空京

校長室

戦乱の絆 第2回

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戦乱の絆 第2回
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リアクション

 ヴァイシャリーの館にて

 空京・シャンバラ宮殿――。
 
 代王様、御自らがお発ちあそばされるぞ。
 急げ!
 
 兵士達の怒号が飛び交う。
 ヴァイシャリーへの遠征を前に、宮殿内は慌ただしい。
 
「さ、用意は出来たわ! 行くわよ、みんな!」
 高根沢 理子(たかねざわ・りこ)は「斬姫刀スレイブオブフォーチュン」を掲げた。
 意気揚々として、宮殿・出口の方角へ向ける。
 【理子代王護衛チーム】の前原 拓海(まえばら・たくみ)は、スッと跪いて進言した。
「恐れながら、西シャンバラ・ロイヤルガードとして……いや、日本人として!
 やはり、理子代王の遠征には賛成致しかねます」
「拓海?」
「戦地へ赴かれるのは大変危険です!
 御身に何事かあってからでは、遅いのです」
 西王陛下! 心の中だけで叫ぶ。
 一瞬の間――。
 理子は明るく笑うと。
「ありがとうね、拓海」
「では、お考え直して……」
「でもね、拓海と同じくらい、ジークリンデも大切なんだ! あたし」
「…………」
「だから、ジークリンデが望むのであれば、叶えてあげたいかな?」
 軽い口調だが、確固たる決心がうかがえる。
 拓海は頭を振って、では、と申し出た。
「わかりました。
 俺もフィオナもお供します。
 ですが、危ないと感じた時は素早くお逃げください。
 この身が理子様の盾となりましょう!」
 
 その後幾人かが理子に進言したが、やはり理子の考えは変わらなかった。
 彼等は総て、理子のアムリアナを思う心に打たれ、彼女と行動を共にあることを決心することとなる。
 
 ■
 
 同刻・ヴァイシャリーの館。
 
 セレスティアーナ様ぁーっ!
 代王様、どこにおいであそばされますかぁーっ!?
 
 館の至る所で、セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)を捜すメイド達の声が聞こえる。
 アイシャに脅えて、どこかへ隠れてしまったらしい。
 
 秋月 葵(あきづき・あおい)エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)はやれやれと思いつつ、地下倉庫で出るタイミングを見計らっていた。
 葵の足下には、すねにしがみつくセレスティアーナの姿。
「い、嫌だぞ! アイシャとか言う女と会うのは!!
 そ、そうだ! 葵、私をどこかへ隠すのだ!
 あの女の目につかぬどこかにだ!」
「はいはい、分かりましたよ。
 では、『安全な』あたしの部屋へ行きましょうね?」
 そうして、葵は溜め息をつきつつ、自分の「執務室」で彼女をかくまうこととなった。
 
 五条 武(ごじょう・たける)神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)の執務室から出てきた。
「よし、承認は取り付けた。
 これで俺も、正式にセレスの護衛役だぜ!」
 優子から携帯電話を通じて指令が下る。
「わかった! セレスは秋月葵の執務室なんだな?
 俺も向かうぜ!」
 電話を切って向かう足取りは、空気よりも軽い。
「これも、最愛のセレスのためさ!
 セレスぅー、待ってろよ! 俺が盾になってやるぜ!」
 イビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)は武を一刻も早く送るべく、バイクに変形する。
 ドルン、ドルンとマフラーをふかしつつ。
「ったく。奥手な相棒の手伝いというのも、気苦労が絶えませんね……」

 ■

 第七龍騎士団はヴァイシャリーの館内で、準備を整えつつある。
 そこに、2名が各自のパートナーを連れ、入団を申し出てきた。

 相田 なぶら(あいだ・なぶら)、とパートナーのフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)
 鬼崎 朔(きざき・さく)と、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)

 計4名である。
 
「オレが団長のヘクトルだ、これはパートナーのシャヒーナ
 若い、少年と言ってもよい年齢の男が騎士団の前に立った。
 傍らに控える女は、ニカーブで顔の大半を隠している。
 
 儀礼的に片手を差し出すヘクトルに対して、「その前に」と質問を求める者がいた。朔だ。
「龍騎士団から見て、塵殺寺院をどう思う?」
「無礼者! 団長の好意に対して、何たる態度を……」
 いきり立つ団員達を「まあ、いい」と制して、ヘクトルは興味深げに朔を眺めた。
「オレに質問か。慎重なことは良いことだ」
 ありがとうございます、と律儀に一礼する。
 ヘクトルは、「それで何を問いたいのだ?」と朔を促した。
「龍騎士団から見て、塵殺寺院をどう思う?」
「鏖殺寺院、か。
 現在の鏖殺寺院こそ、地球人の醜さを端的に表している、とオレは思うがな」
 嫌悪の表情。
 ヘクトルの回答には迷いがない。
 朔がひそかにかけた「嘘感知」にも引っ掛からなかった。
「これで、よいのか?」
「え? あ、はい、ヘクトル団長!」
 自然と口調が柔らかくなる。
「どうやらおまえの眼鏡に、オレは叶ったようだな」
 ヘクトルはクククッとおかしそうに笑った。
 
 いま1人の希望者・相田なぶらは、入団の動機を問われて、
「一騎士としてついて行き、色々な事を学びたいと思う」
 と答えた。
「第七龍騎士団は戦場での赤十字による活動を認めたりと、良識のある対応を見せる立派な『騎士』の集団。
 学ぶべきことも、多いかと」
「なるほど、立派な心がけだ」
 ヘクトルは真摯に頷いた。
「龍騎士団で、『騎士道精神』を学ぶがいい。
 期待しているぞ! なぶら」
 
 4名はヘクトルの了承の下、全員仮団員として無事入団を果たした。
 
 ■

 第七龍騎士団の事があらかた片付くと、ヘクトルはアイリスや神楽崎優子の下へ向かった。
 東シャンバラ・ロイヤルガード達や配下の者達との連携を、再度通達するためだ。
 
「ヘクトル……」
 ホールの大階段にて。
 聞覚えのある声で、ヘクトルは振り向いた。
「緋桜ケイと悠久ノカナタ……だったかな?」
「名前を覚えていたとは、光栄だな」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)は恭しく一礼した。
「ロイヤルガードへの再通達は、いま行うところだが?」
「いや、俺達は、その……チョット聞きたいことがあって……」
「聞きたいこと? 時間がないのだがな」
 とは言いつつ、ヘクトルは機嫌よく向き直る。
「で、質問とは?」
「地球に行って絶望した、と。前に話していたな?」
 ああ、とヘクトルは頷いた。
「興味があってな。
 以前、地球の世界各地を放浪したことがあるのだ。
 そこで目にするのは、嫌なものばかりだった」
 特に、と眉根を寄せる。
「恋人と一夜を明かした女を焼き殺そうとする、とかだな」
「や、焼き殺す?」
 ケイ達はぎょっとして目を見開く。
 そうだ、とヘクトルは頷いた。
「中東のとても保守的な地域ではあったが。
 蛮族が、パラミタで勢力をふるうなどもってのほかだ!」
「……で、その女はどうなったんだ?」
「もちろん、助け出されたわ」
 シャヒーナの声。
「業火も顧みず、ヘクトルは必死で救出した。
 そんな彼に惹かれて、私は契約したの」
 二カーブからのぞくエキゾチックな両眼を細める。
「おぬし、地球人であったか……」
「そうよ、カナタ。昔はね」
 大仰に肩をすくめる。
「でも地球の事は捨てて、エリュシオンに来た。
 彼のお陰で、自由を勝ち得たの。
 ヘクトルには感謝しているわ!」
 ヘクトルを顧みた。
 その目は信頼の光で満ち溢れている。
 
 この男……ただの「騎士」ではなく、「傑物」ということ、か……。
 
 フッと、息を吐く。
 ケイの心は定まった。
 
「ヘクトル、君達をその……俺に守らせてはもらえないだろうか?」
「? それは、どういう意味だ?」
「気にいった、ということさ。それで十分だろう?」

 ■

 空京の動きが東側に通達される。
 アイリス達を通じ、アイシャに面会希望者がいることをヘクトルが聞いたのは、直後のことだった。