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エクリプスをつかまえろ!

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エクリプスをつかまえろ!

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「ケテル〜」
 天文部のテントに鼻の下を伸ばした周が乱入してくる。
「は、はい」
「疲れただろう? はい! 『エクリプス焼き』! たーんとお食べ」
 ラブラブ光線を発している周には見向きもせず、ケテルは『エクリプス焼き』を受け取る。
「あ、ありがとうございます。えっと、どちら様ですか?」
「え? 俺のことを忘れたのぉ? ああ、忙しくて眠ってないんだね。そういうときこそ、甘い物が必要さ。俺が食べさせてあげるよ。これでケテルの記憶も目覚め、王子様と熱いキッスを…」
「いや、それは俺が。ケテル、疲れただろう? ん?」
 そこにベアが急に乱入してくる。
「きー! ベアったら! ようし、こうなったらマルクト! 『エクリプス焼き』よ! あーんして!」
 その姿を見たマナが対抗心を燃やし、周から『エクリプス焼き』を奪い取り、マルクトに迫った。
「えええ? ぼ、僕は遠慮しておきます」
「ほーら見たことか、マナ。お前では役不足なんだろう。さあケテル、お食べ、はい、あーん」
「何よ! バカクマ!」
「バカクマとはなんだ!」
 マルクトは必死にそんな二人をなだめようとするが、ケテルは周も無視して黙々と『エクリプス焼き』を食べている。
「なんじゃこら〜」
 自分の思惑とは全く違った展開に、周は頭を抱えるが、
「『エクリプス焼き』はまだまだ残っている…! この混乱からとりあえず抜け出して、女の子たちに愛の『エクリプス焼き』を配ってこよう! …愛しのケテル! またくるよ! 味わってくれ、俺からの愛、『エクリプス焼き』!」
 と、テントを再び飛び出していったのだった。テントの中はすったもんだで大騒ぎだったが、ケテルは意に介さず、もくもくと『エクリプス焼き』を口に運んでいた。
「意外に美味しいわね」

「ケテルさん」
 真彦が声をかけてくる。
「なにかしら?」
「実は心配なことがあってですね…私は天候をずっと記録しているのですが、どうも明日から嵐が来そうなんです」
「ええ?」
 ケテルの顔色がさっと変わる。
「確かに今夜半から、天候が崩れてしまうようですわ」
 アマーリエが、天候レーダーの画面を見て深刻な顔をしている。
「とりあえず、生徒にアナウンスを。その上で、テントなどが風に飛ばされないように指示して。それから雨に対する対策をして。『星見石』近辺の機材も撤収。それで、明後日、エクリプスの当日の天気は?」
「朝までは確実に雨らしい…」
 虚雲が答えると、ケテルががっかりと肩を落とす。
「私たちの機材だと、多少の曇りでも太陽が欠けていく様子はとれますな。そう、肩を落とさないように」
「そうだよ、ケテル」
 ミヒャエルとマルクトの励ましに、ケテルも顔を上げるが非常に険しい顔つきだった。
「ここまで来たってのに…」



第5章 エクリプス

 七日目早朝−
 予想通り、五日目の夜半から雨がざんざんと降り出し、六日目の朝にはテントから出られないような状況が続いていた。一日中、生徒たちはテントの中でじっと時を過ごしただけだった。
「ああ、屋台が出せない〜、あがったりじゃのう〜」
 義純はテントの中から、外を眺めている。
 
 ティアはテントで巽も手伝わせて、山のようにてるてる坊主を作っていた。
「神様仏様女王様、どうか観測日は一日中快晴になりますように、お願いします……」

 エクリプス観測当日になっても、雨は降り止まない。
 早朝六時。世紀の天体ショーを見ようと、御神楽環菜校長もキャンプ地に到着したところだった。
「嵐は収まらないようね」
 派手なレインコートに身を包み、天文部のテントにやってくる。天文部も重苦しい空気に包まれていた。
 その時、荒巻 さけ(あらまき・さけ)日野 晶(ひの・あきら)が、御神楽環菜校長に面会を求めてきた。
「なにかしら」
 さけが環菜校長に詰め寄る。
「校長。高精度天体望遠鏡があれば確かに観測はできるかもしれません。でも、全員が等しく楽しめるようにするために、晴れさせてはいただけないでしょうか?」
「それは私に天候操作の資金を提供しろということかしら」
「はい」
「お願いします」
 晶もすらりとした体を折り曲げ、さけと一緒に頭を下げる。
「そうしてあげたいのはやまやまだけれど、天候操作は今からでは準備に時間がかかりすぎるわ。それに、その天候操作が、エクリプスに悪い影響をもたらす可能性がないとは断言できないの。…それに、『ホンモノ』のエクリプスを、あなたたちも見てみたいとは思わない?」
「た、確かに…」
 さけも晶も、言葉を無くしてしまう。
「私は天才トレーダーと言われた人間よ。確かにお金も持っている。生徒たちの願いも聞いてあげたいけれど、出来ることと出来ないことがあるわ。それに何より、エクリプスというのは、選ばれた人間しか見ることが出来ないものだと私は思うわ。みてごらんなさい、この雨と嵐。これは偶然ではないわ。あなたたちは試されているの。これはデイ・トレード、そう、バクチと一緒よ。バクチの天才の私が言うんだから、間違いない。だから願い、祈りなさい。太陽の首根っこを掴むくらいの気合いを見せなさい。そして自分たちがエクリプスにふさわしい人間かどうか、ここで一か八かの勝負に挑みなさい、そしてそれを引き寄せなさい」
「判りました。このプロジェクトに参加したからには、自分でエクリプスを勝ち取れ、と仰るのですね」
 さけの緑の瞳がキラキラっと光る。
「そうよ。簡単に手に入るものなんて、面白味のないものだわ。それに、私に頼む前に他に手段があるかもしれなくてよ」
「他に手段が…?」
「天気を変えるなんて、どうしたらいいのか…」
「あ、あの」
 そこに、みこととフレアが現れる。
「なにかしら」
「成功するかどうかは判らないんですが…私たちで、太陽をあがめる儀式をやってもいいですか…?」
「それはなに?」
「フレアは、召霊の儀式を受けてから、精霊達の声の様なものが聞こえるんです。どうやら、その精霊達によると、晴れと雨はフィフティ・フィフティ。だから、フレアが精霊達に頼んでみる、と言っています。それにオレも、力を貸せると思います!」
時枝 みことは召霊の剣【シャルバラム】をぎゅっと握りしめている。
「お願いします!」
 さけも晶と顔を見合わせると、みこととフレアの手を握る。
「はい…!」