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第4章 踏み込みし禁断の領域

-PM19:20-

 2階でクローゼットの中に潜伏していたレーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)は、空京の町へ出かけていくマグス姿を窓から確認すると後を追った。
「(町に行ってまた子供を攫ってくる気であろうな・・・)」
 レーゼマンはそう心の中で呟き、対象に気づかれないよう慎重に歩く。

-PM20:00-

 町に辿り着いたマグスがフルートを吹こうとした瞬間、攻撃の機会を窺っていたレーゼマンが吸血鬼に向かって銃を発砲する。
 騒ぎに気づいた住人たちが何事かと窓から外を覗く。
 悔しそうに舌打ちをした彼は、その場を立ち去っていった。
「これで今夜はもう何もできないであろう。まぁ・・・念のため監視したほうがいいだろうな」
 勝ち誇った顔で去っていく吸血鬼の後姿をつける。
「次はどこへいくつもりだ・・・なっ・・・何だ!?」
 後を追っている途中で、突然町中になり響きだした音に驚く。
「これでどんな深い眠りも覚めるわよね」
 初島 伽耶(ういしま・かや)アルラミナ・オーガスティア(あるらみな・おーがすてぃあ)の2人はラジカセからモスキート音を流し、けたたましく真夜中の町に響かせる。
「えぇ、これでフルートの音色も消せるわ」
 吸血鬼の行動を妨げたアルラミナは楽しそうに言う。
「このラジカセで町中歩こうー!」
「そうだやっちゃえ!いけいけゴーゴー♪」
 騒音を撒き散らしながら、伽耶とアルラミナは空京の町を練り歩き始める。



「もうここから出ても大丈夫だな」
 大時計の裏に隠れていたリリは、ひょっこりと顔覗かせて周囲の様子を窺う。
 玄関の戸を開けると、彼女の協力者たちが待っていた。
「子供たちはこの家の地下室にいるのですか?」
 大草 義純(おおくさ・よしずみ)の問いかけに、リリはこくりと頷く。
「ところでもう1度地下に行くにはどうすればいいでしょう・・・」
 すぐに中に入れると思っていた影野 陽太(かげの・ようた)は疑問を投げる。
「それは中からソアたちが、テーブルの床下にある入り口を開けてくれれば・・・」
 言葉を言い終える前に、リリはしまったという顔をしてセリフを途切れさせた。
「1度閉じたら開かないんですね」
 義純の言葉にリリは無言で頷いた。
「もしかしたらですが・・・本と絵画の謎を解けば行けるかもしれませんよ」
「それと1つの謎はフルートの音色でどうやって人々を眠らせたり、催眠状態にしてるかだねぇ」
「俺的にはフルートの音色には、何か魔法がかかっているように思えるな」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)の疑問に答えるように、永夷 零(ながい・ぜろ)が推理する。
「ブシドー・ウスタンの俺が、この謎を解いてみせるぜ!」
「和と洋どっちかにしてください・・・。落ち着いているのか、ハイテンションなのかイメージしづらいんですよね」
 深いため息をついたルナ・テュリン(るな・てゅりん)は、ぼそっと零へツッコミを入れる。



-PM20:20-

「ねぇ・・・おじいちゃん。吸血鬼にも悪い人がいるんですか?」
 アロイス・バルシュミーデ(あろいす・ばるしゅみーで)と並んで歩いている新宮 こころ(しんぐう・こころ)は彼を見上げて問う。
「そうじゃのう・・・人間にも悪さするヤツがおるじゃろ。吸血鬼の中にもそういった輩はおるんじゃよ」
「今やっていることは悪いことですって、教えてあげれば良くなるのでしょうか・・・」
 悲しそうな顔をするこころの薄茶色の髪を、アロイスは黙ったまま優しく撫でてやる。
 2人が小屋の前に辿り着くと、村雨 焔(むらさめ・ほむら)アリシア・ノース(ありしあ・のーす)が、小屋の中で捜査している仲間にマグスが帰って来る頃合を知らせるため見張り役に立っていた。
「事件に協力しに来たんですけど、中に入っていいですか?」
「あぁ構わないぜ」
「一緒に頑張ろうね」
 アリシアの笑顔に、こころはつられてニコッと笑う。
 小屋の中に入るとすでに数人、いなくなった子供たちを探している人たちがいる。
「うーん・・・ここにも抜け道らしき痕跡もありませんわ。そっちは何か見つかったかしら?」
 戸棚の裏や台所の床をノックしてどこかに空洞がないか、荒巻 さけ(あらまき・さけ)は抜け道を探していた。
「いいぇ、手がかりらしきものは特に何もありませんねぇ・・・」
 同じように抜け道を探していた日野 晶(ひの・あきら)は、床に座ってふぅとため息をつく。
「2階はどうかしら」
 捜査状況を見ようと、さけが2階の部屋を覗く。
「やっぱりこの絵とそこの3冊の本・・・何か関係あると思うんだけど、どうおもう・・・?」
 絵画を見ながら如月 陽平(きさらぎ・ようへい)シェスター・ニグラス(しぇすたー・にぐらす)に訊く。
「どうでしょうねぇ、他の人の意見も聞いてみましょうか」
「わたくしが思うには、窓から目につきやすい所なんて・・・あからさまな感じもしますけどね」
「それだったら昨日ここに調べに来た子がいるから、メールで聞いてみますね」
 先に潜入捜査にきたのぞみに訊こうと、こころは携帯電話からメールを送る。
「返事が返ってきましたよー。えーっと・・・絵画と本は何か関係あるみたいですね。その3冊の本を1階の本棚へ戻すと何か秘密が解るかもしれないという内容です」
「僕の推理だと1段目に空の本、3段目に冥府の絵柄の本・・・最後の5段目に地上の本を入れればいいと思うんだよね」
 階段から2階に登ってきた陽平が推理する。
「あっ、それともし順番を間違えると・・・本から呪いっぽい触手が出るってメールに書いてあります」
「の・・・呪いて何ですか!?」
 話を聞いてしまった陽太はビクッと身を震わせる。
「もし間違ったらどうなってしまうんでしょうか!」
「さっさぁ・・・のぞみ姉さんたちは直接捕まったわけじゃないので詳細は分かりませんが・・・」
 詰め寄る陽太に気圧され、こころは1歩退く。
「うぅ・・・そう言われるとなんだか不安になって気ました」
「それなら・・・もっと単純に考えれば謎が解けるんじゃないかな?」
 北都が横から口を挟む。
「なるほど、考えすぎなければ簡単に分かることですね」
 彼の言葉に義純が納得したように頷く。
「天を支配し悪魔・・・これは空と冥府に置き換えて考えてみるといいのでは?」
「ということは冥府は空よりも上の位置ということですか」
「だから邪悪なる魂を打ち砕きし大地の聖者ってタイトルから推測すると、悪魔は冥府にいる存在・・・」
「つまり地上の本は冥府よりも上ってことなんだね」
 義純の推理に陽太とリリ、北都が説明を加える。
「さっそく、この本をその順番で入れてみましょう」
 本を抱えた陽平が1階へ降りていき、彼に続けて義純たちも階段を下りていく。
「・・・では・・・本棚にセットしますよ」
 陽平は最初に5段目へ地上の本を入れて3段目に冥府の本を入れ、そして最後の1段目に空の絵柄の本を本棚に戻す。
 すると1階のテーブルの床下にある隠し扉が開いた。
「何かあったら呼んでください」
 さけと晶を含む数名はその場に残り、零とルナたちは地下へ通じる階段を降りていった。



 ピチョン・・・ピチョン・・・と雨音が地下内に響く。
「だいぶ薄暗いな・・・足元に気をつけろよアリシア」
 焔は今にもつまずいて転びそうになりそうなアリシアの手をつないで先頭を進む。
「うぅ・・・何かでてきそうですね」
「それは・・・陽太さんの後ろに・・・!」
「ぎゃぁああー!?何するんですかー!」
 冗談混じりに義純が陽太の背後でからかい、予想通り彼は絶叫を上げる。
「いやですねぇ、ほんの冗談ですよ」
 クスクスと笑う義純とは真逆に、驚かされた陽太は思わず涙が出そうになった。
「そんでもって鳥肌が・・・」
「ひぁあああー!!」
 アリシアも便乗し、背伸びして人差し指で陽太の首をつっつく。
「あっはは。おもろい、おもろい♪」
「こらアリシア!」
「えへへ、ごめんなさーい」
「もう、ちょっとそこー!何遊んでいるんだよ」
「いいんじゃないか面白いし」
「何を言っているのですか、遠足に来たんじゃないんですからね」
 ルナがさりげに零へツッコミを入れた。
「あのー・・・そこに誰かいるんですか?」
 コントのようなやりとりをしていると、どこからか少女の声が聞こえてきた。
「生存者がいるようですね・・・。私たち救出に来た者ですけど、どの辺にいらっしゃいますかー?」
「そこから右の角を曲がって少しいったところ・・・あっ!ここですここ」
 声の主は扉をドンドン叩き、ルナたちに位置を知らせる。
「頑丈そうな扉ですね・・・どうやって開けましょう?」
「僕にまかせてください!」
 アサルトカービンを構えて、義純は壁と扉の隙間へ銃弾を浴びせる。
 僅かに出来た隙間に手を入れ、力任せに無理やり開く。
「皆さんありがとうございます」
「お礼なんていいですよ。それよりも他の子を早く外へ出してあげましょう」
「マグスのやつがいない今なら、騒音立てても平気だしな」
 やっと自分の出番だとベアはニッと笑う。
 彼らは牢屋のような部屋に閉じ込められている子供を手早く出してやると、足早に階段を上って小屋の外へ向かった。
「これで全員か?結構な人数いるな・・・」
 50人くらいの幼い子供たちの数を見て焔は唖然とした。
「えぇそうですね・・・。正直、僕たちも驚きましたよ」
 苦笑いをして義純はため息をつく。
「残念ながら、すでに亡くなっていた子もいるようですね・・・」
 動く気配の無い子を見ながら、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)は涙で緑の瞳を潤ませて悲しそうな顔をする。
「可哀想に・・・とても怖い思いをしたんでしょう」
セラ・スアレス(せら・すあれす)は亡くなった子の頭をそっと撫でた。
「この子たちを早く安全な場所に移動させてあげませんと・・・」
「そうじゃのう。もうそろそろ子供たちを運んでくれる人が来てくれるはずなんじゃが」
 セトの言葉に頷いたエレミアは、まだかまだかと運搬役の人物を待つ。
「無事でよかった、怪我はなにか?」
「私たちは大丈夫ですよケイ。それよりも・・・」
「あぁ・・・」
怯えた目をした傷だらけの子たちの姿に、ケイは心を痛める。
「ヤツが戻ってくる前に、さっさと空京に向かった方がいいじゃろうな」
「そうだよね、怪我の手当てもしてあげなきゃいけないし」
 カナタの言葉にアリシアが賛同する。
 協力者を小屋の前に集め一同、空京へ向かう準備を始めた。