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第3章 塔の入口での戦い

 塔の外でも戦いは繰り広げられていた。入口付近では、一部の生徒たちが、塔内への突入経路を確保し続けるべく、泥人間と戦い続けていたのだ。


 ウィザードのロイ・エルテクス(ろい・えるてくす)は、この突入経路確保の役目を買って出た。
 ロイは、近づいて来る泥人間たちを火術で攻撃してみた。泥に、火が効くのか不安なところもあったが、炎をで水分がなくせば泥人間の体は脆くなり、簡単に崩せることが分かり、ロイは次々に敵を撃退していった。

 ロイには、パートナーであり、ロイに魔法を教える指南役でもある魔女のミリア・イオテール(みりあ・いおてーる)が同行していた。二人は塔までの移動中に、ギャザリングヘクスで魔法攻撃力を高めておいた。これが功を奏し、二人の攻撃は多くの泥人間たちを撃退された。

 また、ギャザリングヘクス以上に、「ミリアと共に戦っていること」が、ロイを強くさせていた。
 ミリアの的確な指示とサポートで、ロイは攻撃力を増している。二人にとってここは、戦いの場であると同時に、絶好の修行の場ともなっていた。ロイの成長を嬉しく思いながら、ミリア自身も攻撃を繰り出した。
「邪魔をするなら……容赦はしません」
 無口なミリアがこの言葉を口にすることは、完全なる戦闘モードに入ったことを意味する。
 ミリアが放った火術の炎が、入口に近づこうとする泥人間に向かって放たれた。


 ウィザードの御凪 真人(みなぎ・まこと)は、パートナーでヴァルキリーのセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)とのコンビネーション戦法で戦うことにした。
 まず真人が火術の炎を泥人間に放ち、その後セルファが脆くなった体を砕いていく。二人の絶妙のコンビネーションで、敵は面白いように倒されていく。
「水分が無い泥はただの土、砕けて大地に還りなさい」
 真人がそう言えば、セルファも、
「さっさと土に還れ!」 「一体も逃がさない!全部壊すよ!」
 と叫びながら敵を打ち砕いていった。

 事件が発覚すると、セルファは多くの友人がさらわれたことに激昂した。そして、真人が冷静な言動を保っていることについ苛立ち、怒鳴りつけてしまった。
「この冷徹、冷血人間!」
 しかし今、自分と共に全力で戦い続ける真人の姿からは、激しい憤りが伝わって来る。
 真人のそんな姿に、セルファの士気も一層高まるのだった。


 ソルジャーの閃崎 静麻(せんざき・しずま)も、パートナーでヴァルキリーのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)と協力して、突入経路確保のために戦っていた。
 日頃は面倒臭がり屋で、やる気のない男に見える静麻だが、今回は珍しく、自ら戦いに挑むことを決めた。
 もし、自分のパートナーも同じようにさらわれていたら……。そう想像し、仲間たちの心中を思うと、静麻はいても立ってもいられなくなったのだ。
 静麻はアサルトカービンで、敵に狙いを定め、何体も撃ち倒していった。

 真面目な委員長タイプのレイナにとっては、静麻が自らやる気を見せてくれたことが何よりも嬉しかった。
 静麻が花嫁救出に協力すると言うと、レイナも喜んで静麻と戦うことを決意し、ここへやってきた。レイナはカルスノウトを手に、捕らえられた仲間たちのために、そして静麻のために奮闘し続けた。


 セイバーの九条 夏芽(くじょう・なつめ)は当初、花嫁の救出のために塔の最上階へと向かおうとした。
「命の危険にさらされている者たちがいるんだ。救出活動を優先しよう」
 夏芽のその考えに、パートナーでヴァルキリーのルシア・ローゼ(るしあ・ろーぜ)が異を唱えた。
「救出にはそれぞれの契約者が向かっているでしょう。障害を取り除き、救出活動を援護する者も必要なはずです。違いますか?夏芽」
 ルシアのこの言葉に、夏芽は納得した。
「……そうだな。もっと状況をよく見るべきだった。すまない、ルシア。あたしたちは、救出活動を速やかに行えるよう援護をする」
「理解していただけて何よりです」
 ルシアがそう答えると、すぐさま二人は入口付近の泥人間たちへと挑みかかっていった。


 ウィザードの氷見碕 環生(ひみさき・たまき)は、幸いにも、剣の花嫁のパートナーをさらわれずにすんだ。
 環生のパートナーは高遠 響夜(たかとう・きょうや)だ。
 環生はエンシャントワンドや火術での攻撃を繰り出し、侵入経路の確保に励みつつ、負傷者の治療にもあたった。
 響夜はというと、環生の身を守るよう注意を払いつつ、自分も攻撃を仕掛けている。環生が負傷者の治療をする際には、響夜もそれに手を貸した。 決して自分のそばを離れることのないパートナーを、環生は頼もしく感じていた。

 しかし治療の最中、環生はあることに気が付いた。響夜が治療を施す相手は女性ばかり。更に、相手が美人となると、ひときわ熱心に治療している。響夜は重度の女好きなのだ。
「よろしければ、この後お食事でも……」
 そんなことまで言い出している響夜に、環生は黙っていられなくなった。
「こんなときに、一体何をしてるんです!」

 響夜は、長年の封印を解いてくれた環生には頭が上がらない。イタリア男並みのナンパテクニックはひとまず封印し、ここは戦闘と治療に専念することにした。


 ソルジャーの弥隼 愛(みはや・めぐみ)は、塔に向かってくるときから自分の役割を決めていた。花嫁の救出、砲台の破壊の方に向かう者はおそらく大勢いるだろう。自分は、彼らの救出、破壊活動がスムーズに行われるようサポート役に徹しようと考えた。
「自分はそこまで威力高い攻撃ないしー、だったら出来る事した方が早いッしょ?」
 というわけだ。
 塔にたどり着くや、愛は周囲にいた者たちに声をかけ、砲台への道筋を作るよう先導した。その後は、入口に背を向け、ひたすら泥人間の侵入を防ぎ続けた。
 仲間を救いたい……。皆のその切なる願いが、強力なチームワークを生み出していた。


 セイバーの出水 紘(いずみ・ひろし)の口癖は、「あ?眠ぃ、適当にやろうや」だ。
 そんな紘も、多くの友人たちのパートナーがさらわれるという状況には、黙っていられなかった。大切な人を失い、失意のどん底に落ちた経験を持つ彼は、花嫁救出に力を貸そうと決意した。
 戦闘の場で、紘はいつになく熱くなっていた。
「連中の絆を絶つ権利なんか、誰にもありゃあしねえんだよ!」
 ふだんとは違う荒っぽい口調で、そんなことを叫びながら、紘はツインスラッシュを放ち続ける。その攻撃が、絶え間なく襲ってくる敵を倒して行った。


「誰にもパートナーを失ってほしくない」
 初めて事件を知ったとき、ウィザードの柊 まなか(ひいらぎ・まなか)はそう強く感じた。それは自分自身がパートナーとの絆を大切に思っているからこそ、湧き上がってくる感情だった。

 まなかのパートナーは、シャンバラ人のシダ・ステルス(しだ・すてるす)だ。
「まなかが戦うというのなら、俺は彼女の盾になる」
 シダは、そう決めて、この戦闘の場に同行してきた。
 シダが来てくれたことで、まなかは「全てが解決するまで、戦い抜いてみせる」という自信を持つことができた。
 二人は、シダが前衛、まなかが後方支援という形で戦い始めた。シダのチェインスマイトと、まなかの火術。二つの攻撃が、合わさって敵を一体、また一体と倒していく度、二人の絆は一層深まっていくのだった。


 セイバーのゴザルザ ゲッコー(ござるざ・げっこー)と、そのパートナーでヴァルキリーのイリスキュスティス・ルーフェンムーン(いりすきゅすてぃす・るーふぇんむーん)は、塔へ向かう間にこんな会話を交わしていた。
「ゲッコーくん、今日はシリアスな日だから『華麗に美しく』舞うんだよっ」
「任されよう! ……師匠、気高く華麗に美しく目立つと薔薇学にスカウトされるでござるよ」

 ゲッコーは、ふだんからイリスを「師匠」と呼び、彼女の命令には逆えない。
 戦いの火蓋が斬って落とされるや、二人は得意のバーストダッシュで一気に泥人間の集団に詰め寄り、高速で移動しながら斬りつけていった。文字通り、舞うように二人は戦い続ける。
 泥人間の「返り血」ならぬ「返り泥」を浴び、泥まみれになったゲッコーが言った。
「これは、まさしく泥仕合でござるな!」


 セイバーの坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)は腹を立てていた。と言っても、多くの仲間たちのような、「パートナーや、仲間をさらわれたことへの怒り」とは少々訳が違っていた。
 剣の花嫁であるパートナーの姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)が、「さらわれなかったこと」が鹿次郎には気に入らないのだ。どうやらヒロイックファンタジーの王道的展開の方が、好みにあっていたらしい。

 姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)の方も、ヒロインになりそこねたことが不満なようで、まるでウサ晴らしでもするかのように、泥人間たちに向かっていく。

 鹿次郎は、光条兵器を使おうと思った。剣の花嫁をさらわれておらず、戦力が充実している者として、当然とるべき対処だろう。
「昼飯にとんかつをつけるでござるから光条兵器を拙者にィー!!」
 鹿次郎は、雪にそう叫んだ。いつもお腹をすかせ、「飯を食わせてくれない人に出す光条兵器は無い」が信条の雪には、この頼み方が一番有効なはずだ。ところが、雪の返事はこうだった。
「たとえ特上うな重でも許しません。渡しません」
 雪は腹立ちまぎれに、自ら光条兵器を振り回した。メイスと光条兵器の二刀流で、泥人間の頭潰し、バラバラにぶった斬る。このぐらいやらなくては、今日の雪の苛立ちはおさまりそうもない。


 ウィザードのセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)と、セイバーのレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)は、ふだんから凹凸コンビとして知られている。今回の戦闘でも、二人はコンビを組んむことにした。
 小型飛空艇で塔へ向かう間に相談をし、セシリアはレイディスの後方から火球を泥人間に放つ、その後、レイディスが剣で泥人間の体を砕いていく、と分担を決めた。

 泥人間を前に、火術で火球を生み出したセシリアが叫ぶ。
「行くぞ、レイ! 蒼学の凸凹……あれ、凹凸じゃっけ? まあどちらでもよい。そんな名高い私達のコンビネーション、見せてやるのじゃ!」
 レイディスも意気込んでこう答えた。
「セシー! 俺たちで、この泥木偶野郎共を土に帰してやろうぜ!」
 二人の息はぴったりと合っており、レイが死角から攻撃を受けそうになると、レイが後方からすかさず敵を撃退した。
「危なかったのう、レイ。私の見事なフォローに一杯感謝するといいと思うのじゃ♪」
「はいはい、感謝してますよ」
「ってなんじゃその投げやりっぽい態度はー!?」
 軽口を叩き合いながらも、二人が攻撃の手を緩めることはなかった。


 セシリアとレイディスは、塔に向かってくる途中、機晶姫の朝野 未羅(あさの・みら)に会った。パートナーの朝野 未沙(あさの・みさ)にいつでもくっついている未羅が、珍しく一人でいることに、セシリアたちは驚いた。

 未羅は、友達の剣の花嫁をここ数日何人も見かけなくなったため、不審に思い、未沙に相談をした。未沙は、光状砲台の出現を知ると、すぐに調査に行くと言って出かけ、そのまま帰って来ていない。
 未羅は未沙も花嫁たちと一緒に捕らわれているのではないかと案じている。
「お姉ちゃんが心配なの!」
 涙ながらにそう言う未羅を、セシリアとレイディアスは塔まで連れてきた。
 塔に着くと未羅は、未沙を捜しに塔に駆け込んで行った。