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第五章

 再び更衣室。
 インヴィジブルポーズが現れた後、小麦粉まみれの更衣室は今やだれもいない。
 いや、一人いる。 薄茶色のショートウェーブの優しい目をしたメイドの高務野々(たかつかさ・のの)が、掃除をしていた。
「これくらいでいいですね」
 更衣室は既に小麦粉が除かれ、以前の清潔な部屋に戻っていた。
 本来は、足跡一つ残さず綺麗にし、足跡が突然ついたらそこにインヴィジブルポーズがいる事がわかるという寸法だったが、小麦粉だらけの更衣室を見て、ついつい掃除を始めてしまった。
 更衣室から出る野々。そこに、青髪ショートの目つきは優しいが貧乏そうなソルジャー、青空幸兔(あおぞら・ゆきと)が来る。
「ここがインヴィジブルポーズの出たっちゅう更衣室かいな」
 幸兔に気づいた野々が話しかける。
「あなたもインヴィジブルポーズを捕まえる方ですか?」
「も、っちゅうことは、あんたもか?」
「はい、私はリスクの無いスリルには意味が無いと思うんです。でも、インヴィジブルなんてノーリスクじゃないですか。私は絶対に認めません」
「そ、そうやな……」
 突然まくし立てられ、驚く幸兔。
「あら、すみません、私ったら。それでは、囮の下着に気を付けて下さい」
 そういうと、ののはどこかに行ってしまう。
 囮? そんなものに掛る訳が無い。
 幸兔は魔法学校の制服を着ているが、本当は蒼空学園の生徒だ。
 なぜ、魔法学校の制服を着ているのか? それは、彼の目的がパンツだからだ。
「さ〜て、もうなんもないやも知れんが、一応見とくかいな」
 彼は聞いた、魔法学校の一部の女子生徒の下着がお宝の地図になってると。
 そして、今回の事件。まさに天の導き。今ならインヴィジブルポーズの所為にする事もできる。
 その為にも、自分が疑われぬように、男子更衣室で発見した制服を拝借したというわけだ。
 早速、更衣室に入る幸兔。中は綺麗に片付けられている。
「お宝お宝〜♪」
 ロッカーを一つ一つ開けて行くと、なんと、パンツが入っていた。
 幸兔はパンツを手に入れた。
 と、その瞬間、ドアの外から声が聞こえた。急いでパンツが入っていたロッカーに入り、閉めると同時に、更衣室のドアが開く。
「あ〜やっぱり遅かった〜!」
「仕方ありませんわ。ここに来るのに時間が掛ってしまいましたもの」
 赤髪ロングの小柄で子供っぽいメイドミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)とそのパートナーの乳白金色の髪をロングウェーブにした、知的で優しそうな守護天使、プリーストの和泉真奈(いずみ・まな)が更衣室に入って来た。
 二人はここに来る途中、落ちていたパンツを拾ってしまい、犯人と疑われてしまったのだった。
 何とか疑いは晴れ、更衣室に出たという情報を聞き、急いで来たのだが既に騒ぎの痕跡も無かった。
 幸兔は思った。早く出て行ってくれと。
 まさか、騒ぎが収まったここに来るとは思っていなかった。甘かった。
「しかし、犯人は犯行現場に戻ると聞いた事がありますわ」
 真奈がそう言うとミルディアは。
「そうよね! それじゃあ、ここで隠れてよう」
 そう言うと、二人はロッカーに隠れる事にする。
 そして、幸兔の入っているロッカーに手を掛ける。
「学校の平和と下着を護る、ヴァンパイアプリンセス☆シャーロットちゃん参上なのですぅっ! インヴィジブルポーズ様、そろそろ大人しく捕まると良いのですよぅ〜っ!」
 突然、扉が開かれたと思うと、桃色の髪をツインテールにしたプリーストシャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)が叫ぶ。
 その姿はミニスカートに白いロリ服とニーソックスでオプションに白い傘が付いている。そして、下にはピンクの水着を着ている為、パンツじゃないから恥ずかしくない、との事。
「あれぇ? インヴィジブルポーズ様いないですぅ」
「もう、ここにはいないみたいですよ?」
 真奈が教えてあげる。
「そうなんですぅ? ありがとですぅ!」
 そう言うと、シャーロットはどこかに駆けて行った。
「それじゃ、改めて……」
 ミルディアが再びロッカーを開けようとすると、携帯が鳴り響く。
 メールの着信だった。ある人から情報を提供すると言われ、アドレスを教えておいたのだ。
「階段に出たって!」
「急ぎましょう」
 二人は慌ただしく更衣室から出て行く。少しして、ロッカーから幸兔が出てくる。
「大丈夫やろか?」
 とりあえず、更衣室から出る事にする。ゆっくりとドアを開き外を伺う。誰もいない。
「よし、今や……」
 更衣室から出て、一息ついた瞬間、何かがぶつかって来た。
「どわぁぁあぁ!?」
 その場に倒れると、ぶつかって来た者も倒れかかって来た。
「ついに捕まえましたよインヴィジブルポーズ!」
 それは、金髪ロングの巨漢のセイバー佐々木真彦(ささき・まさひこ)が、更衣室から出てくる男子を見て、突撃した結果だった。
「オラはインヴィジブルポーズなんかじゃ……」
 それ以上反論はできない。なぜなら、ポケットにはパンツが入っていた。言い訳はできない。
「くっ!」
「さぁ、透明になる魔法を教えて下さい。じゃないと、人を呼びますよ?」
 幸兔は焦った。このままでは自分が犯人にされてしまう。しかし、巨漢の真彦の拘束を解くことはできない。
 そうこうしている内に、誰かが駆けてくる。さっきの二人か、それともヴァンパイアプリンセス☆シャーロットちゃんか……。
 そこに来たのは、ツンツンした銀髪の目つきは悪いがカッコいいセイバーの葉月ショウ(はづき・しょう)だった。
「なんだ、どうしたんだ?」
「ああ、実は更衣室から出てきたこの人を捕まえました。恐らくインヴィジブルポーズではないかと」
 真彦はまだ魔法について聞いて無かったため、残念な表情をしたが、今は諦める事にする。
「奴なら、階段の方に出たらしいぜ?」
「そうなのですか?」
「ああ、俺が代わりに拘束しておくから見てきたらどうだ」
「そうですか、ではお願いします」
 真彦はショウに拘束を任せ、階段に向かう。その時、小さな声で幸兔は聞いた。
「力を緩めるから、力づくでも逃げろ……」
 その瞬間、自分を抑えつける力が緩む。幸兔は思い切りショウを突き飛ばし、逃げる。
「うわぁ!」
 その声を聞いて、真彦が戻り、逃げる幸兔を見て追いかけるが、バナナに滑ってしまう。
 ショウの計画通りだった。彼はインヴィジブルポーズを追いかける人をからかい、悪戯をして楽しんでいた。
 結果的にインヴィジブルポーズを助ける事になっていた。
 幸兔は何だかわからないが助かったと思った。しかし、不幸はまだ続いた。
 野々とミルディアと真奈とヴァンパイアプリンセス☆シャーロットちゃんが騒ぎを聞き、戻ってきていた。
 幸兔は自分を落ち着かせる。大丈夫、パンツがポケットにある事がわからない限り、何もされない。そういえば、パンツはちゃんと入ってるのか確認する。
 野々たちとすれ違う。
 無い。どこに行ったのか、ポケットに無い。
「ちょっとあなた」
 突然、背後から肩を叩かれる。バレてないはず。バレてないはず。
「背中のはなにかな?」
 ベリッ! という音と共に何かを幸兔の背中から取る。
「あれぇ、私のパンツですぅ」
 と、ヴァンパイアプリンセス☆シャーロットちゃんが言う。
 そのパンツは更衣室のロッカーにいれたという。
「じゃあ、どうしてあなたの背中に貼ってあったのかな?」
 明らかに疑われている。
「こ、これは罠や! オラを陥れる罠やッ!!」
「確かにそうですね。自分から背中に貼る人はいません」
 と、野々は言うが、続きがある。
「でも、その小麦粉はなんですか?」
 幸兔の足元を指さす野々、そこには小麦粉で若干白くなった幸兔の靴。
「実は、まだ完全に小麦粉を取って無いんです。ロッカーの中などは掃除してないんです」
 野々の肩越しにショウの姿が見えた。笑っている。これもショウの計画通り。ポケットからはみ出ていたパンツを抜き取り、背中に貼ってから解放したのだ。
 今度こそ、幸兔は死を覚悟した時だった。
「どいたどいた〜!」
 二人がドタドタと走って来た。

 数分前。
 黒髪ショートの肌が綺麗なローグ羽高 魅世瑠(はだか・みせる)は、金髪を後ろで束ねたパートナーの剣の花嫁、同じく肌が綺麗で美少女なプリーストフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)と供に、窃盗行為に勤しんでいた。
「ヒャッハー! といってもロクなモノがないな」
「いいじゃん、さっきのパーツは売れば高くなりそうだよ」
 二人はとある機晶姫のパーツを盗む事に成功していた。今回の騒ぎで、罪は全てインヴィジブルポーズが被ってくれる。
 他にもパンツを回収していた。囮用のモノだったが、ローグの魅世瑠は難なくいくつかゲットしていた。
「よぉし、次はここだ」
 そこは『第二女子更衣室』と呼ばれる場所だった。単純に二つ目の更衣室だ。
 魅世瑠は隠れ身を使い、中に入る。その間フローレンスが外で見張り役になる。
 更衣室に入った瞬間、魅世瑠は足元にペンキが塗られている事に気がつく。しかし、大して気にせず、いくつかロッカーを開けて行く。
 ロッカーにはパンツしかなかった。一応回収しつつ、次々に開けて行く。すると、突然ロッカーが開く。
「そこまでですわ!」
 ロッカーから出てきたのは銀髪ロングウェーブの剣の花嫁、胸は小さい美少女プリーストミント・フリージア(みんと・ふりーじあ)だった。
「ちっ、罠だったか」
 魅世瑠は更衣室の扉を開け逃げる。そこにはフローレンスと黒髪を後ろで束ねた美少年ナイト當間光(とうま・ひかる)がいた。
「ここは通さないぜ」
 その後ろにはパートナーの金髪ロングの育ちが良さそうな剣の花嫁、プリーストのミリア・ローウェル(みりあ・ろーうぇる)がいた。
 校長に罠の認可を得に言っていたが、校長室から悲鳴が響き、返事が返ってこなかった為、仕方なく戻って来た。今は無許可だが、みんなも無許可で罠を仕掛けているから問題は無い。
 そして、光の兄であり、ミントのパートナー、黒髪をポニーテールにした優しそうな美少年ウィザード當間零(とうま・れい)が空いていた方からやってくる。
「観念しなさいインヴィジブルポーズ」
 囲まれた魅世瑠とフローレンス。
「仕方ない、こいつでも食らいな!」
 魅世瑠は持っていたパーツを零に投げつける。その隙をついて逃げるが、足跡が付いている事に気づく。
 さっきのペンキはこの為のモノだった。
 仕方なく、魅世瑠は靴を脱ぎ捨て、逃げる。
 しかし、それすらも零の作戦の内だった。
 脱いだ靴から、逃げられても犯人を特定できるという作戦だったが、その必要も無さそうだった。
 見失わぬように追いかける零たち。

 二人が逃げる先に幸兔がいた。魅世瑠たちは体当たりでもしそうな勢いで駆け抜ける。
 その勢いにミルディアたちが唖然としている。幸兔は好機と逃げるが、すぐに気付かれて追いかけられる。
 後から零や光らも追いかけてくる。
 魅世瑠が逃げた先に、焦げ茶色のパンクな髪型をした不良っぽいソルジャーの永夷零(ながい・ぜろ)とそのパートナー、綺麗な長い銀色の髪をした機晶姫、セイバーのルナ・テュリン(るな・てゅりん)がいた。
「なあルナ、なんでパンツなんか盗むんだろうな? 何かに使ったりするのかな?」 
「いきなりセクハラでございますか。それよりも、今はあの二人を何とかした方がよろしいのでは? このミスター武士道」
 二人の目には魅世瑠がパンツを持って逃げていた為、インヴィジブルポーズに見えていた。
「そうだな、理由は本人に聞くか。ついでにパンツも回収しておくか?」
「そうですか、二代目インヴィジブルポーズを襲名するおつもりですか」
 その後、上手く逃げられてしまったが、パンツを回収する事には成功した。
 後から来たミルディアたちに渡したが、犯人捕縛には至らなかった。謎の機晶姫にパーツと思われるモノは、落し物扱いにしておく。
 そして、ここの騒動は本物のインヴィジブルポーズの所為では無い事は誰も知らない。ついでに幸兔もいつの間にかいなくなっていた。逃げられたのか、まだどこかにいるのか。それもわからない。