! ……援護頼むぜ!」

 叫ぶような口調で『インテグラルアックス改』を構え、走り出すカルキノス。
 強い語気に当てられて、全体の士気も若干高まる。

「……言われなくてもわかってるわよ!」

 なかば叫ぶようにして、セレアナが『パワーブレス』を発動。カルキノスの攻撃力が増強される。
 『インテグラルアックス改』は、攻撃力だけで見ればこれ以上の斧は存在しないと言われるほどに、強力な武器だ。
 更に、使い手のカルキノスはドラゴニュート。強力無比なドラゴン特有の怪力をもつ種族だ。
 おまけに『パワーブレス』による補助もある。
 彼の一撃をまともに叩き込めれば───いかに巨体をもつライザーワームでも、ただでは済まないだろう。
 すぐさま作戦を理解した恭也が、『我は射す光の閃刃』を放ち、注意を逸らそうとする。
 が、ライザーワームにとって、牽制攻撃は蚊に刺された程度にしか認識されていないらしい。
 恭也は舌打ちする。あいつの注意を逸らすには、もっと大きな威力が必要だ───「ッ!?」

「シャアァァァ!!」

 ライザーワームが金切り声をあげたと同時、恭也の立っていた足場の下から、突如ライザーワームの尾らしきものが突き上げた。 
 回避しようがない速さだった。
 攻撃を受けた恭也は上空に跳ね上げられ、天井にぶつかって落下する。

「恭也さんっ!」

 詩穂が悲鳴をあげる。
 ここまで一緒に行動していたので、それなりに親密になっていた彼女には、少し衝撃が大きかった。
 咄嗟に『空飛ぶ魔法↑↑』を使って、恭也が地面に激突するのを防ぐ。

「……サンキュ。くっ……そ、やってくれるぜ」

 着地した恭也は自力で立ち上がる。
 『イナンナの加護』のおかげで何とか受身が間に合ったようで、致命傷は負っていなかったようだ。

「見セテ。ワタシが回復するワ」

 アリスがアキラの頭上からふわっと降り立ち、『歴戦の回復術』で恭也の治療を行う。
 とりあえず無事だった彼に、詩穂は安堵した。
 ただ、それと同時に怒りもこみ上げてきて、彼女は『龍牙の薙刀』を『ソードプレイ』の技術で補強。『グレイシャルハザード』で氷結属性まで強化した。
 そのまま仕返しの一閃を浴びせるべく、駆け出そうとする詩穂。
 が、攻撃を受けた恭也本人がそれを制止したので、かろうじて踏み留まる。

「待て、おまえ一人で正面から向かっても返り討ちだ。他の皆が隙を作るのを待って……」
「で、でも、中途半端な牽制じゃさっきみたいに怒りを買うだけだもん。一撃を強化して、一気に叩き込んだ方が───」

 と、そこでセレンが会話に割って入った。

「これを使ったらどうかしら?」

 彼女が取り出したのは『機晶爆弾』だった。しかも3つある。

「確かに、これならば十分な火力を確保できるし、時間差を利用して大きな隙が作れそうだな」
「でしょ。もっとも、扱いには『破壊工作』の知識が必要だから、設置はあたしに任せてもらうことになるわね」
「……大丈夫なのか?」
「もっちのろんよー、っていうかむしろ適役じゃないかしら? こう見えてあたし、壊し屋セレンなんて呼ばれてるのよ」

 にやりと笑みを作るセレン。
 セレアナは毎回セレンのこういうところにヒヤヒヤさせられているのだが、こうなったらもう止まらない事も知っているので、大人しくサポートに徹する事を決める。

「爆弾を設置するまでの囮は任せて」

 言うなり、ライザーワームの射程に飛び込んでいくセレアナ。

「的はいっぱいあった方がいいよねぇ〜〜。俺も行きますぜ、セレアナ殿!」

 アキラも同時に駆け込んでいく。
 2人は、既にライザーワームの付近で電撃による攻撃をやり過ごしていたカルキノスの隣に立ち、戦線に参加する。
 的が増えたと見たライザーワームは、その長胴を使って大きく薙ぎ払った。
 しかし間一髪、跳躍することでそれを飛び越え、全員難を逃れる。
 十分に彼らが注意を引きつけたと見たセレンは、大きく回りこんでターゲットの背後に移動───爆弾を仕掛け、離脱することに成功した。

「爆破時間は、こっちでカウントするわ! 皆息を合わせることに集中して!」

 セレンが集中を促す。
 ライザーワームに致命傷を与えるほどの攻撃力を持つのは、現段階ではカルキノスと詩穂が筆頭だ。
 インパクトの瞬間、彼らは最善の位置にいられるようにしなくてはならない。

「残り5秒! 4……3……2……1……」
「「はぁっ!!」」

 全く同じタイミングで、調査隊の面々は跳びあがる。
 狙うはヤツの頭……謎の機構についている、動力装置と思われる核のようなものだ。

「ゼロ!!」

 ドォォォォン!! 凄まじい爆音と共に、機晶鉱脈の一部が崩れ落ちる。
 この時点でライザーワームの注意はそちらに向いたが、そこに第二、第三の爆発が巻き起こる。
 それらの爆音は空洞内に反響し、最後には坑道そのものが崩壊したかのような轟音に一帯が包まれていた。
 ライザーワームは、完全にパニック状態に陥った。

「もらったぜェェェ!!!」
「今だよっっ!!」

 満を持して放たれる二対の攻撃。
 通常時は接近することすら困難だった相手だが、ここまで場を乱せば対応できない。
 彼らの攻撃は直撃し、核は粉々に砕け散った。
 ……すると、ライザーワームは糸が切れたように倒れ、そのまま動かなくなった───