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リアクション
●第二章 少女は何者なのか?
カイン率いる一行が門への道を切り開くべく奮闘している最中、別方面から『魔物を率いている少女に接触する』目的で進攻を続ける一行の存在があった。
「さて、と……その少女に接触するったって、どこにいるか分からないんじゃ話にならないねえ」
紫煙をくゆらせながら、クレハ・アルトレシア(くれは・あるとれしあ)が魔物の軍勢を見据えて呟く。
「やはり、魔物を率いているというからには、あの中におるのじゃろうな。呼ばれておいそれと出てくるはずもなかろうて」
隣に立ったメフィルシア・フェレス(めふぃるしあ・ふぇれす)の意見に、クレハも頷く。
「やっぱりそうなるよな……すぐに話ができたら苦労はないんだけど」
言ってクレハが、吸殻を携帯灰皿に仕舞い、新しい煙草に火を点ける。
「のう、クレハ。そんなにそのタバコとやらがいいのかの?」
「ん? ああ、これ? んー……いいとかそういうんじゃなくて、何ていうか、癖? 煙草吸う奴はだいたいそんなもんだろ。何か目的があって吸っているってわけでもないし」
煙を吐き出し、クレハがメフィルシアの質問に答える。
「ふむ、そういうものかの。わしにも一本分けてたもれ」
「未成年はお断りだよ」
「むむ、わしはとっくに大人じゃぞ! 子ども扱いするでない!」
「はいはい、分かった分かった。……それに、身体にはあんまりいいモンでもなし、止めといた方がいいよ」
「むー……クレハがそういうなら、そうするかの。さて、どうするかの?」
「どうするもこうするも、行くしかないんじゃないの? 魔物を倒すのは少なくとも損じゃなさそうだし、そうしないと目的が果たせないし」
クレハが辺りを見渡せば、戦闘の準備が着々と進められている。どうやら一行の総意として、ある程度の戦闘は避けられない雰囲気であった。
「そのようじゃの。なあに、わしに任せておけ、魔物なぞわしの炎で燃やし尽くしてやろう。ゆくぞい!」
「ま、期待してるよ」
煙草を横ぐわえしたクレハが、得物を手に微笑んで答える。
雄叫びをあげた魔物が、無数の火弾を身に受けて倒れ伏す。飛んできた火弾の大元に立つ少年が、尊大な様子で立ち尽くしている。
「少女に接触するために魔物を倒すと決めたなら、やる事はひとーつ! 即ち、全ッ部纏めて、フッ飛ばすッ!」
威勢よく声を張り上げたウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が、ワンドの先に先程より巨大な火球を生み出し、魔物の群れへぶつける。直後轟音と爆風が発生し、辺りに居た魔物たちが跡形もなく塵と化していた。
「す、すげえ……あんなにいた魔物が全て……やっぱ魔法ってすげえんだなー」
「し、師匠だってすごいよ!? どうやったら剣から炎を出せるのか僕はすごく知りたいよ!?」
「何でって言われても……こう、集中してふん! と振れば出る、としか答えられないなあ……」
その光景を目の当たりにした犬神 疾風(いぬがみ・はやて)が感動の言葉をあげ、月守 遥(つくもり・はるか)の問いに困った顔で答えていた。
「うおぉ……い、今ので魔力を使い果たしたようだ……も、もう一歩も動けん……」
そして、当のウィルネストは、派手な攻撃がたたったのかげっそりとした表情を浮かべ、今にも地面に突っ伏しそうな様子であった。もちろん、魔物たちがそれを放っておくはずもなく、地上と空中の二面から複数の影が迫る。
「おっと、こうしちゃいられない! 遥、援護は頼む!」
「了解です、師匠! 気をつけてください!」
言った遙の両手が光り、疾風の全身を包み込む。軽やかに地面を蹴った疾風の身体が宙を舞い、降りてきた鳥の姿をした魔物と相対する。
「どんな状況でも、切り抜けてみせる!」
振り切った剣先から無音の豪風が生み出され、それは魔物を駆け抜ける。疾風が着地するその音と同時に、風の唸りそして魔物の悲鳴が響き、胴体から真っ二つにされた魔物が地面に落ちる前に氷片を晒して消えていく。
「大丈夫?」
「お、俺としたことが不覚……こ、こんなの大したことではない、少し休めばまたすぐに戦える……」
ウィルネストの下へ駆け寄った遙が、癒しの力を施す。その間にも疾風の剣が魔物の手足を吹き飛ばし、胴体を地面に晒していく。
「にしてもすげえ数だぜ。いつになったら少女とやらは出てくるのかぁ?」
「分かんないけど、でも、魔物を倒すのは悪いことじゃないよね? だったら、できることを続けていけばいつか会えると思うよ!」
「フッ……決まっているだろう。魔物は全ッ部纏めて、フッ飛ばすッ! ただそれだけだ!」
どうやら回復したらしいウィルネストの放った火弾が、疾風の背後から攻撃を加えようとしていた魔物の鼻先を掠める。たじろいだ魔物は次に疾風が放った爆炎をまともにくらって吹き飛び、そのまま動かなくなる。
「……そうだな。よし、どんどん魔物を倒して、少女に会いに行こうぜ!」
「おー!」
「言われなくてもそのつもりだ!」
お互いに頷き合った三人が、次の魔物へ狙いを定め、駆けて行く。
(少女に会いに行くとは決めたけど、こんなに魔物がいるなんて……ううん、大丈夫、信じていればきっと上手くいく!)
上空から見下げた視界一杯に群れる魔物たちに、如月 陽平(きさらぎ・ようへい)は怯えかけるが、すぐに頭を振って微笑を取り戻す。
「イナテミスに来ましたけど、リンネさんのことがやはり心配ですね。モップスさんのことも心配です」
「分からないことを考えても仕方ないのだ。モップスの懸念はモップスに任せておけばよかろうよ」
陽平の横を、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)とユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)のペアが通り過ぎていく。
「ふむ……やはりこの者たちは生物ではないようだ。だが、新しく召喚されている様子もない。一体ずつ潰していけばいずれ、少女に会うことができるだろう」
リリが呟いた矢先、彼らの存在に気付いた魔物たちが大挙して押し寄せてくる。
「リリ、魔物が!」
「分かっておる。おい、そこの少年」
「へ? ぼ、僕のこと?」
「お前以外に誰が居るというのだ。いいか、お前は今から絶対にそこを動くな。もし逃げるようなことがあれば、末代まで呪ってやるからそのつもりでいろ」
「い、いきなりそんなこと言われても……うわぁ!?」
無茶苦茶言われて当惑気味の陽平は、向かってきたクリスタル状の魔物の体当たりをすんでのところで避ける。
「もちろん、攻撃をくらって落とされるようなことがあっても、呪うからな」
「な、何だかよく分からないけど……言う通りにしていればこの状況を乗り切れるんだね?」
「もちろんだ、期待には応えよう」
「分かった、じゃあ君を信じるよ!」
言って、陽平が魔物に向き直り、攻撃を一手に引き受ける。
「扱いやすいと楽だな。……さて、準備を始めるとするか」
「リリ、何をするつもりなのですか?」
「詮索せずともよい。ユリ、リリが準備をしている間、魔物を近づけないようにしてもらおう」
「分かりました……」
訝しげに呟くユリだが、リリの確信に満ちた様子に何も聞くことができないまま、背中に『ニケの翼』を発動して傍に位置取る。二人の存在に気付いた魔物たちが向かってくるが、いずれも攻撃を繰り出す前にユリの光り輝く翼が部位を切り飛ばし、退けさせる。
「そろそろきつくなってきたけど、まだかな?」
「まだだ、急かすな。少年、お前はその程度で音をあげるのか?」
「ホント無茶苦茶言ってくれるなあ……」
乾いた笑いを浮かべながら、陽平の必死の抵抗が続く。冷気の風を避け、氷の塊を避け、近付いてきた魔物には即席の火弾をぶつけて後方に下げさせる。
「……完成だ。ユリ、下がっていろ」
言うが同時に、リリの足元に魔法陣が浮かび上がり、ワンドの先に凝縮された魔力が集められていく。
「あの、リリ……もしかしてその魔法は……」
「即席だが、なかなかの出来だ。これならば前方の魔物を一掃できる」
「いえ、そうではなくて――」
ユリの言葉は、発動された魔法の爆音――ワンドの先から直線状に放たれた、貫通性の炎柱――に遮られる。数秒に渡り続いた魔法の放射は、確かに前方にいた魔物たちを一掃していた。
「…………が、頑張った結果が、これ、なの……?」
しかし炎柱は、立ち回っていた陽平までも巻き込んでいた。全身黒焦げになった陽平が、呆然とした表情のままゆっくりと地面へ吸い込まれるように落ちていく。
「た、大変! 今すぐ治療を!」
慌てて陽平の下へ向かうユリを、どうでもいいとばかりにリリが眺めていた。
「ヒャッハー!! オラオラどけどけ、どかないと撃ち殺すぞゴラァ!」
バイクのクラクションをけたたましく鳴らしながら、国頭 武尊(くにがみ・たける)が詠唱を行おうとしている生徒の足元へ弾丸を撃ち込み、妨害を続けていた。
「この世はなぁ、『かわいいが正義』なんだよぉ! だから可愛いっていう少女の方が正義だろぉ! だからオレは少女に味方するぜぇ!」
自論を展開しながら、なおも一行を襲い続ける武尊を、上空から見下げる姿があった。
「何だ、あいつは。生徒のことはどうでもいいが、僕の邪魔をするようならば黙っておけんな」
「……単純に邪魔。ブレイズ、撃退しましょう」
「ほう、珍しいな。……まあいい、僕もあの無礼な者にイラついていたところだ。揺れるぞ、落ちるなよ」
「了解です」
ブレイズ・カーマイクル(ぶれいず・かーまいくる)とロージー・テレジア(ろーじー・てれじあ)のペアが、走り回る武尊の背後を上空からぴったりと追尾する。
「さあ、おしおきの時間だ……愚かなる者よ…我が灼熱の抱擁にその身を焦がせ!」
詠唱を終えたブレイズの片手に、炎の球体が生み出される。それをバイクの進路上に放れば、分裂して小さな火球となって降り注ぐ。
「うおっと! 何だあ、やるつもりかテメェ!」
火球の一つがバイクの後輪に当たり、炎上を始めたバイクから飛び降りた武尊が、悪態をつきながら弾丸を二人へ向けて乱射する。
「ちっ、機動性ならこちらの方が上だが、投射弾量差が歴然だな。このままではいずれ撃ち落とされかねん」
ブレイズが呟いた傍から、無数の弾丸が襲い掛かってくる。その射撃は意外なほど確実で、飛ぶ軌道の先を狙っている辺りがさらに意外であった。
「オレをただのチンピラだと思ってたら大間違いだぜぇ!? すぐに蜂の巣にしてやんぜ!」
弾丸がすぐ傍を通り過ぎ、ブレイズの表情にも焦りの色が浮かぶ。
「ロージー、何かいい手段はないのか。僕が詠唱を行えるだけの隙を作れればそれでよい」
「分かりました。ブレイズ、あの者の上空を通り過ぎるように飛んでください。ワタシが飛び降りて隙を作ります」
ロージーの提案通りに、旋回したブレイズが武尊の上空を高速で飛び荒ぶ。
「オラオラぁ、逃げ回ってないでかかってこいよ――」
「では、お望み通りにいたします」
挑発するように手を招く武尊はしかし、飛び降りたロージーの空中からの蹴りをもろにくらって吹き飛び、銃を取り落とす。
「テメェ、やってくれやがったな――」
素早く立ち上がり、銃を拾いに行った武尊がロージーに狙いを定めるより早く、詠唱を終えたブレイズの火弾が武尊を襲う。降り注ぐ熱量に焼かれた武尊は、全身を黒焦げにして地面に倒れ伏す。ロージーは降りてきたブレイズの箒につかまり、二人は再び空中に舞い戻る。
「まったく、余計な手間を取らせてくれる。まあいい、予定通り少女に会いに行くぞ」
「了解しました」
二人の姿が、魔物の群れの向こうへ消えていく。
「ねーねー、人の姿が一つもないよー? みんなどーしちゃったのかなー?」
「そうですねえ〜、皆さんご自宅に閉じこもっておられるのではないでしょうか〜。外はすぐ近くまで魔物だらけですからねえ〜」
魔物たちの群れを掻い潜り、イナテミスの町上空までやって来たユーニス・シェフィールド(ゆーにす・しぇふぃーるど)とモニカ・ヘンダーソン(もにか・へんだーそん)が、町の様子に対しての感想を口にする。
「うーん、女の子のこと知っている人がいたら聞いてみよっかなーって思ったのに、これじゃあ聞けそうにないねー」
「どうしましょうかねえ〜……あら、ユーニス、あれは何かしらぁ」
モニカが指差した先、町の中心部に位置する地点に、微かに光る何かが置かれているようであった。
「気になるね、行ってみよう!」
高度を下げ、少し離れた地点に着地した二人は、噴水の周りに置かれた結晶のような物を目にする。
「もしかして、爆発物!? どどどうしよう、ボクたち巻き込まれたら怪我じゃすまないよ〜」
「ユーニス、落ち着くのです。まずはあれが何なのかを把握――」
慌てふためくユーニスを宥め、モニカが明滅する物に触れかけた瞬間、背後四方から放たれたであろう氷の針が二人を掠めて噴水の柱を穿ち、無数の穴を開けられた柱が崩れ去り、溜められていた水が波を立てる。
「な、何なの!?」
突然の事態に振り返ったユーニスとモニカは、自分たちが何者かに囲まれていることを悟る。そして、囲う者の姿に見覚えがあることに気付いた二人は、さらに驚くことになる。
「これって……リンネちゃん!?」
ユーニスが呟いたように、周りに佇む人影はその全てが、リンネの姿を模した氷の彫像であった。
「よくできた彫像ですねえ……勝手に動き出すなんてとてもおかしな話ですけど――」
「あら、そうでもないわよ。あたしにとってはこんなの、余興に過ぎないわ」
モニカの声を遮って響いた声に、彫像が頭を垂れて出迎えるような仕草を取る。そして歩み寄ってきたのは、まさに今さっきまでユーニスたちが接触を図ろうとしていた少女、カヤノであった。
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