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夏休みを取り戻せ!(全2回/第1回)

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第4章 氷の城、探索のこと

 羽瀬川 セト(はせがわ・せと)とパートナーの魔女エレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)の先導で、冬の女王を説得に向かうグループは、空飛ぶ箒で氷の城へ向かっていた。
 セトたちは、ロープでお互いの身体を結び、はぐれる人がいないよう気をつけながら、怪我を避けるために低空飛行を行っていた。
 ナイトであるセトは、前衛として、メンバーを守るために警戒するように飛行する。
 「気をつけてくださいね。ミアは軽いから、突風で飛ばされてしまうかもしれません」
 「何を言っておるのじゃ! 本職の魔女である、わらわをあなどるなよー」
 パートナーのエレミアを気遣うセトに、エレミアは赤いポニーテールを揺らして笑顔で答える。
 セトたちは、慎重に飛行したおかげで、安全に氷の城の入り口へとたどり着くことができた。
 一方、徒歩のメンバーも、渡辺 鋼(わたなべ・こう)とパートナーのシャンバラ人セイ・ラウダ(せい・らうだ)によって、お互いをロープで繋いで迷子を防ぎ、助けあいながら氷の城に向かっていた。
 スノーシューやピッケルなどの登山道具を用意し、コンパスを見ながら、鋼たちは慎重に歩を進める。
 「それにしても、すごい雪やな。皆、気をつけて歩いていこうな」
 「今はそれほどでもないけど、いきなり吹雪くことがあるからね。疲れてる人がいたら無理しないでね!」
 鋼とセイが、仲間達に注意を促しながら先導する。
 そして、防寒と迷子対策を徹底したおかげで、鋼たちも、ほどなく氷の城に到着したのだった。
 氷の城は、まるで、真っ白なガラスでできたような外見で、その姿はとても優美だった。
 城といっても、戦争の拠点ではなく、王侯貴族の住居といった雰囲気である。
 入り口の大きな扉は、意外なことに、手で押すだけで簡単に押し開けることができた。
 城に入るなり、八雲 瑠輝(やくも・るき)とパートナーの吸血鬼双海 詩音(ふたみ・しおん)は、片っ端から扉という扉を開けては閉める、という行動を始めた。
 「ふふふふ、絶対、お宝を手に入れてやるぞ。ん、瑠輝! 何をしているのだ!」
 コンピューターRPGの主人公よろしく、部屋を隅から隅まで調べていた詩音は、瑠輝が扉を閉めて回っているのを見て、叱咤の声を上げる。
 「だって、オラ、調べるにしても、扉は開けたら閉めるのが常識だと思うんだよ〜」
 瑠輝は困ったような顔を浮かべながら、のんびりと答える。そして、急にその場でがくがくと震え始めた。
 「ど、どうしたのだ、瑠輝!」
 「さ、寒いよぅ……」
 瑠輝は能天気なことに、防寒対策を行わずに、氷の城に来てしまったのだった。
 「あ、アホかおまえはー! なんで今まで平気だったのだ!」
 「わ、忘れてた……」
 キレる詩音に、瑠輝はてへっ、と笑って答える。
 「大丈夫か? 自分ら、予備の防寒着持ってるから、よかったらこれ着ててな?」
 鋼は、予備のコートを瑠輝に渡す。
 「あ、ありがとう〜」
 コートを羽織る瑠輝に、ハティ・チェンバレン(はてぃ・ちぇんばれん)も、自分の装備を差し出す。
 「ボクも、滑らない靴とか、ロープ、松明、お酒なんかを持ってきてるんだ。よかったら、これで温まってよ」
 ハティにお酒を手渡され、瑠輝は笑顔を浮かべる。
 「ありがとう、皆、しっかり準備してるんだねぇ」
 「おまえがしっかりしなさすぎだっ!」
 瑠輝を叱り飛ばす詩音の声が、氷の城にこだまするのだった。
 四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)とパートナーの魔女エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)も、氷の城の部屋の探索を行っていた。
 唯乃の目的は、部屋を涼しくするため、魔法の氷を持ち帰ることだった。
 金色の瞳を好奇心に輝かせながら、小柄な唯乃は、小動物のように走り回る。
 「きれいな調度品! これ、全部、氷でできてるのね」
 「ゆ、唯乃ッ……! 待って欲しいのですよーぅ……」
 唯乃より、もっと小柄なエラノールが、一生懸命パートナーについてまわる。
 「エル、ほら、これ見て! とっても綺麗ね」
 唯乃は、壁の一部を削った氷の欠片を、エラノールに見せる。
 「わあ……」
 エラノールは、小さく感嘆の声を上げる。
 氷の欠片は、唯乃の手の中できらめいていたが、体温によってだんだん溶けているようであった。
 「部屋を涼しくするのは無理みたいね。じゃあ、後でかき氷にしようっと」
 にっこり笑って、唯乃は氷をさらに削りはじめるのだった。
 冬の女王を説得するメンバーにくっついて来ていた暁 晴謳(あかつき・せいおう)は、観光気分で氷の城を見学していた。
 「すごいなあ。こんな光景、めったに見られないよ。来てよかったなあ」
 晴謳は、すべてが氷でできた大広間やシャンデリア、ソファや窓などを見て、黒い瞳を細める。
 一方、晴謳のパートナーでヴァルキリーのフェイル・ファクター(ふぇいる・ふぁくたー)は、氷の城の脅威から、晴謳を護衛するために全力で警戒に当っていた。しかし、特に危険は感じられなかった。
 「どうやら、罠や攻撃してくる相手はいないようですね。晴謳様に危険が及ばなくてよかったです」
 そうつぶやきながら、フェイルはパートナーの横顔を見つめた。
 セイバーの十倉 朱華(とくら・はねず)は、「禁猟区」で、危険がないかどうか警戒をしていた。しかし、特に反応はなく、害をなす存在は迫っていないようであった。
 リカ・ティンバーレイク(りか・てぃんばーれいく)も、城の構造を調べながら、アーデルハイト捜索に当っていたが、罠や兵士などは見当たらず、敵意のようなものは感じられなかった。
 「城に入ったら、「冬の女王」が攻撃してくるかと心配してたけど、今のところ、そういう気配はないみたいだね」
 「そうですね。迷いやすい構造にもなっていないですし、順調に進んでいますね」
 朱華の言葉に、リカは手書きの城の見取り図を見せながら答えた。
 「うん、これで、救出がうまくいけばいいんだけど」
 朱華は優しそうな赤褐色の瞳で、城の奥を見つめた。
 そんな中、水神 樹(みなかみ・いつき)とパートナーの剣の花嫁カノン・コート(かのん・こーと)は、罠を全力警戒しながら、氷の城を走っていた。
 「女性を人質に取るなんて、許せないわ!」
 武術道場を営む家に生まれ、武士道を重んじる樹は「冬の女王」の行動に憤りながら、ガンガン進んでいく。
 比較的、穏やかな性格のカノンは、樹の剣幕に少し驚いていたのだが、一緒に警戒態勢で進んでいた。
 (寒いから帰りたいとか言ったら怒るんだろうな……)
 カノンは、樹の横顔を見ながら、やはり怖いので言い出せないな、と思った。
 百合園女学院の生徒のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)も、健脚を活かして、城の中を突っ走っていた。ミルディアはアスリートなので、特に足元の防寒対策は万全であった。
 ミルディアのパートナーの守護天使和泉 真奈(いずみ・まな)は、チームの連携や電話連絡など、ミルディアのサポートに集中していた。
 「アーデルハイトさんはどこにいるんだろうね。やっぱり、お城って言うだけあって広いんだね」
 「まだ、発見したという連絡は来ていませんわね」
 ミルディアは、無造作に束ねた赤いロングの髪をなびかせて走る。
 そのやや後ろから、真奈はチームメンバーの様子に注意を配りながら、パートナーを追っていた。
 蒼空学園の生徒荒巻 さけ(あらまき・さけ)は、アーデルハイトは城の中の暖かい場所にいると予想して、捜索を行っていた。
 「あの扉の向こうはどうなってるのかしら。少し、光がもれてきていますわ」
 さけは、ひときわ豪華な装飾が施された扉を指さした。
 「よし、踏み込むわよ!」
 樹は、扉を両手で思い切り開いた。カノンと、ミルディア、真奈、さけが、それに続く。
 そこでは、アーデルハイトが、コタツに入ってアイスを食べていた。
 「うむ、やはり、冬はコタツでアイスにかぎるのう」
 樹とミルディアは、そのまま盛大に部屋の中にスライディングしていき、カノンと真奈とさけは、呆然とした表情で、満面の笑みをたたえるアーデルハイトを見つめるのだった。