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リアクション
第二章 おう、一狩り逝って来いや
――弐ノ島から離れた雲海に、モリ・ヤの漁船は漂っていた。
漁に駆り出された面々の大半は、漁船に積んであった小型船に乗りモリ・ヤが説明した獲物を獲りに向かった。ただ一グループを除いて。
「……釣れるか?」
モリ・ヤが声をかけたのは、退屈そうに頬杖をつきながら葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)を眺めるコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)。
吹雪は漁船の縁から、借りた釣竿の糸を雲海に垂らしていた。
「そこそこ釣れはするけど、ね」
コルセアがそう返事をすると、吹雪の持っていた竿が反応し、引き上げる。
「――ち、雑魚であります」
引き上がった糸についていたのは、パンイチ覆面という怪しいスタイルの雑魚と呼ばれるナマモノである。
手のひらサイズの雑魚を自身の手に乗せると、吹雪は何の衒いも無く握り潰す。
「ぬわーっ!」という悲鳴とほぼ同時に、ぐちゃりと柔らかい物が潰れる嫌な音、そして粘着質な液体が吹雪の拳の指の間から漏れてくる。
だがそんなもん知ったこっちゃない、とばかりに潰れてモザイク必須な姿になった雑魚を「リリース」と雲海に放り捨てると、吹雪はそのまま釣り糸を垂らす。
「まあ、エサも無しに釣れるのは雑魚くらいだからな……というか、何だあの格好? あんな格好で釣りをするなんて初めて見るが、地上じゃああやるのか?」
「んなわけないでしょ……」
モリ・ヤの問いにコルセアが呆れた様に溜息を吐く。
吹雪はただ釣りをしているだけである。ただ、ダンボールの中に入って。それはまるで捨てられた猫のような格好であった。
「ダンボール力を引き出しているであります」
振り返らずに吹雪が答える。
「……ダンボール力?」
モリ・ヤの言葉に吹雪は振り返らず頷いた。
「自分はダンボールから余りにも離れすぎていたであります。こうやってダンボールと一緒にいる事によってダンボール力を引き出しているであります。普段から一緒でないとダンボール力が衰える一方であります」
「何その聞いた事も無い力」
コルセアがげんなりしたように呟くのを聞いて、モリ・ヤは「ああ、やっぱりそんな力ないんだな」と納得する。
「……ん? おい、竿引いてるぞ!」
モリ・ヤがふと吹雪の竿を見ると大きくしなっていた。
「本当……今までのとは違うわ!」
コルセアも思わず声を上げる。今まで釣れていた雑魚とは比べ物にならない引きである。
「ふっ……これぞダンボール力が成せる業であります!」
ダンボール力パネェ。吹雪が立ち上がり、思い切り竿を引き、糸が雲海から上がってくる。先端の針についていた獲物は――
「フゥーハハハーハァー! 呼ばれていないが雲海から我参上ぅぅぅ!」
蛸の外見でもわかるドヤ顔満載のイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)であった。
「リリースであります」
吹雪が呟いた直後、コルセアが何処からか持ち出した挟みで無言で糸を切った。
「ぅぅぅぅぅうおぉぉぉぉぉぉぉぉ! 我惨状ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ――」
イングラハムは悲鳴を残しつつ、雲海へと消えていく。
「ぬぅぅ! 我が同胞を乱獲するとは許すまじ!」
時同じくして、船の近くでパンツ一丁のガチムチ覆面男にしか見えない外見の雑魚が怒りに身を震わせていた。
この雑魚は同じ雑魚でも身の丈が人間ほどある、所謂『最近珍しい骨のある雑魚』であった。
「この雑魚、奴らに一矢報いてぇッ!?」
怒りに身を震わせていたが、そのせいで飛んできたイングラハムを骨のある雑魚は避ける事が出来なかった。
身の丈は人ほどあろうと所詮雑魚。イングラハムに衝突し、そのまま雲海の藻屑となったのである。
「……あれ、アンタらの知り合いじゃないのか?」
雲海に消えていったイングラハムを目で追いつつ、モリ・ヤが問いかける。
「蛸に知り合いはいないであります」
「きっと気のせいよ」
全く表情を変えず答える吹雪とコルセアに、モリ・ヤも「……そうか」と答えるのが精一杯であった。
「それにしても、ナオシの奴……人の事を拉致するわ、牢獄に入れられるわ、揉め事に巻き込まれるわと散々な目に逢わしておいて……勝手に逝くとはだらしねぇであります」
吹雪が寂しそうな笑みを浮かべ、遠くを見つめる。
「ってまだ死んでない! まだ生きてるわよ!?」
コルセアがツッコむが、遠くを見つめる吹雪は気づいていない。今空の上で超イイ笑顔でサムズアップしているのはナオシではなく、イングラハムと雑魚たちであることに。
「……他の奴ら、大丈夫か?」
一方モリ・ヤは、他の獲物を追った面子を心配していた。
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