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リアクション
黄金と白銀 2
「どうやら……秋人さんも持ち直したようですね」
「ああ。そうでなくては……戦いは務まらん!」
サブパイロットであるパートナー、有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)に声を返して、菜織は再び敵機へと向き直った。モニターに映る情報は、美幸が収集して不可変予測してくれたものだ。不知火が情報をもとに空を駆ける。
地上では、カナン軍と神官軍の歩兵部隊がぶつかり合っていた。城門を守るのは、決してイコンだけではない。まして、城門を開いたときに突撃するのはカナン軍を率いるシャムスたちだ。菜織たちは、そのために空より道を切り開く遊撃隊である。
眼下に見える南カナンの騎士――『漆黒の翼』の面々。つい先日までは、あの中に混じって戦っていたのだ。そう思うと、感慨深いものが菜織の胸に宿る。
「彼らの道を切り開く! 行くぞ、美幸!」
「了解! 敵機行動予測。パターンTX――タクティカルモード入ります」
加速度を増した不知火の大型クラスターが、微調整に入る。敵機も反撃に入ってビームを撃ちこんでくるが、クラスターが軌道を修正し、不知火にかすり傷一つつけなかった。そして、気づいたときには敵機に迫っている。
敵が限界速度に近づいた不知火の姿を捉えるよりも早く、すでに攻撃は開始されていた。地上に向けてライフルを放射していたイコンたちに、だ。
飛び出したのは、弾力炸裂弾――いわゆるクラッカー弾というやつだ。一発の弾丸が中空でいくつもの破片のようなものに分かれると、敵機に無数の穴を穿つ。そこに、反転減速してライフルを構えた。
「照準3機捕捉」
「はあああぁぁ!」
気合の声。ライフルの引き金が何度も絞られると、続けざまに弾丸が敵機を穿ち、破砕した。爆発の音を聞いた地上兵たちが、一瞬顔を上げるも、すぐに戦いに集中した。騎士の大剣が敵を切り裂くのを確認する。
「[bold}アムドたちも頑張ってるようだな……こちらも、負けてられん」
「ええ……あのごく潰しにも、笑われるわけにはいかないですしね」
「ごく潰し?」
一瞬菜織は怪訝な顔をしたが、すぐに合点がいったのか「ああ……」と薄く笑った。
菜織たちの戦いは、空の翼とも言えた。地上にいる漆黒の翼騎士団の役目――民を守る翼となることを己に課して、菜織たちは戦う。
その小隊の中にいる如月 正悟(きさらぎ・しょうご)もまた、イコンに乗って空の戦場にいた。
「……正吾?」
「…………」
サブパイロットとして搭乗しているパートナー、エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)の声を聞いても、正吾は耳に入っていないようで黙りこんでいた。その視線は、まるで何かを探すように宙と地上を行き来している。
すると、エミリアのモニターに橘 恭司(たちばな・きょうじ)の姿が映った。
『エミリア。正吾はどうしたんだ?』
「恭司さん……」
正吾たちと同じくイコンに乗って戦場に立っている恭司。友人であり、部下でもある正吾の動きがいつもと違うことに、彼は気づいていた。エミリアが目を伏せるのを確認して、恭司は促した。
『美那……いや、エンヘドゥのことか?』
「はい……多分」
エミリアの心配そうな声を聞いて、恭司はややこしそうに唇を曲げた。
もしかしてと思っていたが、やはりそうか。心ここにあらずといったように、落ち着かない様子である。ざっと戦場を見回してみても、エンヘドゥの姿はない。不安は募るばかりなのだろう。気持ちは分からないではない……。
しかし――今は戦いの最中だ。
『正吾、聞こえるか?』
「恭司……さん」
『エンヘドゥが気がかりなのは分かる。だが、いまは戦いに集中しろ。お前がやられては、エンヘドゥが見つかってもどうしようもないぞ』
「…………はい」
しばし正吾は逡巡していたが、ようやく頷いた。
なんとか、万全の体勢とまでいかなくとも落ち着きを取り戻したようだ。敵機の撃墜へと向かった正吾のイコン――ヴィゾーヴニルの姿を見送って、恭司はため息をついた。
そこにサブコックピットから声がかかる。
「相変わらず、主はお人よしですね」
「放っておいたほうが良かったのか?」
「主の戦闘を裂いてしまうという意味では、そのほうが良かったかもしれませんが……まあ、こちらのほうが主らしくて良いかと」
くすっと笑った恭司のパートナー、ミハエル・アンツォン(みはえる・あんつぉん)。彼は、恭司の代わりに担っていたイコンのコントロールを元に戻した。
再び自分の手に戻ってきた操縦感覚。恭司は、ぼそりと呟いた。
「悪いな……手間を取らせた」
「いえ。微力ですが……私に出来ることであれば」
恭しく言ったミハエルは、再びサブコントロールへと移った。敵機の機影光点が、恭司のモニターに映し出される。
(エンヘドゥか……厄介なことにならなければいいが)
意識の片隅に黒い影を感じながら、恭司は己がイコン――マルマンを飛翔させた。
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