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モンスター夫婦のお宝

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その4 お宝とは?

「はああああ!」
「ふふん」
 両手に槍を持った歌菜を、美影が二本の扇で迎え撃つ。手にしているのは単なる扇ではあるが、その中には金属でも入っているのか、槍を真正面から受けてもびくともしなかった。
「っ!」
「さあ、こいやぁ!」
 そして、飛影に向かうのは羽純、そして、ゲブー。羽純は左右に動いて的を絞らせずに近づくが、ゲブーは真正面から突っ込んでいる。
「そこかぁ!」
 飛影が再び斧を振るった。衝撃が舞い、羽純は身を止めて衝撃をなんとか受け流す。
「おんなじ手に引っかかるかよぉ!」
 ゲブーは衝撃をジャンプして飛び越え、空中で回転しながら拳を振るった。が、飛影も左の手を斧から離し、拳を振るう。拳と拳がぶつかり合い、激しい衝撃が走った。
「ごあっ!」
 が、飛影の拳の方が強かったのか、ゲブーだけが一方的に飛ばされる。雅羅たちがいる付近まで彼の体は吹き飛び、地面を何度か転がった。
「ヒール!」
 よろよろと立ち上がったゲブーに、ロゼが回復魔法を使う。ゲブーは大きく息を吐いて、再び身構え、駆け出した。
「キミは突撃するしか脳がないのか!?」
 夢悠が叫ぶ。ゲブーは聞こえていないのか、ただまっすぐ飛影に向かうだけだ。
「っ!」
 ゲブーが飛ばされた直後、入れ替わりで羽純が槍を振るう。大柄で細かい動きは出来ないだろうと予想していたが、飛影は羽純が思っている以上に器用だ。大型の斧を、まるで短剣でも振るっているかのように軽々と扱い、羽純の狙いすまして放った攻撃を全て受け流す。
「そこだぁ!」
 そうやって細かな動きをしている飛影に対し、再びジャンプからのパンチをしようとするゲブー。その時、羽純がまっすぐ伸ばした槍を、飛影は斧を手のひらで回転させ、正面から受けた。
「しまっ……」
 羽純が気づくが、遅い。飛影は受けた槍の衝撃を使い大きく後ろへと飛び跳ね、ゲブーのパンチをかわしながら大きく飛び跳ねた。
「あんだと?」
 地面を思い切り叩いたゲブーが顔を上げると、飛影が空中で、大きく斧を振りかぶっている。避けられない。
「そこですわ!」
 羽純の隙も逃さなかった。歌菜と少し距離を離した美影が、扇を羽純に向かって振るう。その先から刺のようなものが飛び出した。
「羽純くん!」
 歌菜が叫ぶ。羽純は後ろへと跳ねるが、右の腕にそれがかすめた。
「くっ!」
 羽純の表情が歪む。そのまま膝をついて顔を上げると、ゲブーが飛影の振るった斧に、頭のてっぺんから切り刻まれようとしていた。


 ……が、突然、飛影に向かって氷の塊が飛んできた。氷の塊は飛影の斧を一瞬だけ弾き、その場で爆散する。その一瞬の隙をロゼが駆け、大太刀【紅王】を斧に振るう。飛影は勢いで後ろへと飛び、空中で体を回転させて着地した。
「おめえ……」
「全く。もうちょっと頭を使ったらどうです?」
 氷術を放った夢悠が呆れたように言い、羽純を『キュアポイズン』で回復させる。
「すまない」
「いえ」
「羽純、こっち! ヒール!」
 さらにロゼが羽純を回復させ、太刀を美影に向ける。歌菜が羽純に、心配そうに駆けてきた。
「大丈夫!?」
「なんとかな……ただちょっと、右手をやられただけだ」
「私のせいだ……私が抑えられなかったから……ゴメン、ゴメンね羽純くん」
「あーもう、細かい事ぁいいんだよ」
 涙を浮かべる歌菜の頭を、羽純が軽く撫でて立ち上がり、槍を左手に持ち替えた。
「ただ、右手の動きがちょっと鈍い……手を貸してくれ、歌菜」
「うん……うん!」
 立ち上がた羽純に寄り添うように、歌菜も立つ。
「一緒に戦う! 負けないもん! トリップ・ザ・ワールド!」
 歌菜が叫ぶと、歌菜たちの周りに特殊なフィールドが形成された。フィールドに何らかの力が働いているのか、羽純の手が少しずつ動くようになる。
「かか、来るか。美影、俺らも行くかぁ!」
「そうですわね!」
 飛影と美影が並ぶ。
「来ます!」
 ロゼが叫ぶ。
「ゲブーさん、いいね、なんとかオレが隙を作る!」
 夢悠はゲブーに並んで、声を上げた。
「いいのか、おい、俺様のことが気に入らねえんだろ?」
「そりゃそうだよ。でもね、カッコいいところを見せられるチャンスじゃないか」
 にやりと笑って、夢悠は答えた。
「二人とも……気をつけて」
「おうよ!」「はい!」
 雅羅の言葉に、二人は振り返って言った。
「いい、みんな。一斉にいくよ?」
 ロゼが皆に、なにかを口にした。夢悠とゲブーが、互いを見合わせて笑みを浮かべる。
「なるほど。よっし、任せて!」
「……了解」
 歌菜、羽純も、ロゼの言葉に頷いた。
「行くぜ、美影!」
 飛影が叫び、美影が頷く。ゲブー、夢悠、ロゼ、そして歌菜と羽純は、駆け出した。
「っ!」
 美影が両手の扇を構え、前へと振るった。扇から、先ほど羽純にダメージを与えた針が、いくつも飛び出る。
「雅羅さん、ロゼさん、頼みます! 『ブリザード』!」
 夢悠が手を掲げた。いくつもの氷の塊が飛ばされる。ほぼ同時のタイミングで、雅羅が片手銃を取り出して氷の塊を撃つ。銃に弾かれた針に、夢悠の氷が絡みついていった。
 美影の飛ばした針が瞬く間に凍りついて、大きな塊となってゆく。
「はああああ!」
 その塊を、ロゼが横一閃、大太刀で切り裂く。氷が弾け、両者の視界が塞がる。
「ゲブーさん!」
 ロゼが叫ぶと、今度はゲブーが前に出た。加速した勢いそのまま、拳を弾けた氷へとぶつける。
「おんどりゃあああ!」 
 氷の破片が爆発し、その全てが飛影たちの方へと飛んだ。それには、先ほど美影が飛ばした毒針と、そして大太刀【紅王】に塗られていた、特殊な薬の成分も含まれている。
「あなた!」
 美影が前にで、扇で氷をガードする。
「美影、いいから下がれ……」
 が、氷の破片と一緒に飛んできたものがあった。左手で槍を持ち、高く空に飛び跳ねた羽純が、くるりと空中で槍を回転させる。
「やらせるかよぉ!」
 飛影が前に出る。大きく振りかぶり、羽純がまっすぐ向けた槍を正面から受け止めた。羽純の体が、後ろへと飛ばされる。
 羽純の口元が動いたのを、飛影は見逃さなかった。……俺たちの勝ちだ。口元は、確かにそう動いていた。
 飛影が目を見開き、羽純のさらに上を飛び越え、洞窟の天井ギリギリからこちらに向かって突進してくる影を見た。
「おりゃああああ!」
 その左手、突進の速度を殺さずに振りかぶった攻撃を、飛影はすんでのところで抑える。
 残念だったな……そう、言おうとしたが、それが見えた。歌菜の右手には、もう一本の、槍が。
 にい、と、小さく歌菜は笑みを浮かべた。
「【薔薇一閃】!」
 薔薇の花弁が舞い踊るような、赤い閃きを帯びた突き攻撃。飛影の斧は動かない。その攻撃を飛影は左手を上げ、手首の辺りで受ける。衝撃で、飛影の巨大な体が、数メートルにもわたって後ろへと下がった。
「……ふふふ」
 左手から、一筋の血が流れる。それでも、飛影は楽しそうに笑っていた。
「やるな……完敗だ!」
 斧を下ろし、美影の無事を確認してから、
「かっかっか! 面白かったぜ、久しぶりにな!」
 さらに大声で、辺りに響く声で、飛影は笑った。
「やった……」
 最後の一撃を放った歌菜が、へなへなと地面に倒れこむ。その肩に、羽純が手を置いた。
「あなた、ごめんなさい」
「いいって」
 飛影が美影の頭に手を置く。
「しゃあ、約束だぜ! 宝はいただく!」
 ゲブーが拳を握りしめて飛影に向かっていう。
「やらねえよ。見せてやるだけだ」
 飛影の言葉にゲブーは文句をグダグダと口にしていたが、
「そろそろあっちも終わるだろうからな」
 そう、誰にともなく飛影が口にしていて耳には入っていないようだった。
「見せてやらあ、俺たちの宝を。ついてきな」
 そう言って、飛影と美影は奥へと進んでいった。雅羅たちも、互いの健闘を褒め称えつつ、奥へと向かった。
 




「ふ……」
 朋美、トメの撃つ銃を走り抜けるだけで避け、恭也は壁を蹴った。
 わずかに標準がズレた隙に体を反転、魔銃で彼女たちを狙う。二人はなんとか、ギリギリで回避する。
「そこだね!」
 シメの振るう剣は、同じく剣を取り出して受ける。受け流すのを目的とするため、交錯は一瞬。距離を取って、銃で狙い打つ。
「強い……」
 朋美は銃を避けながら口にした。三人がかりでも、足ですら止めることができない。そのくらいの差があった。
「動きが鈍いでありますよ!」
 吹雪は侍女と対峙していた。近づく侍女たちの足元へと狙撃し、足止めする。侍女たちは避けるのが精一杯で、吹雪に近づけなかった。
「魯粛!」
「はい!」
 ファーニナルと魯粛子敬が接近戦を試みるも、吹雪はライフルを器用に振り回して二人がかりの攻撃をいなし、距離を取りながらさらに攻撃してくる。攻撃は正確で、一度距離を取られると容易に近づくことはできなかった。
「……邪魔すんじゃねえよ!」
 近づこうとするシメを剣で押し返し、遠くから撃とうとする朋美たちへと駆ける。トメが槍を使って抑えようとするが、力関係は圧倒的で、二人はなんとか距離を取るだけで精一杯だ。
「ちっ!」
 恭也がなにかに気づいて後ろへと跳ねる。ちょうど、恭也が立っている場所に、裁の足が入っていた。
「ボクは風」
 距離を取ったはずが、裁は一瞬で恭也へと距離を詰める。
「えいや!」
 そしてそのまま大ぶりの蹴りをかます。恭也は両手をクロスさせてそれを受け、体を回転させて蹴りを繰り出す。裁はしゃがんでそれを避け、今度はまっすぐ拳を伸ばす。恭也は後ろへと跳ねて避けた。
「やるな……」
「そっちもね」
 裁の戦い方は特殊だ。とにかく距離を詰め、相手の苦手な位置で戦う。
 が、致命傷を与えららているわけでもない。恭也はまるで相手の次の動きをわかっているかのように、その都度その都度、最善の方法で前に出、時に下がる。
「甘いですよ!」
 吹雪も戦闘技術ではかなりのものだ。ファーニナルの連携攻撃や、侍女たちの接近すら阻み、カル・カルカーや夏侯惇の攻撃すら、軽くいなす。こちらも、とにかく自分の有利な位置へととにかく動く。
 人数で言えば、圧倒的だ。しかし、戦いは五分……あるいは、吹雪と恭也の方が、少々押しているほどだった。
「お、まだやってんのか」
 突然声が響いて、戦闘が止んだ。
「っ!?」
 恭也は現れた大男に向かって一瞬で距離を詰め、剣を振るう。大男は斧で軽く攻撃を抑え、力だけで恭也を押し返した。恭也はバランスを崩しそうになりながらも、空中で回転してなんとか着地する。
「人数的に余裕かと思ったんだが……なるほど、こっちもなかなかのやり手のようだな」
 現れたのは飛影だ。その後ろには、先ほどまで彼と戦っていた雅羅たちもいる。
「チャンスであります!」
 恭也と飛影の交錯に、吹雪が声を上げて一瞬で部屋の奥へと達した。奥にあるカプセルのスイッチを、押す。
「ダメー!」
 裁が飛び込んで、カプセルに手を伸ばそうとする吹雪を抑える。
「お宝はいただくであります!」
「ダメだよ! こんなに、こーんなに、」
 カプセルが開いて、白い煙が漏れる。カプセルの中が回転し、その中身をこちらへと向けた。
「可愛いのに」
「か……可愛い?」
 裁の言葉に、吹雪が固まる。

 カプセルは完全に、こちらに向いていた。その中身……カプセルに入っていたのは、小さな小さな、赤ん坊が二人。
「ふふ……わたくしたちの宝……初めての、子供ですわ」
 固まっている吹雪の横を通って、美影が双子の一人を抱いた。
「かかかかか! どうだどうだ、可愛いだろう!?」
 飛影も美影の隣に来て、もう一人の子を抱く。
「ほら見ろよ、この青い瞳、美影にそっくりだぜ!」
「あら、こっちの子はあなたと同じ目をしていますわ」
「かっかっか! そら俺の子だからなあ!」
「やーもー、ホント可愛い! 何回見ても癒される〜」
 朋美がほっぺを押さえて少しだけ高い声で言った。
「仲良きことは、美しきかな。あたしも、銀次郎はんと手に手をとって、安房から上方まで、逃げて所帯を持ったさかいになぁ」
 うんうんとトメが頷いて、なにやら話を始めた。
「………………」
 事情を知らなかったものたちが固まっている。
「……赤ん坊だと?」
 恭也が冷めた声を出す。
「そうだよ。赤ちゃん。美影さんと飛影さんの、宝物」
 朋美が多少警戒しつつも、恭也に近づいて口を開く。
「……はは」
 武器を下ろし、恭也は小さく笑った。
「嘘くさいとは思ってたんだが……まさか、そんなもんだとはな」
 大きく息を吐いて、言う。
「その通りだぜ……なんで反応してた、俺様のモヒカン!」
 ゲブーがわなわなと震えて声を出す。
「雅羅さんにプレゼントする予定が……」
 夢悠もどことなく落ち込んでいるようだ。
「すまねえな、雅羅! 俺様のモヒカンもたまにはこういうことあるんだよ!」
「雅羅さん! ごめんなさい、まさか、宝がこういうものだとは知らなくて……」
 ゲブーと夢悠は雅羅に向かって、おのおのの言い訳を口にしているが、
「か、」
「か?」
「か、」
「?」
「か、か、可愛い……」
 雅羅は全く耳に入っていないようだった。顔をほにゃんととろけさせ、二人の赤ちゃんを見つめている。
「み、美影さん! 抱いてもいいですか!?」
「ええ、どうぞ、雅羅さん」
 目をハートマークにして雅羅が近づいていった。
「羽純くん羽純くん! 赤ちゃんだよ赤ちゃん! かぁいいよぉ!」
「……ああ」
 歌菜も羽純の袖をくいくいと引っ張り、
「あははは……こんなオチだとは思わなかったよ」
 ロゼもどことなく、柔らかな笑みを浮かべた。
「ふ……なるほどな。俺の出る幕ではないか」
 恭也は騒いでいるものたちに背を向け、歩き出した。去り際、振り返る。飛影と目が合った。
「次に会ったときは、やろうや」
「……気が向いたらな」
 飛影の言葉に、恭也は少しの間を置いて答える。そうやって、彼はその場を去った。
「宝……財宝……お金持ちの夢が……」
 吹雪は真っ白になっていた。
「ややができた時……産まれたときは、ほんまに、うれしかったわなぁ。知らん土地で、たった二人、から生まれた三人目の家族」
「トメ、どなたはんも聞いてへんよ」
 昔話を続けていたトメの肩に、シメが手を置いた。