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リアクション
第2章 行動開始
夜。図書館の閉館時間を過ぎ利用者がいなくなったところで、いよいよ各自が作戦を開始する。
「ああもう本探しだなんて面倒くさいのに……仕方ないわねー」
昼の授業に放課後のバイトで疲れている永久はかったるそうに言う。
「でも私たち成績よくないし。断って心証悪くしたくないから一応真面目に探しますかー。誰かが先に見つけるだろうけど」
(面倒くさいなら適当に探す振りだけしておけばいいのに。こういうところ永久は律儀なんだよね)
パートナーの三池 みつよ(みいけ・みつよ)はそう思ったが、口には出さない。
「あんまり奥にはないっていう校長の話を信じて、入り口の近くから始めますか。どうせ私たちじゃ奥には行けないだろうし。本の情報はちゃんとメモしてあるよね?」
「ばっちりだよ」
みつよが自信満々にメモを見せる。
「うわ、きったな。やっぱりみつよにしか読めないわそれ」
「ええ、そうかなあ」
「まあみつよが読めるならいいわ。んじゃ、あまり人が探してないところを手分けして見ていきましょう。何かあったら携帯で連絡してね」
「うんわかった! それじゃあ突撃―!」
みつよは元気いっぱいに駆け出す。しかし、一人になって夜の図書館が思ったより不気味なことに気がつく。
「永久も一人で怖いだろうから、こまめに連絡をとってあげよう。べ、別にボクは平気だけどね!」
一人で探すよりも協力して探した方が効率はよい。仲の良い者同士でグループを組む生徒がいるのは自然なことだ。ソアはパートナーの雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)を率いて緋桜 ケイ(ひおう・けい)、そのパートナーの悠久ノ カナタ(とわの・かなた)と一緒に本を探すことにした。
「無事に見つかったら教えてやる、か」
「そうなんです。気になりますよね」
ケイの発言にソアが答える。
「きっと思い出の本なんだろう。なんとかして見つけ出してやりたいもんだぜ。生意気な校長ではあるが、俺にできることなら年相応の子供として喜ばせてやりたいからな」
「エリザベートは、やさしい本だからそんなに奥に行く必要はないと言っておったな。まあ天才の言うことだから、わらわたちにとっては難しい部類に属するのだろうが。それでも、この広大な図書館で多少なりとも範囲を絞れるのは重要なことであろう」
カナタが落ち着いた声で言う。
「だな。それにいくら目録がいい加減だからといたって、本はなんらかの傾向でまとまっているはずだ。それを考えながら探していこう。あとはまあ、せっかくだ。探しもののついでにできる範囲で本を整理してやろう」
「ケイ、優しいんですね。私もお手伝いしますっ!」
ソアが言う。
「今後図書館を使っていくためにも、誰かがやらなきゃいけないことだからな。本が多すぎて司書さんも困ってるんだろうよ。じゃあ早速手分けして始めよう」
ソアたちとケイたちは二手に分かれる。
「ケイ、見ての通りわらわは子供のような背をしておる。肩車をしてくれ」
背より高い棚に手を伸ばしたいとき、カナタはケイにそう言う。
「ええ、肩車あ? 仕方ねえなあ」
なんだかんだ言ってケイはカナタの言うことを聞く。
「うむ、おぬしならきっとそうしてくれるとわらわは信じておったぞ」
カナタは満足そうな顔をする。
「しかし肩車しにくいなあ。いつも着物なんて着て、窮屈じゃないのか?」
「わらわは日本生まれ、日本育ちの魔女だからな。着物はいいぞ。気が引き締まる。どうだ、ケイも着てみては? 女にしか見えぬそのかわいらしい顔立ちなら、きっと似合であろう」
「おい、冗談言うなよ! 俺は男だって言ってるだろ!」
異議を唱えるケイを、カナタは愉快そうに見ていた。
「校長先生が昔読んでいた本ですかー。私自身、立派な魔法使いになるために修行中の身ですから、校長先生が今になってまた読みたくなるほどの魔術書なんて聞いたら、すっごく気になっちゃいますっ」
ソアは興味津々といった様子で本を探す。
「無事に本が見つかったら、今度私にも貸してもらえるよう、校長先生にお願いしてみましょう」
「あの校長のことだからどうだかなあ。全く毎度のこととはいえ、あのわがままっぷりはなんとかならんもんかね。やっぱり子供は、ご主人くらい素直な方が可愛いぜ!」
「もう、ベアったら!」
「ま、何にせよ本を見つけないことには始まらないな。さっさと済ませちまおうぜ」
ベアは本探しなんて面倒くさかったが、ソアに対しては過保護気味だ。方向音痴なソアがこの迷宮のような図書館で迷わないよう、ベアは彼女に同行しつつ常に現在位置に気を配っている。そしてソアが「あー、あの本私じゃとれません」と言えば「ご主人、俺様がとってやるよ」と助け船を出し、「あ、あれ! でもあそこはベアでも届きませんね……」と言えばケイと同じように肩車をしてやるのだった。
春告 晶(はるつげ・あきら)と永倉 七海(ながくら・ななみ)、優菜とカナンの四人もグループで行動している。
「一応本の情報は聞けたけど、漠然としすぎてるんだよね。アキ、他に何か知らない? 図書館マスターになりたいんでしょ」
七海が晶を見て言う。
「図書館は……毎日……来てる。けど、『詳説魔術体系』は……見たこと……ない」
「そっか。なら地道に探すしかないのかな」
「校長が……触った……本なら、校長の……魔力……探れたかも。でも、校長が……読んだの、ここのじゃ……ない……みたいだし。著者とか……ちゃんと……聞いておけば、よかった……」
「いやあ、あの校長のことだもん。どうせ『覚えてないですぅ』とか言うに決まってるよ」
「そうですよ、晶くんが気にすることありません。私たち四人が力を合わせれば、きっと見つかります。頑張りましょう」
優菜も晶を元気づける。
「ゆっち……ありがとう。うん……やさしい……ところのは、ほとんど……読んだ。大丈夫な……はず」
晶はこくこくと頷きながら言葉を紡ぐ。
「それじゃあアキは下の方をよろしくね。俺は中段を探すから、優ちゃんとカナンちゃんは……」
「私は目線の高さから下を重点的に探しますね。高いところは兄さんお願いします」
「うん。任せて」
「よし、みんな頑張ろう!」
七海の言葉を合図に、四人は目星をつけたエリアをしらみつぶしに探し始める。
「どう? アキ。楽しい?」
懸命に本を探す晶を見て、七海が尋ねる。
「うん……楽しい。図書館は……学校、来て……はじめて……見た……場所。好きなだけ……本、読める……の……嬉しい。でも……今日は……頑張って、本……探す。ナナも……ゆっちも……ナンナンも……いてくれる、から……」
「そっか、よかった。図書館マスターに一歩近づいて、校長先生の喜ぶ姿も見られたらいいね」
「校長先生が……読みたがる、本。どんな……本か……気になる。先生と……お話も……して、みたい……」
「うん、頑張ろう」
二人の会話を聞いて、優菜は晶がこんなに喋るのはめずらしいなと思った。
「私も負けていられませんね」
優菜は蒼空学園の生徒であるにも関わらず、わざわざここまでやって来た。それは友人である晶たちと協力するためというのもあったが、何より自分たちを目の敵にしているエリザベートに悪意はないことを少しずつ見せ、和解したかったからだ。
例え自分が本を見つけてもエリザベートには「蒼空学園なんて」と言われるかもしれない。優菜はそれでもよかった。思想や思考の違いがあっても、言葉を交わすことはできる。だから、本を手土産にまた一つ言葉を交わしたい。積み上げた時間がいつか花開き、わかりあえる日を信じて。
それに――
「私はもう一人じゃないから」
「ん、何か言った?」
「なんでもありませんよ、兄さん」
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